すべてが終わった後の冒険譚3
セナン。彼女の案内のままに、道を歩いていく。
ただならぬ様子にかける言葉もなかった。
ただ促されるままに、その足取りに迎合する。
品の良い、豪奢な通路。
確かに、いわゆるお城の雰囲気を感じさせる。しかし、それがむしろ強烈な違和感を与えてきた。
人の気配があまりにもなさすぎる。城、といえばそんなものなのかもしれない。
しかし、廊下に灯がともっておらず、薄暗い。否、ロクに何も見えないような状態である。
正に城に親しんだという、彼女でなければ案内など到底できないんだろう。
何となくそんなことを思った。
「…私は"エルフ"です。守護の象徴。美と、権力を表すとそういわれていました。
しかし、実際にそれが求められる状況に際して、存外にそんなものは何の役にも立たないのですね。
最後の情けだったのかもしれません。
ですが、なぜ王様は私を使おうとはしてくださらなかったのでしょうか…?
それのみを求められ生きていたはずなのに、それすらも求められなかったなら、私は…何のために…」
彼女の涙の理由はわからない。
唯一つ言えることがあるとすれば、あまりにも重すぎる。
正直何一つわからない状態でこの場所に来たのだ。
右も左もわからないひなを重圧ですりつぶそうとでもいうのだろうか?
今の状況、王城という見方も、王家のもの。この言葉から推測したに過ぎない。
ここが、王城に見えるような立派な建物であるのは事実であるが、それはそれとして、明らかに人がいない空間。
何もないと思うほうがどうかしている。
あてにならない自分の勘も、できれば安全な場所に案内してほしいな、という妄想に反して、猛烈にいやな予感。いや、実感というべきものが押し寄せてきていた。
一歩進むごとに、徐々に徐々に目的地を感じる。
それが決していいものではないとわかるにもかかわらず、彼女を振り切ることもできそうにないのだ。
…一切の望みを捨てよ。その言葉を思い出した。
重い足取りが、軽くなる要素も見当たらないまま、ほんのわずかにではあるが、広い道に出る。
その通路の先を見れば、より広そうな道が見える。
彼女の足取りに澱みはない。
広い通路。そこだけに灯がつけられていた。
重い沈黙。奇妙な雰囲気。
地獄の口に、それは見えた。
やがて辿り着いた、その場所に。
「ここがドミュナンテス帝国。その帝城のその謁見の間。
本来であれば、皇族の方々があなたを迎えるはずでした。
ああ、そのように緊張しなくてもよろしいですよ。
帝国とはいえ、非常に貧乏な弱小国家の寄り合い所帯。
それでも、生きる気力のみはどこにも負けないとそう謳われていました」
その自嘲は誰にあてたものであろうか?
多少なりともいい男であれば、慰めでもかけられたのだろうか?
この異常事態に中途半端になれてきたせいか、あまりにも余分な考えが頭に浮かんできていた。
あるいは知らずに浮かれていたのかもしれない。
さんざんに勘に、自分自身に警告を受けていたにもかかわらず。
急激に音が膨らんだ。
否、、爆発音なのだろう。
しかし、その実態としては、爆発というより爆縮。
一般人が感じたことのある範囲であれば、車が発進した時に感じるG。
それが、引っ張るかのように体を押している。その表現が適切かもしれない。
唯一つ言えることがあるとすれば、普通そんなものは扉越しに感じられるものではないということである。
そして、それはあまりにも強烈で、なぜ自分がその場で立てているのかわからないものであった。
あっけなく扉は破られる。
不思議とそこから何かが入ってくるということはなかった。
唯一起こったこととしては、空間がすすけ、そこが非日常。
戦場ということを否応なく理解させられたということだけだった。
どこからか足音が聞こえた気がする。
命の危険に際し、限界を越した感覚が危険に敏感に反応する。
無関係はありえない。爆発の主が刻一刻と迫ってくる。
その音を、運命の時計の針がコツコツと進んでいくのをを感じた。
「…もう、終わってしまったのですね」
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