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殺人館の不死鳥  作者: かなかわ
乱世編
26/38

第四章【表】さよなら人間 第二部

 ドボン。


 そんな音が聞こえた。


 聞こえた?

 聞こえた。


 八木の体は、一瞬にして海中へと放り込まれたかのように感じていた。

 強く大きな水流に流されるような、そんな感覚が、全身を包んでいた。


 だが、おそらくこれらは勘違いだ。

 現実では、八木の視界は一瞬にして……【かき混ぜられた】。

 厨房で、爆発が起きたのだろう。


 上と下がわからなくなるのは、海に潜った時によく似ていた。

 音が遠く、そして感覚が鈍くなることもまた、海中によく似ていた。


 ぐらりぐらりと八木の視界が何度か揺れ、そして「どべん」と体が毛深い絨毯に抱き止められる。


 なにがなにがなにがおきたらららら?


 既に結論が分かりきっていることを、八木は揺さぶられる頭の中で思い浮かべる。

 思い浮かべるだけで思考しない。ただの事実確認だ。


 ギィンギィンと耳鳴りが脳の奥からやってくる。

 脳の奥から、体の一番表面にたどり着くと、やはりギィンギィンと響く。


 死、し……生、生?


 八木は体の節々から痛みの信号を受け取るが、同時に欠損もなければ折れてもなく、動かせることを感じ取った。

 なんとか首を持ち上げ、周囲の状況を確認する。

 数人の男が倒れていた。


 月熊、獅子噛、漆田はそこに倒れていて。

 的羽天窓がいない。


 先ほどまでそこにいた的羽天窓がいない!


 八木の体は飛び上がった。

 周囲の月熊たちの安否を確認し、少なくとも息はあることを知ると、這うようにして食堂から外へと動き出す。


 ドカン、八木の背後でもう一発何かが破裂した。

 その振動に身が揺らぐが、八木は何とか二本の足で立ちあがろうとする。

 横転したテーブルの足に掴まり、片膝から両足で立ち上が――。


 八木の体が、またも宙に浮いた。


 今度は爆発とは思えない。爆弾による爆発というよりは、むしろ戦闘機が積んでいた爆弾が落ち、爆撃を受けたような。

 八木の足元が大きくたわみ、まるで下から大きな突き上げがあったかのような衝撃が襲いかかったのだ。

 大きく転倒し、体を床に再び倒れ込ませる。

 鈍い痛みに震えながら、八木は絨毯を噛み、また歩き出す。

 見れば、前方には大神の体に覆い被さり、なにやらモゾモゾと動いている何者かがいた。

 それは赤い光に照らされ、姿を現す。

 的羽天窓だ。

 八木らと同じように体の節々を痛めているのだろう、無理に大神を引きずろうとして妙な体勢になっている。

 大神は気絶しているのか、赤い光に照らされる横顔に見える瞼は眠ったように閉ざされている。


 赤い、光?


 八木はその光の出どころを探し、後ろを振り向いた。


 何のことはない。厨房から炎が噴き出ているのだ。


 不死鳥館が、炎を噴き始めた。


 十五年前と全く同じ視界が、そこにはあった。


 ※


「か、か、か――」

 八木は奥歯が震え、噛み合わないことにもどかしさを感じながら、その言葉を叫んだ。

「火事だ!」

 たった一言では誰にも届かない。

「火事だ、火事だ、火事だーっ!」

 八木はさらに声を張り上げて叫ぶ。

 火の元から遠ざかろうとする的羽天窓と、それに引きずられる大神は置き、厨房に近い月熊たちに飛びついた。

「火事です、火事ですから! ゴホッ、ゲホ」

 まずは咳き込みながらも月熊の顔を平手で軽く打つ。月熊はその目を開くと、何を見たのか横転しているテーブルたちを薙ぎ倒す勢いで外へと走っていった。

「お前、何してんだ!」

 目で追えば、大神を引きずる的羽天窓の体に強いタックルをお見舞いしていた。

 そのまま二人は扉の外へと転がり出る。

「獅子噛さん、漆田さん、起きてください!」

「ぐ……」

 呼びかけに反応があったのは獅子噛。ほっと撫で下ろしたその胸に、鈍い痛みが突き刺さった。

「があっ!」

 八木の体は、近場の椅子で殴りつけられていた。

 困惑する頭と揺れる視界で状況を確認すれば、獅子噛は意識を取り戻したと同時に、手に取った椅子の足を振り回して八木にぶつけたのだ。

 八木はその場に転がり、かき混ぜられた肺が跳ねるたびに咳をする。

「し、獅子噛さん、なんで――」

「私は……死にたく、ないのだ!」

 見上げた獅子噛は、頭から血を流していた。

 振り上げた椅子を、まるで斧のように八木の体へと振り下ろす。

「が、ぐっ! 獅子噛さ、やめ、ぐ!」

 八木は体を丸めることしかできなかった。

「だったら! 殺される前に! 全員殺すしかないだろうが!」

 振り下ろされる椅子は大した命中精度を持たずに八木の体に当たらないことも多かった。

 しかし一度当たれば骨が砕かれるような痛みに、八木は立つことも出来ない。

「まずは最初に、お前だ!」

「やめなさい!」

 そして振り下ろされた椅子が八木の頭部に直撃する瞬間、椅子は腕ごと、体ごと反らされていく。

 恐る恐る目を開けば、漆田が燃え盛る炎を背に獅子噛と格闘を繰り広げていた。

 どうやら漆田は獅子噛の背後から掴みかかったらしい、首に腕を回して締め上げている。

「漆田さん!」

「い、いいですから、行きなさい!」

 しかし漆田の顔は獅子噛に殴りつけられ、メガネはフレームから歪んで割れていた。

「危険だから、早く逃げなさい!」

 漆田はなおも叫ぶ。獅子噛より強い気迫に、八木は食堂の外へと走り出した。そして食堂の外へ出ようとしたその時、横目でとうとう漆田の腕が引き剥がされ、自由になった獅子噛が彼を殴り、蹴り、そしてやはり殴りつけていた。

 戻るべきか。八木は悩んだ。悩む理由があった。

 食堂の外へと出た八木は、そこでも異常な光景を目にしていたからだ。

 不死鳥館上階回廊、そこでは月熊が的羽天窓相手に取っ組み合いを繰り広げていた。

 体格差は大きいはずだというのに、的羽天窓は月熊からマウントポジションを奪い、その首を絞めていたのだ。

「や、八木、八木ィ!」

 的羽天窓の腕を引き剥がそうと躍起になる月熊が八木に顎で示すのは、未だ気絶したままの大神だった。

 何を言おうとしているのかはすぐにわかった。

 的羽天窓が自らの真意を晒し、火事を起こしたのは、最後の生首を調達するためだったのだろう。

 八木は大神を抱き上げ、回廊を周り階段へ向かう。ドカン! その音を聞いた時、八木はまた何かが爆発したのかと身構えた。だが違った。

 書斎前の階段にたどり着こうとした時、対岸の食堂の扉が蹴り開けられたのだ。

 食堂へと侵入し最奥の壁を飲みむ炎を背景に、獅子噛が姿を現していた。

 肩で息をする彼の近くには、漆田の姿はなかった。だが助けに行くことも出来ない。獅子噛は八木と目が合うと、走ってこちらへと向かってきたのだから。

「大神さん、目を覚ましてください!」

 呼びかけるも、うめき声が聞こえるだけだ。

 不安定な重心にふらつきながらも一歩一歩階段を降りていく。

「その女!」

 やがて中腹に差し掛かった頃、背後から獅子噛の声が聞こえた時と全身が前方に大きく突き飛ばされたのは同時だった。今度こそ何度も階段に体を打ち付け、階下まで転げ落ちていく。

「その女、その女が犯人ならば、その女さえ居なければ!」

 獅子噛はうわ言を呟きながらゆっくりと階段を下る。

 動かないと、動かないと、動かないと!

 八木はどこまでも痛む四肢を動かし、泳ぐようにもがく。

 獅子噛が伸ばした手と、八木が伸ばした手では、八木が早く大神の体を掴んだ。

「邪魔だ!」

 だがいとも簡単にその手は蹴り飛ばされてしまう。

 中央ホールには厨房からの光は届かず、ドーム型の天窓にテラテラと炎が踊る様が辛うじて見えた。

 暗黒に近い中で、八木は腕を振り回す。

 ほぼシルエットでしかない獅子噛は、倒れ伏せているためシルエットすら見えない大神の首を掴み、殴りかかろうとする。

「やめろっ!」

 もはや掴んだり殴ったりなどということは出来ない。狙いも何もなく獅子噛へと飛びかかる。

「ぐ、が、離せ!」

 しかし思いの外うまくいったようだ。八木は獅子噛の頭部に抱きつき、全身を使って獅子噛の頭を振り乱す。

「離せと言っているだろうが!」

 だが獅子噛も馬鹿ではない。八木をぶら下げたまま、壁に向かって突進したのだ。

「げぼっ」

 背中が壁に押し付けられ、獅子噛の頭が腹に突き刺さった八木は、潰れた蛙のような呻き声を上げる。

「し、しじがみ、さん」

「どいつもこいつも、私の邪魔をしやがって!」

 それでもしがみつく八木だったが、遂に獅子噛から引き剥がされてしまった。その場に頽れ、荒い息をつく。

 妙なことに、最後に激突させられた壁は、壁ではない気がした。

 暗闇の中で気付けなかったが、それまでの固い感触ではなく、さらに奥があるような、扉のような。

 中央ホールにある扉、そんな些細なことを気にするべきではない。八木はそう結論づけて大神の元へ這い出そうとした。

 けれど、この時ばかりはどんな些細なことでも気にするべきだった。

 這いつくばる八木と倒れ伏せる大神の間に、獅子噛はいなかった。

 彼は、最後に八木を押し付けた扉に興味を示したかと思うと、それを開いて中へと入り込んでいく。

 それに気づかぬ八木は、中央ホールの中心を這って抜け、あと少しで大神の元へと辿り着こうとした、その時。


 八木の左側に、もう一つ八木の顔面が現れた。


 視界でその妙な光景を見たのと同時に、腹の底から響く衝撃。

 かなり重たい何かが、八木の左頬を掠めてそこに落ちた。

「はあはあは、あはあはあはあは」

 背後から聞こえるのは獅子噛の笑い声だろうか、硬直する八木の左頬にあったそれが、ぐしっ、ぐしっ、と数度揺れて、浮き上がっていく。

「し、獅子噛さん」

 浮き上がる何かを目で追い続けるうちに、それの正体と、それを持つ獅子噛の姿を見上げた。


 食堂から漏れる炎の微かな光は、獅子噛が振り上げるマスターキーをギラギラと銀色に光り輝かせていた。


『この館には、どんな強固な扉も開く、共通のマスターキーがございます』


 かつて漆田に教えられた。

 マスターキー、それは魔法の鍵。


 どんなに強固な扉でも、物理的にこじ開ける――。


 大きな斧だった。


「獅子噛さん!」

「逃げ回るなぁあっ!」

 八木が身を捩り、体を起こそうとした瞬間、先ほどまで八木の頭があったその場所には、まるで餅つきのキネのように振り下ろした斧が深々と突き刺さっていた。

 流石に大神を気にしていられる場合ではなく、八木は足をもつれさせながら獅子噛から距離を取ろうとする。

 そのもつれが、幸運だった。

 無理に走り出そうとした八木は、足が絡まってその場に膝をついた。

 そのために空振りした獅子噛の斧は、壁に突き刺さったのだ。

「ひゅ……」

 喉から息を吸いつつの声が出る。

 しかしいつまでも獅子噛の斧に怯えていられない。それこそ死ぬ思いでその斧へと掴みかかり、奪い取ろうと力を込める。

 獅子噛は突然掴みかかってきた八木に驚くも、「ぐぅうっ!」と唸り力を強めた。

 そんな二人の攻防に負けたのは斧の方で、壁から勢いよく抜けるとその重たい頭で二人を振り回す。

「離せ、ガキィ!」

「獅子噛さん、落ち着いてください!」

「いい加減に、しろッ!」

 バグン、と八木は本日何度目かの視界の高速回転を経験した。

 しかし今度のものは脳まで揺さぶるものだ。

 どうやら一本の斧を取り合う形になり獅子噛は、左腕を離し、そのまま裏拳を八木の顎にヒットさせたらしい。

 それにより脳震盪を起こした八木は一気に体の力が抜けていく。

 自分が倒れたのかも立っているのかもわからない状況で、自分の胸に獅子噛が足を乗せていることだけは分かり、自分が直立している状況でそんなことはあり得ないと、八木はようやく自分が倒れているのだとわかった。

 胸に乗せられた足の力が強くなり、ふらつく脳では立ち上がることも身を捩ることもできない。

「死ねッ!」

 八木の視界で、獅子噛が斧を振り上げた。

 今度ばかりは避けられないだろう。

 八木はようやく解放されるとどこか安心する自分の呟きを聞きながら、目を閉じた。


「やめなさい!」

「があっ!」


 そして聞こえた衝撃音は、八木に降りかかることはなかった。

 目を開けば、呼吸が聞こえるほど近くにいたはずの獅子噛は姿を消し、八木のすぐそばで倒れ伏せる大きな気配となっていた。

「八木さん! 大丈夫ですか!」

 その声は、聞き慣れた声だった。

「大神さん……もういいんですか!」

「ええ!」

 どうやら意識が覚醒したらしい大神が、その身を呈して獅子噛に突撃したらしい。

 すぐそばの獅子噛の影は、その上に女性の影を乗せていた。目を凝らせば、斧を持たない獅子噛の腕を後ろ手に組み……そして、何か小さなものを当て嵌めている。

「やめろ、離せっ! 貴様ぁ!」

 獅子噛がようやく大神を振り落とすことに成功するが、そのシルエットは大きく形を変えていた。

 彼はもう、斧など持てないだろう。

 その腕が、後ろ手のまま動きそうにないのだから。

「指錠をさせてもらいました。八木さん……私は少し別の場所に行きます。後は……ああっ!」

 耳元で告げる大神のシルエットが大きく歪む。獅子噛が指錠をされてなお抵抗したのだ。大神の体を大きく蹴飛ばした。

「余計な真似を!」

「獅子噛、お前っ!」

 八木は自分が回復していることに気づくと、獅子噛の首へと飛びついた。

 彼の腕が拘束されている今でこそ、八木は獅子噛の首に腕を回し、締め上げていく。

「ぐ、かぁ、が!」

「いい加減に、大人しくしてろよ!」

 獅子噛はそれでも体を捩り抵抗を続けたが、次第に膝をつくと、その場に倒れ伏せた。

 ようやく目下の脅威を鎮めた八木は、しかしそれで安心できるわけでもなく、未だ倒れたままの大神に駆け寄る。

「大神さん、大丈夫ですか!」

「え、ええ、なんとか……」

「今すぐ逃げましょう!」

「え、でも私は……」

「いいから!」

 八木は混乱したままの大神の手を引き、外へつながる玄関ホールへの扉へと飛びつき――。

「あっつ!」

 そのドアノブは非常に熱を持っていた。

 困惑しつつも構っておられず、八木はシャツの袖を伸ばして手を覆い、無理やり掴んで開いた。

 そして二人を出迎えたのは。

「そんな、こんなこと……!」

 一面の火の海だった。


 ※


 玄関ホールはほとんど床が見えないほど火に埋め尽くされていた。

 厨房の爆弾と同じものを使、遠隔で発火させたのだろう。

 当然、玄関扉にたどり着くことなど不可能だ。

「別のところから!」

 隣の大神が叫び、八木の意識が戻される。

 別の場所、そう言われた八木が咄嗟に掴んだのは、パーティホールへの扉だった。

 あの窓は開かないが、それでも割れないほどではあるまい。

 一縷の望みを抱いた八木は、またも火の海に迎えられた。

「なんで……」

 言いつつ、八木は答えが頭にあった。

 的羽天窓の仕掛けた爆弾は、おそらく厨房のエレベーターに積まれていたのだ。

 だからこそ漆田は気づくことができず、そして爆発が起きた後、そのエレベーターはカゴごと一階のパーティホールへと火種を抱えて落ちていった。

 第二の殺人事件の現場が、完全に炎に飲み込まれていた。

 ステージを、演説台を、カーテンを、全てを飲み込んで赤く輝いている。

「クソ!」

 八木は悪態を吐き、扉を閉める。

 後ろから大神が付いてくるが、次はどこへ行けばいいのかもわからない。

「脱衣所の窓から出れませんか!」

「そういえば……あそこなら人が通れます!」

「八木さん、確認してきてもらっていいですか」

 え、と八木は足を止めた。

「一緒に来ないんですか」

「私は今から他の方の安否を確認してきます」

 服の袖で口を抑えながら、大神は言う。

「ですが、危険です! 獅子噛さんはともかく、的羽さんが何をするか……」

 しかし大神は八木に背を向ける。言葉はなかったが、それでもその意志は強く感じ取れ、口を閉じた。

「……わかりました。では、僕も貴方と一緒に行きます」

 既に火の手は上がっている。議論している時間すら惜しく、大神が口を開くより前に走り出した。中央ホールに転がる獅子噛に飛びつき、頬を叩いて意識を起こすと、脱衣所の窓の説明をし、二人は月熊、的羽、そして漆田を探しに階段を駆け上がる。

「月熊さん! 月熊さ……ぐ」

 炎はまだ食堂から出てくる様子はないが、しかし煙は叫ぼうとする八木の喉を焼く。ぜこぜこと咳をするたびに煙を吸い込み、身を屈めてしまう。

「姿勢を低くしてください。月熊さんは……どこに行ったのでしょうか」

 八木の背をさすりつつ、大神が呟く。

 最後に彼の姿を見たのは食堂から出てすぐだ。気絶した大神を連れ去ろうと引きずる的羽に飛びついて、食堂前の手すりに激突していた。

 そこから彼がどうなったのか、八木には想像がつかない。現に彼らの姿は二階回廊には影も形もなかった。

「どこ、行ったんでしょう」

 涙で滲んだ視界で見渡すが、燃え盛る食堂の奥ばかりが目についてしまう。

「そうだ、漆田さんが食堂に……」

 食堂に向けて指を向ける。獅子噛と乱闘を繰り広げ、床に蹲る姿を最後に見たきりの漆田は炎に飲み込まれてしまっただろうか。大神もそれを聞いて察し、這うように火元である厨房が未だに燃え盛る食堂へと潜り込んだ。

 顔面に吹き付けられる風は熱を持ち眼球が焦げる思いだ。防ぐように腕をかざし、少しずつ奥へと進む。

「お、大神さん! これ以上は……」

 先を進む大神に口元を庇いながら叫ぶ。しかしこちらに振り向く大神の口は「でも」と動く。それが音としてこちらに届かなかったのは、何度目かの爆発が大神の声を吹き飛ばしたからだ。

 おそらくはガスに引火したか。

 厨房と食堂を隔てる壁はいよいよ崩壊し、その奥を八木に見せた。

 まるで、蜜柑の皮の下、房の薄皮を優しく剥がして見える果肉のような、床と壁と天井を埋め尽くす炎。

 さらに奥の壁は数度の爆発により吹き飛び、赤く輝く炎の奥に見える暗い夜と瞬く星が、奇妙なコントラストを醸し出していた。

 結果として、食堂にも厨房にも、人影はなかった。

「漆田さんは、もうここにはいません!」

 居るとするならば、それこそ助ける必要など無くなっているだろう。八木は言下に潜ませた。

 大神も納得したようで、渋い顔で振り返る。背に熱い風を受けていると、それでもくぐり抜けてきたひやりとする夜風が八木の首を撫でた。

「八木!」

 不意に回廊の八木から見て右から声がかかる。廊下から這いつくばるように首を伸ばしているのは月熊だった。廊下の影に隠れていたために見落とし、すれ違ったのだろう。

「漆田が! あいつがあっち、部屋にいる!」

 異常事態に語彙がついてこないのか、たくましい包帯に包まれた腕を振り回して八木と大神に示すのは、漆田が八木から見て左側、男性の個室が並ぶ方向へと向かったのだと言う。

 八木と大神は顔を見合わせ、頷くとまずは回廊を回り、月熊の元へと走る。

「あっち、あっちに……ゲホ、ごほおっ!」

 なおも叫ぶためか、煙を吸い込んだことによる咳が月熊の言葉を形造らせない。

「月熊さん、わかりましたから……そうだ、脱衣所です。月熊さん、玄関は既に火が放たれてます。脱衣所の窓から外へ!」

 わかったと示すように頷く月熊に、八木はさらに一言添えた。「そうだ、獅子噛さんが下にいます。拘束されておりますので危険はないかと思いますが、脱衣所まで連れて行ってください」

 だが、その言葉には頷かず、月熊は妙な顔をする。

「獅子噛のやつ、下にいねえけど」

「はっ?」

 予想外の情報だった。獅子噛から目を離してからまだ数分しか経っていない。手すりから身を乗り出すようにして中央ホールを覗き込めば、そこには人影はなく。

「八木さん、斧も消えています」

 獅子噛が振り回し、八木と大神相手に大立ち回りを演じた、あの巨大な斧も消えていた。

「……既に脱衣所から逃げたのかもしれませんが……月熊さん、詳しく聞かせてください。大神さんを僕に渡した後、貴方と的羽さんはどうなったんですか」

 頷き、月熊は手短に話し始めた。

「ああ、お前たちと別れた後、俺は的羽をどうにか封じ込めねえかと思いながら取っ組み合いしてたんだ。傍を獅子噛が走って行って、お前たちと共に下へ行ったのは見た。だがそれに気を取られてる内、的羽の野郎に腹を殴られちまった。あそこ、女の個室がある廊下の前だ。目も見えなくなって身動きが取れないでいると、反対側に人影を見た。ぼやけた男か女かもわからなかったが、お前たちは獅子噛と下にいたのはわかってるから、多分的羽だ。的羽は食堂に入って行って、誰かを引きずって出てきた」

 おそらくその誰かは、漆田だ。

 何者かの手により漆田は食堂から助け出され、そして移動させられたのだろう。

「わかりました、月熊さん。それから貴方は……?」

「恥ずかしい話だが、動けるようになるまで少しかかった。気がついた時にはお前たちが食堂から出てきて、今に至るわけだ」

 俯く月熊に、慰めるべきかと思う八木だったが、その時間はないだろう。

「つまり、的羽さんと漆田さんが同じ場所にいるんですね!」

 あの的羽がただの善意で漆田を救うはずが無いだろう。

「行きましょう、大神さん。それから月熊さんは早く脱衣所から外へ!」

 先程獅子噛を探すために中央ホールを見下ろした時に八木は見た。玄関ホールの炎がいよいよ扉を飲み下し、その身を中央ホールへと現していたことを。

 見れば食堂の炎も先ほどよりずっとこちらへと近づいている。この不死鳥館はまさに炎の鳥として姿を変えていた。

 ふと、八木の視線は上を向いた。

 そこには、満天の星を映す天窓がある。

 ドーム型の天窓に映る星は、どこかプラネタリウムのような幻想性があった。

 なぜ自分はそんなものを見たのか?

 八木は不思議に思った。

 確か自分は、月熊に指示をしている時、何かを見た気がする。そのために首が上を向いたのだ。

 だが、その何かは既に消えていた。

 代わりに見えたのは、星でもなければ、動く影でもなく。

 おそらく爆発の衝撃によって生まれた、蜘蛛の巣のようにドーム型の天窓を登る何本ものヒビ割れだった。

 その内の一本が、ドーム型の天窓への登頂を果たす。

 厚いガラス一枚下に吊り下げられているのは、巨大なシャンデリア。

 それは沈み込むように一つ、二つと揺れると。

「伏せて!」

 まるで夜空が丸ごと落ちてきたようだった。

 伏せる八木の耳に飛び込むのは、幻想的なまでに甲高い、ガラスの割れる音。

 幾重にも重なるその音は、シャキリシャキリと楽器のように聞こえた。

 腕の隙間から覗けば、降り注ぐガラス片とシャンデリアは八木の目の前で食堂からの炎と玄関からの炎に照らされ、踊るように落ちていく。

 それまでの時間がたったの一瞬だとは思えないほど、綺麗だった。

 即、腹の底から響くような衝撃が突き上がる。

 中央ホールへと落ちたのだ。

「皆さん、大丈夫ですか」

「大丈夫だ。腰が抜けるかと思ったが……」

 大神も頷き、無事を示す。

 あと少し早く中央ホールに降りていれば、一たまりもなかっただろう。八木は少し胸を撫で下ろした。

「八木さん、月熊さん、あれを!」

 せっかく撫で下ろした胸が、大神の叫びに再びざわめき始める。

 下階に落ちそうなほど身を乗り出す彼女の指先を見れば、八木もまた叫びそうになった。

 落下したシャンデリアは着地してから転がったのか、脱衣所へと続く廊下の入り口を塞ぐようにその体を横たえていたのだ。

「通れなくはなさそうですが……」

「俺が退かしてくる!」

 回復したらしい月熊が短く言うと階段へと走る。

 呼びかけるが、彼の背は階段から下へと消えて行った。

 しかし、八木は不安だった。

 天井に空いた大穴から、熱による上昇気流などものともせずにびゅおうびゅおうと外から風が吹き込んでいる。

 それは食堂、玄関ホール、そして今はパーティホールから現れた炎を煽るように渦巻けば、それらに力を与えている。

「僕たちは漆田さんがいると言う部屋へ!」

 考えている暇もなかった。とにかくこの炎上と崩壊を始める館で立ち止まるべきではない。

 八木は走り出す。

 漆田がいるらしい部屋は聞いていなかったが、彼の部屋は一番奥だ。

 回廊を廻る内、階下にてシャンデリアを退かすべく手をかける月熊を横目で見た。

 廊下を走る。もはや自分が何のために走っているのかもあやふやになってきた。気を抜けば笑ってしまいそうだ。

 廊下まで辿り着き、月熊の部屋、八木の部屋、獅子噛の部屋を通り過ぎようとした、その時。

「ぎゃっ!」

 八木の背後から大神の短い叫びと小さな衝撃が飛んだ。

「大神さん?」

 見れば、少し遅れて後ろをついていた大神が廊下、八木の部屋の前で倒れていた。転んだのか? 八木は首を捻る。

 ただ転んだのであれば柔らかい絨毯がその身を包むだろう。大きな怪我はないはずだ。漆田の安否を確認する方が先かもしれないと、非情ながらもその旨を伝えようと口を開いた時、その異常性を改めて認識した。

「大神さん!」

 倒れ伏す彼女の右足を八木の部屋から伸びる二つの手が掴んでいた。

 その手は大神の体を引き、八木の部屋へと引き摺り込んでいく。

 目の前で起きるどこまでも異常な事態に一瞬硬直し、しかし次の一瞬には走り出していた。

 だが、その一瞬はどこまでも大きかったらしい。八木が走り出し、自室の前に飛びつく頃には、目の前でその扉が無情にも閉められたのだ。

「お前、誰だあっ!」

 叫び、ドアノブを捻るが、奥から押さえつけられているようで扉は硬く動かない。

 クソ、と吐き捨てて八木は叩く手を止めてその扉にタックルを繰り返す。

 おそらくあの手の主は的羽だ。

 ならばこの部屋の奥で何が起きているのか、想像は難くない。

 数度とタックルを繰り返すが、不意にその時は訪れた。

 壁のように硬かったその扉が、まるでドアノブが捻られたかのようにすんなり開いたのだ。勢いつけた八木の体は暖簾をすり抜けるかのように部屋の中へと飛び込んでしまった。

「わあっ!」

 しかしその体が床に叩きつけられることはなかった。

 数時間前、階段から落ちる八木を受け止めた時と同じように、大神がその体を受け止めた。

「お、大神さん! 大丈夫でしたか!」

 抱き止められながら、八木はその体を見回す。五体満足、もちろん首と胴体は繋がった生きている大神がいた。

「あ、あれは誰でしたか! 貴方を引き摺り込んだ、あの人!」

「八木さん、すみません……咄嗟のことで、姿は私も見ていなくて……あの窓から、外へ出て行きました!」

 あの窓、と示したのはベランダへと続く窓扉。

 八木は大神の体から抜け出すと、そこへと歩み寄る。ベランダの下に残された足跡が、どこへ行ったかわかるはずだ。

「……あれ、大神さん。内側から窓の鍵を閉めたんですか?」

 窓扉には鍵がかかっていた。あの手が部屋の中に大神を引き摺り込んだあと、窓の外へ逃げたならばそれは不可能だ。

「え……え、ええ。そうです。犯人が戻ってきたらと思って。私がかけました。その……鍵を」

 要領を得ないその返答に首を傾げかけたが、それよりもまずは漆田の無事を確認しないと。

「大神さん、早く次の部屋に――ぎゅむ!」

 振り返ろうとした八木の視界が、一気に塞がれた。それも視界だけではなく、顔面全てが大神によって塞がれたのだ。

「むぐ、ちょ、大神さん……!」

 八木は慌てて逃れようとする。大神は八木に対して攻撃をしたわけでないことはわかっていた。しかし逃れる必要があった。なぜなら八木の顔面を覆っているものというのが、大神の胸元だったからだ。

「ごめんなさい、八木さん……もう少しだけこうさせてください」

 その声は少しだけ、か細かった。

 それも無理はないかもしれない。八木は抵抗する力を弱めた。

「ありがとう、ございます……」

 数秒後、八木は解放された。

 未だ顔面に残る柔らかい感触を処理しかねながらも、「漆田さんを助けに行きましょう」と持ち直した。大神も落ち着いたのか、真剣な表情で八木の部屋を飛び出した。

 廊下に吹き込む風はより熱くなり、中央ホールはこの館が太陽に建っているかのように光を撒き散らしていた。

 逃げるように廊下の奥へと走るが、いずれはまたあそこへと飛び込まなくてはならないかと思うと、八木は唇を噛んだ。

 漆田が寝かされていると思っていた彼の部屋は、しかし扉を開いたところで誰もいなかった。

「あれ、漆田さんは?」

 そのベッドが最近使われた様子もない。綺麗にベッドメイクされており、彼が寝かされていたとは思えなかった。

「八木さん!」背後の廊下にいる大神が呼ぶ。「いました!」

 誰が? とは考えない。今この状況で姿を表す人物は、誰であれ状況が一変する可能性を全員が持っていたからだ。

 そしてやはり、その彼も状況を一変させた。

「漆田さん! どこにいたんですか!」

 彼は脇腹を抑える形で、廊下の壁に手をついていた。

 外見的には目立った怪我は見えない。顔に痣が浮かび、白く立派だった髭と髪が焦げて煤まみれなだけだ。

「私は……誰かに、月熊様の部屋に……」

 苦しげに言うその言葉から、八木は自らの頭を叩きたくなった。月熊はどの部屋に漆田が入れられたのかを言わなかった。ならば廊下の入り口から一つ一つ開けていけばおそらくもっと早く漆田を発見できただろう。

「大丈夫ですか、漆田さん。どこが痛みますか」

「胸が……おそらく、肋が折れています」

 獅子噛に蹴られ、殴られたためだろう。漆田は今にも崩れ落ちそうだった。

 まずいな、八木は舌を打つ。

 この館からの逃げ道は一応まだある。それは二階のベランダからの脱出だ。

 しかし漆田はそれができる状態ではない。その上、今はどこにいるかわからない獅子噛は両手を後ろ手に拘束されている。月熊も腕に怪我をしているため、それができるかどうか。的羽はそもそも協力してくれるかわからない。

「漆田さん、この館に垂直式の救助袋……簡易式の滑り台です。あとはせめて梯子とか、そういうのはありませんか?」

「申し訳、ございません……梯子があったのですが、防災バッグに纏めておりまして……」

 煙のせいではないだろう咳が混じりつつ、漆田は答える。防災バッグとは、あの無くなったというバッグか。

「では、では……仕方ありません。危険ですが、脱衣所へと向かいましょう」

 八木の言葉に大神も頷き、漆田に肩を貸して廊下を戻っていく。

 しかし、だんだんと近づく中央ホールは一歩ごとにその輝きと熱波を大きく放つ。その度に八木は足を止めたくなった。

 火山の火口でも覗き込むかのように階下を見下ろせば、シャンデリアは動いていなかった。

 月熊はどうしたのだろうか、彼の姿も無い。

「そんな……」

 手で覆う口から、そんな嘆きが漏れた。

「八木様、では、聖堂へ……」

 大神に支えられる漆田が、懐かしい部屋の名前を口にした。

「聖堂の扉は防火扉になっております……部屋自体も耐火性があります。ただ……」

「ただ、なんですか」

「逃げ場が完全に無くなります」

 それは、恐ろしい言葉だった。

「……仕方ありません、行きましょう」

 込み上げる思いを飲み込み、八木は頷いた。

 燃え盛る炎は中央ホールを半分以上飲み込み、我が物顔で踊っていた。

 シャンデリアを動かすのはもう無理だろう。引火はせずとも相当な高温に熱せられているのは簡単にわかった。

 階段を降り、そして壁に背をつけて炎の踊りを見ながら体を聖堂への廊下へ滑り込ませる。

 不思議なことに、そこの空気は少し冷たさが残っていた。

 パチパチと何かが爆ぜる音を背後に聞きながら、八木は石でできた巨大な扉に手をかける。

 そして、力を込めて開いた。

「誰だ!」

 中からそんな声が聞こえた。獅子噛だった。彼はここに居たのか。安堵と緊張感が同時に胸に湧き上がる。

「僕です、僕たちです……」

 大神たちが通れるまでに扉を開くと、中の獅子噛に名を明かす。

「黙れ! 来るな、ここは私だけだ!」

 まだ錯乱しているのか、そんな言葉を唾と共に撒き散らしていた。

「そこのお前も出て行け! さもなければ……!」

「ふざけんな。そんな体で何ができるんだよ、お前」

「月熊さん……」

 どうやら月熊も聖堂に来ていたらしい。吠える獅子噛を冷ややかに見下していた。

 聖堂、ここは館の火事が嘘のように静かな空間だった。扉を閉めてしまえば、炎が爆ぜる音は遠くへと押しやられていく。

 暗いが、頭上のシャンデリアが館の炎を受けて赤くチラチラと光っていた。

「的羽さんは、的羽天窓さんは?」

 見回すが、ここには的羽を除いた人物しかいなかった。

 月熊も獅子噛も知らないとかぶりを振る。

 ならば、まだあの燃え盛る館の中にいるのだろうか、八木は少しだけ気が落ちた。

「僕はここですよ」

 だが、気落ちするのは早かったかもしれない。そして、愚かだったかもしれない。

 八木の背後で聖堂の扉は再び開かれ、一人の男が入り込んでいた。

 声に驚き振り返る頃には、その男は手に持ったものを振り上げていた。

 聖堂の扉は自然と閉まり行き、ガタンと口を閉じると同時のことだった。


 的羽天窓の振り上げた巨大な斧は、大神狼華の首へと落ちていった。


 八木の目の前で、何のトリックも無くそれは起きた。

 びたた、びたたた。大神の首から噴き上がる鮮血は石造りの聖堂に撒き散らされていく。

 悲鳴を上げることもなく、苦痛に身をよじることもなく、大神の体はぐらりと揺れ、床に倒れた。

 やめろ。と口に出ない。

 何をする。と思わない。

 誰も何も、言わなかった。

 目の前で起きている全てのことが分からなかった。

 しかし的羽天窓は尚も斧を振り上げ、バックリと避けた大神の首に再び刃先を落としていく。

 ぐちゃ、ごちゅり。ぬちゃり、ごとん。ぐちゅ。

 そんな、石を混ぜたスライムのような音が、聖堂の中に響く。度々混ざる硬い音は、斧の刃先が床を叩く音だろう。

 それが何度も何度も繰り返された。

 一撃ごとに噴き上がる鮮血は、やがて疲れたように勢いを落としていく。

 やがて文字通り首の皮一枚残ったそれを、的羽天窓は斧の刃先で引き裂くようにして千切った。

「な、なんなんだよ、これ……」

 月熊が震えた声でようやく口に出す。全く意味はなかった。

 意に介さない様子で的羽天窓は左手に大神の生首を、右手で大神の服の襟首を掴み、中央へと引きずっていく。

 よた、よた。

 大神の体が重いのか、妙な格好と足取りで彼は聖堂の中央、供物代が囲む中央に立ち、右手を離した。

 どっちゅ。

 重たい粘性の音がたった一つ響く。

 頭のない死体が、聖堂に現れた。

 左手にぶら下がる生首は、髪の毛を掴まれているためにくるくると回るように揺れていた。

 つい先程まで生きていたその表情は、怒っているような。しかしそれは何かを堪えているかのように歯を食いしばっていたはずだ。今は重力に顎が落ち、薄く開き血で満ちた口内を見せていた。

 的羽天窓は、ふう、と一つ息を吐き、その生首を両手で持ち直すと、興奮によるためか震えを堪えながらも、それを供物台に乗せた。

 そして、ようやく――。


 女性の生首が四つ、ここに揃った。


 ステンドグラスに模された不死鳥が見下ろすこの聖堂で。


 不死鳥伝説と同じ状況が、完成した。


 誰もが、言葉も無くその生首と、その死体と、それらに囲まれる的羽天窓を黙って見つめていた。


 その背後。


 この連続殺人劇の生き残りとなった八木黒彦、月熊大和、漆田羊介、獅子噛皇牙、そして、的羽天窓。


 生き残り全員の背後で、聖堂の扉が、ガタンと音を立てて揺れると。


 ゆっくりと――開き始めた。

挿絵(By みてみん)

 第四章 乱世編【表】

〜さよなら人間〜

 終

挿絵(By みてみん)

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