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1-1お姫様との出会い

●プロローグ

はるか昔、平穏に暮らしていた人類の前に人型の怪物達が出現した。


彼らはどこで生まれ、どこからやって来たのか未だ謎が多いが、私たち人類を襲って大量の犠牲者を出してきた。

そんな怪物たちの総称として『魔人』と呼んでいる。

ヤツらの出現から今まで、魔人事件の被害は止まることなく各地で広まり続けていた。


魔人による一方的な蹂躙が続づく中、人類にも一筋の光が灯った。

体内から生成される特異なエネルギー、“魔力”が発現する人が現れた。

人類は魔力の研究を進めて“異能力”の存在を発見する。

魔力を昇華する事で、特殊な能力を発現させることができるのだ。

ある者は手から火を放ち、ある者は風のように颯爽と走れるようになり…。

そんな異能に目覚め、異能を操る者たちは総じて『異能力者』と呼ばれている。


人類は魔人被害を防ぎ平穏な暮らしを守るために、異能力者による対魔人組織『対魔教会』を設立して、今尚魔人と戦い続けている―――。



雨の降る夜、傘を指す1人の少年と少女は出会った。

少年はヒーローになりたかった。魔人を討ち、人々を守る英雄になりたかった。

少女は平和を愛した。血の絶えないこの世界で、争い無く皆が平穏に暮らせる世界を夢みた。

魔人被害で瓦礫と化した街で傷つき弱りきって踞る少女に傘を寄せる少年。

まだ幼い少女は上目遣いで少年の瞳を覗き込み、彼の真意を探っているようだったが、覚悟を決めたように息を呑むと少年に問いかける。


「…私と、契約してくれませんか」





///////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////


俺の名前は黒炭燈夜(くろすみ とうや)

魔人巣食うこの世界で、ヤツらを倒してヒーローになることを夢見る18歳の男子である。

現在は対魔人学校に席を置いているが、あと数日で卒業して社会へ羽ばたく身だ。

 これから起こるであろう魔人との対決や市民からの喝采、羨望の眼差しを想像して、夢と期待を抱きながら、新たな門出を迎える……つもりだったのだが。


ここにきて全く予想していなかった事態に巻き込まれていた。

事態の元凶は目の前にいるティアという少女である。


「ティア。もう一度言ってくれる?」


そう言って、テーブルを挟んだ向こう側に座っている少女に目を向ける。

昨夜の夜、学校からの帰り道で偶然見かけた女の子。

怪我をしていて周りに保護者の気配もなかったので、治療のために我が家へ招いた。

この少女に先程から何度も同じことを聞いているのだが、内容が信じられなくて理解が追いつかない。


「―――ですから、私は燈夜達人間で言うところの“魔人”というやつです」


目の前の少女は、何度言ったらわかるんですかとため息をついている。

そう。この少女は自らを魔人だと宣言しているのだ。

魔人。いやいや魔人って。

魔人ってのは、もっとおどろおどろしい見た目のバケモノだったぞ。


目の前の少女の外観はというと、見た感じ10歳そこそこ、真っ白な肌に真っ白な艶やかな髪、青い綺麗な瞳の女の子といったところだ。

どこにも共通点がないじゃん。ユニークな子だな。


未だに信じようとしない俺を見て、ティアはまたため息をついている。

明らかに年下の女の子にため息をつかれるのは惨めな気分だが、何度聞いても信じられん。

どうしたものかと思案しながら、一旦落ち着くために台所から持ってきたお茶に口をつける。


俺はふっと思い出して、学校の教科書を手に取った。

魔人の記載があるページに写真が載っていたはずだ。

教科書をめくり、お目当てのページを探し当てると少女に見せつけた。

「ティア見てみな?魔人ってのはこの写真みたいなやつよ?」


見開かれたページには、魔人の説明書きと一緒に参考写真も載っている。

人間と同じ二足歩行ではあるが、目は無いわ、毛も無いわ、口は裂けてて牙剥き出しだわ。

二足歩行のバケモノとしか形容できない見た目をしている。

同類とは思えない。


「はい。写真の彼も私と同族ですね」

「え?なに?ティアも大きくなるとこういう見た目になっていくの?」


目の前のお人形さんみたいな子が、大きくなるにつれて写真の魔人のような姿に成長していく過程を想像した。

そんな怖い思春期、見守りたくないですよ?


「いえいえ。同族には違いないですが、皆んなが皆んな同じ姿にはなりません。」

「人間の中では魔人と括られていますが、写真のような姿の者もいれば、人と見分けがつかない姿の者もいます。私みたいに」


ティアはそう言って、自分の顔と俺の顔を交互に指差して、一緒でしょ?と小首を傾げた。


「我々の種族は人間よりも見た目も知性も振れ幅が広いのですよ。この参考資料の写真の下に“下級魔人”と書いてあります。燈夜達の基準で我々を階層分けしているのですね」


ティアに言われて教科書を見直した。

確かに、魔人は3つの階層で区別している。

人語を話さず、魔力も使えない魔人を“下級”

多少言葉のやり取りができ、魔力が使える魔人を“中級”

人間と変わらないコミュニケーション能力、魔力が使える魔人を“上級”

そう記されている。


話では聞いていたが、“人間と変わらない”ってところが姿形も含まれるとは思わないじゃん、普通。

ということは、彼女は我々の定義で言う所の上級魔人というやつなのか?


ティアも一呼吸置こうとお茶に口をつけている。

お茶をすする少女が魔人だと言われても、どうも危機感というか現実感が無いなあ。

信じる人の方が少ないのではないだろうか。

「魔人だって証拠とかある?」


「そうですね。んー……このリンゴお借りしていいですか?」


お茶をぐいっと飲み干したティアはそう言って、机の上のリンゴを手に取った。

そのまま、お茶の入っていた湯呑みの上でリンゴを握る。

少女に握られたリンゴはグシャァっと音を立てて湯呑み中へ果汁をぶち撒ける。

唖然とする俺の目の前で搾りたてのリンゴジュースが完成した。


「どうです?“魔人は人類よりも身体能力が高い”ってやつです」


リンゴを握力で潰せるとか、格闘家くらいしか見たことないんだけど。

マジで魔人なのか……。


「あ、ちなみに、私の方が燈夜よりも年上だと思います」


何だとっ。見るからに発達前のちんちくりんな身体なのに俺より目上の女性だったとは。

ってそれどころではない。彼女は魔人なのだ。

魔人=人類の敵。殺される―――


「燈夜に危害を加える気はないので安心してください」


立ち上がって身構える俺を見て、ティアが落ち着きなさいと促す。


「そう思われるのも当然かと思いますが、私は人間と争うつもりはありません。むしろ、私の目的を達成するためにはあなた方と共闘することを望んでます」


「……どういうことだ?」


「全てを話すと長いのですが、簡単に言うと私たちの種族も一枚岩ではない。あなた方人間と同じで、皆異なる思想を持っているのです。」


「この傷も同族内での内輪揉めによるものです」


「内輪揉め……ってことは、仲間同士でやり合ったってことか」

それで怪我を負ってあの場に塞ぎ込んでいた、ということか。


「はい。彼らの思惑は阻止しなければいけない。私は同族殺しの汚名を被ってでも彼らを止めるつもりです」


ティアの青い瞳が真っ直ぐにこちらを見ている。まだ幼い少女の顔にはっきりと覚悟の意思が見て取れた。


「今回は燈夜のおかげで命拾いしました。契約だけでなく手当てまでして頂いて」


ん?感謝の中に、引っかかるワードが出てきたような。


「契約ってなに?」


何を今更っとティアが目を丸くしてこちらを見ている。


「え?契約は契約ですよ。昨夜取り交わしましたよね?左手の甲に契約の印が浮かんでいるはずです」


左手に視線を落とすと、確かに甲の部分に何かの紋様が刻まれている。

え、今気づいたんだけど。親にもらった大事な身体に入れ墨みたいなの入ってんじゃん!

自分の身体の変化に驚いていると思い出した。

―――そう言われると、昨日出会った時に契約がどうのって言っていた気がする。


昨日は何を言っているのか分からなかったが、とりあえず助けることを優先してスルーしていた。



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