すべてが終わった後の冒険譚5
久しぶりとなりますが、お納めください
存外人は丈夫なんだな。
意識とともに、そんな益体もない言葉を浮かばせながら、目が覚めた。
何があったのかはわからない。
混濁した頭の中に、一人の男の嘲笑が、いやに沁みついた。
そんな気がした。
「おっ。起きたね、勇者様。君が気絶してしまってから、おおよそ、15分といったところか」
瘦身の男は、そう声を投げかけてきた。
「…だれなんだよてめぇ」
「そういえばそうだね。君を気絶させてしまったことも含め、一応釈明…と説明をさせていただこうか」
そう、薄ら寒い笑みを張り付ける。
「まずは謝罪だ。私も先ほどまで、魔物相手に戦闘していてね。ついつい敵対的な君を見て攻撃してしまったのだよ。すまなかったね」
正直自分には細かいことはわからない。オタクと世間一般的に見られようとも、どこまで行ってもライトユーザー。
特殊な能力も、精神性も。出自も持っていない一般人。
そんな自分からすれば、なんとなく剣と魔法の世界とか、異世界転生とか思いつきそうなものだが、なんというか異質だった。
「おや?以外だ。怒らないんだね。先ほどの様子だと、とても冷静には見えなかったんだけどな」
男は、特に何も感じていないように言葉を続けていく。
「まぁ、こう言っては何だが、君に対して特段の配慮は必要ないかなと考えている…何せもう滅びる国だからね」
そこには愉悦ともとれる、そんな狂気が映っていた。
「まぁ、王族含め、市井のものも、国民も…お疲れさまってとこかな??」
男は語る、時間はそう、10~15分か。
よくまとまった、クソみたいな話だった。
「フフフ、というわけで、魔王来襲につき勇者召喚の儀を執り行ったが勇者は来なかった。
神にも見放された我が国は、こうして滅亡しましたとさ。
ここならギリギリ見えるだろうか?あの、黒い雲の向こう。赤い、目が」
時系列は省かれていたが、話はこうだった。
まずはじめ、この世界特有の、魔法災害。
大魔風から始まった、魔物増殖。
珍しくはあるこの現象ののち、始まったらしい…絶望の始まり、魔物の大移動、モンスターパレードが。
端的に説明すれば、異常な魔力の塊が何らかの原因で形成されてしまう。
いわゆる、台風のように魔力の吹き溜まりが発生するようだ。
そこからは、生物であって生物でない生物…魔法生物、要するに魔物が発生する。
その中でも、魔力の保有値が大きかった場合、知能が高い場合など、人にとって危険度の高い物共…
通称、魔族、魔王が発生するらしい。
特に、魔王は国が波呂ビル要因になるということで、非常に危険だが、その発生にも基本的な流れがあった。
モンスターパレードの時点で、かなり高い確率で、魔王の卵ともいえるものが発生するらしい。
当然卵の危険度は察するものである。ゆえに、本来成長しきる前に排除されるものである。
一方で、今回は特殊な事情があったのだ。
発生地点が、人間の手を離れた未開拓領域。そう、人はそこに踏み入ることができなかったのである。
だが、それだけで神は人を見捨てないというべきか、神のお力により、それに対抗できる力…
勇者というより聖遺物の類を召喚できる様なのだ。
そして、それを扱うのが、勇者である。
ここで、勇者とは必ずしも召喚されるものではない。よって召喚後にはそれに応じた、人員の選定や、導きがある。
しかし、今回に限ってはそれはなかった。
悪辣な物言いを省いたとて、召喚されなかった聖遺物に対する対応が、この男にとって気に入らなかったようだ。
事実だけを言うのであるならば、一つの帝国の崩壊と、無法の横行。
…その対処は、帝国の没落を招いた。
当然それに対しての対処は講じられた…しかし、どうしようもなく帝国離反の速度に残る国の威信は追いつけなかったのである。
結果的に、帝国はいともたやすく割れてしまった。
それに拍車をかけたのは、勇者候補たちであった。
方々から集められた英雄と目される者たちも、結局のところ一個人でしかなかった。
屈強な体を称されていたものは、その力を人に奮い、暴虐を働いた。
その知恵でもって称されたものも、各々の欲を満たす場所として、帝国領土を食い物にするか、早晩未来はないと見捨てらた。
神に仕えるものさえ、この地は見捨てられたとし、土地を守護するものも土地とともに没する覚悟を決める。
そこはすでに国ではなく、国の残骸と、それをかろうじて維持しようとする、家と騎士団のみがそこにあったそうだ。
結局は、目の前の怪物どもの群れに、ない尻尾をまくり、腹を見せ平伏し、ただ逃げるのみであったということだ。
これを失策と感じるのも無理から区はないのであろう。
…すでに国であった場所でしかなかったのだ。語り継ぐのは自称家具としての、エルフの女と、この宰相。
この廃墟においては、自分という勇者…希望さえもがらくたに過ぎなかった。
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