表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
殺人館の不死鳥  作者: かなかわ
未来編
35/38

第終章【表】そして誰もいなくなった

 じゃく、と鳳凰堂は足元の砂利を踏んだ音を聞いた。

 それは一度だけではなく、鳳凰堂が足を踏み出すごとに続く。

 じゃく、じゃく、じゃく……。

 木々が囲むここは、静謐を湛えていた。

 冷たく、暗い世界だった。

 腕の中の花束が、一歩ごとに揺れる。

 一歩ごとに、あの島で起きたこと、そして出会った人の顔が鳳凰堂の中に浮かんでは消えていく。


 八木黒彦。

 的羽天窓。

 漆田羊介。

 獅子噛皇牙。

 兎薔薇真美実。

 大神狼華。

 的羽森子。


 そして、月熊大和。


 彼らは全員、島の外に出て、そして死んだ。


 今鳳凰堂が前にしているのは、かつて燃え盛るホテルから不死身の鳳凰堂を救い、そしてあの島で再会した男の墓。

 鳳凰堂は、死んだ知り合いたちの墓参りの最後に、彼の墓前に現れた。


 ここは霊園。

 墓石の並ぶその霊園の一角に、それはあった。

 かつて鳳凰堂が恋とも呼べる感情を向けた男は、その墓の下に眠っている。


 あの事件からしばらくが経った。


 唯一重体となって病院に運ばれた月熊は、その時既にかなり際どい状態だったらしい。

 鳳凰堂が病室に入り込むと、包帯に巻かれた月熊がベッドに横たわり、細い息をしていた。

 意識があるのかも分からない彼のそばで、鳳凰堂は尋ねた。

「大和、お前は死んでしまうのか?」

 月熊の目は薄く開き、答えが返ってきた。

「死なねえよ」


 鳳凰堂は、月熊の墓石を撫でた。


 あの日、月熊の容態を見にきた医者に鳳凰堂は尋ねた。

 残りどれほど月熊に残されているのか、と。

「傷は全て塞ぎましたし、月熊さんの健康面はかなり良いので、完治すれば五十年は生きられますよ」

 たったの五十年。

 無限の命を持つ鳳凰堂にとっては一瞬であり、驚いたが、月熊は笑っていた。

 それからの時間、鳳凰堂と月熊は多くの時間を過ごした。

 月熊だけではない。大神や兎薔薇、そして的羽森子との時間も、やがて島での出来事が一つの思い出となるほど増えていき、流れていった。


 あの事件から、ちょうど百年。


 彼らを殺したのは殺人鬼などではなかった。

 時間は鳳凰堂にすら止めることはできず、彼らを手の届かない場所へと連れていった。

 だが、彼らは最後まで生きていた。

 特に月熊は医療技術の進歩もあり、そして鳳凰堂と共に生きる強い意志のためか、医者の余命宣告以上に長い時を生きた。

 彼らは一人として理不尽に命を奪われることはなかった。


 それだけでも、鳳凰堂は心から嬉しかった。


 けれど、それでも鳳凰堂の胸には、寂しさが残っていた。

 あれだけ隣にいて幸せだと思ってきた友達が、今は一人もいない。

 一度輝かしいまでの人生を生きてしまえば、それを失った今が悲しく思える。


 この日、鳳凰堂が月熊の墓を訪ねたのは、意識を閉ざそうと思ったからだ。


 死ぬわけではない、意識を閉ざすのだ。

 まるで物のように、ただそこにあり、夢の中を漂うように時間をやり過ごす。

 人の体をやめ、炎をやめ、生き続けるだけの物となる。

 鳳凰堂は墓石の隣に座り、眠るように自分の目を閉じ、そしてゆっくりと閉じていく。

 幸せな記憶の中に閉じこもっていく。


 最後の一人が、消えていく。

 それは自殺とも言えるのだろうか。

 数々の死を救った不死鳥の命は、最後に自殺という形で幕が降りようとしていた。


 極楽島に立つ不死鳥館。

 そこで起きた殺人事件は、奇妙なことに一人の死者も出さなかった。

 しかし、彼らを殺していったのは時間だった。

 それは一人、また一人と殺して回り、最後の一人はその時間に負けて意識を閉ざす。


 そして、誰もいなくなった――。


『貴方、誰?』


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ