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【出席番号40番】割石 月(わりいし るな)

 


 いい天気だなぁ……




 ふと、教室に向かう廊下から外を眺めたとき、そんな心の声が漏れた。


 桜の季節はまだまだ先だが、窓から差し込む光も少しずつ暖かさを増してきた。



 明日は卒業式……


 いよいよ……





 H組の【変態】どもから解放される日だ!!





 今日はアイツらとの最後の授業……とはいってもほとんどホームルームみたいなものだ。今日と明日を乗り切ればこの地獄の日々ともおさらばだーっ!




 思えば3年前……


 公立の教員採用試験に落ちて途方に暮れていたオレに、父方の遠縁である「私立 虻野丸学園」理事長《笹子(ささご) 矢立郎(やたつろう)》氏が声を掛けてくれ、何とかこの学校の常勤講師として採用してもらえることになった。


 最初はクラスの担任もなく1年生の授業を担当するだけだったのだが、この学校で働き始めて2か月ほど経ったある日、突然クラスの担任をやって欲しいという話が舞い込んできた。

 こんな中途半端な時期に、しかもまだ新任の常勤講師に担任をやれとはずいぶんな無茶ぶりだなと思ったのだが……どうやらそのクラスの担任の先生が体調不良で退職されたらしく、その代わりとしてオレに白羽の矢が立ったようだ。

 一度は断ったが、専任教員に登用してもらえるとの条件で引き受けた。常勤講師は言うなれば契約社員……正社員に相当する専任教員という話は悪くない。


 そして、初めて担当したクラスが「1年H組」だった。


 このクラスは以前から授業を受け持っていたので知っていたが、とにかく生徒一人ひとりの「顔面偏差値」が高い……ほぼ全員が美少女だ。

 皆、従順で真面目な生徒たちばかりで、こちらが多少無理を承知でお願いをしても決して嫌な顔をせず素直に言うことを聞いてくれた。しかもこのクラスには、学業優秀な生徒やクラブ活動で中心的な役割を担う生徒、あるいは金持ちのお嬢様が通うこの学園の中でも特に資産があり、学園のスポンサー……俗な言い方をすれば資金源となっている家の令嬢も多く在籍していた。


 ただ、このクラスには謎が多かった。この高校(虻野丸学園高等部)は1学年に7クラスあるのだが、A~F組とH組……なぜかG組が存在しないのだ。

 教室も、F組との間に「空き教室」がある。ここはG組が置かれる予定だったのだろうか? 何か隔離されているような雰囲気だった。

 その後、前任の先生が退職された理由……当初は体調不良との話だったが、どうやら過度のストレスという噂を耳にした。H組の生徒と接するのが精神的に苦痛だったらしいと……この辺から何かこのクラスはヤバいのでは? と不安になった。


 だが、オレから見た限りそんなイメージなど微塵も感じられなかった。素直な生徒、明るい雰囲気、まとまりのあるクラス……どれをとっても完璧だった。

 しかも、このクラスの「副担任」がとても優しい2歳年上の……めちゃくちゃスタイルの良い美人だ。まだ新人で担任という仕事に不慣れだったオレを親切に指導してくれた。いつしかオレは、この人に好意を寄せるようになっていた。


 そんなクラスをオレは、1年、2年と問題もなく担任を務めた。だがその陰でオレは、ラノベ作家としての活動も学生時代から続けていた。当時は異世界小説を主に書いていたものの、正直パッとしない全く無名の作家だった。

 H組の担任になってこのクラスの美少女たちを見た瞬間、「この子たちをモチーフに百合小説を書こう!」と思いついた。そして、生徒たちの()()()()()()で勝手にカップリングをして小説を書いたところこれが大ヒット! オレは瞬く間に百合小説家として有名になった……もちろんこれは学園には内緒だ。学園内でこの秘密を知る者は、学生時代からの友人である養護教諭しかいない。


 オレは公私ともに順風満帆な日々を送っていた。2年、3年とクラス替えで誰も移動しなかった(正確には3年で1名増えただけ)のが少し気にはなったが……。



 だが、3年になったとき……事態は急変した。



 このクラスの委員長をしている生徒に、オレがラノベ作家を……しかもH組の生徒をモチーフにしていることを見抜かれてしまったのだ。

 その生徒は「口外しない」と約束してくれたが、やがて他のルートからオレの秘密を暴露するメールが生徒たちに送られてくるようになった。

 と、同時期に……今まで清楚なイメージだった生徒たちの【変態行動】が次々と明るみに出てくるようになった。1、2年で感じていたイメージのギャップにただただ戸惑うばかりだった。

 しかも去年の10月……文化祭あたりから、オレと同じような小説を書く「良坊 種夢」という新人作家が現れ、オレの作家としての人気は急落した。

 その小説の登場人物が、オレと同じくH組の生徒をモチーフにしていたのでオレは最初、同じ時期に着任した産休代替教員が怪しいと睨んでいた。結局コイツは無関係だったのだが、コイツはコイツで何か秘密を持っているようだ。


 誰かオレを陥れようとしている人物がいる! 先日、ある生徒の家にあった絵からその正体がわかったのだが……なぜこんなことを? それと……




 一体、何だったんだ? 『H組』って……?




 ※※※※※※※



 〝ガラガラガラッ〟


 H組の扉を開けた、「最後の授業」の始まりだ。


「起立! ……礼! 着席!」


 いつもと変わらない光景だ……まぁオレは、この変態たちと別れられる嬉しさから少しワクワクしているが……。


「あー、明日は卒業式だ! この時間はオマエたちにとって最後の授業となるワケだが……最後まで明るく楽しくやっていこう!」


「……」


 ……あれ? みんな至って普通だな? 誰か1人くらいしんみりした顔のヤツとかいてもいいのに……それと、何か教室に『違和感』を感じるのだが……。



「そっそれじゃあ出席を取るぞ! 最後だから元気よく返事してくれ」



 いよいよ最後の出欠確認だ。



「愛宕!」

「はい」


 《愛宕(あたご) (あかり)》、全てはコイツから始まった。クラス委員長で頭脳明晰、何事にも沈着冷静に対応するクラスの司令塔だ。オレの秘密を唯一、自力で見破った。そしてコイツは、低周波治療器やスタンガンを使い、オレが苦痛で歪む顔を見て興奮するという【変態】だ!



「岩松!」

「ばぃ……ズズッ」


 《岩松(いわまつ) (はな)》、コイツは少し体が小さくて細めで黒髪の美少女だが、重度の花粉症だ……もちろん今はスギ(花粉症)の最盛期! そしてコイツは鼻水やクシャミをオレに向けて放ち、汚れたオレの顔を見て興奮する【変態】だ!



「宇の岬!」

「いるよぉー!」


 《宇の岬(うのみさき) (とも)》、コイツは性に関する雑学だけは博識だが、実際の勉強はまるでダメ……ってか、よく卒業できたな!? コイツは度々、その雑学を真に受けて実践しようとする【変態】だ! 単純にバカなだけかもしれないが……。



「右左口!」

「はい」


 《右左口(うばぐち) (すみ)》、コイツは書道部部長を務めた才色兼備な生徒だ。書道の腕はプロ級で、教室の壁に掲げたクラス目標も彼女に書いてもらった。だが下ネタ大好きで、他人の身体に卑猥な言葉を書いて興奮する【変態】だ!


 それと、コイツにはひとつ聞かなければいけないことがある。


「あっ、そうだ右左口!」

「はい?」


「オマエ、先週の登校日……放課後に職員室入らなかったか?」


「――!?」


 その言葉を聞いた途端、右左口の目が大きく見開き動きが止まった。


 そう! 先週の登校日、オレが拉致されて知らない場所に放置された出来事があったのだが、当然この日は記入することが不可能なハズの「外出届」に、なぜかオレの筆跡で記入がされていたのだ。

 記入後に他の職員が見れば、オレは普通に外出した……ということで拉致事件はアリバイが成立、下手するとオレの「狂言」にされてしまうところだったが、この日たまたま産休代替教員の《雁坂(かりさか) 良夢(らむ)》が、オレがいないことに気付いて()()()()()()()を確認したため事件が明るみになった。

 右左口は普段は達筆だが、たまにふざけて女子高生がよくやる「丸文字」を書いたり有名人のサインを真似たりすることがある。コイツならオレの筆跡を真似て外出届に名前を書くアリバイ工作をすることは可能だ。


「……」

「まぁいいや、座れ」


 職員室に忍び込み外出届にウソの記入をした犯人は右左口で間違いない……だが不問にした。もうすでに黒幕の正体がわかっているからだ。



「じゃあ次……扇崎!」

「はっ、はぃ」


 今の右左口とのやり取りで教室に緊張感が漂ってしまった。


 《扇崎(おうぎざき) (まな)》、コイツはクラス替えで3年からH組に入ってきた生徒だ。この学園で5本の指に入るほど高額な寄付金をする良家の娘で、何とか引き止めたい理事長の意向? でコイツとの縁談を勧められたことがある。だがコイツは食事を野生動物のように汚い食べ方をしてそれによって性的興奮を覚える【変態】だ!



「大石!」

「はい」


 《大石(おおいし) (あゆむ)》、コイツは柔道部だったが普段はとても大人しく、しかも運動神経が良いハズなのによく転んだりするドジっ子キャラだ。修学旅行でワケあってオレの部屋で寝ることになった。そのワケとは、寝ぼけて同室の人間に関節技をかけるクセがあり、しかも相手が苦しむ姿に性的興奮を覚える【変態】だったのだ!



「鍛冶屋坂!」

「おるでぇー!」


 《鍛冶屋坂(かじやざか) (えみ)》、コイツはH組のムードメーカーだ。お笑い好きで、将来はお笑い芸人を目指している。以前、漫才の練習に付き合ってやったことがあるが、コイツはツッコミが極めて暴力的で、どつかれてもがき苦しむ相方を見て性的興奮を覚える【変態】だ!



「金井!」

「はい」


 《金井(かない) (にこ)》、コイツは純真無垢な中学生のような見た目だが、オレが死ぬほど嫌いな「虫」を擁する天敵・生物部の元部長だ。コイツはカタツムリやナメクジが好きで、カタツムリを身体に這わせて興奮したりナメクジを食べる【変態】だ!



「鴨狩!」

「はい」


 《鴨狩(かもがり) (つむぎ)》、コイツは身長が130センチ台で童顔……という小学生にしか見えないロリ美少女だ。だが、コイツは超強烈な放屁……つまりオナラをして周囲の反応を楽しむ【変態】だ! 最近は「ガチ百合」と「オムツ女子」という変態要素が増えてパワーアップしやがった。



「榧ノ木!」

「ハッ……ハイッ!!」


 《榧ノ木(かやのき) (みさお)》、コイツは三つ編みメガネの風紀委員で典型的な超真面目堅物少女だ。だが実際にはコイツの脳内はエロで溢れかえっていて、全力でエロに拒絶反応しておきながら自分でもっとエロい方向に持って行こうとする【変態】だ!



「唐沢!」

「はぁーい!」


 《唐沢(からさわ) (あくあ)》、コイツは元水泳部で、体育の自習中に泳げないクラスメイトの指導してやる優しい一面もある。だが、水泳後の濡れた水着を搾り、その搾ったプールの水を「JK汁」と称してオレに飲ませようとした【変態】だ!



「霧山!」

「は……はぃ」


 《霧山(きりやま) (こころ)》、コイツは小説に感情移入して涙するような感性豊かな美少女だ。だが実は、大の「死体マニア」で様々な動物の死骸をコレクションしていて、オレもそのコレクションに加えようとした【変態】だ!



「グリーンヒル!」

「イマース!」


 《グリーンヒル (ゆう)》、コイツはアイルランド人と日本人のハーフで、日本の文化をよく勉強している。ただ、SMが好きで一番勉強している日本文化が「亀甲縛り」という残念な【変態】だ! ちなみにH組の中で一番の巨乳らしい。



「神戸!」

「うにゃー」


 《神戸(ごうど) (みる)》、コイツはいわゆるゴスロリが趣味で問題児だが、オレのことを兄のように慕ってくる。だが、本当の趣味は「視姦」で、長期休みの度にオレの家に押し掛けては、オレをずっと見ながら妄想を膨らませる【変態】だ!



「小永田!」

「は……はい」


 《小永田(こながた) (ひめ)》、コイツは名前の通りお姫様のような可愛い容姿だ。だがコイツは、敵に追い込まれ逃げ場を失う絶望的なシチュエーションで興奮し、絶頂のあまり失神するという【変態】だ!



「笹久根!」

「はい」


 《笹久根(ささくね) (なな)》、コイツは「超激辛マニア」で、同じく激辛好きのオレと対決したこともある……しかしこれは性癖ではなく好みの問題。だがコイツの場合は激辛料理を食べると痛覚で性的興奮を覚えるドM【変態】だ!



「塩川!」

「はい」


 《塩川(しおかわ) (かおる)》、コイツは見た目がちょっとヤンキーっぽいが、至って普通の生徒だ。だがコイツは夏休み中にメチャクチャ自分の口臭をクサくして、休み明け早々オレに嗅がせてきた【変態】だ!



「七里岩!」

「ハイッ!!」


 《七里岩(しちりいわ) (めぐり)》、コイツは便秘が酷かったので、オレがマンツーマンでサポートしてやった。オレのことを「師匠」と呼ぶほど従順な子だ。だが、便秘が解消されたとき、その「成果(ウ●コ)」をオレに意地でも見せようとしてきた【変態】だ!



「下瀬口!」

「はいっ!」


 《下瀬口(しもせぐち) (りん)》、コイツは犬好きで自身もトイプードルのような可愛らしさを持った少女……ちなみにH組では鴨狩の次に低身長だ。誕生日プレゼントで子犬を買ってもらえなかった腹いせに、オレを犬に仕立て「ペットプレイ」を仕掛けてきたドS【変態】だ!



「角瀬!」

「はい」


 《角瀬(すみせ) (さき)》、コイツは演劇部に所属していた美少女で、将来は声優を志望している。だがコイツは指を人や()()に見立てて、エロいシチュエーションを再現して演技するのが好きな【変態】だ!



「背戸山!」

「は~い」


 《背戸山(せとやま) (もえ)》、コイツは根が真面目なイイ子だが、H組の中で最も高身長なのに私服がロリータファッションという最強の違和感キャラだ。しかもオレにロリータファッションを着せてその姿に興奮する【変態】だ!



「高田!」

「はい!」


 《高田(たかだ) (つばさ)》、コイツは誰に対しても物おじせず、自分の意見をはっきりと言うしっかり者だ。だが実は「体毛フェチ」で、オレからあらゆる部分の毛を抜き取りそれをコレクション&コンプリートしようとする【変態】だ!



「多麻!」

「はい」


 《多麻(たま) (まり)》、コイツはハンドボール部で活躍した長身でショートカット、切れ長の目が特徴のイケメン女子で後輩から絶大な人気がある。だが、大のキ●タマフェチでオレの股間にボールを当てて大喜びしたり、隙あらばオレのキン●マを握ろうとする油断ならない【変態】だ!



「照坂!」

「はい」


 《照坂(てるさか) (まつり)》、コイツは目鼻立ちがはっきりとした美人だが、自分の「鼻くそ」を食べるのが趣味だ。さらにオレの鼻くそを食べたり、自分の鼻くそをオレに食べさせようとした【変態】だ!



「天目!」

「おるぞ」


 《天目(てんもく) (なみ)》、コイツはクラスメイトから「波の巫女」と呼ばれている自称「予言者」、つまり「電波系」だ。しかもコイツは、電波がどうのこうの難癖をつけてオレにセクハラしようとした【変態】だ! ちなみに自分の貧乳にコンプレックスを持っているらしい。



「鳥坂!」

「はい」


 《鳥坂(とりさか) (おと)》、コイツは鳥の鳴き声など自然の音を録音するというなかなか高尚な趣味を持っている。だがコイツは、ゲップや放屁、放尿など自分が出す「恥ずかしい音」を他人に聞かせたがる「音の露出狂」という【変態】だ!



「中津森!」

「はい」


 《中津森(なかつもり) (ぬい)》、コイツは元手芸部部長で自分の私服を手作りで作ってしまう器用な子だ。だが大人っぽい彼女のキャラとは真逆の幼児っぽいイチゴ柄のパンツに執着し、オムツフェチにまでなってしまった。さらに鴨狩を「オムツ仲間」に引き込み、そのままガチ百合カップルになった【変態】だ!



「波高島!」

「はーーーい!」


 《波高島(はだかじま) (のぞむ)》、コイツは旅行が大好きで将来はツアーコンダクターを目指している。だがコイツは、日本語でエロく聞こえる地名やエロい言葉が大好きで、その名前からいろんな妄想をするスケベニンゲ……【変態】だ!



「八幡!」

「ハイッ!!」


 《八幡(はちまん) (ゆき)》、コイツはマンガやアニメにありがちな「ラッキースケベ」というシチュエーションにこだわり、それを実践しようとする【変態】だ! だがおっちょこちょいで計画の詰めが甘く、いつも未遂に終わってしまう……単純にバカなだけかもしれない。



「羽根戸!」

「はいっ!」


 《羽根戸(はねど) (まかな)》、元ボランティア部で、コイツがお願いするとすぐにカンパが集まるほどクラスの信頼が厚い生徒だ。だがコイツは、使用済みナプキンをオレにクリスマスプレゼントした【変態】だ! しかも自分のだけでは飽き足らず、1ヶ月かけてH組全員分の使用済みナプキンを集めオレに渡しやがった!!



「火打石!」

「はい」


 《火打石(ひうちいし) (きずき)》、コイツは住宅やインテリアなどのデザインが好きな生徒だが、本人曰く建築物に恋愛感情を持つ「対物性愛者」だ。大晦日にオレのアパートの部屋と結婚すると一方的に宣言し、オレの部屋に押し掛けて来たのだが、コイツの行動は「対物性愛」とは違うような気がする……ま、どっちにしろ【変態】だ。



「日野春!」

「は……はぃ」


 《日野春(ひのはる) (ゆかり)》、コイツは金井と同じ天敵・元生物部の副部長で見た目も金井とうりふたつな美少女だ。だが、昆虫などの虫が……特に食べるのが大好きで、しかも虫を捕食しているシーンを見ると興奮する【変態】だ!



「深城!」

「ハイッ!」


 《深城(ふかしろ) (はぐみ)》、コイツの父親はスポーツジムを経営していて自身もパーソナルトレーナーを目指している。だがコイツは、ウエイトを持ち上げるときにまるでS●X中のような激しい喘ぎ声を発する【変態】だ!



「不動!」

「は……ぃ」


 《不動(ふどう) (しずく)》、コイツは保健委員だが普段はおどおどした態度で、あまり語気を強めるとショックで泣き出すような子だ。だがコイツは、自分の尿をステンレスボトルに詰めてから飲ませようとする【変態】で、そのときは態度が豹変する。



「真木!」

「はい」


 《真木(まぎ) (のどか)》、コイツはメチャクチャ厚着をした超寒がりだと思っていた。だがコイツは、凍傷寸前になるようなシャレにならないイタズラをさんざんオレに仕掛け、最後に厚着で上昇した「自分の体温」でオレを暖めようとした【変態】だ!



「妙見!」

「はーい」


 《妙見(みょうけん) (はく)》、コイツはH組の生徒からもらった怪しすぎるチョコを食べなかったオレを諭し、自ら進んでヤバそうなチョコを食べてくれた。だがコイツの本当の目的は、一度胃の中に溜め込んだチョコをオレの口の……とにかく【変態】だ!



「室伏!」

「はい」


 《室伏(むろふし) (まよい)》、コイツは車いす生活をしている以外は特に他の生徒と変わりない普通の子だ。ただ、生理が近付くと孤独を好むようになり、誰からも相手にされないいわゆる「放置プレイ」によって性的興奮を覚える【変態】だ!



「棡原!」

「はい」


 《棡原(ゆずりはら) 寿(こと)》、コイツはマッサージが得意で、将来はマッサージ師の国家資格取得を目指している。だが足つぼマッサージでオレが絶叫するとその悲鳴に興奮を覚え、わざと痛いツボを狙ってくるという【変態】だ!



「百合切!」

「おるでごじゃる」


 《百合切(ゆりきり) (いろは)》、コイツはネットで神絵師と称されるイラストレーター……様々な画風で描ける。だがコイツは、オレをモチーフにBL風イラストを描いてオカズにしている腐女子の【変態】だ!




 さて、これで全員か……あれ?



 出席簿の一番下にまだ名前が書いてある……



 割石……月?






 ――誰だ?





「あれ? 先生、何で『ルナちゃん』呼ばないんですか?」


 ――え? 何だって? つーかコイツ「るな」っていうのか?


「そうですよ! 1人だけ呼ばないなんて酷いじゃないですか!」


 ――いやいやいや、何でオマエら普通にいる体で話してんだよ!?


「出席番号40番、《割石(わりいし) (るな)》ちゃんですよ!」


 ――だから……何言ってんだよオマエら……。



 このクラス、「3年H組」は……






 ――全部で『39人』だよっ!!






「誰だよ!! 割石って? オマエら、何言ってんだよ!!」


 何なんだオマエら? みんな【変態】だが、ついにマジで頭までおかしくなったか? そんな、存在しない生徒を勝手につくりあげて……それとも何か霊的なモノでも見えているのか?


「何言ってんだよー、は先生の方ですよ!」

「そうですよ! ここにいるじゃないですか……ほらっ!!」


 と言って生徒が一斉に指差した先、教室の一番後ろに……



 今まで一度も見たことがない生徒がいた!!



 最初に教室を見回したときの「違和感」はコイツだったのか!?


「おい、ちょっと待てよ……何だ? オマエらお得意のイタズラか? TVのドッキリ番組か? っていうか誰だよそいつ! どこから連れて来た?」


「ひっどーい! 3年間一緒にいたのにー……ほらぁ、すねちゃって顔伏せてるじゃないですかぁー! もっと近くに来て声掛けてやってくださいよぉー」

「えぇっ?」


 オレは教壇を下り、恐る恐る真ん中の一番後ろの席に向かった。いつもならこの場所には背戸山がいるが彼女は1つ隣にズレて座っていた。

 その席には少し大柄でふっくらとして、全体的にカールさせた長い髪を茶色に染めた生徒? が机に顔を伏せた状態で座っていた。髪型や体形が背戸山にそっくりだったが、近付いてみると背戸山よりは小さめで髪の色が明るい。


「いっいや、おかしいだろ? こんな生徒、一度も見たことがないぞ」


 オレは頭が混乱し、全身が震えた。イタズラにしても度が過ぎる! だいたいこの生徒、学校の制服は着ているが他のクラスにも思い当たるフシがない。



「まったく……先生は何もわかっていらっしゃらないのですね?」



 あれ? 同じようなことを前に誰か言ってたような……?


「いやわかってるから言ってんだよ! こんな生徒、H組にはいないぞ!」


「ウソです! ルナちゃんは3年間私たちと一緒です」

「先生、何で彼女をクラスの一員として認めてくれないんですか?」

「そーだ! おかしいぞ! 認めろー!」

「認めろっ!」「認めろっ!」


 認めろとクラス全員でコールが起こった。まるで学級崩壊の状態だ! こうなってくると自制がきかなくなる!


「あぁ、わかったわかった!!」


 コイツら頭がおかしい! だけどこの状況でコイツらとやり合っても何も進展がない。しかも、ここに本来いるはずのない生徒がいるのは事実だ!

 とりあえず、この生徒には出ていってもらおう! いくら「ほぼホームルーム」とはいってもこのままでは授業が成り立たない。


 H組の生徒が言う「割石」とかいう生徒はまだうつ伏せになったままだ。声を掛けないと……


「お、おい……君」

「君って何ですか? 割石 月ちゃんですよ」


 ――だから知らねぇよぉーそんなヤツ!


「あ……わ、割……石……」


 声を掛けてみた。だが全く反応がない……これだけ騒がしい状況で寝ている? まさか?


 すると、クラス委員長の愛宕が


「あ、肩揺すって起こした方がいいっスよ」


 と言った。


 不用意に女子生徒の身体に触れるのはセクハラになる可能性がある。だが愛宕の言う通り、このままの状態では埒が明かない。


「お、おい……起きろ」


 オレはその割石とかいう生徒の右肩を揺すった。一応、実体はあるようだ……正直、今までのやり取りからもしかして霊的な何かかも? という疑いもあった。

 だが、やはり何の反応もなかった……困ったものだ。オレがその割石という生徒の肩から手を離した瞬間……


 その割石という生徒が突然顔を上げ、伏せていたとき右手に隠し持っていた何かをオレの腕に押し付けてきた!


 〝バチバチバチッ〟


(いて)ぇー!!」


 あまりの痛みに思わず仰け反ってしまい、そのまま床に尻もちをついた。だがこれは、今まで経験したことがないような痛みではなかった。

 これはスタンガンだ! しかも愛宕が持っているオモチャのような物ではない。そう、これは先日、オレが拉致されたときにやられたのと同じくらい強い衝撃だ!

 間違いない……コイツは、あの拉致事件の実行犯の1人で……運転手だ! 制服を着ているが生徒ではない……大人だ。


 つまり、コイツは……


 割石とかいう生徒……いや、()はそのままスッと立ち上がると、目まで前髪で覆われたカツラをゆっくりと外した。そして、まとめ上げた自分の髪をほどくと今度は見覚えのある黒髪が現れ、正体が明らかになった。


「やはり……アナタでしたか」


「……」


「アナタは……オレがラノベ小説家『粟津まに』だということをどこからか知り、それを匿名のメールでH組の生徒に送信しましたね?」


「……」


「そして、自らがオレと同じようにH組の生徒をモチーフにした百合小説を、彼女たちしか知りえない変たぃ……いや、性癖を赤裸々につづり、その衝撃的な内容で瞬く間に人気作家になってオレから仕事を奪おうとしましたね?」


「……」


「さらに、オレを拉致して室伏と一緒に放置した事件のときには、オレを今のようにスタンガンで攻撃したり……車の運転もしていましたよね?」


「……」


「全てアナタが仕組んだのですね……


『割石 月』……いえ、


『良坊 種夢』……いえ!!












 ……御坂 月美先生!」







(つづく)

次がいよいよ最終回となります。みなさん、ハンカチの用意を(する必要なし)!

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