第始章【表】不死鳥館の殺人
命は、炎に似ている。
煌めき、ゆらめき、温かい。
人を温め、誰かを燃やし、誰かのものを消していく。
物を動かす力となり、誰かの道を示す篝火ともなる。
炎は、命に似ている。
消える時は、音を立てず――。
※
太平洋に浮かぶ島、極楽島に建つ、【不死鳥館】。その一室にて、ある炎が一つ、断ち切られようとしていた。
断ち切る――それは、レトリックなどでは無く、文字通りであり、それ以上でも以下でもなかった。
窓から差し込む月の光に照らされるのは、二人の人間だった。
一人は直立し、一人は倒れ伏せている。
一人は巨大な刃物を持ち、一人は倒れ伏せている。
一人はそれを相手の首筋に当てがい、一人は倒れ伏せている。
一人はその手に力を込め、一人は倒れ伏せている。
一人は、その刃を――。
一人は、倒れ伏せたまま、しかしその顔は天井を向いていた。
一人は、その顔を、いや頭を、抱え上げ――。
残されたものは、一つの首無し死体であった。
そう、これから始まる物語は、二百年前に生まれた不死鳥伝説から続く首切り連続殺人事件。
この第一の被害者は始まりに過ぎない。
絶海の孤島、集められた招待客、腹に抱えた秘密の殺意。絡みゆく過去の事件。
果たして、犯人は誰か?
「いやあああああああああああああああ!」
そしてこの物語の開始のブザーは、その生首の発見者である、一人の少女の叫び声だった。
「どうかされましたか!」
「森子さん、離れましょう。見てはいけません」
「いやあっ! 椿ちゃん! いやあああ……」
「は、はあっ? どう言うことだよ!」
「月熊さん、こちらへは来ないで食堂へ!」
「なんなのよ……」
「馬鹿野郎! 見るな!」
「キャァアアアアアアアア! 何よこれ、なんなのこれ、何なのよこれえ! これ、何かのドッキリ? そうなんでしょ、みんなでアタシを嵌めてんでしょ!」
「少し黙れ!」
「本当に、鳳凰堂さんは死んでいるんですか……?」
「君は首を切られても生きている人間を見たことがあるのかね?」
「皆さま、落ち着いてくださいませ。まずは警察に連絡を……」
「椿、ちゃん……」