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第1話 プロローグ①

おはよう。こんにちわ。こんばんは。

さて、遂に新作の初投稿。

別作品「異世界で気になるあの人は幼馴染に」と連動している新作ですが、連動と言ってもイメージとしてはアメリカの某スーパーヒーロー映画の様な同じ世界が舞台で、それぞれの世界観を出しつつ時には共闘、時には対決などを含めて投稿できればと考えております。

では、本作品をどうぞ。

 吹き荒れる吹雪の中。一つの影が姿を現す。吹雪の中歩いているため朧気(おぼろげ)な雰囲気しか分からないが、そんな中ただ一つわかることがある。羽織る外套がかなりボロボロだと言う事。


 外套の裾がまるで、死神の外套の様な雰囲気を犇々(ひしひし)と思わせているからだ。


「おい。こんな吹雪の中、誰か来るぞ?」


 吹雪に襲われる街、その外周を覆う様に建設された防壁には、東西南北にそれぞれ街への出入り口となる大門と、その大門で往来する人々の検問を行う門兵たちの詰め所がある。


 大陸の北に位置するこの街は、気候的に寒い日が多いけれど、今日みたいな猛吹雪の時は往来者少ないため、門兵も詰め所で待機し、詰め所内から外を眺めて監視をしている。


 監視をしていた門兵が退屈そうに見ていた時に、吹雪の中から人影が見え皆に報告した。


「こんな中で・・か? 見間違えじゃないのか?」


 監視をしていた門兵より先輩にあたる門兵が、その事実を確認するため、席を立ち覗き穴程度の長方形の小窓から外を見る。


 吹雪が多いこの街では、小窓の中に特殊な透明に近い半透明の厚板が、はめ込まれている。そうしなければ、この詰め所内は今頃大量の雪や冷気で大変なことになっていただろう。


 すぐには見つけられなかったが、最初に目撃した門兵が指で居場所を教えて、後から来た先輩門兵もその姿を捉えることができた。


「ああ、確かにいるな」


 真っ白な世界に一つの影を見つけた。門兵は目視した事で、来訪者が居ることは事実となり、その人物は此方に向かって歩いて来ている。他の待機していた門兵たちは、有事に備えて防具を身に着けさせ、腰には鉄の剣を装備させた。


「・・・一体何者だ?」


 この中で一番地位が高い門兵が、その姿を見て該当する人物を思い出そうとする。


(赤髪? それに包帯もしているな? まさか隻腕隻眼・・・か?)


 此方に歩み寄ってくる事で、人影だった姿が次第に分かるようになってきた。黒っぽいボロボロの外套を羽織、右目を包帯で巻いている単独(ソロ)で活動する人物。門兵は、赤髪と考えているが実際には、赤銅色の髪色をしている。


 大門に近づくに連れて、その正体が明らかになる。


「隻腕隻眼のヴォイドだ。一応、本人確認をするんだ」


こんな吹雪の中、街にやってくるのは門兵からしたら、迷惑でしかない。それでも来てしまった者を素通りさせるわけにも行かないから、吹雪の中外に出て来訪者の対応を行う。


「身分証を」


 隻腕隻眼の男は、懐から一枚のカードの様な物を取り出し手渡す。門兵はそれを受け取ると本人かどうかを確認した。


 冒険者カードと書かれたそれは、多くの者達が登録をしている身分証の一つ。このローア大陸全土に点在する超巨大組織、冒険者ギルド。素材回収や魔物討伐、護衛、配達に街の手伝いまで幅広く活動をする冒険者達の仕事の斡旋場所の様な所。


 冒険者カードには、所持者の名前や冒険者ランクと言った基本情報が書かれており、見えない情報としては、過去の罪状や依頼(クエスト)の達成率、過去の依頼(クエスト)内容、ギルドからの評価もあるが、これらは専用の魔道具で見るしか方法がない。


 門兵は、受け取った冒険者カードを確認する。


 名前、ヴォイド・グレイス。性別、男。種族、人族。冒険者ランク、(シー)ランク。冒険者カードの顔も本人と照合。


 冒険者カードを見る限りでは問題はなく、次の確認を行う。石で出来た板に手を置いてもらう。これも魔道具の一つで、その者が犯罪者かそうではないかを確認するもの。


 赤く光れば犯罪者であり、黄色く光れば犯罪歴ありとして過去に何らかの罪を犯した者、青く光れば問題なしと証明させる。


 ヴォイドと呼ばれる冒険者の結果は青。つまり犯罪者ではない事が証明された。


「よし。通って構わない。けど、こんな吹雪の中良く進もうと思ったな? 普通自殺行為と変わらないから、余程の事がない限りは動き回らないぞ?」


「急ぎの依頼だった様でな。届け先に薬を持って行く所だ」


 話と一緒に腰につけた魔法(マジック)(バック)から薬を二本取り出して見せる。橙色の水薬(ポーション)を見た門兵は、それが何の薬なのか直ぐに分かった。


 この街の領主の孫娘が、紫斑病と呼ばれる病気に罹ってしまっているのだ。紫斑病は、死の病の一つだが幸運な事にこの病気は特効薬が存在する。それが、この橙色の水薬(ポーション)だ。


 ただ、特効薬があるが調薬から数日で効果が無くなるため、通常の水薬(ポーション)と違い在庫を抱える事ができない。


 彼の持っている魔法(マジック)(バック)などの時を止める事ができる魔道具に入れていれば、保管が可能だったりする。まあ、時停止が可能な魔法(マジック)(バック)はかなり貴重で値段もとんでも無かったりする。


 一般家庭では、まず持つ事がない代物。


 因みに、時間停止がない魔法(マジック)(バック)があるが、見た目より中へ沢山入れる事ができる仕様だ。それだけでも結構な値段がするのだが・・・。


 (シー)ランクともなれば持っている者もチラホラいるので、多少珍しさはあるにしても可笑しくはない。


 薬の方は魔道具のことで解決しているが、現在病に罹っている領主の孫娘は症状が進行中なのだ。此処で些細な時間を費やすのは良くないと判断した門兵は、ヴォイドに領主の屋敷までの道のりを教える。


 が、この中で一番地位が高い門兵が部下に馬車の用意を支持し、ヴォイドを領主の屋敷まで送るように指示を出した。歩いていけば、それなりに時間はかかる。猛吹雪で足取りを取られるだろうし、視界も良くない。逆に馬車は、雪使用の馬車に変えていて、馬車を引く馬も北国特有の雪馬と呼ばれる。氷雪地帯に生息する馬を使っている。


 視界は、徒歩と同じで悪く。スピードもある分、操作を誤れば大事故に繋がるが、此処にいる門兵は、ただ街を守るためだけにいるのではない。緊急の場合は早馬を出すこともあるので、操作は誤ることはかなり少ない。もちろん絶対ではないが・・・。


 送ってくれることを知ったヴォイドは、お礼を伝えて馬車の用意が出来るまで屋内に待機することになった。ほんの数分で準備を終え、ヴォイドは馬車に乗って領主の屋敷へ移動した。


 大きなが屋敷にたどり着くと、門兵は屋敷の戸をノックする。屋敷の中から使用人らしき執事服に身を包んだ老齢の男性が姿を見せ、来訪の旨を伝えた。


 執事は、他の使用人を呼んで領主に来客の事を伝えに行かせ、執事はそのままヴォイドの対応にあたった。門兵は、一言伝えた後馬車に乗って戻っていた。


「ようこそお越しくださいました。ヴォイド様。どうぞ、中へお入りください」


 案内されるまま屋敷の中へ入る。


「外套をお預かりします」


 中に入ってすぐ、待機していたのか給仕係(メイド)が声をかけてきたので、羽織っていた外套を脱いで手渡す。吹雪で積もった雪を取り払い、防水加工を施しているが防水が出来なくなるほど濡れていたのにも関わらず嫌な顔一つせずに何処かへ持っていった。


「ヴォイド様、此方へどうぞ」


 そのまま廊下を通り案内された部屋に入る。


「まもなく旦那様がお越しになります。それまでごゆっくりなさってください」


 執事はそのまま給仕係(メイド)と入れ替わるように退出する。給仕係(メイド)は、カートに飲み物と軽食を載せて持ってきて、手際よく配膳し始めた。


 左手でカップを取り、一口飲む。ホットマーティと呼ばれる紅茶であった。甘く疲れを癒してくれ、身体の芯まで温めてくれそうなホットマーティ。ちなみにマーティとはミルクティーの事で、ヴォイドも給仕係(メイド)もミルクティーと言う物を知らないので、この世界の呼び方のマーティと認識している。これを、地球という星ではミルクティーと呼ぶと伝えたところで、彼らには浸透しないだろう。


 カップを置くと、今度は用意されたカップケーキを左手で取り食べる。


 暫くすると部屋の向こうからノックする音が聞こえる。中に待機していた給仕係(メイド)がドアを開けると高齢の男性が先程の執事と一緒に入ってきた。


「お待たせしました。私は此処の領主のティブルシオ・インファンテ・イ・ブリオネスです」


 この地域を管理するブリオネス伯爵家の現当主にして今いる街、貿易都市ムセモゥラリムと言う冬の時期は吹雪に襲われ碌に外出できないが、夏は快適に過ごせることもあって人気の街である。噂では、此処の領主は温厚で有名とも聞くので領民にとっては冬場の事を除けばよい街と呼べる。


 ヴォイドは貿易都市ムセモゥラリムから西の方角へ三つほど町を超えた先にあるブリオネス伯爵領の領地内で最も最西端にある要塞都市カフリリズで活動している。ただし、今回の依頼はカフリリズの冒険者ギルドからではなく中間のある町、宿場町アイノサレアの冒険者ギルドで受けていた。


「冒険者のヴォイドです。依頼の品を納品に伺いました」


「執事のカルロスから話は聞きました。依頼の特効薬をお持ち下さったとか?」


 そう言われたため、先ほど門兵に見せた物と同じ橙色の水薬(ポーション)魔法(マジック)(バック)から取り出してテーブルの上に置いた。


 ティブルシオ伯は橙色の水薬(ポーション)を見ると嬉しさのあまり涙を流す。


「大旦那様、これでナタリアお嬢様も助かります。本当に―――本当によがっだでず」


 執事のカルロスも同様に涙を流しながら喜んでいた。


「ヴォイド殿。此度は誠に感謝致します。おかげで孫娘の命を助けることができます。本当にありがとうございます」


 感謝の言葉と少々雑談をする中で、ティブルシオ伯は少し困惑気味にとある話題を聞いてきた。


「ヴォイド殿は、その、隻腕隻眼として、名を轟かせている事は知っていたが・・・良く、片腕で貴重な紫斑病の特効薬を持って、ムセモゥラリムの街に来られるほどの実力者なのだと改めて認識させられました」


 宿場町アイノサレアから貿易都市ムセモゥラリムまで、道のりは然程険しくはないが、この時期の移動に加えて、スノーウルフやツンドラグリズリー、アイスドレイクが存在する。寒い地方に存在する狼系の魔物スノーウルフ、白い毛並みに人よりも大きい体格。群れで行動する厄介な魔物だ。ツンドラグリズリーは熊系の魔物で体長は約五メートルもある巨体、凶暴且つ固い毛皮に覆われた(ビー)ランク冒険者のチームが挑むような化け物だ。アイスドレイクはツンドラグリズリーに並ぶこの地域ではトップランクの魔物で、姿は二足歩行の巨大肉食獣である。近い姿としてはティラノサウルスに体中が六角錐の様な氷柱が生えている事だろう。低ランクの魔物や獣も当然出てくる。


 寧ろ低ランクの魔物の方が、出現率が高い。高ランクの魔物だろうと低ランクの魔物だろうと片腕で戦闘をするとなると他の者より難易度は高くなる。ただの片腕だけではなく、片目も包帯で覆われているので、視界が十分確保できない上に、両目と片目では距離感の把握が大きく違う。


 それに、集団(チーム)での活動ではなく、単独(ソロ)活動をしている。隻腕隻眼に単独(ソロ)ともなれば、よほどの実力者でない限り冒険者家業を続けようとは思わないだろう。


 実力のある冒険者ですら片腕や片足を失った場合、冒険者家業を引退するか、低ランク冒険者が受けるような簡単な依頼のみ受けたりする。後は経験を生かした教官系の仕事を定期的に受けたりしているのだ。


 そういう事を踏まえてティブルシオ伯はヴォイドの事を気にかけた。


「隻腕隻眼と言われているのは承知しておりますが、実は右腕がないわけではないのですよ」


 そういって、予め幻術をかけた上で、包帯でグルグル巻きにした手を見せる。


「実は、半年ほど前に呪いを受けてしまって、右腕と右目の機能を失っているだけなんですよ」


 呪い。人または霊的存在などの物体が、物理的または精神的、霊的な手段を用いて悪意を相手に向け、対象者に対し災いや不幸をもたらす行為。これが強力な物になると人を死に至らしめる呪殺、呪詛と呼ばれる。祟りなんかも同様にこの呪いによるもので、相手に呪いをかける行為を呪術と呼ぶ。その他に怨念が道具に取り付き呪われた装備品として世に出回る場合もあるが、此方は何方かと言うと闇市場や闇オークションで販売されている。相手を呪い殺すような道具は呪殺具として知られているが、これは闇市場でも滅多に出回らない代物。


「まあ、実際に使えないので、隻眼隻腕と言う呼ばれ方も間違ってはいませんがね」


「そ、そうか。それは申し訳ない事を聞いてしまった許してほしい」


 ヴォイドは、気にしていないと返答をする。


「呪いを解く事は出来ないのか?解呪用の水薬が無いのであれば、孫娘を救ってくれたお礼に手配するぞ?」


「それはありがたい事なのですが、既に何度も試して駄目だったので、相当強力な解呪薬でないと効果が無いのだと思います。それに今は呪いの進行も止まっていますので」


 実際に、ヴォイドはこの目と腕になって、魔法や薬などで治療を試みたが無駄に終わっている。それにこれは呪いであって呪いではない事を理解していたから解呪できないだろうと言う予感めいたものもあった。


 動かない右腕を見ながら、何処か悲しい様な・・・それでいて、憎しみの様な感情がヴォイドの心の中を渦巻くのであった。


 それから、依頼完了の書類にサインをもらい。最寄りの冒険者ギルドへ向かう。報酬の金銭は、冒険者ギルドで受け取るか、今回の様に金額の報酬額が多額になる場合などは直接本人から受け取ることもある。―――まあ、直接受け取る行為は割りとトラブルになる事もあるので、冒険者ギルドからはあまり推奨されない。


 冒険者ギルドに依頼を行う際、依頼内容とどのランクで報酬はいくらなのか設定し、加えて事前に依頼達成報酬額を先に支払う必要がある。この時に依頼達成報酬に加えて手数料も取られる。ちなみに、依頼を受けた内容によって、依頼を掲示する掲示板をその場所の冒険者ギルドだけにするのか、特殊な魔道具を用いて他の支部の冒険者ギルドへも連絡をする仕組みが作られているらしい。


 当然、ただでさえ貴重な魔道具な上に、その中でもかなり希少な分類に入る通信魔道具。数が極端に少ないため、冒険者ギルドでも大きな町の冒険者ギルドにしか設置されていない。小さい町にない理由は、他にも双方が必要になる魔道具で、一個だけだと意味をなさない、双方にあってこそ力を発揮するのだ。遺跡から発見される時は、たいてい十数個見つかるが、そのうち使えるものが半数ぐらいと言われている。壊れている魔道具を修理すれば使えるが、壊れ具合によるし、壊れている個所が異なるのであれば取り換えて使えるようにしているが、それでも数に限りがあるのだ。


 依頼も完了した事なので、僕は要塞都市カフリリズへ戻ることにした。この吹雪の中、戻るのかと止められるだろうが、この程度の気象は問題ない。依頼完了の報告をした時、冒険者ギルドの受付嬢から偉く感謝された。此処の領地を治めるティブルシオ・インファンテ・イ・ブリオネスと言う人物はやはりとても領民に好かれる人物なのが良く分かった。


 この世界に来てから早半年が経過するが、彼の様な人物が多くいるこの世界はとても良い世界なのだろうと感心させられる。


 僕がいた前の世界は、この世界よりも人類が住みにくい環境の上、人類と影混人(シャドークリーチャー)と呼ばれる全人類の敵と戦争を繰り広げていた。


 そんな世界からこの世界に居るのは、ある事件がきっかけとなっている。


 遡る事、半年前―――――。











 惑星アルメスタ。人類と影混人(シャドークリーチャー)の全面戦争が激化する中、彼はとある国の軍隊に所属していた。


「ヴォイド大尉、このままでは前線が維持できません」


「仕方がない。此処は一時撤退、退路を僕が行う。皆は急いで撤退の準備を」


 前線基地から更に敵との戦闘を行う近くに設置された拠点。そこで数十名の軍人が、直ぐ近くで行われている戦闘の指揮を担っていたのだが、最前線で戦う味方が次々に敵に倒され、今まさに最前線の戦闘は地獄絵図と化していた。


「大尉危険です。我々がっ」


 階級の低い隊員が上官を殿(しんがり)にできないと訴えてくるが、その言葉を言い終える前に止める。


「ナンツ伍長、これは命令だッ!!」


「しかし・・・」


 上官想いの良い部下に恵まれていると思いながら、腰に付けた二本の剣を見せる。この世界は剣や槍、矛と言った武器で敵を倒す。敵である影混人(シャドークリーチャー)は、特殊加工された武器でしかダメージを与えられず、遠距離攻撃の手段は得策ではないため、弓矢などの武器は余り発展しなかった。


 そして、魔力と呼ばれる力が皆の体内に宿ってもいる。魔力は魔具と呼ばれる道具に魔力を込めると身体能力が飛躍的向上したり、魔力盾(オーラシールド)と言われるエネルギーシールドを展開したりする事も出来る力で、魔力を他に使用する技術は存在しない。


 過去に魔力を纏わせた遠距離武器、例えば弓矢の矢に付与させてはなったが、肉体から離れると魔力が霧散して通常の矢と変わらない結果となった。魔力は肉体から離れると意味がないと言うのがこの世界での常識でもある。


「僕が何て呼ばれているか知っているでしょ?」


 ヴォイド・グレイス大尉。軍人学校を首席で卒業したエリート軍人。入隊時より准尉の地位についており、これまでの功績から大尉へと昇格している。彼の戦闘は双剣と体術を巧みに操り、敵を殲滅するスタイルから紅き剣人と呼ばれている。単身で集団との戦闘を主とし、敵に大ダメージを与える軍事戦略の要としての役割もある。そう言う人物だ。


 少尉とは、軍内での地位を表すもので、最も地位が高い者を元帥と呼ばれ、順に大将、中将、少将、准将、大佐、中佐、少佐、大尉、中尉、少尉、准尉、曹長、軍曹、伍長、兵長、上等兵、一等兵、二等兵となっている。


 ヴォイドの大尉と言う地位は、年齢から考えるとかなり優秀だと言われる地位で、それなりの功績を幾度か得なければその地位に就く事は出来ない。同じ地位にいる者は、例外を除いてほぼ(ヴォイド)より十歳は離れている。


 ヴォイドは、軍の中でもトップクラスの若手の一人として、軍上層部に注目されている。


「早く行くんだ。時間がないぞ」


 追い立てるよう部下たちを逃がした僕は、部下たちを背に愛用の武器を抜き構える。大地が揺れ、場の空気が重苦しくなる。


「お前たちの相手は、僕だッ!!」


 最前線で戦闘していた部下を撤退させた事で、敵の進行が勢いづく。そんな中をヴォイドはただ一人、武器を振るい迫りくる敵に対して一歩も引かない戦闘を繰り広げた。


 誰もその場にいないから、どれほど凄い戦闘を繰り広げていたのか知る由もないが、その戦闘を一言で表すなら一騎当千の働きとでも表現できる働きぶり。


 しかし、そんな戦闘を長い時間続ける事は不可能で、ヴォイドの攻撃や動きも次第に鋭さが衰えてきた。


 身体中に出来た切傷に自分の血や泥で、戦闘服もボロボロになる。


 疲労からか、足の踏ん張りが効かず、鍔迫り合いに推し負けそうになっている時に、そいつはやって来た。


「待たせたな。大丈夫か?」


 颯爽(さっそう)と現れた人物。鍔迫り合いをしていた敵が上下に分断せれ、おまけに周囲にいた敵も一掃してから此方に顔を向ける。驚愕の表情を浮かべる僕を見るなり、余裕の笑みを浮かべてそう言ってきた。


 助けに入ってきた人物は、僕のよく知る人物。ファビオ・アルバレス大尉。同じ大尉と言う地位を授かり、共に軍人学校を卒業した同期の人物で、卒業時は次席と言う成績だったが、武よりも文に優れた才能を持つ最も信頼をしている親友。


「ファビオッ!? どうして此処に?」


 ヴォイドは、天才と称されるぐらい軍人学校では飛び抜けた実力があったが、ファビオも同様に天才と呼ばれる程の人物だった。その証拠に次席と三席との間には絶対的な差があったのだ。ヴォイドがいなければ間違いなくファビオが首席になっていた事だろう。


 だが、生憎と同年代に二人の天才が現れた事は、必ずしも良い事とは言えない。何せ天才同士がぶつかり能力を高めあえる関係であれば、それほど問題はないのだが、天才でも一方の方がより高い能力だと一人は表に立ち、負けた方は日陰を見ることになってしまう。


「君の部隊が撤退しているのを見てな。彼らから君が殿(しんがり)をしていると聞いて、手助けに来たわけだ」


 ファビオ・アルバレス大尉はそう言うと細めの片手剣を構える。


「まずは敵を分断させるぞッ。左を頼む、俺は右側へ行くから」


 そういって今襲ってきている影混人(シャドークリーチャー)の集団の半分を引き連れる形で移動した。


 奥にはまだ、たくさんの敵が此方にやってきているが、それよりも手前の敵を食い止めない限りは始まらない。その敵の半分をファビオが引き受けてくれたことでヴォイドにのしかかる重圧が少し軽減された気がした。


 襲い来る影混人(シャドークリーチャー)を相手にどれだけの時間が経過しただろう。足元には無数の影混人(シャドークリーチャー)の死骸が転がっている。不思議な事にあれらは倒した後一定時間経過すると身体が崩れ落ち粉々になって消える。


 よし、そろそろ皆戻れた頃だろうから僕達もこのあたりで撤退するか。


 敵の進行に僅かながら変化があり、一人で戦闘を開始して時間もかなり経過したことで、殿としての役目を果たしたと判断したヴォイドは、速やかに撤退を開始する。


 追撃してくる数体を道中で倒していると、予想以上に戦火が広がっていることに疑問視し始める。


 ッ!!


 ふと視線を別の所に向けると、撤退に失敗したのだろう仲間の死体が転がっている。此処は戦場で死体が転がっているのは当たり前なのだが、転がっている死体と言うよりも誰の死体がと言うのが問題だった。


 その死体は、ヴォイドが撤退の命令を出した時に、ナンツ伍長と共に撤退したはずのジャクソン上等兵とマイルズ一等兵だったのだ。


(ジャクソンッ!? マイルズッ!? どうしてッ!!)


 ヴォイド自身は、進行してくる影混人(シャドークリーチャー)を一体も通していない、にも拘わらず、殿で足止めをしていた場所からかなり地点で仲間たちの遺体がたくさんある事に違和感を覚える。


 偶々(たまたま)、自分が守っていた場所以外からの侵入はあり得ないことではないが、数体程度あれば撤退している面々でも対処は出来るはずだ。


 それに、仲間の遺体を確認するとその傷口にも少し違和感を覚えた。


 影混人(シャドークリーチャー)には、いくつかの種類に分けられており、一つは要塞(ヘヴィメタル)級、特兵(ボサノヴァ)級、尖兵(オルタナ)級に分かれている。つまり大型、中型、小型と言う感じに個体の大きさを表している。次に遠距離、中距離、近距離と戦闘スタイルの違い。最後に個々に植え付けられているような武器との一体化の形状、近距離であれば片刃大剣、戦斧(バトルアックス)鈍器(メイス)などで、中距離が槍、大鎌(デスサイズ) 等の少し大きめの武器になる。遠距離は大きな球体を撃ち出す砲撃に小さい球を連続で打ち込んでくる弾撃等だ。因みに遠距離タイプは要塞(ヘヴィメタル)級のみで、特兵(ボサノヴァ)級や尖兵(オルタナ)級の移動時の乗り物として使われる事がある。


 要塞(ヘヴィメタル)級、特兵(ボサノヴァ)級、尖兵(オルタナ)級と命名されているのは、初めて影混人(シャドークリーチャー)と遭遇した時に当時の指揮官が勝手に名前を付けただけで、これと言った理由はない。それと、砲撃や弾撃と言うが、ヴォイドたちが居る世界で銃や大砲と言う言葉は存在しない。投石器の様な物が昔存在し、その武器が岩ではなく鉄球で鉄砲砕機と言う名前だった。似た様な攻撃から砲撃と言う名前が広がったと言われている。


 話がそれてしまったが、仲間の傷口が影混人(シャドークリーチャー)の者とは異なる様な気がする。はっきりと断言できないが、引っかかる物を覚えたのだ。


 ヴォイドに悲しんでいる時間はなかった。


 彼が向かっていた方角から大きな爆発音が鳴り響く。少し遅れて激しい突風と爆発の熱からか熱発も混ざっていた。空気が震え、ヴォイドの肌を刺激すると共に危機感を抱かせた。


 まさかッ!!


 慌てて体を起こし、急いで目的地の方角へ走る。すると、大きな、非常に大きな街が炎と黒煙に包まれ、まるで地獄絵図を見ているかのようだった。


 最近同じ光景を見たばかり・・・いや、最近ではない今しがたと言うべき短い時間。最前線で戦っている状況と同じだ。違うとすれば、此処は守るべき住民や彼らの生活をしていた家やお店等がある。


「きゃああああああ」


「やめてくれーーーぐあっ」


 街から聞こえ悲鳴の断末魔。逃げ惑う住民にそれを守ろうとする軍人達。劣勢と言わざる得ない状況にヴォイドも急いで街の中に入り、尖兵(オルタナ)級の影混人(シャドークリーチャー)を次々に斬り飛ばす。


 双剣、しかも此処は縦横無尽に動く事が出来る建物がたくさんある。ヴォイドは、建物の壁を足場に立体的な動きと速度で敵を容赦なく倒し続けた。


 街中に転がる住民達や軍人の死体の山々、建物は半壊し、人が焼ける匂いと血の臭いでこの場に立っているだけで気分が悪くなるようだった。


「よ、寄るなッ!! マナリ逃げろっ」


「や、やだ。おにいちゃんといるもん」


 今にも襲われそうな兄妹を発見し、速やかに救援に向かう。


 背後からの奇襲による連続斬りでその場にいた七体の尖兵(オルタナ)級の影混人(シャドークリーチャー)を屠る。


「さあ、今のうちに―――ッ!!」


 死角から襲って来る真っ黒い大鎌(デスサイズ)。右手に持つ剣で大鎌(デスサイズ)の刃を受け止め、左手に持つ剣で大鎌(デスサイズ)の柄の部分を抑え込む。殺気のような物は感じられないのに、それでも反応できたのは直感的な何かを感じ取ったからだ。


 けれど、受け止める態勢が悪かったのか、相手の力が上回っていたのか、或いはその両方だったのか、兎に角ヴォイドの身体は吹き飛ばされて半壊していた住宅に突っ込んだ。衝突の衝撃で二階部分が崩れ落ち、ヴォイドは瓦礫に埋もれてしまった。


「うぅ・・・。何が起こった?」


 どれ程意識が無かったのか分からないが、まだ外で戦闘を行う音が聞こえている以上、自分もこんな所でゆっくり等してはいられない。全身に痛みを伴いながら、覆いかぶさる瓦礫を退かせて地上に出る。


 吹き飛ばされる前にいた場所まで移動すると、助けようとしていた兄妹が地面に縮こまる様に抱き合って座っていた。


「よかった・・・まだ・・・ッ!!」


 しかし、二人の座っている場所には(おびただ)しい量の血溜まりが出来ており、近寄って分かったが、二人の身体は左右に真っ二つにされ、此方側からは普通に見えていたが、反対側は見るも無残な姿になっていた。


 ぐっ・・・っ!!


 守れなかった事に対しての怒りに全身が震える。唇を噛み締め、血が流れる。二人をこのような姿にした影混人(シャドークリーチャー)は既にこの場には居ない。別の場所に移動でもしたのだろう。


「必ず仇は取ってやるからな」


 二人の亡骸をそのまま放置し、ヴォイドは怒りと悔しい気持ちを糧に戦闘音がする方へ移動した。


 道中に見つけた影混人(シャドークリーチャー)は全て殲滅し、倒れた住民が入れば助けようと近寄るが今の所生存者はいなかった。


 暫く進むと十数人の軍人たちが百数人の生き残っている住民を守りながら戦闘を繰り広げていた。


「痛ッ!! だが、皆を守らなければ・・・武闘連技『空閃双翼刃(ブライトニング・エアレイド)』」


 半壊した建物を足場に縦横無尽に動き回り敵を瞬殺するヴォイドの双剣技の上位技にして十八番(オハコ)。速さと正確な剣捌きで十数体の影混人(シャドークリーチャー)の命を散らす。


「ん? ヴォイドかッ!? 生きておったのじゃな?」


 この集団の守りの要であり、この場の誰よりも地位が上の人物、バラン・ドランゴ中佐。屈強の軍人と言う見た目から部下に恐れられる程の逸材。


 褐色肌の白髪のモヒカン頭。五十歳代とは見えない巌の様な体格から繰り出す大矛は、周囲を巻き込む様に全てを薙ぎ払う。


「バラン中佐、どうして前線基地がこんなことに?」


 幾ら最前線が崩壊して前線基地に移動したとしても此処まで押し込まれるのは事実上あり得ない。前線基地が数時間で陥落するのであれば、前線基地としての名前が泣いてしまう。


 それに、最前線よりも前線基地の方が軍事力は圧倒的に上なのだ。


「最前線が崩壊したのだろう? 突然、影混人(シャドークリーチャー)の軍勢が襲い掛かって来てこの有様だ」


 道中で見かけた部下たちの死体の数々。全員分を確認している時間はなかったが、誰一人最前線から戻って来ていない様だ。


「それよりもヴォイド大尉。お前はこのまま中央都市へ向かえッ!! 此処を襲った軍勢の殆どは中央都市に向かっている。何としても大統領達を守るんだッ!!」


「それでは、此処がッ!!」


 どう考えても守り切れない程の戦況。一度此処の体制を整えなければ、この場に未来はない。そう言う状況だった。


「良いから行けッ!! この中でお前ほどの実力者はいない。この場に留まれば大勢の人は助かるだろうが、中央都市は消滅し、影混人(シャドークリーチャー)に世界を支配される。生き残っても待つのは地獄だ。だからお前が、お前が大統領を守るんだ」


 サイフォ種と呼ばれる馬が用意され、それに跨ると他の軍人から背鞄(バックパック)を受け取る。中には軍で使用される標準装備一式が入っていて、数人の軍人がこの背鞄(バックパック)を基地から持ち出していた。


「ヴォイド大尉、これも持っていけ」


 部下たちに影混人(シャドークリーチャー)の相手をさせ、その隙にバラン中佐がヴォイドの下にやってきて数本の小瓶を手渡す。中身は水薬(リーフ)と回復薬で、中軽度の傷であればたちどころに治してくれる代物。非常に高価な薬でもある。


 流石に受け取れないと拒むヴォイドだったが、バラン中佐がどうしても必要になるからと譲らずに受け取ることにした。


 サイフォ種と言う種類の馬で走って約三日の距離にある中央都市。此処を襲った敵よりも早く着ける事を願いながら、馬を走らせた。


 バラン中佐たちも直ぐに戦闘に戻り、住民たちを守るために死力を尽くし、ヴォイドが出発して二日後には前線基地のある街は誰一人いなくなり、事実上壊滅してしまった。


 バラン中佐も街と共に運命を共にし、その街の生存者はたったの四人。うち一人が軍人で残りは非戦闘員の住民であるが、この四人も街を離れて一日後に影混人(シャドークリーチャー)の別動隊に補足され、攻撃を受けて全滅してしまったのだが、ヴォイドはこの情報を知る由もなかった。

読んで頂きありがとうございます。

連動作品が絡んでくるのはまだまだ先の事になりますが、これからも是非読んで頂けると嬉しいです。面白いと思った方は是非ブックマークを。

誤字脱字が多いと思いますが、ご連絡いただければ修正等随時行って参りますので、よろしくお願いします。

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