全てが終わった後も物語はまた始まる
今回は比較的早く!
どうぞ今年も、よろしくお願いします。
それはある帝国の物語である。
ある日その国には天災が下った。抗う術はその国にはなかった。
その天災を前に、人々は結束する事は一度もなかった。
その帝国は、小国の集まりから起こった、平和な国だったのかもしれない。
だが、それが故に強い結束でもって、他国に抗おうとしていた。
その国の名残は、年月を経る上え、国力を集結し外難に対抗するという本来の機能を失い、形骸化し国という名の、緩い形のみが残っていた。
その国は、当然の様に天災に抗う術を持たなかった。
秘策とも言えた、たった一つの天の導きも、その帝国の声には応じなかった。
辛うじて用意された、天災への対抗策…集結せんとした英傑も、遂には烏合の衆と化した。
国は乱れ、武によって蹂躙され、賢しい者どもが人々を食い物にした。
人々は散り散りとなり、その心が交わる事もついぞなかった。
神の代弁者は言う。この地は天に見放されたと。
人々は言う、この国に未来はないと。
為政者は言う、それでも最後まで人々の為にありたいと。
国の力は言う…国の為にありたいという気持ちは本心より…されど最後の日は、やはり、己が親類といたいと。
国の為政者、その方策の提案を行う宰相はこう綴る…
愛した国も、すべからく終わる。
希望の星も、天の導きもいらぬというのに…人が信じるのは神ばかり。
国が信じるのは、現実のみ。誰一人として、地図も書かない、旅人はいない。
せめていつかの日、先行きを、旅図を描ける友の一人でもいるのであれば。
…心残りはありはしない、全てを尽くし全うしたのだから。
いや、一つ心残りがあるとすれば、自身とは違う覚悟でもって、この国を憂い、最後までを共にしようとした一人の少女であろうか?
あれは儚すぎた、世界を知らず、己を知らず。
不幸というほかにない。自らの手によって、知らずの内に多くの人の人生を、幸不幸を左右する立場だというに関らず、不思議な事に自室の愛用の机といすの様に奇妙な愛着を感じてしまっている。
不思議な事だ。己にその様な一抹の憐れみがあった事がだ。
自らはこの後死にゆく、その時、あの少女はどうなっているのだろうか?
意外な己の未練を感じつつ、最後の晩餐と、秘蔵のワインを半分飲んだ。
神の血とも言われるワインであれば、多少なりともかごはあるのだろうか?
ほんのわずかに恐怖が和らいだ気がした。
己の中にあった、ほのかな…いつから忘れていた己の感情を、最後のデザートとし、生き残った際に呑む残りのワインを思い起こした。
こればかりは隔絶の物に違いない。これほどのスリルと生きるという奇跡を感じられる一品はないだろう。
次の晩餐が今から楽しみである。食したデザートのアジが、身の内で淡く溶けていく。
最後ばかりの仕事は、残念ながら宰相としての…頭を使った仕事ではない。
己の多少ばかりの自尊心の為に行う、男としての仕事である。
こんなものではない、ここで終わるものではない。
そう信じる為に、その威を示すために…ただの国を思う者として行動したいのである。
望外の、僅かばかりの友と共に、最後の舞踏会を演じに行くのだ。
少々、血気にはやりすぎるのは、今に限っては心地よかった。
それは、とある帝国の没落。陥落、そして崩壊。
そこは天災により人の住める土地でもなければ、唯の生き物が住める土地でもなかった。
一つの物語の終焉。まさにバッドエンド。
そこには何もなかったはずであった。
されど、そこにはすべてが終わったはずの物語には、新しい続編があった。
どうしようもない絶望の中…それらはいた。
現実に抗う為、未来を描く為。
遅れて現れた、一人の勇者と、贄の姫。
全てが終わった後、その廃墟ですらない場所で、もう一つの蛇足的な物語が…
いや、蛇足というにはあまりにも世界を巻き込んだ、希望と絶望の詰まった一つの宿屋が、そこに開店した。
全てが終わった後の物語で、宿を立てた一人の元勇者が、世界に抗う物語。怪演。
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