第五章 解決編 第三部
「お前、いつまで様子を見ているつもりだ」
八木の吐露が終わ李、しばらくの頃、鳳凰堂が聖堂の隅に向かって声を放った。
その先にいるのは、一切を静観していた男、的羽天窓だった。
「お前の目的は、私だな」
二百年前にこの島に現れた、炎の鳥。
その鳥は、島に住む異常な集団の死生観に大きな変化を与え、伝説となった。
そして二百年後の、今。
同じ島に不死鳥は居た。
「女の首を四つ揃えれば私が現れるだと? そんなことのためにこの数日を計画したのか?」
鳳凰堂にしては珍しく、責め立てるような口調だった。
それでもなお、的羽天窓は微笑んでいる。
この数日間、代わりのない笑みだ。
少しの沈黙の後、その微笑む唇がようやく開いた。
「しかし、貴方はここに現れた」
「私がここにいるのは、十五年前あのホテルで火事にあって、招待状をもらったからだ。お前が企んだこととは一つも関係ない」
「ならば」
的羽天窓は不気味に笑った。
「運命という言葉がふさわしい」
その笑みはこれまでと違う。獅子噛が振り撒き、八木が見せた悪意とも違う。どこまでも静かで、しかし決定的に外れている笑顔。
「お前は何を言っている? 生首が四つ揃ったから私が現れたわけではない。揃う前から私はここに居た。招待したのはお前だろ」
「そのようなことは、【不死鳥伝説】からでも分かっています。貴方は四つ目の首切りが起きてからこの島に現れた。こう伝えられれば、まるで生首が揃ったからこそ、その場に貴方という存在が召喚されたかのように思えますが……しかし、四つの生首に、貴方が【誘われている】のだとすれば、辻褄は合います」
「……私が、誘われているだと?」
「ええ、そうです。貴方は、貴方様は……生と死の混合。生き物に必ず一度だけ与えられる生と、死。それが最も煌めく瞬間、大量殺人の場に貴方は誘われ、立ち会うのです」
「お前の話は何も分からない。何を言ってるんだお前」
大神狼華として切断された生首の血は乾き始めていた。
「貴方様の復活を見て、僕は確信しました。生き物でなければそれ以外でもない貴方様は、この地球における神と呼べる存在なのだと」
「私は神じゃない。現に何も救えていない」
「救ったではないですか!」
初めて、的羽天窓の大きな声を聞いた。
まるで子供が焦れたような声。
「貴方様は森子を、大神さんを、兎薔薇さんを救ったのでしょう? 僕には八木さんや森子の言ってることはよくわかりませんが、貴方様が自らの復活の儀式のために人間の代わりに首を差し出したという逆転しているとも言えるこの構図だけはわかりました」
話が通じない。この数日間薄く笑うだけだった的羽天窓のようやく開いたその口からは、不死鳥本人である鳳凰堂すら理解のできない言葉ばかりが吐き出されていた。
理屈だけが彼の中に固まっていて、それが口から崩れるように出てくるのだろう。
「もういい。もうその辺の理屈は全部どうでもいい。結局、お前は何のために私を呼び出そうとしたんだ」
「聞きたいことが、一つ」
「なんだ」
「貴方は、何者ですか?」
その一言は、鳳凰堂の胸に突き立てられた。
「貴方様は、自分を神ではないという。ですが貴方の行いは、僕にとっては神のように見えます。ならば、貴方様に自らをどちらかはっきり選んでいただきたいのです」
先ほどまで支離滅裂だったはずの的羽天窓の言葉が、急に鳳凰堂の中へと蛇のように入り込んでくる。
「ご存じでしょうか。死んだ後にその死から復活するという奇跡は、この世界では神に等しい行為だと広く認知されていることを」
「私は、神なんかじゃない」
「であれば、人間ですか?」
「人間でも、ない」
「ならば……化け物ですか?」
人か神か化け物。
「人間の前に炎の姿で現れ、人の姿に化け、首を切られても死ぬことはない。悠久の時を生き、その死を恐れない貴方は、何者ですか?」
問われても、鳳凰堂は答えることができなかった。
生き物はいつか死ぬ。その理に混じることのできない鳳凰堂は、自らの存在をこれまで何度も問うてきた。
答えは出ず、結局はその度にただただひたすらの大きな闇のような疎外感をじっと見つめるだけであった。
それをここでまた問われるのか。
「たった一言、答えてくれるだけで良いのです」
「……それで、お前に何の得があるんだ」
「得、と言われましても。特に何もありません。これはただ、納得したいだけと言えるかもしれませんね」
「納得?」
「ええ。私の一族は神の存在を信じることなく、生と死の研究を続けてきていました。それが貴方様の登場を見ただけで、満足したように研究の手を止めた。その上貴方様を神と呼んだ。娘の誕生と妻の死を知り、そして自らの一族の研究を知った私は、ついにはその一点だけが気になったのです。私の一族は神を見たのか? それとも化け物を見たのか? 私の中に流れる血は、結局は神を信じた者の血なのか? それとも化け物を見て狂わされた者の血なのか? 気になって仕方がないのです」
的羽天窓は鳳凰堂に一歩近づき。
「私は、貴方様には自分が神だと選んでほしい」
二歩目でその身をかがめ。
「私の一族は、化け物など見ていない」
三歩目に、落ちていたナイフをその手に取っていた。
「選んでください」
森子が自らの首を貫こうとして、取り落としたナイフだった。
ざわ、と危険人物が手に取った刃物に周囲がざわめいた。
「良ければ、答えやすくさせていただきます。森子」
突然名前を呼ばれ、森子の体が震えるのが見えた。
「は、はい」
「来なさい」
たった一言のその言葉は、ひどく冷たく。
そして彼女を十数年支配してきた者の言葉だ。しばらくして、一歩進む足を鳳凰堂は見た。
「やめろ!」
「僕は何も自分の娘を傷つける気はありませんよ。森子、こっちへ来て……そして、その斧を取りなさい」
叫ぶ鳳凰堂を軽く制すると、森子にそう命令する。
実の父親からの命令に、八木を相手取った面影もなく森子は言われるがまま、床に転がる血まみれの斧を取り上げる。
「それを鳳凰堂様へ」
振り返る森子の顔は怯えを隠すような表情で、鳳凰堂は胸が痛んだ。
友人にそんな顔をしてほしくなかった。
それはどこか、あの日の。
鳳凰堂が行動を起こさなかったがためにギロチンで首を切られた、あの子の。
最後に洞窟で見た表情に似ていたからだ。
鳳凰堂は差し出された斧を手に取った。
ズシリと重く、そして冷たい。
「これで、私に何をさせるつもりだ」
「僕を殺してください」
「何故」
「貴方は命あるものを超越する神か、それとも神に等しい力を持ちながらも人の心を持った化け物か。それを見極めたいのです。貴方がさまざまな人間の人生を狂わせ、そしてこの数日間をコーディネートした黒幕とも言うべき人間、つまりはその僕を殺すのであれば、貴方は罪深き私に審判を下す神。私を殺せないのであれば、貴方は罪を犯した私に審判を下せぬ、ただの化け物」
「どっちでもいい。私はお前に何だと思われてもいい。私はそんなこと、選ばない」
「選んでください」
的羽天窓はようやく、手元のナイフを光らせた。
「僕はこれから、一人ずつこの場の人間を殺して行くからです。私を止めたければ、私を殺すしかない。ナイフを取り上げても、私を拘束しても無駄です。先ほど書斎の奥の部屋に行き、毒性のある薬品を一通りは持ってきましたから。邪魔をするならば、その人に振りかけることも可能です。あるいは爆発性のあるものもあるかもしれませんね」
聖堂の中の人影が大きく揺らいだ。
「貴方が人の運命を左右することのできる神であれば、殺戮を止めるために僕を殺すことは容易い。化け物ならば、躊躇ううちに一人は死ぬ。神ならば、化け物ならば」
的羽天窓が、一歩進んだ。
その目は鳳凰堂を見ていなかった。その奥の面々に向けていた。
彼らが刃物を持った的羽天窓に立ち向かうことができるとは思えなかった。獅子噛は両手を指錠で拘束され、漆田も怪我をしている。大神は隠し持っている薬品のことを気にするだろう。
「随分と仲良くしていただいたらしい森子は最後にするとして、まずは何方にしましょうか。死んでしまったら貴方様の心を大きく揺さぶることのできる方は」
的羽天窓は鳳凰堂の目を覗き込んでいた。何を測っているのか、一人一人名前を呼んで行った。
「大神様でしょうか。それとも兎薔薇様でしょうか」
口ぶりからして鳳凰堂の表情を読もうとしているのだと思わせられた。
鳳凰堂は頬の内側を噛み、表情が変わることを恐れた。
「漆田でしょうか、獅子噛でしょうか」
鳳凰堂の顔を覗き込みながら、ナイフの刃先を一人一人に向けて指し示して行く。
「それとも、私が呼び寄せた【探偵】。八木様でしょうか」
鳳凰堂の口の中に血の味が広がった。
自分のものではない、かつての友達の、あの子の血だ。自分の体に流れる血は偽物の血だ。
「それとも……」
的羽天窓は最後の名前を耳元で囁く。
人の真似をしているだけだ。
人の心を持ったフリをしているだけだ。
それの、何が悪いんだ。
「ああ、意外ですね。この方ですか」
思わず表情に出てしまったのだろうか。的羽天窓の持つナイフの刃先が彼に向いた時、彼の顔が大きく歪んだ。ナイフを握る手に力が入り直すののわかる。
「では、まずはこの方から」
違う、待て、やめろ。
吐くべき言葉を選ぶ内、的羽天窓の大きく歪んだ顔が……さらに大きく歪んだ。
「がげっ」
そんな声を残して、的羽天窓の顔が鳳凰堂の目の前から一瞬にして消えた。
代わりに現れたのは、包帯に覆われた剛腕だった。その剛腕が、的羽天窓の顔面に飛んだのだろう。
その包帯は的羽天窓の持つナイフが掠めたのか縦に切り裂かれ、間から焼け爛れたような皮膚が覗いた。
十五年前、彼が自分を救った時の名残だとすぐにわかった。
「俺を殺すとか、ふざけたこと言ってんじゃねえぞ!」
彼は吠えながらその巨体を覆い被せるように的羽天窓を押し倒し、再び顔面に拳を打ち付ける。
不意の衝撃にうつ伏せの体制で両腕を投げ出す格好になった的羽天窓の左腕を踏みつけ、右腕を彼の背に回すようにして捻りあげる。
力を込める彼の手は掴んだ腕をさらに強く引き上げ、やがて、ゴギリと鈍く固い音が響いた。ナイフは呆気なく床に落ちた。
「肩外しただけだ。折ってねえよ」
それは的羽天窓にも、ほかの人間にも向けている台詞だった。
「や、薬品を!」
大神が叫ぶが、それを承知していたかのように彼は的羽天窓の全てのポケットに手を入れて行く。その度にゴロンゴロンと硬い床の上を小瓶が転がっていった。
その姿を、鳳凰堂は懐かしい思いで眺めていた。
十五年前もそうだった。スキーのために泊まったあのホテルで、鳳凰堂はあの爆発が起きた厨房の隣の部屋、給湯室の自動販売機で飲み物を選んでいた。
最初は何が起きたかわからなかった。自分の体が壁ごと吹き飛ばされたことだけは分かった。そして鳳凰堂は爆死した。
そこから復活し、生き返った鳳凰堂を待っていたのは業火だった。
倒れた柱に押し潰された全身が炎に包まれ、もがくこともできなかった鳳凰堂は、その身を焼かれる激痛に襲われた。肺が焼け、眼球の水分が飛び、体の芯まで焼き尽くされて、焼死した。
再び復活してもなお、鳳凰堂は業火の中だった。倒れた柱に押し潰された全身が炎に包まれ、もがくこともできなかった鳳凰堂は、その身を焼かれる激痛に襲われた。肺が焼け、眼球の水分が飛び、体の芯まで焼き尽くされて、焼死した。
爆死から始まった死は、焼死し、焼死し、焼死し、焼死し、焼死し、焼死してもなお、復活すれば豪火の中であることに鳳凰堂は気が狂う思いだった。悶え苦しむばかりで炎の鳥の姿に戻ることもできなかった。後から聞けば消防隊が来る頃にはホテルは全焼していたらしい。
しかし、それより前に鳳凰堂を瓦礫の下から救った者がいた。
事故から数日後、病院に搬送された鳳凰堂の病室に彼は現れた。
救い出された頃には火傷がひどく、結局死まであと数刻であった鳳凰堂は、現れた彼の腕に包帯が巻かれているのを見て、悲しくなった。
『私は本当は化け物なんだ。助けてくれなくてもよかったのに』彼はたじろぎ、それでも鳳凰堂に声をかけた。
『僕は、貴方が化け物だなんて思いません』
その言葉は、鳳凰堂の止まりかけた心臓を、最後に一度、大きく跳ねさせた。
そして彼は今、再び鳳凰堂を救おうとしていた。
あれから十五年、随分と成長したように見えるが、それでも面影はあの頃のままだった。
「他に隠してるもんはねえか」
肩から外れた腕を力なく床へと伸ばす的羽天窓に、彼は脅すように声を上げた。
殴られ、肩を外された痛みを感じないかのように肩頬を床につけながらも彼を見上げる表情は、緩く動き出す。
「まだあります。僕の胸のポケットに……」
彼は舌打ちをし、力の抜けた的羽天窓の体をひっくり返す。右腕と左腕の位置が入れ替えられ、的羽天窓は側に転がるナイフを掴んで彼の腹を突いた。彼は目の前の男の最後の抵抗など気にせず、胸ポケットに手を入れ――。
「え?」
あまりに特別感のない所作だった。鳳凰堂は一瞬、ただ彼の腹を苦し紛れに殴りつけただけのように見えた。彼もそう考えたはずだ。しかし彼の腹に突かれた手には銀色に輝く刃の根元が確かに見えた。
「ぐ、ぅ……ぉ」
彼は体に差し込まれたナイフの激痛にようやく気付いたかのように顔を青ざめていた。的羽天窓の左腕はナイフを伝って落ちる彼の血に染まって行く。
「ハッピーエンドにはさせませんよ。これは、僕と、僕の一族と、彼らを狂わせた貴方様の問題なのですから――」
そう言いながら、的羽天窓は彼に突き立てたナイフを引き抜き、そして再び刺した。再び引き抜き、また刺した。
体に開けられた三つの穴から、蛇口を捻ったかのように血が流れ出す。
「――いえ、物語……なのですから」
彼は力なく的羽天窓の傍に倒れた。海に大きな物を放り込んだような音が響いた。
鳳凰堂は叫んだ。
「……大和!」
十五年前、不死身の不死鳥を救った男、【月熊大和】の名前を。
※
十五年前、俺は高校受験のためにホテルに泊まっていた。
あのホテルがある地区に生まれ、受験した高校もその地区にあった。
両親は事故でこの世には既に居なかったから、親戚の叔父と叔母によって育てられた。どれだけ感謝しても足りないほど、俺を大切に育ててくれた。
高校に行かず、すぐに働きたいとは何度も言ったが、「高校くらいは出ろ」と言われ、高校へ願書を送っていた。
それでも食い下がろうとしたら「もうホテルは取っちまったから。それも高級ホテル、キャンセルするのにも金がかかるから行ってこい」と尻を蹴っ飛ばされた。自転車でも行ける高校だったのに、叔父と叔母の計らいに何度も頭を下げた。
叔父と叔母はホテルには着いてこなかった。「一人分しか取れなかったんだよ。せいぜい良い飯食ってこい」と叔父は笑い、叔母は「ならお弁当はいらないか。うっかりおかず買っちゃった」とやはり笑った。
だが、俺がそんな幸福を持つのは不釣り合いだと神様が判断したのかもしれない。
あの日、俺は高校受験の為の最後の仕上げの勉強を終え、ふと喉が渇いて部屋を出た。
売店は既に閉まっていたから、自動販売機を探して適当な飲み物を買って戻ろうとした道中、女の人とすれ違った。
一瞬だけだったから顔も見えなかったが、数分後にあの爆発が起きた。
逃げ惑う人達に押し流されるようにして俺は外へと脱出したが、あの爆発はすぐ直前に俺がいた給湯室、あるいは近くの厨房で起きたように思えた。
瞬間、すれ違ったあの人が頭の中に浮かんだ。
外に避難した人たちの顔を見て行ったが、あの女性はどこにもいないように思えた。燃え盛るホテルの中に、まだあの人がいるんじゃないか。
同時に、でももう死んでいる、そう考える自分もいた。
爆発が起き、火の手が上がり、それから数時間、俺はずっと考えていた。
周りの人間はあの女性の存在に気づいていないのか、誰も声を上げなかった。
俺だけだ。俺だけがあの人が給湯室へ向かったことを知っている。
俺は……俺は、もう考えることはやめた。とにかくどうにか自分の中に渦巻く気持ちに決着をつけたくて、雪に頭から突っ込んで濡らしてから周りの大人の静止を振り切ってホテルへと戻った。
豪華絢爛なホテルの中は赤く燃え盛りオーブンの中のように熱かった。当然か。
俺は煙を吸わないよう出来るだけ身を屈めて這うようにしながら、給湯室に向かった。
そこはやはり爆心地みたいだった。壁が吹き飛んで自動販売機が外までひっくり返っていた。
その瓦礫の下に、あの人はいた。
見えているところだけでも全身が焼かれていて、それでも少しだけ呻くような声が聞こえた。
生きている。まだ生きている! 俺はとにかく無我夢中で瓦礫を退かしにかかった。あの爆発をモロに喰らってなぜ生きているのか、考える余裕もなかった。
とにかく、俺はあの人を助けようとした。瓦礫が身を焼くほど熱かったが、その火傷が今もなお残るほど熱かったが、とにかく俺は助けたかった。理由はそれだけだった。
結果として、次の日には俺は病院にいた。
受験は結局受けようも無かったが、叔父も叔母も俺を責めなかった。それどころか、誇りだなんだと褒めてもくれた。
だがそれを嬉しく思えたのは一瞬だけだった。
あの人は、同じ病院に入院していると聞いて、俺は病室へと駆け込んだ。
ベッドの上に横たわり、全身から多くのチューブを伸ばし機械に繋がれたあの人は、もう長くはないらしかった。
あの人は薄く目を開け、俺を見て、言った。『私は本当は化け物なんだ』俺は、あの人が全身が焼け爛れた自分の身体を見て言ったのだと思った。
そんなことを言って欲しく無かった。
そんなことを言ったあの人の、その言葉を否定しようとして、俺はなんと言ったんだっけ。
焼け爛れて開きにくそうな瞼を驚いたように大きく開いて、そしてあの人は笑った。俺はそれを見て、何かが決定的に変わったような気がした。
けれど、その何かに気づくよりも早く、あの人は……死んだ。
あの人の体に繋がれた機械の一つに映る、波打っていた波形が一直線に伸びた。あの人は、笑ったまま死んだ。
それから俺は、病室に雪崩れ込んできた医者たちによって五分と経たずに部屋から追い出された。
以来、その病院ではあの人の名前を聞くこともできなかった。
世間では、あの爆発事故は死者がゼロの奇跡だと持て囃された。
そして俺は取り残された人を救ったヒーローとして持ち上げられた。
違う、あの事故で人は確かに死んだ。俺が助けようとした人は、搬送先の病院で確かに死んだんだ。なんで誰もそれに気づかないんだよ! なんで知らないフリができるんだよ! なんで……。
……事故が風化し、俺のことも親戚の集まりで話題に出るくらいがせいぜいになる程の時間が経っても、俺は救うことができなかったあの人のことが忘れられなかった。
もう少し早く助けに行けていれば、あの人は今も生きていたんじゃないのか。
そう思う日々が続いた。
だけど、まさか。
あの人が、あんただったなんて。
それもまさか……。
※
「ふじみ……だった、なんて……な」
月熊は傷に手をやりながら、小さく何事かを呟いた。
脈略もないその呟きは、鳳凰堂の耳に入り、胸へと落ちて行った。
「まずは一人」
右腕をだらしなく垂らす的羽天窓が、月熊の血で濡れたナイフを再び鳳凰堂の後ろの人間に向けられた。
「どうでしょう、選べましたか? 自分が何者か」
鳳凰堂は……手の中の斧を、握った。
自分を救い、また会って礼が言いたいと願ったあの少年が、今は命を終えようとしていた。
斧を握る手の力が、強くなる。
強く、強く握られる。
そして一歩、的羽天窓へと歩み寄る。
「椿ちゃん……」
背後から、森子の震えた声が聞こえる。
それを無視して、鳳凰堂は斧を握り直した。
「決めたようですね」
的羽天窓が、満足げな笑みを浮かべて両手を広げた。
「死をも恐れない貴方様。何度も死を繰り返し復活し、無慈悲に人に罰を下す貴方様は――」
鳳凰堂椿は、腕に力を込め。
大きく斧を振り上げ。
「神」
的羽天窓へと、その腕を強く振り下ろした。
※
「死をも、恐れぬだと……?」
震えた声を漏らす鳳凰堂は、その腕を振り下ろしていた。
しかしその手に斧は無く。
的羽天窓に振り落ちたであろうそれは、妙なことにどこにも無かった。
妙なことはまだ続く。
鳳凰堂が腕を振り下ろした時、その場の誰もが予想した音とは違った音が響いていた。
バチン。
それは、鳳凰堂椿が、的羽天窓の頬を思い切り引っ叩いた音だった。
「……怖かったに、決まってるだろうが!」
鳳凰堂椿は叫んだ。
「ずっとずっと、怖かった。怖かった、怖かった!」
声は震えを増し、やがて嗚咽混じりに変わっていく。
森子は鳳凰堂の頬を涙が伝い始めるのを見た。
森子は、いやこの場の全員は、鳳凰堂という不死身の存在に対して、勘違いしていたことがあったと気づいた。
鳳凰堂椿は長い時を生き、これからもそれは続く。その中で繰り返される生と死を、彼女は厭わない。自分が死ぬことに対し、何も感じない。
それは、あまりにも大きな勘違いだった。
「私だって怖かった、叫びたかった、逃げ出したかった、死にたくなかった……! だが……だが! そんなことをしてなんになる! 私が泣き喚いたとして森子や真美実、狼華を怖がらせるだけだろう! お前が私の正体に気づいてアイツらに危険が向いたらどうするんだ! 私だけ、私だけなんだよ。殺されても、生き返るかもしれないなんてものは……!」
この惨劇の大前提、鳳凰堂椿は、不死鳥だ。
死んでも死なない、不死鳥。
死んでも生き返る……かもしれない、鳥だ。
森子はたった一言、鳳凰堂が漏らした本心からの吐露に混じった、「かもしれない」という言葉でようやく気づいた。
鳳凰堂椿の不死性は何に裏付けされているわけでもないのだ、と。
・ルール【鳳凰堂椿は有史以前より生き続ける不死身の人外であり、不死鳥。これからも真の意味で死ぬことは永久に無い】
このルールは、鳳凰堂の口から出たものではない。
このルールだけは、鳳凰堂自身にも確証を持てていたわけではなかった。
ただ、生命活動が終わった時に予告なく次が始まるだけだ。
だが、次は必ず起きるものなのか?
鳳凰堂椿の“次の命”は必ず与えられるものなのか?
鳳凰堂椿の不死性とは何かを消費するものであり、無尽蔵に近いだけで有限なのでは?
いつか“次”がなくなる時が来るのでは?
“これ”で終わりなのでは?
それを考えないわけがなかった。
この誰も死なない惨劇の数日間で、唯一本当に死んでいた、森子の目の前の少女は、何も軽い気持ちで死んでいたわけではなかった。
普通の人と同じ、死の恐怖と苦痛と絶望に悶えながら、死んでいたのだ。ただ、それを隠していただけで。問題ないと嘘をついていただけで。大丈夫と安心させていただけで。他ならぬ、友達のために。
果たして目の前のたった数日会った人間のために最後まで、向けられる殺意を前にして笑顔で胸の中の恐怖と闘いながら首を切られ絶命する苦痛は、どれだけのものだっただろうか。
「私は化け物なのか、それとも神なのか、だと? そんなもの、決まっているだろうが! 私の中でとっくに答えは出ている! だが……お前には教えない。お前なんかに明かさない! 人の気持ちも、体も、弄んで、使い捨てるお前の考えが正しいのか正しくないのかなんてどうでもいい! ただ、私は……! お前なんか、お前なんか……!」
鳳凰堂椿は泣きじゃくり、しかしはっきりと、呆然とする的羽天窓に宣言した。
「お前なんか、大っ嫌いだ!」
それは、あまりに幼稚な拒絶だった。
ふと、誰かが思い出した。鳳凰堂が振り上げた斧はどこへ行ったのか?
誰かは視線を彷徨わせる。左右を見る。無い。ならば上か? と顔を上げる。斧は――あった。
長い時間の果てに昇り始めた朝の太陽の光を赤色に染める、不死鳥を模したステンドグラス。その、不死鳥の首元に、斧は突き刺さっていた。そう、鳳凰堂は斧を振り上げたのではなかった。後方に放り投げたのだった。結果、それは不死鳥の首元に突き刺さっていた。
だがそれは所詮、偽物だった。偽物の不死鳥は、首に突き立てられた斧に耐えきれず、崩壊した。復活などしない。
もはや原型を留めないステンドガラスがけたたましい音を立てて聖堂内に降り注ぐ。
そして何物にも染まらない純粋な太陽の光が照らすのは、ひたすらに、本物の不死鳥だった。
その不死鳥は、ただ、ただ。
泣いていた。
「頼む。頼むよ。殺さないでくれ、死なないでくれ。もう少し話をしよう、もう少しだけ側にいてくれ。教えてくれ、聞いてくれ。仲良くなろう、友達になろう。私はまだなんにも知らないんだ。お前たちのことを何も知らないんだ。だから……」
それは――子供が、夜に布団の中で。
初めて死というものを認識し、その闇の深さに気づき、親の、友達の、自分の死を、喪失を想像してしまったかのような喚きだった。
恐怖と孤独に耐えきれなくなり布団から飛び出して、誰かを探して、暗闇の中を走り回って、道もわからず、前も後ろも分からず、次第に涙が溢れていく。
「だから、勝手に殺すなよ!」
森子は、鳳凰堂が泣き叫ぶ理由を知っていた。
鳳凰堂が森子を救ったあの夜、彼女は初めての友達と出会い、無感情だった自分を捨て、この世界を知り、そして楽しむことに決めたと語った。
ならば、それは同時に、怖い物を怖いと思い、痛みを痛むことでは無いのだろうか。
かつて鳳凰堂が救えなかった友人の死によって変わった不死身の鳥は、死を恐れ、死を痛むことにもまた、向き合うことになったのだ。
「わかっている、お前たちは必ず死ぬ。私が瞬きをする間に死んでしまう。それを引き止める方法も、そうするつもりも無い。だからせめて、死なせないでくれ、殺さないでくれ! 頼むから……死なないでくれ!」
わあわあ、わんわんと、鳳凰堂は声を上げて泣き続ける。本当はずっと、最初の殺人からそうしたかったのだろう。本当はずっと、数百年前のあの親友の斬首の時からそうしたかったのだろう。
いくら美麗な顔立ちといえど、涙を流して顔をくしゃくしゃに歪ませているその顔には、幻想性などかけらもなかった。ステンドグラスの方が、まだ綺麗だった。
それを見てしまえば、過去に鳳凰堂に矢を放った人間たちも、不死鳥を夢見た島の人間たちも、生と死の問いをぶつけた的羽天窓も、その幻想は、粉々に打ち砕かれるだろう。情けなくも引っ叩かれた頬に手をやり呆けた面で、鳳凰堂を見上げていた。
「なんだ、これは……」
的羽天窓は目の前で泣きじゃくる少女を見て、ナイフを取り落とした。
「こんなものが……」
それは何も、鳳凰堂の訴えが身に染みたわけでは無かった。
目の前にいるのは、神でも化け物でも無いと気づいたからだ。
それはただの、少女だった。
的羽天窓はそのことにただひたすら。
がっかりした。
「大和!」
鳳凰堂は崩れ落ちる月熊の身体に飛びかかる。溢れ出る血を止めようと鳳凰堂は傷口を抑えるが、それはただ手のひらを赤く濡らすだけだ。
「大和、大和、大和ぉ!」
取り乱す鳳凰堂の背を宥めるように撫でたのは森子だった。「椿ちゃん、揺さぶったらだめです。大神さん、止血をお願いします!」
「はい!」
廃人のように地を見つめる的羽天窓の両腕を後ろ手に布で拘束し終えた大神がジャケットを放り、ワイシャツを脱いで月熊の傷口を縛る。みるみる内に白いワイシャツが真っ赤に染まっていく。
「ああ、やっぱりそうだったのね」
呟いたのは兎薔薇だった。目の前で流れる、今度こそ死の可能性を孕んだ血の濁流に放心し、思わず出てしまったというような声色だった。
「やっぱりとは、どういう意味ですか?」
腕の中に鳳凰堂を抱き止めながら、森子は尋ねる。
「……鳳凰堂さんが好きな人って、その人のことだったんだってこと」
あっ、と胸の奥で声が跳ねた。森子は鳳凰堂に聞かされた話から、その思いの相手はずっと八木だと思っていた。しかし、この取り乱し方を見ると、何より自らの父が刃を向ける相手が月熊だったことから、それは間違っていたことがわかった。
「もしかして兎薔薇様は……以前からわかっていたのですか」
「ええ。鳳凰堂さんを見てたらすぐにわかるわ。月熊さんに話しかけられた時だけ様子がおかしかったし」
そういえば。森子は記憶を浚った。
鳳凰堂を案内していた一日目、聖堂内での彼女の様子は確かにおかしかった。
「それに、森子さんは知らないだろうけど、島についてから館に来るまでの晩に乗る時、鳳凰堂さんは自分の隣に月熊さんが来ることを期待してたのよ。乗り込む最後の二人になったアタシと月熊さんをじっと見てて。アタシは視線が気持ち悪かったから隣を避けたけど、月熊さんが乗り込んだら満足げに視線を外してたしね」
なるほど、それは確かにあからさまである。
「まだあるわよ。部屋割りの時のカードキーを配る時、わざわざ月熊さんの後にカードキーを取ってたし、説明を無視して男性側を取ろうとした。あれも隣になりたかったから。その日の夕食も、わざわざ誰がどこに座ったか確認してから座ってたし」
説明の中、月熊へ処置を終えた大神が戻る。
「どうでしたか?」
森子の問いに、大神は無言で首を横に振る。それは鳳凰堂を気にかけてのことだろう。
現に、止血のためにあてがったシャツからは今もなお血が滴っている。
「森子、大和は死ぬのか、あんなに血がいっぱい出たら、人間は死んでしまうのではないか? どうしよう、私は、私は……!」
森子の腕の中で、鳳凰堂は泣き続ける。森子にとって彼女は大きく燃える炎のような存在だったが、今は小さく消えそうに見えた。
この数日間、森子は生まれて初めての友達ができた。孤独で無くなった。一人では無くなった。
その大きな炎は、森子の闇を払い、森子の孤独を温めた。
だが、その大きな炎にただ温められるだけで良いのだろうか。
父を見る。追い求めていた不死鳥の真実と心情を聞くことで、その矮小さに幻想を打ち砕かれた父を。
森子は、改めて腕の中で泣き続ける一人の少女を見た。初めて見た時の神々しさなど、今はない。どこからどう見ても、ただの女の子だった。小さな存在だった。それが不死鳥、鳳凰堂椿の正体なのだろう。
森子は、その姿を見て、しかしやはり、幻滅した。がっかりした。呆れた。情けないと思った。神様には到底見えなかった。だけど、そんなことはどうでもよかった。なぜなら森子は鳳凰堂に神々しさなど求めていなかったから。
「椿ちゃん!」
森子は鳳凰堂の肩を掴み、真正面から見つめる。鳳凰堂の泣き腫らした目が丸くなる。
その表情がどこかおかしくて、やはり森子にとって鳳凰堂は神様なんかじゃないと改めて確信する。
森子にとって、鳳凰堂は友達だった。その友達が今、取り返しのつかない大切な人の死に怯えている。ならば、森子がするべきことはただ一つ。
「人間は……簡単には死にません!」
それは、嘘をつくことだけだった。
本心では、月熊の負った傷は致命傷だと感じていた。何度も刺されて、あれだけの血を流せば、いくら大柄な月熊とはいえ死なない方がおかしいとも。
けれど、的羽森子は友達を元気付けようと笑みを浮かべて断言する。「月熊さんは、大丈夫!」それは、鳳凰堂がずっとしてきたことだった。自らの恐怖を抑え、怯える誰かに大丈夫と嘘をつき、震えながらも殺され続けた鳳凰堂の為ならば、これくらいの嘘は友人の首を切り落とすことよりよほど簡単だった。
だが、現実的な問題として、月熊が死ぬのは時間の問題だろう。それもかなり喫緊の。
助けの船は、この島には来ない。
誰もこの島から出す気はなかった的羽天窓があらかじめそうしたのだ。
止血の処置は済んだとはいえ、月熊の血は流れ続ける。
そればかりは誰にもどうにもできなかった。
森子の腕の中で、鳳凰堂はそれをじっと見つめていた。
しかし、もう涙は流していなかった。
「森子、ありがとう」
そう言って腕を剥がす鳳凰堂は、何度も見てきた様な笑みを浮かべていた。けれどどこか切なげな笑みを。
「みんな、すまなかった」そして鳳凰堂は他の全員に向き直り、言った。「元を辿れば、全て私のせいだ。すまなかった。ごめん」
頭を深く下げる彼女に、誰も何も言えない。
「みんなの人生を、狂わせてすまなかった」
その謝罪を求める者はいなかった。それなのに、彼女は頭を下げ続ける。
「私はこれから、この島に人を呼ぶことにする」
言葉と同時に上げられた顔は、やはり切なげな笑みだった。
「すぐに人を呼んで来て、必ずみんなをこの島から出すよ」
「そんなことが、できるのですか?」
鳳凰堂は森子に向き合い、確かに頷いた。
「うん。だが……あまり、驚かないでくれると嬉しいな」
鳳凰堂は、そう言い。
やはり、笑った。
瞬間、鳳凰堂椿の口から、小さな炎が吐き出された。
その炎は鳳凰堂の体の中で燃え盛っているらしく、口の奥から光り輝いている。
人の体を燃やされるわけではなく、自分の意志によるそれに痛みは無いのだろう、鳳凰堂は笑みを残したまま、その場にばたりと倒れた。
やがてその顔が、体が、四肢が、髪が、全てが――燃え上がった。
まるで蝶が蛹から羽化するように。
人間の体を脱ぎ捨てるように。
炎が鳳凰堂の中から現れた。
炎は鳳凰堂椿の体を燃やし尽くしてもまだ燃え続ける。
何も無いというのにその炎はやがて大きな火柱へと変わっていく。
聖堂の中に、巨大な四メートルほどの炎柱が立っていた。
ゆらゆら、ゆらゆらと揺れる内、炎の形が変わって行く。
左右に伸びる炎は、中心から天へと伸びる炎は、その中に何者かの鼓動を感じさせる炎は。
鳥の様な姿をしていた。
「椿、ちゃん?」
他の面々は信じられないと言った様子で口を開けて見上げる中、森子がその炎を見つめてつぶやいた。
「椿ちゃんですよね!」
炎は言葉を発さなかったが、その長い首が一度縦に振られた。
「椿ちゃん……戻ってきますよね?」
森子は思わず問いかけた。なぜか、目の前の炎が姿を消して仕舞えば、二度と会えなくなる気がしたのだ。確証も何も無いが、口に出さずにはいられなかった。
炎は、答えなかった。
「……私、まだお礼は言いませんから! この島に来てくれて、事件を散々引っ掻き回して、全部ぐちゃぐちゃにぶっ壊して、私を、私たちを助けてくれて、こんな連続殺人のために作られた舞台で誰も死なせない為に頑張ってくれたお礼は……まだ言いませんから!」
燃え盛る炎は向けて、森子は叫ぶ。
「だから! だから……また、絶対に。絶対に……会いましょう! 島の外で!」
溢れる涙を拭いながら、必死に言葉を紡ぐ。
炎は、その翼で森子の体を抱きしめようとして、少し動かしただけでやめた。
森子の言葉を否定する為ではない。今の自分では、森子の体を焼くだけだ。
炎は、代わりにその首を天へと向ける。
次第にその炎は、ゆらりと音も立てずに浮き上がった。
炎の鳥、その体はやはり鳥の形をしているだけなのだろう。実体の無い炎は、羽ばたくこともせずにゆらゆらと宙へ浮き上がる。
そして森子の頬を風がすり抜けた時、炎は飛び立った。
ひゅるひゅると何度か聖堂の中を飛び回ると、かつては自らを模したステンドグラスが嵌まっていた窓枠から、明るい朝の空へと飛んでいく。
森子はそれを、眺め続けていた。
それは永遠に続くかの様に思われたが、永遠ではなかった。
数時間もせずに、消防隊が船に乗って島へと上陸し、燃える館から森子たちを救助したからだ。
彼らは「海上の空に大きな炎が飛び回っているとの通報があり、それを追いかけるとこの島に着いた」と首を捻っていた。
そして、的羽森子、的羽天窓、漆田羊介、獅子噛皇牙、兎薔薇真美実、大神狼華、そして呼吸は浅くともまだ生きている月熊大和。
全員が、生きて島から脱出することになった。
この数日間における連続殺人事件。
二百年前から続く不死鳥伝説に端を発し、十五年前のスカイウィンドホテル全焼事故を経て、この島に集まった人々を襲った連続殺人事件は、こうして幕を下ろした。
死亡者0名。
その一点だけを残し。
第五章 復活編
〜解決編〜
終