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第3話 プロローグ③

おはよう。こんにちは。こんばんは。

さて、過去の出来事についての内容になります。

 超巨大な影混人(シャドークリーチャー)との戦闘が開始して僅か三十分足らずで、既に半数の者たちが命を落とした。エドワイズ大統領は、戦闘後暫くして軍医が懸命に治療したにもかかわらず、命を落としてしまった。死因は大量出血による失血死。その死を悲しむ余裕などなく元帥たちは己が武器を振るい超巨大な影混人(シャドークリーチャー)に挑んでいた。


 途中から特兵(ボサノヴァ)級や尖兵(オルタナ)級の影混人(シャドークリーチャー)が乱入してきて、戦場は大混乱に見舞われた。


「ヴォイド。右三の方角に尖兵(オルタナ)級だ」


 右三の方角は、軍内での方向を指す。時間で言う所の三時の方角だ。この世界の時計は十二時間表記ではなく二十四時間表記なので、三の方角が三時を示すわけではない。もし、この世界の時計の表記で示すならば右六と言う言い方が正しい。


 単純に十二分割と二十四分割では、十二分割の方が見やすいと言うだけの事。二十四分割もして、突然「二十時の方角に敵四」と言われても一瞬戸惑ってしまう。


 ヴォイドの父親で、上官のギリアム・グレイス中将の声で、ヴォイドは速やかに右に居た影混人(シャドークリーチャー)の攻撃を受け流して、そのまま反撃(カウンター)で頭部を両断する。


「ヴォイドッ!!」


 ギリアムは更に名前を呼んだ。


 それが何を指すのか(ヴォイド)自身も分かっており、即座に双剣の面の部分を交差(クロス)させて足場を作る。ギリアムはその足場に着地し、合図と共にヴォイドに打ち上げられる。


 ギリアムもヴォイド同様に双剣の使い手で、ヴォイドの師でもある。ヴォイド以上の剣技で超巨大な影混人(シャドークリーチャー)の触手モドキを薙ぎ払い本体に向けて駆け上がる。遥か上空の本体の近くでは、五人の元帥が激戦を繰り広げていた。


 そこに加速してきたギリアム・グレイス中将と遅れてヴォイド・グレイス大尉。アウレリオ・ワットン軍曹、他に大将が一人、中佐が二人加わり、合計で十一人が本体の近くで戦闘を開始する。


「武闘連技『大地割(だいちわ)り』」


「武闘連技『(ジャッジメント・)(インパクト)き』」


「武闘連技『真紅(クリムゾン・)乱弾(ラムダイバー)』」


 アドラー元帥、アンデルクラフマー元帥、バングハット元帥が立て続けに大技を繰り出して超強大な影混人(シャドークリーチャー)の本体を追い詰める。他の元帥や軍人達も同様に攻撃を繰り出して、徐々に力を削いで行った。


 触手モドキも大半が失われた状態になり、いよいよと言う所でヴォイドとバングハット元帥、大将と中佐の一人が同時に攻撃を仕掛ける。


「これで・・・ッ!?」


 だが四人の攻撃は突如、本体から放たれる未知の攻撃を諸に直撃した。


 本体の攻撃であれば、初動で対処可能だったのだが、本体内部から放たれた感じの攻撃は、本体が壁となってその攻撃を予測できなかったのだ。本体もその攻撃でかなりのダメージを負ったようで、大量の黒い血を噴き出していた。


 ヴォイドは、四人の中でも一番後ろに居たため、防御が間に合った。間に合ったが双剣はその攻撃に耐えきれず砕けてしまい、その破片が身体に突き刺さるだけで済んだ。大将は一番前に居たため腹部を両断され、上半身と下半身に分断される。彼は、恐らく何が起こったのか認識をする前に絶命した。


 中佐は、位置的に攻撃の少し上に居たため、両膝から下を切断されるが、辛うじて死ぬことはなかった。寧ろ、この場で戦闘に加われない状況は、必然的に死と同じ意味になる。絶命した大将より、戦線を強制的に離脱する事になった中佐の方がこの場合、悲惨と言えるだろう。


 バングハット元帥も籠手(ガントレット)で飛来してきた攻撃に対抗するが、左腕ごと持って行かれた。


「なっ・・・なんだッ!?」


「ヴォイドーッ!!」


「バングハットっ!?」


 地面に如何にか着地したバングハット元帥とヴォイド。中佐は両足を失ってしまったので地面に衝突した。転落死は免れたようだが、幸か不幸か分からない。大将だったものは、無残な姿で転がっていた。


「ナ、ナゼダ・・・・」


 ッ!?


 超巨大な影混人(シャドークリーチャー)が片言でも言葉を発した。いや、それらしい報告は過去にも数回報告されている。しかし、対話を試みても音沙汰がなかったので、何かの音が声の様に聞こえたのではないかと推測されていたのだ。


 超巨大な影混人(シャドークリーチャー)の内部から更に人の姿をした何かが姿を現す。何かではない、僕はその存在を知っていた・・・でも、どうしてそこにいるのか、その身体はどうしたのか・・・最後に会った時とは明らかに違う姿をしていた。


「ど、どうして・・・どうして、そこに居るんだッ!! ファビオッ!!」


 そう、超強大な影混人(シャドークリーチャー)の内部から出てきたのは、ヴォイド・グレイスの軍人学校時代の同僚ファビオ・アルバレス大尉だった。しかし、彼は最前線での撤退の際にヴォイドの手伝いで、追撃してくる影混人(シャドークリーチャー)の群れを分断させた時に消息が分からなくなっていた。


「ん? ああ、ヴォイドか・・・生きていたんだな」


 全身の皮膚が真っ黒になり、髪も銀色になっている。上半身裸の状態で、体つきは前と変わらない感じだが、真っ黒の肌に黄色い線が模様の様に全身を巡っている。黄色いその模様は薄っすら光っているので、余計に際立って目立つ。


 そして、彼から放たれた言葉は、生きていた事を喜んでいるようには聞こえなかった。


「知り合いか?」


 ディグ元帥の言葉に、アウレリオが答える。


「彼の名前はファビオ・アルバレス。階級は大尉で、ヴォイドと自分の同期でもあります」


「軍人か・・・でも、様子がおかしいが?」


 ウィリアム元帥は、異様な姿の彼を見て、武器を構える。味方とはとても思えない異質さを感じ取ったのだ。


「ファビオ、何をしている?」


「ヴォイドだけだなく、アウレリオもいるのか・・・まあいい。少し待ってろ」


 良く知った二人だけでなく、彼の事を知らない者たちも彼が正常ではないとわかる。


「キサマ・・・ウラギルノカ?」


 超強大な影混人(シャドークリーチャー)は、怒りの様な口調で話すが、声に力は感じられない。


「裏切る? 違うな。俺と此奴は新しい世界を目指す・・・・それには、人類は愚か、お前の存在も不要なんだよ」


 そう言うと、禍々しい剣を一閃する。大気が震え、空の景色が分断された様な錯覚を覚える程の剣閃。超強大な影混人(シャドークリーチャー)は、その無作為な攻撃を受けて本体の頭部らしき場所が刎ね飛ばされた。


 一瞬だった。


 元帥を含めた面々が全力で戦闘をして、如何にか追い詰めた敵を一瞬で屠る。その場に居た者は全員、絶句した。


「キ、サマ―――オボエテ、オレ―――」


「首だけになっても絶命しないのか・・・つくづく面倒な奴だ・・・『次元(ディメンション・)境界(バウンダリー)』」


 禍々しい剣に紫色のオーラを纏わせ、何もない空を切り裂く。すると突如、夜の空の様に真っ暗な物が出現する。


 そこに、超強大な影混人(シャドークリーチャー)の頭部を放り投げると、奇妙な現象が次第に小さくなって消えてしまった。


「これで、後は人類だけだな。従順な者は駒にして、邪魔する者は排除する」


「あれは新たな脅威だな。バングハットやれるか?」


 片腕を失ったバングハット元帥だが、それでもまだ前線で戦えると戦う姿勢を見せる。


「グラヴィスは、動けるか?」


 ウィリアム元帥は両足を切断された中佐に声を掛ける。


「ま、まだやれ――――」


 腕の力で立ち上がろうとする中佐だったが、そこにファビオが降り立ち、背後から頭部をその剣で貫いた。


 ッ!?


「うるさい。お前はもう必要ない」


 もう一人の中佐とアウレリオがその光景を見て逆上し、ファビオに向かって突撃する。元帥たちは二人の行動を止めようとするが、それよりも早くファビオが動く。


 ただ高速で通り過ぎただけ、傍から見ればそう見えた動きだったが、実際は・・・。中佐だった肉片とアウレリオだった肉片が周囲に飛び散る。


 次に標的になったのは満身創痍の僕だ。


 手元の武器は、刃の部分が粉砕されて、わずかに残る刃も小指程度しか残っていない。そんな程度では武器にもなりはしない。


 中佐たちを殺した攻撃は認識すらできなかったのだ。今の僕では何の力にもなれない。


 目の前に現れた瞬間・・・駄目だと思っていたが、その機会は訪れなかった。ヴォイドを庇う様に彼の父親であるギリアム・グレイス中将が仁王立ちしていた。ただ、胸からは剣が生えている様に姿を見せていた。剣からは赤い血が滴っている。


「父上ッ!?」


「ヴォイド、お前を失わせるわけにはいかない・・・俺はもう戦えない。これをお前に」


 そう言って、ギリアムの愛用の双剣を渡される。胸から生えていたはずの剣は、既にそこにはなく。ファビオも元帥たちと戦闘を行っていた。五人がかりなのに元帥たちの方が押されていた。


「でも・・・」


「お前には俺以上の秘められた実力がある。これまで教えてきた事を活かせ」


 ギリアム・グレイス中将は、そう言い残して深い眠りに落ちた。僕は、父から受け継いだ双剣を手に立ち上がる。友が死に、同僚が死に、父親が死に、そして守る者たちが死んで行く。身体が傷だらけで動けないなど言ってはいられない。圧倒的な実力差があろうと・・・。


「武闘連技『大地割(だいちわ)り』」


 アドラー元帥の両刃大剣(バスターソード)がファビオを攻撃するが、その攻撃が当たる事はなく。地面を切り裂いて終わる。すぐに姿勢を低くすると、アドラー元帥の背後・・ファビオから死角の位置にディグ元帥の戦斧(バトルアックス)がファビオを追撃する。


 更にファビオの背後からウィリアム元帥の斧槍(ハルバード)が迫っていた。


「武闘連技『我天(がてん)強行(きょうこう)』」


「武闘連技『騒嵐虎爪円舞(エクストリーム・サークル・ロンド)』」


 ファビオは、ディグ元帥の戦斧(バトルアックス)を剣で受け止め、ウィリアム元帥の斧槍(ハルバード)を逆の手で掴んだ。あり得ない様な離れ業だが、元帥五人がかりで押される相手。この程度の事で驚いている暇はない。


 アドラー元帥は姿勢を下げた状態から、体術の蹴りを入れようとするが、その前にアドラー元帥を含めた三人の元帥がファビオの手によって吹き飛ばされた。無数の斬撃が元帥たちを襲う。


 後退を余儀なくされたアドラー元帥たちに変わり、アンデルクラフマー元帥と片腕となったバングハット元帥が入れ替わるようにファビオに攻撃を仕掛ける。


「うざったい連中だッ!!」


 アンデルクラフマー元帥の攻撃を受け流し、バングハット元帥の攻撃は紙一重で躱す。そして、躱した拍子にバングハット元帥へ膝蹴りを食らわせる。


 腹部に重い攻撃を食らったバングハット元帥は、口から血を吐く。ただでさえ、四人の足を引っ張っていると自覚している彼は、自身の身体を使って動きを封じようと抱きつく。一秒未満のその瞬間をウィリアム元帥が突貫する。


「武闘連技『激嵐牙突(トルネード・ストライク)』」


 ファビオの心臓部分を貫こうと攻撃をしたが、一瞬でも封じられていたはず剣が斧槍(ハルバード)を受け止める。バングハット元帥のもう一つの腕を強引に切り落とし、ウィリアム元帥の攻撃に間に合わせた。


 まずいっ!?


 受け止めただけでなく、そのまま押し返してウィリアム元帥の体勢を崩すと、剣を彼に向かって振り下ろした。防御には間に合わない。中佐や軍曹では視認すらできない超高速の斬撃、体勢を崩されただけでも致命的なのに武器も弾かれている。二人の様に肉片が飛び散っても可笑しくはなかったが、そこに両腕を失ったバングハット元帥が身体を強引にぶつけてくる。


 体当たりで難の逃れたウィリアム元帥。逆にバングハット元帥はファビオの斬撃をダイレクトに受け左肩から右腹部にかけて一刀両断される。


(此処で・・・終わるのか・・・)


 擦れ行く意識の中でバングハット元帥自身の死を認識する。だが、こんな所で、仲間たちの足を引っ張って終わる・・・それだけは、避けたかったのか・・・。それとも奇跡なのか。命が消えるその瞬間にバングハット元帥の下半身だけとなった足が、ファビオの顔に蹴りを入れた。


 ッ!!


「死んでも邪魔するのか」


 既に死んだバングハット元帥の身体に更に斬撃を加えた。


「貴様――ッ!!」


 アンデルクラフマー元帥の戦鎚(ウォーハンマー)が右側面から襲い、ディグ元帥の戦斧(バトルアックス)が左側面から襲う。


 怒りを露わにしている元帥たち。対するファビオの顔もいい加減鬱陶しいのか眉間をよせていた。


「刈り取れ」


 ファビオの一言で、禍々しい剣がより禍々しくなる。そして、振るわれる剣閃が赤く染まる。アンデルクラフマー元帥は左肘と右手の第四指と第五指を、ディグ元帥は右足に加えて左耳と左肩の一部を削ぐように切断された。


 どちらも命を奪う軌道だったが、寸前で身を捩って回避する。それでも欠損と言う状況に至るのだから、真っ黒くなったファビオの実力は、前代未聞の域に居るのは間違いなかった。


 そこに背後から、双剣を振りかざすヴォイド。これまで以上の鋭い斬撃が放たれたが、皮膚に触れただけで薄皮一枚切る事が出来なかった。


「まだだッ!! 武闘連技『空閃双翼刃(ブライトニング・エアレイド)』」


 例え、斬る事が出来なくても攻撃を続ける。自分よりも圧倒的に強い元帥たちの攻撃が通るための僅かな隙を生み出すために・・・。ヴォイドの攻撃に加えて、動きの制限されたアンデルクラフマー元帥とディグ元帥も攻撃に参加する。


 如何にか動ける二人の元帥。そして、まだ満身創痍だが四肢が残っているもう二人の元帥。


 ウィリアム元帥とアドラー元帥もお互いにチャンスを作ろうと攻撃に加わり、五人がかりで再び挑む。先ほどとは違い五人の元帥が四人の元帥に一人の大尉。全員欠損なく戦っていたが、二人が四肢の一部を欠損し戦いに挑んでいる。先ほどに比べてより厳しい戦いを強いられているのに変わりはないのだが、それでも五人の攻撃の威力は増して至った。


 限界を超える動きを常時酷使しているため、集中を途切れさせることも出来ず、思考も常にフル稼働している。筋肉は繊維が一本一本負荷をかけすぎて、今にも千切れないかギリギリの状態。


 そんな状況が長く続くはずもない。ふとした瞬間・・・いや、油断はしていなかった。それなのに相手の攻撃がついに彼らの命を脅かし始める。


 振り下ろされていたはずのファビオの斬撃が、気づけば切り上げに変わる。対応に遅れたディグ元帥の胸部を斬られる。身体を一瞬逸らせた事で身体の切断と言う最悪の事態は、免れたが結構深く斬られた。更にその剣閃はそのまま両刃大剣(バスターソード)を振り下ろしていたアドラー元帥の両手首ごと切断。両刃大剣(バスターソード)はそのまま上空を回転しながら空高く飛ぶ。


 ディグ元帥とアドラー元帥の戦力低下は、非常に痛手で、まともに戦えるのがウィリアム元帥と(ヴォイド)の二人のみになる。寧ろ、僕の攻撃は全く通じていないので、決定打となる攻撃が出来るのは、ウィリアム元帥のみ。それを理解しているからなのか、他の元帥たちも身を挺してウィリアム元帥を守る。アドラー元帥は(ウィリアム)の盾となり左右に両断され絶命。ディグ元帥もまだ動ける(ヴォイド)を庇って首をはねられた。


 アンデルクラフマー元帥とウィリアム元帥、ヴォイド三人で戦う事になるが、もう既に勝敗が見えている。もう勝てる可能性は皆無に近い・・・それでも、僅かな(とき)を守るべき者の為にと己が精神を奮い立たせて戦う。


「これで終わりだ」


 ファビオの言葉に三人は、最後の攻撃だと悟る・・・いや、悟らされた。ファビオから溢れ出る殺気は、まるで予言の様に彼らの死を想像(イメージ)で植え付けたのだ。


「ウィリアム、グレイス大尉。これが最後だ。臆するなよ」


「ああ。アル、最後のまで共に行くぞ。ヴォイド、これが最後の攻撃だ。生き残れる可能性はない・・・だがやれるな?」


「出来ます。これで終わらせます。必ずっ」


 右手で持つ戦鎚(ウォーハンマー)を構え走り始めるアンデルクラフマー元帥。それに続くように走るウィリアム元帥とヴォイド。


 先ほど見せられた死の想像(イメージ)。今の行動はその時に見た想像(イメージ)と全く同じ、と言う事は・・・ここから見えない斬撃でアンデルクラフマー元帥が命を落とす。逆に言えばこの瞬間に何らかの攻撃があるともいえる。


 そして、死の想像(イメージ)の時とは異なる行動をとれば、少しでも見せられた死と異なることが起こると信じて互いに違う行動をとった。


 アンデルクラフマー元帥は、持っていた戦鎚(ウォーハンマー)をファビオに向けて投擲する。そして、地面に落ちていたアドラー元帥の両刃大剣(バスターソード)を片手で持ち上げた。重量のある武器だが、戦鎚(ウォーハンマー)を片手で扱えるアンデルクラフマー元帥であれば問題なく扱う事が出来る。


 ウィリアム元帥も突進の進路を変更し迂回する形で進む。ヴォイドも反対側に回って攻撃の体勢に入る。


 飛来する戦鎚(ウォーハンマー)を叩き落としたファビオは、そのままアンデルクラフマー元帥に攻撃を行う。見えない攻撃から見える攻撃に変わっていた。これだけでも見せられた死の想像(イメージ)を変える事に成功する。


 両刃大剣(バスターソード)でファビオの斬撃を滑らせるように受け流す。ファビオの剣よりも両刃大剣(バスターソード)の方が、長さがあるので、先に両刃大剣(バスターソード)の射程内に入るのに、その射程内に入る前に向こうの攻撃が届く。おそらくこれが見えない攻撃だったもの。禍々しい武器が纏っているオーラが剣の形状に伸びて射程を伸ばしただけ。


 更に間合いを詰めるアンデルクラフマー元帥。片手で繰り出せる攻撃の威力何てたかがしれている。なので、目線でタイミングを合わせる。


 アンデルクラフマー元帥の首を狙った斬撃・・・・その斬撃をヴォイドが食い止める。そして両刃大剣(バスターソード)がファビオの体に触れる時に両刃大剣(バスターソード)に別の武器が重なる。


 振り下ろした両刃大剣(バスターソード)の上に重ねるように振り下ろされたディグ元帥が使っていた戦斧(バトルアックス)斧槍(ハルバード)。ウィリアム元帥が進路先を変えたのはディグ元帥の戦斧(バトルアックス)を拾いに行っていたのだ。二つの武器の威力を乗せた両刃大剣(バスターソード)


 ついにファビオの右腕を斬り落とすことに成功した。


「よし・・・・ぐぶっ」


 確実に斬り落としたはずの右腕、なのに何故か切断したはずの右腕は地面に落ちる事はなかった。


「な・・・ぜ、だ?」


 アンデルクラフマー元帥の腹部に突き刺さるファビオの右腕。腕の形状から片刃の剣の様な形状に変わっている上、切断面は完全にくっついていたのだ。


「悪いが、この身体は少々特殊で、今程度の攻撃なら瞬時に直してしまう」


 片刃の剣の様な形状から槍先の幅を広くした形状に変化させ、手だったであろう右腕を引き抜いた。


 返しがついている物を強引に引き抜けばどうなるか。・・・・当然、返しの部分が鋭利な刃物となり更に切裂いて進む。結果、アンデルクラフマー元帥の胴体が分断された。


 ウィリアム元帥は、悲しむ間もなく次の攻撃を行う。決定打になったはずの攻撃が効かなかったのであれば、狙うは頭部。自身の武器である斧槍(ハルバード)を上空に投げ、高威力を出せる戦斧(バトルアックス)を両手で掴むと一気に振り下ろした。が、右腕の形状が再び変化して手の形状になると、渾身の一撃である戦斧(バトルアックス)をそのまま受け止める。


 受け止めた手に力を込めた瞬間、戦斧(バトルアックス)に亀裂が走り、終いには砕け散った。


「なっ・・・」


 戦斧(バトルアックス)の破片を、そのままウィリアム元帥の鎖骨あたりに深く突き刺す。痛みに顔を一瞬歪めはしたが、負けじと戦斧(バトルアックス)だったものでファビオの顔を殴りつける。一切ダメージは入らなかった。


 けれど、これで良い。


 まだ動けるものが、一人残っている。


 ヴォイドは食い止めていた禍々しい剣を離し、すぐに攻撃に移った。頭部がだめでも胸を貫ければ相手を殺す事が出来る。


 左手に持つ剣を左から右への横一文字斬り、そして直ぐに右手で持つ剣で刺突と言う連続攻撃。これに合わせるかのようにウィリアム元帥も右手に持つ欠けた戦斧(バトルアックス)で再び顔目掛けて攻撃する。


 ウィリアム元帥の放つ殺気にファビオも反応する。


 今度こそ・・・・。


 しかし、互いの攻撃はたった一撃で砕けてしまった。満月を描く様な斬撃により横一文字斬りを放っていた左手に持つ剣はファビオに触れる前にその斬撃で砕かれ、右手に持つ剣で刺突をしようとしていた腕をまるで柔らかい物を切る様なそんな何の抵抗もない感じで切断した。宙を舞うヴォイドの右腕・・・・。反対側のウィリアム元帥も右手に持っていた戦斧(バトルアックス)だった物と共に右腕を切断され、宙を舞っている。


 貴重な好機(チャンス)を一撃で終わらされたのだ。


 腕を失っても・・・・、武器を失っても・・・。彼らの眼はまだ死んでいなかった。ヴォイドは左手で、右手で持っていた剣を取ると、超至近距離から頭を狙った刺突を繰り出す。ウィリアム元帥も左手でファビオの腕を掴んでいたが、それを手放し、宙を舞っていた斧槍(ハルバード)を掴んで今度は背中から胸を貫こうとする。互いの位置関係から、もしファビオを貫通する事が出来たら仲間毎貫いてしまうそんな威力で放っており、仮に仲間に貫かれても構わないと言う覚悟を二人は持っていた。


「例えこの身が滅びたとしても――――ッ」


「腕の一本や二本くれてやる。さっさとくたばれ化け物がッ!!」


 二人の魂の叫びにも聞こえる声はファビオを奮い立たせる。


「ゴミ共が――――ッ!! さっさと死にやがれぇ――――ッ!!」


 剣で斧槍(ハルバード)を持っている腕を斬り上げる。鮮血が宙を舞い、その前からの出血で周囲は真っ赤に染まっている。赤い水たまりに自分の顔が映る・・・・その姿を見て、首を刎ねられたのだと理解したウィリアム元帥。


 五人いた最後の元帥も遂に討たれた瞬間だった。


 ヴォイドの攻撃は首をギリギリ掠らない位置にあった。ウィリアム元帥を殺した時に辛うじて避けたのだ。


 そこから後ろ肘打ちを右目に受ける。


 何かが潰れた音と感触が生々しく聞こえる。肘打ちで吹き飛ばされそうになる中、左目の視界に捉えたソレ。受けた衝撃を右足に通す様に蹴りを打ち出す。


 ソレ・・・宙を舞っていたウィリアム元帥の斧槍(ハルバード)の柄を蹴った事で、斧槍(ハルバード)先端がファビオの胸を貫いた。


 これまで碌に攻撃が通らなかったのに、なぜ今になってと不思議に思うが、考えるよりも先に痛みが全身を駆け巡った。


 如何やらそれは、ファビオも同じだったのだろう。胸を押さえて苦しそうにしている。


「ケケケ。ソロソロ、ジカン。ゲンカイダッタ、ミタイダ」


 ファビオの黒かった皮膚は、半分程元に戻っていた。しかし、もう半分の黒い方に何かが集まった感じで丁度肩のあたりに黒い顔の様なものが浮かんでくる。ご丁寧に目や口も動いており声も発する事が出来る様だ。


「ぐっ・・・良いから、この傷を癒せ・・・・早くしろ」


 そう言うと再び全身真っ黒の姿に戻った。胸の傷も塞がっているようだ。


「はっ。手間取らせてくれた礼だ。永遠の牢獄に囚われてろッ」


 禍々しい剣で超巨大な影混人(シャドークリーチャー)の頭部を何処かに消した時の様な謎の空間を作る。


「昔から俺は貴様の事が嫌いだった。けど、今は愉快だ。これほど愉快な日はない」


 高笑いするファビオ。


「安心しろ。歯向かう者は皆殺す。従順する者は実験台になってもらうだけだ。もう人類はこの世界から消える。あははははっ」


「ふ、ふざけるな。必ずお前を殺してやる。ぼく・・・俺を生かした事必ず後悔させてやるからな・・・・」


 ファビオは、只々威勢の良いかつての好敵手(ライバル)を異次元の空間に放り込んだ。最後の最後まで闘志を漲らせていたが、あの空間でただ朽ち果てるだけとも知らずに・・・。


 それから、彼を止める事が出来る者はおらずあっという間に世界は彼の手によって乗っ取られるのであった。










 どれ程の月日が経ったのだろうか、未だに身体が動かせないと言う事は、数分なのかもしれないし、数日経過したのかもしれない。それ程良く分からない空間に俺は閉じ込められていた。


 あの戦いで俺は多くのものを失った。只々残ったのは親友と思っていた彼への怒り・・・怒りなんて生易しい感情ではない。残されているのは裏切り者への復讐心だ。


 今すぐここから飛び出して、奴を殺しに行きたいが、身体が動かない以上ただこの感情を何処にぶつければ良いのか思考が止まらない。


「オマエハ・・・・」


 そこに声を掛けてきたのは、頭だけとなった超巨大な影混人(シャドークリーチャー)の存在。此処に放り投げられていたから、もしかしたらと言う気持ちはほんの少しあったが、あの時は既に死ぬ直前の状態だった。だから、この中でも発見したら既に死んでいると考えていた。生きているとは全く考えていなかったのだ。


「ドウヤラ、ココハ、ジカンガトマッタ、セカイ」


 時間が止まった世界ってこいつは何を言っているのかと思ったのだが、確かにそう言われてみると、違和感を覚えた。


 斬り落とされた右腕の切り口から出血が止まっているのだ。


 何時からだ?


 冷静さを欠いていたとはいえ、普通気付くような事に気付いていなかったのだと思い知らされるヴォイド。


「ここは何処だ?」


 敵だったもの。それも親玉(ボス)だったそれに話しかけているのだろう。


「シラヌ」


 俺は何を求めて尋ねたんだと後悔したが、続けざまに言葉を発する。


「タダ、ソウゾウハデキル。ココハ、イセカイノハザマ」


 異世界の狭間?・・・そう言えば、『次元(ディメンション・)境界(バウンダリー)』とか言っていたっけ?


 それから、ヴォイドは自身に起こっている現状を敵である超巨大な影混人(シャドークリーチャー)の頭部から話しを聞くのであった。

何時も読んで頂きありがとうございます。

此方も引き続き頑張って執筆しますので、応援よろしくお願いします。

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