すべてが終わった後の冒険譚4
少しお話進みますように
おそらく、足音の主なのであろう。
残念ながら、場違いなその音に気が付かなかったが故に、その音を聞いた瞬間にあまりの落差に気が抜けそうになった。
間の抜けた、鼻歌。
ふんふん、ふふ~んであろうか。
ロクなリズムでもなく、本当に適当な、この危機的状況で、遊園地でも楽しんでいるかのようだった。
身構える。それしかできなかった。
足も何も動かない。危機感が、恐慌を呼び起こすのも時間の問題。
そういう精神状態だった。
足音が、扉の前に来る。
分厚い煙が、その姿を覆い隠すが、敵、なのだろう。
「…っつ!?だ!誰なんだお前!!」
自分でもなんでそんな声が出せたかわからなかった。
せめてもの威勢は、せいぜい自分を慰めるどころか、委縮させた。
「ふ~ん?まだ生存者が…いやぁ、違うなぁ。侵入者かとも思ったが…」
そうして、煙を超えて男が出てきた。
いわゆるローブなのだろう。
ゲームか何かに出てくる豪奢な装衣。
丸眼鏡をかけた、どこかひょうきんな表情を作った。
冷徹そうな、キツネ目の男が出てくる。
瘦身の、背の高い。ただ不思議とのっぽという言葉が似合わない。
肉食獣めいた気配は、かけらも侮りを感じさせえなかった。
「珍しい服装。そうか、今回の勇者は君になる予定だったのか!滑稽だなぁ。こんな情けなさそうな奴が勇者とは。
それに今更来たところでもなぁ…」
そう、じろりと品定めをしてくる。
反論をしようにも息の詰まる、異様な雰囲気。
「宰相様。いったいどうなされたのでしょうか?」
そう、セナンはその男に尋ねた。
「…!??」
その言葉につい過剰に反応してしまう。
「おや?備品君じゃないか。一応君も、退避命令が出ていたと思うんだが…。
う~ん。忠義に厚いというか、主人思いというか…ものであるし、ただ、わからないだけかね?」
ぶしつけに男は嘲笑う。
「てめぇ!事情は知らないが、人をもの呼ばわりとは!」
頭に血が上った。なぜかはわからなかった。
しかし、その蛮行はすぐに抑えられた。
セナンの手が、すっと目の前に伸びてきた。
静止の合図である。
これはどこに行ってもそんな変わらないのだと、場違いな考えが頭に浮かんだ。
瞬間、頭が弾けた。
「おっと、すまない済まない。備品君が止めているのは見えたんだか、戦闘後で少々気がたっていたようだ。
もう用がないとはいえ、もう少々、勇者様は丁寧に扱ったほうが良かったかな?」
混濁する意識に、そんな声が入ってくる。
遠くから、「宰相様!??」その叫び声とともに、温かさが体を温めた。
……
「ふむ、彼には悪いが、君の話をしようか」
そう男は問いかけた。
少女は何も答えられない。
「肯定も、否定もできないのか。まぁいい。では話をしようか。
まず聞きたいことがある。君はこの皇国。それも王に直接会うことができる備品。
吐いて捨てるものではあるものの、偉大なる皇族の皇室品としての自覚はあるのかな??」
その問いに、彼女は答えられない。
「皇の慈悲をいただき逃げ出したのかな?」
やはり、それは黙して語らない。
「ばかげた話だ。皇も皇でバカだが、なぜこんなチープなおもちゃに変な情けを掛けるのか」
そう男は吐き捨てた。
「なぜ王にそのような陰口を…」
唯一、王に対しての悪評のみに彼女は反応した。
それに反応するように、機嫌がよいかのように、男の口が回りだした。
「当然であろう?忠義に厚かったりするものならともかく、私は良くも悪くも国を憂う者。
皇の一人二人、個人の才能、采配など興味はない。しかし、一つ言えることがあるとすれば、非常事態に対処できるのは現行の皇のみ。
その点で言えば、国に寄せる魔物の対処を怠り、魔物を溢れさせ。
魔王に抗する力もえれずに、国は荒廃。
今やその国家元首に、その旗のものは一族すべて難を逃れんとしている。
なんとも見事な尻のまくり方ではないかな??」
嘲笑はより深くなる。
「その備品ともあろうものは、逃げ延びんとしている皇族には付き従わずに、今こうして動かぬものかのように、
城とその末路を共にしようとしている。
物の価値がわからぬ皇なのか、従える才がない愚皇なのか!
それとも、どうしようもない欠陥品が紛れ込んでいたのか!!
全く情けない話だよ…皇国、皇を神としてまつるような軍事国家としての威信が足りない。
だから、私の様な者が後始末に回らないといけない。
全く、情けないんだよ…」
そこまで言って、男の不満がようやく止まった。
「まぁなんだ。皇国への不満はもういい。いえることはただ一つだ、なぜ今愚図はここにいるのかな?」
その目はいつの間にか、一つの物を見定める段階を超え、どうしようもなく冷たく、その目は価値のないものを見定めていた。
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