すべてが終わった後の冒険譚2
何とも言えない、
不思議な感覚。
まるで水でも潜る様に、よくわからない浮遊感が体を包んでいた。
胎児のような、奇妙な安心感。
そんな、安心を超えて体が引っ張られる。
深い深い眠りの中から、宙から地に落ちるように意識が急激に引き戻される。
止まっていた息が急激に戻る。
「ぷ、ぶっっはぁっ」
ゴホゴホとせき込み、頭の痛みに悶える。
「えっ??大丈夫ですか…!?」
ところどころかすれる、女の声が聞こえる。
いや、かすれてはいないのだろう。
おぼれたせいで、ロクに頭が動いていないのだ。
脳震盪でも起きたみたいに、頭が白黒に点滅する。
頭に、音でないノイズがこだまする。
かろうじて感じる体の感覚が、背中?を摺られているのがいるのがわかる…。
どの程度そうしていたのだろうか?
まだまだ頭に痛みは残るが、落ち着いてきた。
「落ち着いたようですね」
優し気な、自分の周りでは聞いたことのないような涼やか、そんな言葉が似合う、声が聞こえてきた。
「こちらも召喚した手前、来て頂けるとは判っていましたが、まさかこのような形になってしまうとは…」
意味が分からず、その声の主のほうをじっと見てしまう。
そこには絶世の美女。
その者がいた。
「あら…?勇者様、どうなされましたか??もしかして…見惚れらしていたとか?」
普通であれば、嫌みとしか感じられないその言葉が、今は嫌みではなく、真実のみ。
あるいは、ただの確認という意志だけを感じた。
「ふふ…きっと、エルフを初めて見たのですね。
この容姿だけは、私にとって長所ですからね…」
どこか影を含んだ笑顔。
明らかに不自然な、初対面の人間には話さないであろう、はたはたおかしな話の展開の仕方。
「こちらだけが一方的に話しかけてすいません。勇者様、お加減はいかかですか?」
その言葉にやっと、自分の状態を思い出す。
「…そうだ!今の俺のこの状況!!ここはどこで、あんたはいったい誰なんだ!?」
自信をエルフといったその美女が、さみし気にその口から悲壮を吐き出す。
「ここは現、ドミュナンテス帝国。いま亡国の危機に、立ち向かうすべもなく、まさに滅びを迎えんとした地。
その中で、王族のそば付きとして、最後の務めを。この王城と最後をともにしようとしている、王室の備品。
セナン、と申します」
そう彼女は、目じりを光らせた。
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