第4話 復讐心を胸に
おはよう。こんにちは。こんばんは。
投稿が遅くなってしまいすみません。
この訳の分からない場所に来て、どれ程経過したのかまるで分らない。
ただいくつか分かった事は、此処は世界と世界の間にあるとされる次元の境界と言われる場所。それが最も考えられる・・・・と言う事を教わった。
あろう事か敵の親玉から。
それと、体感的には数日経過している気でいるが、此処に来た時の感情がそのまま変動することなく心の中で蠢いている。
感情は本来、浮き沈みするもので、怒りや悲しみ、喜びなども当然変動する。幸福感も復讐心もそれは変わらない。変動する感情が常に一定・・・幸福感の様な良い感情ならば問題はないが、復讐心の様な悪い感情が常にあると言うのは、自分自身が自覚していてもかなり精神に負荷がかかっている。
「ユルセナイカ?」
敵の親玉の発言に「当然だろう」と答えると、その意見には同意だなと言った表情をしていたと思う・・・。敵の親玉・・・影混人に表情らしい顔は持ち合わせていない。一応、尖兵級と特兵級と同じく目と口はついているが、鼻や耳はない。要塞級には、顔と言う概念もなかった。
けれど、何となくそう読み取れた。
「アレハ、ワレラヲ、ウラギッタ」
人の声には聞こえない声。片言ながらも発現するその回数。もし、最初の出会いが対話で済んでいたのであれば、これ程の被害にはならなかったのではないか・・・今となってはもう遅い。
「アレガ、インガムト、テヲクム、ウラギリカンガエテイルトハ」
インガム? 手を組むと言うのはファビオの事だろう。インガムがファビオを指すのだとしたら、種族なのか性別なのか分からないが我々の事を示しているのだと推測した。
「インガム・・・オマエラハ、ジンルイト、ヨンデイルナ」
やはり人類の事を人類と呼んでいるようだ。手を組むことは過去になかったかのような発言、影混人の親玉であれば、人類の裏切り者である人物が影混人側についた事は知っていたはず。
親玉も部下になるのか手下なのかに裏切られている。復讐心もあるが頭部だけとなっているため何もすることはできない。時間が停止している空間だからこそ、生きているが、時間が動いている場所なら既に死を迎えていた。
それは、俺も同じなのだが・・・。
「オマエ、アレラニ、フクシュウシタイカ?」
突然の問いに俺は肯定する。
例え燃えカスの様な命でも、最後の最後まで抗いたい。アレを倒すために半ば散っていた、ウィリアム元帥やアドラー元帥たち、上官たちに同卒のアウレリオ・ワットン軍曹、父親のギリアム・グレイス中将、国を支えたエドワイズ大統領、他にも間接的にだが、ローレンス・ナファリス少尉や部下だったナンツ伍長にジャクソン上等兵やマイルズ一等兵たち。おそらく殺されている可能性のあるレナーデント中将やバラン中佐、抵抗していた同僚たちに住民たち。皆の為にも・・・。
「ナラバ、チカラヲヤロウ」
力・・・一体、何を言っているのだろう。疑うような眼を向けると、影混人の頭部が黒く光る粒の集合体に変わる。
身体を動かせない状況なのに、何故その様な事が出来るのか不明。けれど、間違いなく良い事ではないと悟る。
「お前の力は借りない」
黒く光る粒の集合体は、形を変えながら潰れた右目の内部に侵入する。―――激痛なんて生易しい痛みではない。死ぬような痛みに気を失い、痛みで覚醒、痛みで失神、また覚醒を繰り返す地獄の様な悪循環。幸せは一瞬で、苦痛等は同じ時間でも倍以上の対韓時間に感じられるが、この痛みは永遠とも思える時間が経過したように感じた。
そして、気を失ったのを最後に、その空間で漂うヴォイド。
そこには影混人の親玉だった頭部は、消失していた。
影混人の親玉から流れ込んできた未知なる力がこの空間に作用したのか、それとも偶然なのか・・・止まっていた空間が動き始めた。まるでどこかに流されるようにヴォイドの身体は、空間の奥へと姿を消した。
大地に雪が積もり始め、所々に積雪も見られる。遥か彼方の北の山脈は、白く化粧をされたように白銀の山へと姿を変えていた。
「ううぅ・・・・」
地面に横たわる人物。寒さのあまり脳が少しずつ覚醒してきた。
「いっ―――ん? 此処は何処だ?」
全身に倦怠感と鈍痛、そしてこんな場所で倒れていたからだろうが、身体が硬直するように冷え切っていた。
見たことがない風景・・・それどころか、最後に覚えている風景は、ファビオによって謎の空間に入れられてしまった時のもの。もっと歪な感じの場所で、身体を動かすことも出来ない時が止まった空間。
なのに、今はどうだろう・・・。
身体を動かすことも出来るし、風を感じることも出来る。周囲を見ても風で靡く草木。空はかなりどんよりしているが、雲が流れている。時間が流れていると言う事。
「あの場所から出られたのか?」
どうやって出たのか、何時出たのか分からない事ばかりの状況でも、あの開放的な空間の様で閉鎖的な空間から出られて事にまずは喜ぶべきなのだろう。そんな気分には一切なれないが・・・。
俺の中にはファビオに対しての復讐心で漲っている。けれど、此処がどこなのか分からない以上、まずはそこから解決しなければならなかった。
ふと地面に転がる一本の剣。父ギリアム・グレイス中将が死ぬ間際に託してきた双剣。最後の戦闘の時に対となる一本は砕かれてしまったが、もう一本は如何やら手元に残ってくれたようだ。
残された父親の形見を大切にしたいと言う気持ちはあったが、この状況下で使わないと言う選択肢はない。
起き上がった時に違和感を覚える。
身体の重心がやや右側に傾くのだ。誤差の範囲と言われれば、そうとも言える僅かな差をヴォイドは気になった。右腕は失われたはずだから左側に重心が傾く錯覚であれば気にも留めない。なのに、右腕がない方に傾く・・・それは、無意識にバランスを取ろうとして過剰に右側に重心を寄せていなければそういう事にはならない。
でも、ヴォイドからすれば、右側の方が重いのだ。
潰れた右目も何かが可笑しい。
視線を落とし、無くなったはずの右腕を見ると・・・そこにはファビオと同じ感じの黒い腕が生えていた。明らかに自分の腕ではないとわかるソレ。
ただ、ファビオに比べると凶暴そうな感じの手の形をしていた。すべてを切り裂くような爪、若干禍々しさを兼ね備えた前腕と二の腕部分、赤く光る模様。
手だけだと思っていたが、失われた右目の視力がある事にも驚く。流石に右目がどうなっているのかまでは自分の目では確認できなかった。けれど、右腕がこの様な状態なのだから右目も普通ではない事は察する事が出来た。
そしてその原因は、影混人の親玉が強制的に渡してきた力。本当に譲渡しただけなのか、それとも浸食されているのか分からない。今はそうでもないが、あまり使いすぎると精神を侵されいずれ影混人の様になるのではと言う懸念が頭をよぎる。
そんな考えても答えが出ない事を思考していると、どこからか悲鳴のような声が聞こえた。
ッ!?
此処が何処かなんてわからない。右目と右腕がどうなっているのかも分からない・・・けれど、悲鳴が聞こえたのであれば助けないと言う選択肢はない。
ヴォイドは、悲鳴が聞こえた方へと走る。
今まで以上に速く走れる。余りの早さに最高速に達する前に駆けつける事が出来た。女性が・・・大型なの何かに襲われている。頭から日本の角を生やし、全身を長い毛に覆われた生物。自分よりも三倍以上大きい生物に対して、臆することなく接近して女性の前に立ちふさがる。
「今のうちに」
「は、はい」
女性に言葉が通じるのかと言う疑問はあったものの、声を掛けてみたところ普通に通じたので安堵する。ひょっとしたら、見知ら土地であったとしても、此処は自分たちが居た場所に近いのではないかと脳裏に過る。
左手で父の形見となった双剣の片割れを抜剣し、生物の首を斬りつける。まるで地面を斬りつけた時の様な重い衝撃が左手から全身に伝わる。
そして、もう一つの事実として、ヴォイドの放った斬撃は、生物の長毛に阻まれて傷をつける事が出来なかったのだ。
「グモオオォォ」
生物の雄叫びで、空気がビリビリと震える。生物の吐いた息の匂いが生物の腐敗臭がして、その臭いに顔が歪む。
再度、攻撃を行うもやはり斬撃はその長毛に防がれてしまった。力で押され始めるので、つい右手が出てしまった。
「舐めるなッ!!」
押し込まれている時に身体を捻って生物の側面から打撃を与える。全身全霊の突き生物が盛大に吹き飛ぶ。女性は後方にあった岩陰に身を潜めていたが、拳を突き出して吹き飛ばした瞬間驚いた表情を浮かべていた。
斬撃以上の攻撃をたたき出す黒く異様な右腕。攻撃が有効と判断したヴォイドは、不本意ながらその右腕を使って生物に対し、攻撃を再開した。
吹き飛んでいる生物に追撃を掛ける。横たわっている生物も自身が吹き飛ばされるとは思っていなかったのか、更に雄叫び挙げる。
起こっているとも感じる程の雄叫びだが、すでにヴォイドは動いており、追撃として二連打を身体の側面に叩き込んだ。三発も攻撃を入れたのに未だに絶命する様子はない。それどころか、二発の打撃にダメージは受けているようだが、吹き飛ぶ事はなく耐えきっている。
ッ!!
何故かわからないが、それよりも威力の高い攻撃が可能だと瞬時に理解した。そして・・・。
「武闘連技『天黒斬爪』」
拳による打撃ではなく、鋭利な指となっている爪撃。黒い四つの爪撃がその生物に目掛けて飛来した。
赤き血が大量に噴き出る。
「ひっ―――」
後ろの方で別の意味の悲鳴が聞こえる。それほど現在起こっている事が異常なのだと言う事だ。爪撃を受けた生物は、そのまま深々と切裂いた傷が致命傷になり絶命した。
「ふうぅ――」
予想以上に手間取り、漸く緊張の糸が切れる。さてこれからどうしたものかと考え込むが、既に会話してしまっている以上、あまり待たせるわけにもいかない。一応、本当に死んでいるのかだけ確認して、彼女に話しかける。
「もう倒したから隠れなくて良い」
あれ? こんなに会話するのが下手だったかなと言うぐらい冷たい感じの問いかけになってしまった。
女性は、未だに顔を青くしたまま、動かない。
その視線は、倒した生物の死骸とこの右腕を交互に見ていた。
「ま、魔族ッ!?」
マゾク・・・? 何の事だろうと考えるが、更に怯えた口調で口を開く。
「人族の敵のはずの・・・魔族がどうして、こっち来ないでっ!!」
人族と言うのは、わかる・・・その敵と言う事は、影混人の仲間だと思われたのかもしれない。この辺りでも影混人が出るのかもしれないが、影混人ではなく、マゾクと称されているのだろう。その言葉は初耳なので、かなり遠くに飛ばされたのかもしれない。戻るまでにどれ程かかるのか分かったものではない。
兎に角、彼女の誤解を解かなければと声を掛ける。
「すまない。俺はマゾクではなく、貴方と同じ人族です。この腕は気がついたらこの様な状態になっていたのだが、安心してほしい」
最初こそ話しかけても拒絶されていたが、少しずつ話が通じるようになって、如何にか誤解を解く事に成功した。まあ、離れた距離で落ち着いて話をしていく内に向こうも冷静になって話を聞いてくれたからと言うのも大きいだろう。
そして、この腕と眼の事は、のろいと言うものに侵されてこうなったのではないかと話しが勝手に進んでいった。それと先ほどのマゾクと言うのは、影混人とは異なるようで、人族を押そうと言う共通点以外は全く異なる生命体らしい。
影混人と同一の脅威・・・魔族。そのような種族が居る事にも驚いたが、自分が知っている知識と彼女の知識が全く異なる事にも驚いた。
影混人を知らないと言う事。逆に魔族やエルフ、ドワーフと言う亜人族、獣と人族が合わさったような種族の獣人族。どれも知らない種族に驚く、更に追い打ちをかけたのが、魔法と言う見知らぬ戦闘技術があると言う事。助けた女性は、戦う魔法は使えないと言っていたが、生活魔法と言う魔法が使えるようで見せてもらったが、身体を触れずに身なりを綺麗にしてくれた。
生物の返り血が、最初からなかったかの様に消えてしまった。また別の魔法を使ったようで、今度は血の匂いも消えてしまった。
「す、すごい・・・・」
直接魔法を目にして感動するヴォイド。生物の返り血など洗わなければ取れないし、時間が経過する毎に汚れが落ちにくくなる。臭いも同じだ。
「あっ!! そうだ。すまない・・・此処が・・・あれ?」
ヴォイドは、場所を尋ねようとした瞬間、視界が真っ暗になりその場で倒れてしまった。積雪がクッションとなり、彼自身が倒れた衝撃で怪我をする事はなかったが、そのまま気を失ってしまった。
彼女は、助けてもらった恩と怪しい腕と目を持つ彼にどうして良いのか分からず慌てふためくが、この寒さで寝かしていては凍死する事は間違えないので、怪しい腕とは反対側の腕を手に取り、支えるようにして村まで戻った。
女性一人だけで、気を失っている男性の移動は一苦労な為、途中に何度か一緒に転んでしまったり、怪しい腕や足を引きずる形になってしまい、来ていた服がボロボロになってしまった。元々、ボロボロだったので、今更感はある。
村に入ると、女性を知る者たちが気づきやって来た。
「アーリャ、その男・・・どうしただ?」
村の外でスノーベアに襲われた所を助けてくれたの。ダンさんにフォードさん、この人を家まで連れて行くの手伝ってくれない?」
「ああ、わかっただ・・・って、うわッ!? なんじゃこの腕はッ!!」
「私にもわからない。魔族ではないって言っていたけど・・・」
「こんな奴村さ入れて良いんか?」
アーリャと呼ばれた女性は、割と普通に話すのに対して、ダンにフォードと呼ばれた中年の男性たちは少々なまったイントネーションで話していた。
「村長には後で説明しておくから、この人・・・たぶん大丈夫だと思う?」
そこで疑問形になってしまうのは、女性も彼の事を碌に知らないからで、仕方がない事だろう。
家に運んでいたのだが、アーリャは一人暮らしで、年齢も二十代前半の未婚。この世界では珍しく晩婚だが、彼女はつい先月婚約者の彼を失ったばかり。今日は月命日で墓参りにでてその帰り道の出来事だったのだ。
婚約者は三つ先の町からこの村に移住してきた青年で、冒険者として活動していた所、この村に立ち寄りアーリャに一目惚れして、アタックを四年間も続けてきた。漸く結ばれるかと思った矢先に村の近くでドラモスと言う猛牛系の魔物の目撃情報があり、討伐の際に命を落としたのだ。村には行かせないと一人で果敢に挑み結果相打ちと言う悲惨な末路となった。
流石に女性の一人暮らしの家に連れ込むのは良くないとダンが申し出て、彼の家に目的地を変更した。
――――憎い・・・・・憎い。
あいつは、僕を――――俺を・・・・・裏切った。
・・・仲間が死んだ・・・・・友が死んだ・・・・親しい人が死んだ。
憎イ・・・・部下ガ・・・・裏切ッタ。裏切ッテ、余ヲ死ニ至ラシメタ・・・・。
これは・・・・俺の感情? 何かが混ざっている・・・・。
彼奴ハ、コノ手デ殺ス――――。
共ニ復讐ヲ叶エヨウゾ・・・・ヴォイドヨ――――。
僕は皆を助ける――――俺は奴に復讐する――――僕は・・・・俺は・・・・。
暗闇の中で渦巻く色々な負の感情が、俺の・・・・・中で渦巻き、そして目覚める。
寝起きは最悪だ・・・・・・。気分が悪い何てものではない。これまでの中でもトップクラスに入る程の最悪の気分。鈍った思考を如何にか働かせて、今の状況を思い出す。
「・・・・そう言えば、謎の生物に襲われている人を助けて・・・・どうしたんだ?」
知らない天井で目を覚まし、周囲を見渡しても見覚えのない所にいて、いまいち状況が理解できなかった。
「お前・・・酷く魘されておったが大丈夫か?」
ッ!?
突然背後から話しかけられたヴォイドは慌てて振り向くと、一人の老婆が濡れた布を容器の中に入った液体に浸して濡らしている所だった。
「あ、あの・・・此処は何処ですか?」
老婆に場所を聞いた時に、老婆の後ろに在った引き戸が開く。
「何だ? 起きてたんだな? 此処さ、サト村言う所じゃ」
サト村・・・・聞き覚えの無い所だった。やはりあれは夢ではなかったのかと落ち込む。ヴォイドとしては、親友に裏切られた事、仲間の多くが死んでしまった事や親しい者も死んでしまった事・・・右腕に敵の親玉の一部が侵食して化物の様な腕になっている事。これらすべてが夢であってほしいと一つの希望を胸に抱いていた・・・・残念ながら崩れ去ってしまったが・・・。
「ワシはダン。こっちはお袋のガガだ」
「そうですか・・・ダンさん、ガガさんお世話になりました」
そこから、今に至る経緯をダンから聞くヴォイドであった。
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