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第2話 プロローグ②

おはよう。こんにちは。こんばんは。

さてさて、第二話目になりますが、少し主人公の回想シーンになります。

 前線基地を出発して三日目の朝、サイフォ種と言う種類の馬で如何にか辿り着いたと言う感じだ。サイフォ種は、サイドン種と呼ばれる鈍足だが力と持久力に特化した軍馬とフォスター種と呼ばれるこの世界でも屈指の俊馬で、欠点があるとすれば持久力が少ない。サイフォ種はそんな二種の交配種で、お互いの良い所を受け継いだ混成(ハイブリッド)種でもある。因みに片方の良い所だけの種は、混在(ブリッド)種。両方の悪い所だと雑草(ウィード)種と呼ばれている。


 希少な軍馬故に前線基地でも一頭しか配置されていなかった。


 それに、夜中の休息以外は殆ど走りっぱなしなので、サイフォ種と言えどかなり披露しているのが見てとれる。けれど、それ程までに此方もひっ迫していると言う事。


 中央都市が見えてきたと思ったら、此方もやはり黒煙と炎で街が覆われていた。更に、中央都市の上空には、要塞(ヘヴィメタル)級が十数体待機しており、特兵(ボサノヴァ)級や尖兵(オルタナ)級の影混人(シャドークリーチャー)を投下しつつ、要塞(ヘヴィメタル)級の影混人(シャドークリーチャー)も上空から砲撃による攻撃を行っている。


 前線基地以上の地獄を見ている様だ。


 馬を走らせて大惨事となっている中央都市へ向かう。近づくにつれて、影混人(シャドークリーチャー)(まば)らに居たので、移動の同線上にいる個体のみ撃破しながら前へ進む。


 都市に近づくにつれて、数が増え倒すのが難しくなる。そんな時、影混人(シャドークリーチャー)の一体が繰り出す斬撃を受け、咄嗟に馬から飛び退く。馬は残念な事に胴体を一刀両断されて絶命した。


「武闘連技『空閃双翼刃(ブライトニング・エアレイド)』」


 周辺に建物がなく縦横無尽に移動しながら何度も技を繰り出した。建物があれば、それを足場に空中移動が可能だったが、ないものは仕方ない。それにもう少しすれば倒壊した建物が見えているので、移動に関してはもう少し楽になるだろう。その分、敵の数が増加しているので、移動速度や難易度は上がってきているけれど。


 影混人(シャドークリーチャー)が、住民を襲い掛かろうとしているので、急遽方向を変えて救出に向かう。立体移動からの高速斬撃により手早く影混人(シャドークリーチャー)を撃破するが、仲間がやられた事で影混人(シャドークリーチャー)の増援が此方へ向かってくる。


「武闘連技『一刀斬首(フェイタルブレード)』」


「武闘連技『破壊(カイザー・)一撃(インパクト)』」


 見知らぬ顔の軍人が救援に駆け付け影混人(シャドークリーチャー)の増援と交戦。その隙に住民を連れて安全な所へ避難させた。救援に駆け付けた軍人二人も最初こそ交戦していたが、避難するヴォイドたちを見て、自分たちも撤退を始める。撤退時に追撃されない様、各々の武器を振るい退路を遮断していた。


「ありがとうございます。助かりました」


 ヴォイドは、救援に駆け付けてくれた軍人二人にお礼を述べる。二人ともかなり疲弊しているが、中々の手練れなのか深手を負っている様子は見られない。


「礼には及びません。我々は住民の避難を優先させたまでです」


 大型の片刃剣を携えた軍人が、やや冷めた感じで対応する。真面目と言う印象を受ける感じの人物が非常に似合う者だった。


「大尉すみません。こいつ口が悪くて・・・。自分は第三防衛軍十一連隊所属のハザル・エッツオ少尉です。こっちはローレンス・ナファリス少尉です」


 向こうが簡単な自己紹介をしてきたので、此方も自己紹介をしておいた。こんな状況だ。他の軍人たちと合流して「大尉」と呼ばれても合流した中に大尉が居るとややこしくなる。


「まずは、あの人たちを安全な所へ、どこに避難を―――ッ!?」


 話をしていると敵の気配を感じ取る。するとハザル・エッツオ少尉が「こっちです」と言って案内するので、彼について皆で移動を始めた。俺が殿を務めようとしたのだが、ローレンス・ナファリス少尉が殿を務めることになる。


 仮に分断されたとしても先頭と最後尾が避難場所を把握していれば、最悪の事態は免れる可能性が高い。


 すぐに移動を開始したことで、追手が来ることはなかった。けれど、慎重に移動しているため移動時間がかかってしまう。緊張感の中、突然ハザル・エッツオ少尉が話を掛けてきた。


「グレイス大尉は、どうしてこのような場所へ?」


 自己紹介から素性を察した彼は、此処にいるはずのない俺に対して疑問に思ったのだろう。本来であれば最前線で戦っているはずの人間が、数日前までは国内で最も安全だった場所に現れている。しかも、俺が現れる直前から、この場所は地獄の様な場所と化してしまった。手引きしたと思われても仕方がない。


 簡単に事のあらましを話す。流石に住民の前で前線基地が崩壊したなどとは言えない。崩壊したとは思いたくないが・・・。


 遠回しな言い方にハザル・エッツオ少尉は伝えたい意味を理解した。


「そんな事になっていようとは・・・、もうすぐ避難場所に―――ッ!?」


 避難所に向かっていた先で大規模な戦闘が行われていた。


「避難所が襲われているようだな。加勢に行く―――!?」


 戦闘に加わろうとした瞬間、背後から別の敵が此方に向かってやってきた。しかも、数体ではなく数十体の気配があるのだ。


「先に行ってくれ、此処は俺が食い止める」


 殿を務めていたローレンス・ナファリス少尉が、反転し武器を構えて迎撃態勢に移る。向かってくる敵との交戦で避難所を襲っている敵が此方に向かってきての挟撃だけは避けなければならない。


 苦渋の選択の結果、彼に後続を任せて二人で正面突破をし、住民を避難所の中に移動させることにした。此方もかなりの危険を伴うが、この場に留まるよりは状況が良い。最善かと言われると・・・最善ではないだろうが。


「突破する。武闘連技『空閃双翼刃(ブライトニング・エアレイド)』」


 ヴォイドの攻撃で、影混人(シャドークリーチャー)を迎撃する。後方にいた影混人(シャドークリーチャー)が襲われたことで、後方にいる影混人(シャドークリーチャー)が一斉に此方へ視線を向けた。


・・・・その数五十以上。


 ヴォイドの攻撃で空いた隙間をハザル・エッツオ少尉が住民を引き連れて移動を開始する。攻撃に晒される中、必死に住民を先導し戦場を掛け抜ける。住民を戦火の真っただ中にと言う批判的な事を言う者もいるかもしれないが、既に街の中すべてが戦場と化している。守る者を一ヵ所に集めて守らなければ、どうすることもできない程の惨事と化しているのだ。


 半分まで来たところで、恐れていた事態が発生する。殿として残ってくれていたローレンス・ナファリス少尉の辺りで大崩落があった。生死の確認はできないが、向こうも既に戦闘が開始されている事だけはわかった。











 ヴォイドたちが避難所に向かってすぐ。


 ローレンス・ナファリス少尉は、大型の片刃剣を手に此方に向かってくる影混人(シャドークリーチャー)の集団を目視にて確認した。その数約二十体、尖兵(オルタナ)級が主としているのだが、その中で一際威風を表す個体が二体存在する。


特兵(ボサノヴァ)級か。それも二体もいやがる・・・どれだけ時間を稼げるか」


 ローレンスが目視してから数分もしないうちに影混人(シャドークリーチャー)との戦闘が開始された。


 尖兵(オルタナ)級は対処できるが、特兵(ボサノヴァ)級はローレンス一人では荷が重すぎる。


 死闘を繰り返し、尖兵(オルタナ)級を半分ぐらい倒したところで、特兵(ボサノヴァ)級と本格的な交戦に入る。一気に状況が悪化し始め、防戦一方となる中、ついに逃げ道がなくなる。


 特兵(ボサノヴァ)級の強烈な一撃がローレンスを襲い。ローレンスはそれに対して大型の片刃剣を盾に防ごうと試みるも片刃剣、いやローレンスの後ろの建物ごと真っ二つにされた。


(これまでか・・・だが――――)


 ローレンスは身体を上下に切断された状況の中でも、最後の時まで死力を尽くそうと死に行く意識の中で思考を繰り返した。


 折れた片刃剣を向かって特兵(ボサノヴァ)級の影混人(シャドークリーチャー)のある部分をめがけて投擲した。普通の場所であれば大したダメージを与えることができないのだが、最も防御の薄い場所・・・影混人(シャドークリーチャー)の目を狙ったのだ。


 影混人(シャドークリーチャー)の左目に突き刺さり、痛みから悶え苦しむ所に追い打ちをかけるように崩壊した建物が影混人(シャドークリーチャー)を襲い生き埋めにした。崩落の音と振動がそのまま避難所の方まで届いた。


 生き埋め程度で影混人(シャドークリーチャー)を倒すことはできないが、足止めにはなったようで、瓦礫でローレンスが相手にしていた影混人(シャドークリーチャー)の進行が止まる。


「走れ――っ!! あと少しだッ!!」


「武闘連技『破壊(カイザー・)一撃(インパクト)』」


 ハザル・エッツオ少尉の大槌が進行方向にいる影混人(シャドークリーチャー)の集団を吹き飛ばす。倒さなくてもいい、出来るだけ近づけない事が重要になる。


「武闘連技『氷点百花輪(アイシクルブルーム)


 避難所の方から此方に向かってくる槍を持った軍人が、影混人(シャドークリーチャー)に対して攻撃を行い、此方の援護に入ってくれる。


「こっちだ。急げ」


 また、別の軍人がフォローに入ってくれる。先頭にいた住民がその軍人と合流して、そのまま避難所の中へ誘導される。


「まだだ。武闘連技『空閃双翼刃(ブライトニング・エアレイド)』」


 ヴォイドは、更に技を出して敵の注意を引き付ける。最後の住民を避難所に収容したところで、ヴォイドとハザルの二人も避難所の中に入る。


 避難所に向けて走り出してから二人の住民が被害にあってしまった。これを二人で済んで良かったと思うか、二人も犠牲者が出たと評価するのかは、人の考え方によるだろう。


「エッツオ少尉、集中砲火を受けている中どうして民間人を連れてきたッ!!」


 ハザルが中に入ると彼の上司だろう人物から叱責を受ける。彼は事の経緯を簡略的に報告。ローレンス・ナファリス少尉が足止めのため残り、恐らく戦死した可能性が高い事も告げた。


 上司はその報告を聞いて、ヴォイドをある人物の下に向かわせる。ハザルは、外での戦闘に加わるよう指示が出され、準備を整えるため別行動になった。


「ヴォイド・グレイス大尉。此方の中でファトム・レナーデント中将がお待ちだ。直接報告をされたし」


 ヴォイドはその人物に案内されるがまま、司令官がいる部屋へと案内された。レナーデント中将、武闘派で有名な将軍で、ヴォイドとの階級の差は月と(スッポン)ぐらいあり、権限も当然、ヴォイドとは比べ物にならないぐらい持っている。


「ヴォイド、生きておったのか? この場所まで敵が押し寄せてきていたから前線基地は全滅したものだとばかり思っておったぞ?」


 親しく話をしてくるレナーデント中将。実は彼とヴォイドの父は旧知の仲で知られており、ヴォイド自身も幼少の頃から可愛がってもらっていた。更に、レナーデント中将の息子はヴォイドと同年代と言う事で軍学校でもかなり親しい仲にあり、レナーデント中将の息子も優秀で学年では第五席の成績で卒業している。


 此処までの経緯を報告する。最前線の様子や前線基地の崩壊、撤退した部下たちの死、ファビオ・アルバレス大尉の消息不明について等報告をしなければならないことが山のようにあった。


 レナーデント中将は、彼の悔しい思いを受け取りつつも一言一句聞き逃さず報告を聞いた。


「アルバレス大尉の生死不明か・・・生きてくれていると良いが、もし倒されたのなら惜しい者を失ってしまったな」


 息子とヴォイドの同級生と言う事で中将自身も彼については良く知っていた。自分の息子よりも優秀な成績を修め、更にヴォイドと言う存在が居なければ、彼が天才と称されても不思議ではない存在だったのだから、知らないと言うのが難しいかも知れない。


「グレイス大尉。其方は少しの間休息をとり、次に備えるのだ」


 レナーデント中将は、彼の事をヴォイドではなくグレイス大尉と呼んだのは、見知った者としてではなく上司からの命令と言う意味で彼に休むよう言い渡した。次とは何かと聞きたくなるが、戦場の状況が常に変化しているので、正確な命令は今出す事が出来ない。


 避難所の外では今も仲間たちが命懸けで防衛にあたっているのに、自分は吞気に休んで良いのかと一瞬考えた、休息を取らずに防衛に参加したほうが良いのではと。けれど、常に防衛に出ていたら休む事が出来ず、何時かは限界を迎えてしまう。なので、休息が出来る時に休息をする方が良いと言う結論に至る。


 レナーデント中将の部屋を出て、たちまち着替えをするため移動をしようとした瞬間。轟音と共に大地が大きく揺れる。


 ッ!?


 あまりに大きな揺れに立つこともままならず、地に手をついて体勢を保とうとする。他から聞こえる悲鳴に鳴き声、この状況に慌てる軍人たち。


 地揺れが収まったタイミングで、すぐに状況把握の為動く。状況的にただ事ではないことは理解している。レナーデント中将も部屋から出てきた。


「ヴォイドッ!! 今のが何か分かるか?」


「わかりません。すぐに被害情報の確認と外の防衛の様子を確認した方が良いでしょう。自分は外の様子を見てまいります」


 レナーデント中将は必然的に部下に指示を出して、被害情報の把握を行う事になった。まあ、普通に考えてもこの役割分担は正しいと言えるだろう。


 お慌てて外に出て周囲を確認する・・・。


 そこにはありえない光景が広がっていた。


 最大級の大きさと言われる要塞(ヘヴィメタル)級の影混人(シャドークリーチャー)が、小さく見えてしまうほどの超巨大サイズの影混人(シャドークリーチャー)が街の中央に姿を見せたのだ。禍々しい姿に触手の様な何かが大量に蠢いている。


 黒い肉体は人型に近いが、別の何かの形をしており、刺々しい異様な形をした羽を生やしている。


 地中から地上に出てきた様な出現の仕方をしていたため、中央付近への被害は甚大だった。建物はすべて全壊し、地面は砕けて凸凹がひどい。この位置からでも相当隆起していることが分かるので、人三人分を優に超える凸凹具合になっていた。


 この場にいた影混人(シャドークリーチャー)は動きを止めず攻撃を繰り出してきたが、此方はあり得ない状況で動きが鈍り、統制が取れず一気に押され始めた。


「くそっ!!」


 ヴォイドはすぐに戦いに加わって、影混人(シャドークリーチャー)を倒す。


 五体ぐらい倒したところで、避難所にいた軍人達も次々に出てきては、超巨大な影混人(シャドークリーチャー)に理解できず、足を止める。しかし、仲間の悲鳴が耳に入ると、立ち止まっていた軍人達もするに目の前の敵に対処を始めた。


「各隊へ告げる。此処を全力で死守せよ。良いな?此処が我々の正念場だッ!!」


「「「「「おおおおぉぉーーーーーっ」」」」」


 軍人達の士気が最高潮に高まる。


「ヴォイド。ワシはこの場を離れられない。お前はあれが何なのか確認しに向かってくれ。首相もあの場にいたはずだ。生きている様なら救出も行うのだ」


 あの場で生きている者がいるのかと尋ねたくなる様な現状だが、奇跡的に生き残りがいる可能性も考えられる。


 僕は、レナーデント中将の指示に従う形で、超巨大な影混人(シャドークリーチャー)の下へ向かう。向かうが、身体は恐怖しているのだろう。普段に比べて動きが悪く感じる・・・もしかしたら、遅く感じているだけで速度は普段と変わりない可能性もあるが・・・。けれど、状況的にあんな場所に向かうのは自殺行為ではないかと頭の片隅に度々過る。


 ッ!!


 突然、何かが此方に向かってきた。何が来たのか分からなかったが、直観が働き瞬時にその場から飛び退ける。


 ――――――襲ってきたのは、超巨大な影混人(シャドークリーチャー)の足元から生えている触手みたいなものだった。


 周囲に散らばる瓦礫を薙ぎ払い、触手のような攻撃は地面を陥没させた。躱したはずのヴォイドもその衝撃波で吹き飛ばされ、後方にあった瓦礫へ激突する。受け身を取っていたおかげで大きな損傷は受けなかったが、打撲や擦り傷が更に増えた。


 触手みたいなものは彼を狙っての事ではなく、無作為な攻撃に巻き込まれたのだ。触手みたいなものは、そのまま地面を陥没させた後、別の場所に目標を定め無差別攻撃を繰り返す。


 ヴォイドは、瓦礫の中から這い出ると、本来の目的地である街の中心部・・・超巨大な影混人(シャドークリーチャー)の下に向かって走り始めた。


 それに近づいて分かったことは、それが及ぼした攻撃はかなりの壊滅的ダメージを街に与えただけではなく、逃げ遅れた住民や同僚たちの亡骸が至る所に転がっている。中には避難所も攻撃の直撃を受け、その場にいた者は全滅していた。


 もしかしたらと思い数人倒れている場所に行き確認するが、残念ながら息をしていなかった。


 もっと早く助けに来ていたらと後悔すると同時に、うちの中に黒い何かが渦巻くのを感じた。


 ッ!?


 ふとした瞬間、近くで金属同士が衝突するような甲高い音が響く。


 まだ生き残りが、戦っている!?


 ヴォイドは最大限警戒しながら、戦闘が行われていると乏しき場所に向かうと・・・。


 一人の軍人が、超巨大な影混人(シャドークリーチャー)の足元で無数の触手みたいなものを相手に攻撃を繰り返していた。


 その人物の戦闘は、ヴォイドですら圧倒する程の実力の持ち主で、レナーデント中将をも超える階級を持つ人物。軍で五人しかいない元帥の1人で、中将や大将の上の階級にあたる軍内最高階級。そんな五人しかいない元帥は、名実共に最強であり、我が国の最高責任者を守る責も任されている。五王剣とも呼ばれている。


 五王剣は、最高責任者・・・つまり、王が所有する五つの剣を示した呼び方。まあ、剣と言われているが、剣を使うのは五人の内一人しかいない。他の四人は剣ではなく斧槍(ハルバード)籠手(ガントレット)、大型の戦斧(バトルアックス)戦鎚(ウォーハンマー)だ。剣を持つ一人も一般の軍人が持つような軍剣ではなく、両刃の大剣(バスターソード)だ。


 どうにも元帥の地位に就く者は、変わった武器や大型の・・・力技で敵を圧倒できるような武器を好む傾向にある。


 触手みたいなものを相手にしていたのは、斧槍(ハルバード)を自由自在に操り、近づくもの全てを薙ぎ払う騎虎(きこ)のウィリアムと呼ばれるウィリアム元帥。


「そこをどけぇッ!!」


 縦横無尽の斬撃が、大量の触手のようなものをすべて薙ぎ払うが、触手モドキもその勢いに負気ず劣らず、追加の触手モドキがウィリアム元帥を襲う。


 元帥が目指す先・・・・超巨大な影混人(シャドークリーチャー)の本体が居る場所。この国の最も重要な施設がある・・・いや、あった場所。最高責任者が待機している建物がそこにあったのだ。今は、見る影もなく瓦礫と化している。


 ウィリアム元帥の迫力は、今までに感じたことがない程の鬼気迫るものがあり、超巨大な影混人(シャドークリーチャー)を改めて見つめると・・・・ッ!!。


 超巨大な影混人(シャドークリーチャー)の本体があるその胸部のあたりに人影があった。その人影とは最高責任者であるエドワイズ大統領。超巨大な影混人(シャドークリーチャー)から伸びる無数の黒い針がエドワイズ大統領の身体を串刺しにしていた。


 見る限りでは、死んでも可笑しくない程の針が身体を貫いているが、そのすべてが致命傷を避ける位置となっていたので、意図的に生かしているのだと思う。見えるだけで、生きているかどうかは不明だ。


「武闘連技『騒嵐虎爪円舞(エクストリーム・サークル・ロンド)』」


 ウィリアム元帥が使用した武闘連技が触手モドキを次々薙ぎ払って前進する。眼にも止まらぬ早業と槍捌き、槍を常時回転させながら簡易的な盾の様に見える程、技のキレが凄かった。


 自分もただ見ているだけではいけないと思い、腰にぶら下げている双剣を抜く。


「加勢します。武闘連技『空閃双翼刃(ブライトニング・エアレイド)』」


 ヴォイドも触手モドキに攻撃を加えるが、これまでの影混人(シャドークリーチャー)とは比べ物にならないぐらい頑丈だった。だが、負けるわけにはいかないと全身全霊で双剣を振るうと触手モドキを切断する事が出来た。自分自身これだけ梃子摺る相手に元帥は、普段と変わりない攻撃に驚きを隠せない。


 ウィリアム元帥は、加勢に来た青年を横目で確認して、問題ないと考えたのか、それとも実力不足と判断したのかは分からないが、特に何も言わず攻撃を行う。


 徐々にエドワイズ大統領に近づくが、近寄れば近寄るほど触手モドキが厄介な存在となり、二人の行く手を阻む。


 もう少しと言う所で、触手モドキの攻撃が激しく二人とも吹き飛ばされてしまう。


 後方の瓦礫に突っ込む二人。ウィリアム元帥はすぐに瓦礫から這い上がるが、ヴォイドは、瓦礫の破片が腹部に突き刺さっており、その痛みで直ぐには立ち上がれなかった。


(うっ・・・戦えない傷ではないけど、止血しておかないと・・・・)


 破片を抜き、止血用の粉薬を止血部に擦り付ける。痺れる様な痛みで顔が強張る。


 ウィリアム元帥に遅れながら、瓦礫から這い出る。元帥は既に再攻撃の為に突撃していた。


 動け、動け・・・。


 止血はしたが、痛みは消えていない。だから、最初の一歩で激痛が全身を駆け巡り、次の一歩が中々でなかった。


 ある一定の距離まで迫るウィリアム元帥。しかし、先ほどと同じあたりまで進むと触手モドキの数に押されて、対処しきれずに吹き飛ばされてしまった。


 瓦礫に直撃し、大きな音が周囲に拡散する。


 エドワイズ大統領の救出が出来ない・・・そう思った瞬間、触手モドキの根元から一つの影が出現して、エドワイズ大統領を貫いていた無数の黒い針を切断し、そのまま空中で捕まえると此方に向かってやってきた。


「ウィリアム?何、遊んどるんじゃ?」


「アドラー。寧ろお前が何をしていたんだ大統領の傍に居たのではないのか?」


 修羅(しゅら)のアドラーと言う異名を持つ、五人しかいない元帥の一人でもある人物。瀕死のエドワイズ大統領を片手に、もう片方は両刃大剣(バスターソード)を握りしめている。両手で持つ武器を片手で扱う程の腕力と握力。


 超巨大な影混人(シャドークリーチャー)は、自身の内側からの攻撃に対処できず、見せしめのつもりで生かしていたエドワイズ大統領が奪われた事に初めて感情らしい感情を表に出す。


 これまでとは違い、圧倒的な物量で攻撃を仕掛けてくる。ヴォイドは、この数に対抗できないとあきらめるが、二人の元帥は諦めていなかった。互いに武器を構え、防御に徹する姿勢を示す。


 しかし、その機会は訪れる事はなかった。


 アドラー元帥に続いて、残りの三人の元帥が中央に戻ってきたのだ。


 籠手(ガントレット)を武器に敵を叩きのめす、豪傑(ごうけつ)のバングハットこと、バングハット元帥。大型の戦斧(バトルアックス)で敵を薙ぎ倒す、金剛(こんごう)のディグこと、ディグ元帥。戦鎚(ウォーハンマー)で敵を粉砕する天誅(てんちゅう)のアンデルクラフマー

こと、アンデルクラフマー元帥。


 他にも三人の元帥以外にも実力派の者が数名駆け付けてきた。


 その中の一人にヴォイドの父親でもあるギリアム・グレイス中将の姿もあった。そんな彼ら助けもあり、物量で攻めてきた超巨大な影混人(シャドークリーチャー)の攻撃は、ものの見事に打ち破られる。


「ヴォイドッ!? 間に合ってよかった」


 声を掛けてきたのは、軍人学校時代主席だったヴォイド・グレイス、次席ファビオ・アルバレスの次に優秀な成績を収めたアウレリオ・ワットンだった。彼の階級は軍曹だったはず。それでもこの場にいると言う事は、彼もまた助けてくれた面々に助けられて一緒にこの場に来たのだろう。


「アウレリオ? 君も無事でよかったよ・・・けど、どうして此処に?」


「グレイス中将の部隊と交流できて、そのまま此処まで来たってわけ、これだけ乱戦になると、もうどうなっているのか・・・」


 エドワイズ大統領は、三人の元帥たちと同行していた軍医が、治療にあたっているようだが、かなり容体が悪いのか、慌ただしく応急処置をしている。


「ファビオたちも何処かで頑張っているだろうから、俺たちも」


 彼はまだファビオが生きていると思っているようだ。厳密に言えば、あの時分かれてから合流が出来ていない・・・状況だけで判断すると彼は既に命を落としている可能性が高いがそれを今ここで口にすることはできない。


「ウィリアム。アレが親玉でいいんだな?」


 アンデルクラフマー元帥の言葉にウィリアム元帥は肯定する。


影混人(シャドークリーチャー)のボスが現れてくれたんだ。我ら全人類の悲願此処で終わらせる」


 長きにわたる影混人(シャドークリーチャー)と人類との全面戦争・・・基、影混人(シャドークリーチャー)による侵略でこれ程好機に見舞われた事は、過去一度もなかった。


 元帥たちですら、影混人(シャドークリーチャー)の親玉との遭遇は初めてで、歴代の元帥たちも遭遇した事がない未知の生命体。


「全員。此処で死力を尽くせ。最後の楽園と呼ばれる此処も奴らで地獄となった。もう逃げる場所もない」


「引けば死。進んでも死。だったら、選ぶのは当然後者だろう? 可能性が僅かになかったとしても、引けば何もかも失う。己が魂を此処で燃やせ」


「「「「「おおおおおーーーーっ」」」」」


 元帥たちは、集まっている精鋭(エリート)軍人たちや途中で合流した一般兵たちの心に火を灯し、最終決戦へ挑んだ。

読んで頂き有難うございます。

面白いと思った方は是非評価、ブクマ等よろしくお願いします。

次回は11/28の8時頃を予定しています。

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