【3年H組・副担任】御坂 月美(みさか つきみ)【最終回】
「若彦先生、彼女たちを認めてあげてください」
「御坂 月美先生」
卒業式前日に行われた3年H組最後の授業。生徒数39名の出欠確認で突如現れた、存在するはずのない40人目の生徒《割石 月》……彼女の正体はH組副担任の《御坂 月美》先生だった。
「なぜ……私が『良坊 種夢』だと?」
去年の秋ごろから、オレと同じように女子高生を主人公とした設定の百合小説を書き、瞬く間に人気作家となった「良坊 種夢」の正体も御坂先生だったのだ。
「えぇ、最初は鴨狩から『ペンネームを見ればわかる』って聞いたとき、同じ漢字を2つも使っている『雁坂 良夢』先生だと思っていました。でも確証がなかったので、『良』『坊』『種』『夢』それぞれの漢字の読みを変えたり組み合わせを変えたりもしたんですが……でも全然わからなくて」
「……」
「そんなとき、百合切から『良坊先生は竹久夢二のファン』という話を聞いて……最後の『夢』は竹久夢二のことだってわかったとき、ピーンときたんですよ!」
「……」
「夢以外の3文字だけで……読みを変えて組み合わせてみたらどうなるか?
『良』は『よい』
『坊』は『まち』
『種』は『くさ』
……そう、『よいまちくさ』です。そして竹久夢二といえば……有名な詞『宵待草』ですよね?」
「……」
「この宵待草、実際には存在しない植物ですが一説には『マツヨイグサ』、さらには同属の『ツキミソウ』とも言われています」
「……」
「ツキミソウ……と言えば思い浮かぶのが太宰治の『富嶽百景』です。この話の中に『富士には月見草がよく似合ふ』という記述があります。そして、この話の舞台となった場所は……甲州の『御坂峠』です! 御坂、そしてツキミ! そう、良坊種夢の正体は……アナタですよね!?」
オレの話を黙って聞いていた御坂先生は少し口角を上げると、
「そう、正解ですわ……そして、H組の生徒たちにメールを送信したのも私です」
良坊の正体と、メールの送り主だったことをあっさり認めた。
「教えてください! なんでこんなことを?」
オレが知りたいのは黒幕が御坂先生だということではない。なぜ、オレを窮地に追い込むようなことをしたのか? 別にオレが生徒をモチーフに小説を書いたところで、個人が特定されるようなことは何ひとつ書いていないのだから御坂先生や生徒たちには何の迷惑もかけていないはず……なのにナゼ?
「その前に……この『H組』というクラスは何なのか知りたくありませんか?」
御坂先生が逆に質問をしてきた。
「えぇ……それはオレも知りたいところです」
この学園に入ってからの謎だ。もちろん知りたい。御坂先生は、一度だけ遠い目をしてからゆっくりと語りだした。
「まずは……『H組』の『H』です。若彦先生も不思議に思っていらっしゃったでしょう? G組がないって……」
「そりゃまぁ……普通は思いますよ」
「ですよね? なぜならこの『H』、順番ではなくある言葉の頭文字だからです」
「まさか……HENTAI?」
「そうです……つまりこのクラスは元々、【変態】生徒の集まりなんです」
「……は?」
「この虻野丸学園は、幼稚園から大学までエスカレーター式なのは先生もご存じですよね? このクラスは、初等部(小学校)から中等部(中学校)の間に性癖等で問題があった児童生徒を集めたクラスなんです」
「……へ?」
「本来なら義務教育終了時に退学……高等部への進学は不可能なんですが、学業やスポーツ等で実力が認められたり、親がこの学園の大口のスポンサーだったりして退学処分にできない子たちに対応するため作られたクラスなんですよ」
「……え?」
「この学園にはなぜか、数年に一度このような生徒たちが多く集まることがあるんです。そのたびに『H組』を設置しているんです。つまりこのH組は特殊なんですよ……なのでクラス替えもありませんし、クラブ活動以外で他のクラスの生徒たちとはほとんど交流がありません……教室も隔離されているんです。他のクラスの生徒に変態行為を行うと彼女たちにはペナルティーが科せられるんですよ」
――なんてこった! じゃあここにいる連中は1年のときから「問題児」ってことじゃないか!? だがそれでは疑問が残る。
「でも、コイツらは1、2年の頃は普通の生徒でしたよ……なぜですか?」
「それは……あなたが影響しているんですよ若彦先生!」
「え? オレ……?」
「あなたは……この子たちが1年のとき、1学期の途中から担任をされていましたよね? なぜあなたに担任の話がきたかわかりますか?」
「そっそれは……当時の担任の先生が退職されて……」
「えぇ、そうなんですけど……なぜ若彦先生が選ばれたんでしょうか?」
「いや……それは……」
「前任の先生が退職されて、担任が不在になってしまいました。もう察しが付くと思いますが、本当の退職理由は体調不良ではなく、彼女たちの変態行為によるストレスです」
――うわマジか……前担任の先生もお気の毒に。
「そんなとき……このクラスの国語総合を担当していた、まだ新任の常勤講師だった若彦先生のことを生徒全員が気に入って……新しい担任にして欲しいという声が上がってきたんです」
「それでオレが担任に?」
――とんでもない迷惑な話だ! それじゃ生贄じゃないか!
「でも彼女たちは自分の性癖に気付いているので、まともな恋愛ができないことは自覚しています。なので若彦先生の前では、普通の生徒を装っていたんですよ」
――できれば卒業までそうしていて欲しかったな。
「でも……この子たちが3年生になり若彦先生への想いは募るばかりなのに、卒業までのタイムリミットを肌で感じるようになってきて……焦った彼女たちは私に相談するようになりました。そこで私は、思い切ってカミングアウトしたら? って提案しました。若彦先生に自分の性癖をありのままに見せて、それで先生が受け入れても受け入れなくても後悔はないでしょう? と……」
――なんてこったぁ! 結局この人が焚きつけたんじゃねぇかぁああああ!!
御坂先生がそんなこと言わなければオレは……スタンガン押し当てられたり顔に鼻水かけられたり体臭が染み込んだリンゴ食わされたり身体に卑猥な文字を書かれたり……(中略)……口の中にゲ●入れられたり知らない場所に放置されたり足ツボ痛かったりBL風イラストのネタにされたりしなかったのに!
「わっわかりました! H組のことはわかりましたが……だからといってアナタがこんなことをする必要はないでしょう!? なぜメールや小説を?」
「それは……」
と言うとそれまで平静を装っていた御坂先生が一変して険しい表情になった。
「若彦先生! それはあなたが何もわかっていないから……いえ、わかろうとしなかったからです!」
「えっ? どういうことですかっ?」
わかってないとかわかろうとしないとか……勝手に上から目線で決めつけられたことでオレも少しイラっとしてきた。
「彼女たちは1、2年の間、自分の性癖がバレないようにしながらも実はそれとなく先生にアピールしていたんですよ。例えば彼女たちは、先生が無理を承知でお願いをしてきても決して嫌な顔をせず素直に言うことを聞いていました。それはあなたのことが好きだったからですよ」
「……」
「なのに……あなたはそんな彼女たちの気持ちをわかってやらないどころか、あろうことか彼女たちをモチーフに『粟津まに』というペンネームで小説を書き始めてしまった……しかも容姿だけを参考にして彼女たちの本質なんか一切無視……あなたは何もわかっていなかった! 彼女たちの自己アピールは一切届いていなかったってことですよ!」
「いやそれは……そんなのわかるワケないでしょ?」
「そんな彼女たちの本質を何もわからずに書いた小説が人気になって……元々あなたはクソ面白くない異世界モノしか書けない救いようもないほどレベルの低い底辺作家だったはずなのに……はっきり言って『粟津まに』の存在が不愉快でした」
――うわっ! クソ面白くない異世界モノって……当たっているだけに凹む。
「ちょっと待ってください! さっきから気になっていたんだけど……何で御坂先生はオレが小説書いていることを知ってるんですか? しかもオレのペンネームまで……このことは、学園内では元々1人しか知らなかったハズなのに……」
「えぇ、その1人から聞いたんですけど?」
――何だってぇええええっ!?
その1人とは養護教諭のニーナこと《鳥居地 新名》のことだ! アイツはオレの学生時代からの友人で、そのときから小説を書いていたことを知る数少ない人間だ。オレが百合小説を書くようになってからはニーナのカウンセリングの知識を活かし、登場人物の心理描写をアドバイスしてもらったりしていた。
だがニーナは同時期、御坂先生と同じサークルで先輩後輩の間柄でもあった。ただアイツが言うには御坂先生とは当時、そこまで親しくはなかったそうだが……。
「アイツ、もっと口が堅いヤツだと思っていたのに……」
「悪く思わないでね! だってあの娘……私のネコちゃんですから」
――え?
「せ……先生、今の……どういう意味ですか?」
「あら、アナタは百合書いてるのにわからないんですか? そういう意味ですよ」
――はぁああああああっ!?
GLやBLなど、同性愛の世界では「立場」が決まっていたりする。一般的にそれを「攻め」「受け」と呼ぶが、他にも「タチ」「ネコ」という言い方がある。
えっ、てことはこの2人、そういう関係? おい冗談だろ? 教師同士で? 確かに、以前からこの2人にはそういう噂があったが、それは「そういう設定」が好きな生徒たちによる「カップリング」だと思っていた。しかも見た目が「イケメン女子」で完全「タチ(攻め)」属性と思われていたニーナが実は……
――ボイネコ(ボーイッシュな受け)だったんかーぃ!!
「マジですか? じゃあアナタたちはずっとグルで……」
「いえ、私があの娘から聞いたのは若彦先生が『粟津まに』だということだけ……後は一切関わってないわ」
そういえば……最初に「謎のメール」が出回ったとき、ニーナは「御坂先生が怪しい」と言っていた。確かにメールの件は知らなかったようだ。
当然ニーナは御坂先生を疑うだろう。だってオレが小説家だという秘密、アイツが御坂先生にしゃべってんだから……ってバカヤロー!!
「そこで私は、若彦先生に思いを寄せていた星ちゃんに『粟津まに』の本を何冊か渡しました。すると彼女は頭が良いのですぐにそれが若彦先生だと気付きました。ペンネームの謎まで解いてしまったのにはさすがに私も驚きましたが……」
そうだったのか! H組のクラス委員長、《愛宕 星》は一番最初にオレの正体に気が付いた生徒だ。しかも唯一、自力で謎を解いた生徒だが……そうか、コイツに「粟津まに」の存在を教えたのは御坂先生だったんだ。
「ある日、星ちゃんが先生に告白したいと言い出してきたので……私は彼女に、自分の性癖も包み隠さず晒すよう提案しました。そして、星ちゃんの性癖を知っていた私は……彼女に小型のスタンガンを渡したんです」
愛宕は、低周波治療器やスタンガンなどの電気製品を使いオレが苦痛に歪む表情を見て興奮する【変態】だが……
「え? あのスタンガン……御坂先生が与えたんですか? アレって愛宕が家から持ってきたのかと……」
すると愛宕が、
「いや、確かに私のパパは家電のレビューサイトやってるっスけど……さすがにスタンガンは家電じゃないっスから……アレは月美お姉ちゃんからもらったっス」
「そうですよ、私は元々護身用グッズを集めるのが趣味でしたから……」
ずいぶん変わった趣味だな? そうか、だから御坂先生もスタンガン持っていたんだ……もっとも、御坂先生のスタンガンは愛宕の何十倍も強烈だったが……っていうか、今ちょっと聞き捨てならない言葉が……?
「愛宕……今、御坂先生のことを『お姉ちゃん』って呼ばなかったか?」
「えっ今ごろ何言ってるっスか? 月美お姉ちゃんは私の従姉妹っスよ」
――イトコだったんかぃ!!
「結局、星ちゃんは先生に告白したものの、ただの変態扱いされただけで終わりました。他の生徒たちはそれを聞いて告白をためらってしまったので私は、若彦先生が『粟津まに』だということと、モチーフにされている生徒の場合にはその作品名を書いたSMSを送信したんです」
そういや以前、知らない番号からSMSが送られてきたと誰か言ってたな……生徒に電話番号を知らせていない携帯なら、正体がバレずに送ることが可能だ。
「あとは先生も知っての通り……彼女たちはそのメールの内容を後ろ盾に次々と性癖と、先生に対する思いを告白していきました……でも」
「……」
「あなたはことごとく彼女たちの想いを無にしていきました! 全て【変態】の一言で片付けて、彼女たちの気持ちに全く向き合おうとはしなかった!」
「当たり前じゃないですか! 教師が生徒と交際することは御法度ですし、そもそも変態なんてこの世の中に認められません! 認めてもいけません!」
「何でですかっ!!」
突然、御坂先生が声を荒げた。今まで見たことがない怒りに満ちた表情で……。
「何で変態が世の中に存在してはいけないんですか!? 何で変態が差別されなきゃいけないんですか!? そもそも変態の定義って何なんですか!?」
「そっそれは社会的に受け入……」
「受け入れられないっておっしゃるワケですね? 若彦先生、あなたは百合小説を書いていらっしゃいますよね? 百合は……同性愛は社会的に受け入れられていますか!? いませんか!? しかも先生はかねてから純文学を推奨されていますよね? 純文学で描かれる恋愛は全て健全で社会的に受け入れられる内容ですか!? 谷崎潤一郎や川端康成、三島由紀夫の作品は全てピュアな恋愛小説ですか!?」
「いっいや、それはフィクションの世界のことですし……」
「若彦先生!!」
「はっはい!」
オレは御坂先生の勢いに圧倒されてしまった。普段はおっとりした癒し系の先生が何でここまで……ってか、結局何が言いたいんだろう?
確かに変態がこの世から消えることはないだろうし、実際オレが書いている百合だって変態性欲のひとつだ。だがしょせん性的少数者、世間からは異様な存在としかみられないんだよ。オレや良坊の小説だって、異様な設定が世間から物珍しがられて人気が出ただけだ! 決して世間はこのキャラクターの変態性欲を真似をしたいと思っているワケじゃない。
「若彦先生……彼女たちはマイノリティです。ほぼ全てのことが多数決で決まるこの世の中で、彼女たちマイノリティの主張や意見が世の中のスタンダードになるなんて思っていません! マジョリティの主張や意見を覆すことなんかできないことは重々承知しています」
「……」
「彼女たちの願いは……たったひとつ……だけなんです! それは……
『存在を認めてほしい』
ただ……これだけなんです」
「存在を……認める?」
「そうです、ただ存在を認めるだけでいいんです。マジョリティの力で存在意義すら否定されてしまったら彼女たちは生きている意味が無くなってしまうんです……主張なんか通らなくたっていい、変わり者扱いされたっていい! ただ世間が、彼女たちの存在を認めてさえくれれば……それだけで彼女たちの居場所が確保できるんです! 生きる意味があるんです!!」
「……」
「若彦先生、先生は以前、3年からこのクラスに入った扇崎さんの食事の仕方に対して変態呼ばわりされたことがありましたよね?」
「あ、あぁ……そういやそんなことありましたっけ」
以前、《扇崎 愛》の家の食事会に誘われた。このとき、オレと扇崎だけ別棟に移され2人きりで食事をすることになったのだが、2人きりになった瞬間、扇崎はまるで野獣のような食べ方を始めて暴走、挙句の果てに襲われそうになったオレは扇崎に向かって「来るなこの変態」と言った気がする。
「あのとき、扇崎さんは自分が変態だとは思っていなかったんですよ」
――えっ? ウソでしょ? アレを正常だと……?
「彼女は、礼儀作法に厳しい家で抑圧された反動から、あの蔵の中だけであのような行為に及んでいました。彼女にとっては『ストレス発散』だったのです。もちろん他の場所では一切あの行為は封印していました。ですが、2年の林間学校の夕食のときにその性癖がうっかり発動してしまったんです。でも彼女の家は学園のスポンサー……退学にはできません。そこで3年からH組にやってきたんです」
――そうだったのか! それで……
すると、他の生徒をかき分けて扇崎が御坂先生の隣にやって来た。
「私……3年になってH組にクラス替えって言われたとき『何で私がHENTAI組に?』って思いました。正直とても不安でした。そんなときに先生から変態呼ばわりされて……とてもショックでした! でも……そんな中、愛宕さんや右左口さん、そしてH組のみんなは私のことを認めてくれて……だから私はH組のみんなの前では遠慮なくあの食べ方が出来るんです! 今ではH組に来てとても良かったと思っております。私はH組のみんなと御坂先生が大好きです!」
「え? H組のみんなはわかるけど……御坂先生、アナタは一体何を……?」
「私は……学園が彼女たちを厄介者扱いしてH組に『隔離』したことに、彼女たちが1年生のときから気付いていました。私は、そんな彼女たちを不憫に思い彼女たち一人ひとりに寄り添って、彼女たちの性癖を認めて受け入れようと考えました」
「……へっ?」
「彼女たちが若彦先生にした数々の変態行為……あれ、実は私も同じことされていたんですよ」
「は? どういうことですか?」
「先日の……雪が降った翌日のこと、覚えていますか?」
「あぁ、オレが真木のイタズラでさんざんな目に遭ったときですか?」
その日オレは、《真木 温》の雪や氷を使ったイタズラによって全身が凍傷寸前まで冷やされてしまい……最後に異常なほど厚着をして前だけをはだけたビキニ姿の真木に、真木自身の体温で暖められそうになったことがある。もちろんオレはそれを無視、代わりにざんざん説教してやった。
「あの日……私もエアコンの故障で寒さに震えていたり、池に落ちてずぶ濡れになっていましたよね?」
――あっ! そういえば……まさか?
「あの日、私も温ちゃんに同じことをされていたんですよ! でも、拒否した若彦先生と違って私は彼女に暖めてもらいましたよ! 温ちゃん、大喜びでした」
そうか! 職員室に戻ってきたとき、御坂先生がすっかり元気になっていた理由はそれだったのか。すると今度は、真木が御坂先生の隣に移動して彼女の若干年齢不相応な制服をギュッと掴んだ。
「それだけじゃありません! 私は……鼻水を顔に浴びたり、全身に文字を書かれたり、ハリセンでどつかれたり……『虫おせち』を食べたのは先生もご存じですよね? もちろん雫ちゃんのオシッコも飲みましたし、紬ちゃんのオナラも体感しましたよ……喜んで」
げっ! マジかよ……すると、岩松、右左口、鍛冶屋坂、金井、日野春、不動や鴨狩たちが次々と御坂先生の後ろに移動してきた。
「結ちゃんのために亀甲縛りも覚えましたし……さすがにキ●タマは無いから鞠ちゃんの希望には沿えなかったけど……代わりにおっぱい揉ませましたよ! 鞠ちゃん、とっても嬉しそうでしたよ」
何だってぇ!? 多麻は御坂先生の巨乳を鷲掴みにしたのかぁ!? くっそーいいなぁー……っていやいや、今はそんなこと言ってる場合じゃない! グリーンヒルや多麻も御坂先生の後ろについた。
気が付くと、H組の生徒全員が御坂先生の後ろについていた……オレの周囲には誰もいなくなっていた。
「私は……彼女たちの性癖をすべて受け入れ、認めました。彼女たちはこの性癖が故、今まで彼氏や友だちが出来ずとても辛い思いをしてきました。私は、そんな境遇でも健気に生きる彼女たちがとても愛おしく感じるようになりました。彼女たちも、私が全て受け入れたことで私に信頼と好意を持つようになりました……」
――え? 何言ってんのこの人……。
「彼女たちが……あなたから性癖を全否定され落ち込んでいたとき、私は彼女たちを慰めていました。そして……私は、彼女たち全員と『関係』を持ちました」
「え? ど……どういうことですか?」
すると御坂先生は呆気にとられた顔をして
「あら? 先生、お分かりにならないんですか? 要するに『肉体関係』、つまり彼女たち全員と『寝た』ってことですよ!」
――は?
――は?
――はぁああああああああああああああああああああっ!?
「いやいや、それはダメでしょ!? 先生と生徒でそういう関係って……そんなことがバレたら大問題ですよ!!」
「大丈夫ですよ! 関係を持ったのは彼女たちが18歳になってからです。それに彼女たちは明日、卒業ですし私も……自分の運命は概ね予想がついています」
〝キーンコーンカーンコーン〟
終業のチャイムが鳴った。
「あらっもうこんな時間……みなさーん! 今日の授業はここまででーす! 明日は卒業式です。忘れ物と遅刻はしないでね……ではさようなら!」
H組最後の授業が終わった。
この授業はオレが生徒たちに教えるのではなく、オレが生徒たちから教わる授業だった……結局オレは、このクラスの真実を何も知らなかった……いや、知ろうともしなかった【問題教師】だ。
制服姿の生徒39名と、制服姿に違和感がある副担任……
この【40人の変態たち】は一斉に教室を後にした。
教室にはオレだけひとり取り残されていた。
御坂先生は教室の扉のところで振り返ると、オレにこう言った。
「あ、若彦先生! 彼女たちは今でも先生のことが好きですよ……ただし、ちょっとニュアンスが違いますけどね」
そう言うと、そのまま教室から消えた。
※※※※※※※
翌日は卒業式だった。
彼女たち3年H組の生徒は無事、卒業式を終えた……らしい。
何で「らしい」という言い方かというと……会場にいなかったからだ。
オレは……卒業式を「欠席」した。
彼女たちに合わせる顔などない……出席する資格などないと思った。
その次の日、オレは「退職願」を提出……受理された。オレは教師を辞めた。
同時に、ラノベ作家「粟津まに」としての活動も停止……つまり筆を折った。
彼女たちの表面だけしか見ていなかったオレに作品を書く資格などない……
限界だ。
アパートを退去する日の朝、最後に吸ったタバコは……何の味もしなかった。
オレは……全てを失った。
それから……5年の月日が流れた。
※※※※※※※※※※
※※※※※※※※※※
「先生、お茶が入りました」
「あぁありがとう、そこに置いといて」
私の名前は《御坂 月美》、元教師で現在は「良坊 種夢」というペンネームで小説を書いています。
元々は以前勤めていた女子高の、H組というクラスの生徒たちをモチーフに百合小説を書いていました。いわゆるライトノベルというジャンルですが、最近ではライトノベルの定番、異世界を舞台にした小説や、女性同士の恋愛を描いた純文学小説にも幅を広げています。先日は某有名文学賞の候補にもノミネートされました。自分で言うのも何ですが「売れっ子小説家」です。
5年前、私は教師をクビになりました。当時の教え子に手を出し、関係を持ってしまったことが学園側に知られてしまったのです。私は【問題教師】というレッテルを貼られてしまいました。
当時、産休代替教員として着任した《雁坂 良夢》という男……彼は、私の行動を不審に思った学園側が雇った、教員免許を持つ『探偵』だったのです。雁坂の綿密な調査によって私の行動が暴かれ、私は職を失ってしまいました。
ですが、当時すでに作家としての依頼が殺到していたのでそこまで危機的状況にはなりませんでした。それに……
「せんせ~い、今から~お夕食の材料を買ってきま~す」
「センセー! 頼まれテタ資料、和訳しておきまシター」
「先生、そろそろマッサージのお時間ですが……いかがなされますか?」
当時のH組の生徒たちとの関係は今も続いています。私は印税で稼いだお金で郊外に大きな住宅を購入しました。私の「住居」兼、「仕事場」兼、「彼女たちの生活スペース」です。
彼女たちは現在、大学等を卒業して社会人となっています。ですが就職の決まっていない子は、ここに住み込みで私のアシスタントや身の回りの世話をするアルバイトとして働いています。それと、定職に就いている子も入れ替わり立ち替わりこの家にやって来るので、常に10人前後とこの家で共同生活をしています。
「あっ、もうすぐ月美お姉ちゃんが原作書いたアニメが始まるっスよ」
「ホンマや! はよTV付けな……今日が第1話やな?」
「しょう言えば、先しゃんの声優デビュー作でしゅね?」
私は小説以外にも、子ども向けマンガの原作も書いています。漫画家さんの頑張りもあってこのマンガは大ヒットし、アニメ化されることになりました。
しかもこのアニメで、元教え子の《角瀬 先》ちゃんが声優デビューすることになったのです……まだモブキャラの役ですけど。
「ええなぁ、モブとはいえTVに出られて……なんでサキばかり上手いこといってウチはアカンのや? ホンマ腹立つわぁ……」
「笑ちゃん、そういうことを言ってはダメよ! 相手や自分を否定しても何も変わらない……相手や自分を認めて尊重することで自身がステップアップするのよ」
「そっ……そやな、サキも頑張ってあの役掴んだんや……ウチも頑張ろ!」
元教え子の《鍛冶屋坂 笑》ちゃんは芸能事務所の養成所を卒業後、お笑い芸人をやっています。彼女は月に1、2回、小さな劇場で行われるライブに出演していますが、まだTVには1度も出たことがありません。
「あっ、今の声サキちゃんじゃない?」
「えぇ~、しぇりふ1つだけでしゅかぁ~!」
「まだ先ちゃんも主役までの道のりは遠いわね……でもこれからこれから! みんな才能あるんだから大丈夫よ!」
「「はい!」」
〝ピンポーン!〟
「あれ? 墨ちゃんじゃない? はーい!」
「こんばんは! 先生、原稿を受け取りに参りましたわ……あ、それとこちらは今月分のファンレターと『ならむうゐ』先生の修正したイラストでございます」
「あぁ墨ちゃん、ご苦労さま……あっファンレターは雫ちゃんに渡して! イラストはこっちにちょうだい! それと原稿はここにあるから持って行って!」
「はい、いつも〆切を守っていただき感謝しておりますわ」
元教え子の《右左口 墨》ちゃん……彼女は大学を卒業後、出版社に就職して私の編集担当になりました。今のご時世、原稿はメールでも送れますが、彼女はわざわざ家までやってきて私から直接受け取ります。その理由は……
「先っ……生っ!」
墨ちゃんが机に向かって仕事をしている私の背後から近付き、私の右頬に顔をくっつけてきました。
「最近お相手してくださらないのでワタクシ、寂しいでございますわぁ~」
「墨ちゃん……そう言いながら私の腕に筆ペンで『欲求不満』って書くのを止めてちょうだい」
墨ちゃんは、構って欲しい子猫のように可愛らしく甘えてきました。私は仕事中だけ掛けている眼鏡を外すとこう言いました。
「わかったわ……仕事終わったらまた家に来なさい。アナタはいつも残業で遅いけど、今夜は私も頑張って起きているから……」
すると、墨ちゃんの表情がパッと明るくなり
「ありがとうございます! 早速会社に戻って残りの仕事を済ませてきますね」
「あっ、大穴さんにもよろしく伝えといてね」
「はい、承知いたしましたわ」
と言うと、そそくさと原稿を持って家を飛び出していきました。
この家は大勢で共同生活をしています。浴室や寝室はホテルのように広いのですが、寝室は1部屋しかありません。そう、この家は私を中心とした「ハーレム城」で毎晩、彼女たちとベッドを共にしているのです。そして、墨ちゃんのようにこの家で生活していない子も、こうやって私と一夜を共にすることがあります。
ここは……男子禁制の『百合ハーレム』なのです。
ですがこの家には、1人だけ自由に出入りできる「男性」がいるのです。
〝ガチャッ〟
「ただいまー」
「あっ先生だわ!」
「先生!」「先生!」
「やだなぁー、オレはもう先生じゃないんだってば」
「お帰りなさい!」
「あっ月美さん、さっきそこでニーナに会いましたよ」
「えっ会っただけ? あの子……遠慮しないで遊びに来ればいいのに」
「しょうがないですよ! 今の彼女の手前、元カノの家には入りづらいでしょ」
「まぁねぇ……学校のことは何か言ってた?」
「相変わらずだって……宇野尾先生がまた産休に入ったんで山伏先生がブチ切れていたらしいですよ」
「ホント、相変わらずねぇ……」
彼の名は《御坂 若彦》さん。元教師で、かつて「粟津まに」というペンネームで小説を書いていました。
今は……私の「夫」です。そして……
「月美さん、これ……資料用に頼まれていた双頭バイブ買ってきました」
「ありがと……うわっ、すごい形してるのね? 若彦さん、よくこんなマニアックなの見つけてきたわね」
「あぁ、学生時代の友人でAVマニアのヤツがアダルトショップで見つけてきたんですよー」
「オマエが見つけたんやないんかーい!」
〝バチーン!〟
「痛ーっ! 相変わらずツッコミがキツいなぁ鍛冶屋坂はぁ……ハハハッ」
私の仕事のパートナーとして役に立っています。そして……
「そういえばこの前、羽ちゃんに陰毛あげたでしょ? 彼女、お礼言ってたわよ」
「お安いご用で! これでアイツもオレの体毛をコンプリートできたよね?」
「あっ先生! 早く寝室に来てくださいよ! 今までで最痛の足ツボ見つけましたからぁー」
「先生! 今日は先生の顔にまたがってオナラしたいでーしゅ!」
「えぇっ、ダメよつむつむ! それじゃ味覚変わっちゃうから……先生、私のおしっこ先に飲んでくださーい」
「センセー! その前ニー、亀甲縛りしてくだサーイ!」
「待って待って! みんな落ち着くっス! ここは順番で……」
〝バチバチバチ―ッ!〟
「うっ、痛っ……今日も痛いぞぉ愛宕ぉ!」
〝バチバチッ!〟〝バチバチッ!〟〝バチバチッ!〟
「う゛っ! う゛っ! う゛っ! ……アハハ、さぁもっと来い愛宕」
「こらぁアカリン! いつまでやっとるんや! はよ代われー!」
「アハハッ大丈夫大丈夫! みんなまとめて受けてやるぞぉ! 次は何だぁ? 亀甲縛りか? 飲尿か? オナラか? それとも……」
そして……彼はみんなの『性奴隷』、そして『肉便器』です。
ちなみに……
彼女たちが1年H組のときから若彦先生を好きだった理由……それは、
「性欲のはけ口に相応しい」
と本能的に感じ取ったからだとか……?
(女子高の問題教師と40人の変態たち・完)
最終回までお付き合いいただきありがとうございました!
いずれこのメンバーを使ったスピンオフ作品(異世界モノ?)なども考えておりますが……いつになることやら。
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