すべてが終わった後の冒険譚1
「はぁ、めんどうくさ」
会社の帰り道。
妙に長くなってしまった残業を思い出して気が滅入る。
「まだ終わりそうにないし、残業続くよな、コレ」
新入社員の頃のやる気はいずこへやら。
あの頃と大して変わりない作業内容に、自らの進展のなさ。
ある種のあきらめがよけいに自らの体を地面へと押し付けていた。
家にたどり着き、冷蔵庫を見る。
「やっぱり買い忘れか…」
冷蔵庫の中を見ると、そこには肉類の影も、野菜の影も。生鮮食品の影も形もなかった。
「はぁ、買いに行くしかないかぁ」
このストレスを感じたまま、何かをしようとは考えられなかった。
ステーキというほどでもないが、安い肉でも、200gも食えば、多少は気が晴れるものだ。
思い出したように明日のコメを炊き、炊き始めに服を着替える。
すっきりとはしないが、ひきずらない、切り替えの儀。
適当なジャージに着替え、今だけは若い身空。
大学は出ていないのだから、年齢的には大学生気分でも別にいいだろう。
たまに見る、ライブ配信者の幻影を見つつ、いつかは、いつかはと夢想する。
スーパーへの道をおぼろげに思い出しつつ、何よりも積みゲーを思い出して、楽しみなんだか鬱なんだか…
ままならない思いをたどっているうちにいつの間にか、スーパーに到着している。
肉に申し訳程度のスーパーの千切りキャベツ。
する時間はないが、趣味に捧げる金のため、ちょっとした節約である。
だからこそ、いやにフラストレーションもたまるのだが。
帰り道もパッとしない。昔はゲームも、アニメも、漫画も。
普通の一般人というよりは、オタクとして生活をしていたものの、今ではそんなものも、自らを縛る鎖に思えた。
ひとり身さみしいも、どこから覚えた言葉やら。
寒空に、たった一人という孤独を感じる。
夜はいつだって、寒さを伴うのである。
歩く道、不思議と行きと比べ、時間が長く感じる。
先にある、自分が渡る交差点を求め、ふと隣を見る。
目を疑うことに、白く薄く輝いて見えるのである。
「はぁっ?!」
それは一瞬の出来事である。黒、あるいはひどく濃い灰色に見えるはずの道路が、夜灯に照らされ、その明るさと比較にならないほど、一切の温かみを持たない白い光で、輝いていたので。
まるで、道路の下から光が貫通したかのような。
しかしそんな驚きもつかの間、そこには本当に何もなかったかのように唯の道路が横たわっていた。
驚きに頭が呆然とする。何が起きたのか、何一つわからなかった。
「UFOでも埋まってたのかよ…」
超常現象の代表がぱっと思いつき、そこで思考は空回りする。
ただ残念なことに、疲れた人間はそんな不思議現象をそれはそれとして、切り分けられるのである。
あるいは現実逃避である。これに関しては、どちらが現実逃避なのか分かったものではないのだが。
疲れているんだと、目を先にやる。
思ったよりも近い、交差点。記憶の通りであればすでにわたっていそうなそんな距離。
次は変なことが起きないように、しっかりと位置を確認しながら歩いていく。
次はちゃんとたどり着けた。あるいは日常が。
…非日常に変わる予感があった。
わくわくとか、そんなものは一切なかった。
どうしようもないほどに、漠然とした恐怖が漂っていた。
今よりはましな生活とかそんなものよりも、どうしようもないほどに普通に、休憩が欲しいのだ。
…これ以上疲れたくはないのだ…。
やはり、いやな予感は強い。
それでも、帰る為には…道を行くほかないのである。
道を行き交差点へと差し掛かる。
そうして、横断歩道に足を延ばす。
光ったりはしなかった。
ただ触れた先から力が抜けるように…意識がすっと暗闇に落ちていく。
最後の淡い期待すらも裏切られ、ふざけた非日常に、あるいは新しい日常に堕ちていった。
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