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そのもふみに包まれて

作者: 氷龍瑞樹

 四月の暖かな日差しと綿毛が飛ぶなか、私は萌麩美濃(もふみの)学園に入学できた喜びを噛みしめていた。

 目の前にそびえ立つ校門を前に、ここからの学園生活がどんなものになるのか期待に胸を膨らませながら敷地に足を踏み入れる。

 

「うそでしょ……!? 迷ってしまった……ここはどこだろう……?」

 

 自分のクラスに行かなきゃいけないのに校舎が広すぎて、あっちじゃないこっちじゃないこっちの階段上って下りて、と見事に迷った。

 そしてそのまま歩いていたら目の前にガラスの扉が現れた。

 どう見たってここは絶対教室ではない。頭では分かっているのに吸い寄せられるようにその扉を開けてしまった。

 

「きれい……。」

 

 眼前に広がったのは色んな種類の花々。とっても良い香りがした。

 花の香りの中に、どこからか青い草の香りがする。

 

「すごく良い匂い……。どこ?」

 

 その香りに誘われるようにふらふらと中に入り、匂いの元を辿っていく。

 すんすんと匂いを嗅ぎながら歩を進めると少し開けたところに出た。

 そこは丸い広場になっていて、花々に囲まれるように、ちょうど中央にユニットたたみが敷かれていた。

 私はその場所に吸い寄せられるかのように近づいてユニットたたみの縁に座る。ふわりと香るその青さに、このユニットたたみが匂いの正体だったのだと気付く。

 

「とっても新鮮なイグサの香り……とってもポカポカして暖かい、ねむい、ここでお昼寝したい……。」

 

 たたみの感触と香りにうっとりとしていたら、ふわんぬ、と柔らかな音がした。

 

「……おや、君は? ここには何しに?」

「きゃっ! すみません! あまりのも素敵なイグサの香りに抗えなくて頬ずりしそうになってました!」

「ふふっ。このたたみは一級品だからね。ビンゴのイグサを使っているから色も粒も耐久性も最高品質。敷かれたときの感触だって最高なんだ」

 

 そう言いながらゆったりとした角取(あしど)りで歩いてきたそのひとは、全体が優しげな色合いのクリーム色をした、毛足が少し長めの毛布(イケメン)だった。

 見るだけでわかってしまう。

 このもふみは由緒正しい血筋(もふすじ)だ。

  

(あぁ、なんて高貴なもふみなの……! この手で直接触ってみたい……!)

 

「もしかして君は今年の新入生かな? こんな所でさぼりだなんて、悪い子だね?」

「はぅっ!!」

 

 彼は私の隣に座りユニットたたみを触っていた私の手を、その優しい()でふわりと包むように持ち上げ、自らのもふみに埋める。

 滑らかな肌触り、一本一本の毛は細いのに弾力があり、しなやか。

 驚くほどやわらかい毛並みは暖かで。

 

(なんて、素晴らしいの!)

 

 触れているのは手だけだというのに私の意識を空の彼方へと連れて行きそうな彼のもふみはとても危険。

 

(あぁ、でも足りない、全身でこのもふみを感じたい……。)

 

 目を閉じて心に浮かぶ衝動を抑え込んでいると頬に彼の()が触れた。

 驚いて目を開けると彼の毛布(胸板)が目の前にあった。

 もふんぬ、と私は彼の毛布()につつまれて急激に意識がふわふわになっていく。

 

「悪い子は、こうしてあげよう」

 

 頭の上から彼の優しい声が響いてくるけど、ふわふわになった頭では何も考えられない。

 

「あぁ、君をもっと埋めてしまいたい……。」

 

 彼のその言葉を聞く前に私の意識はふわりと消えてしまい、聞くことがなかった。

 

 あなたはいったい、だれなの?

毛布だよ!!!!!

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