【出席番号38番】棡原 寿(ゆずりはら こと)
「先生……もっと気持ちよくしてあげますよ」
――筋肉痛だぁー!! 痛い痛い痛いぃぃぃぃ!
オレは昨日、H組の生徒で放置プレイ好きの【変態】少女、《室伏 迷》と共に全く知らない場所に放置されてしまい、深夜になって命からがら帰って来られた。
室伏は車いす生活をしている生徒なので、彼女の車いすをずっと押し続けながらスマホが圏外になっている場所を2時間以上もさまよい、どうにか駅を見つけ「自腹で」きっぷを買い電車で帰ってきた。なので足の筋肉痛がハンパない状態だ。
くっそぉ~、オレを放置した《愛宕 星》! 《鍛冶屋坂 笑》! そしてオレを縛り上げた《グリーンヒル 結》! オマエら全員許さーん!!
ただ、車を運転していたのが誰なのか未だにわからない……クソッ、誰なんだ?
それにしても……足が痛すぎて授業がキツい。今日、3年生は休みだがオレは2年生の授業も一部受け持っている。2年生の教室は2階にある……オレは今日だけエレベーターの使用許可を取った。
校舎にはエレベーターがあるが、基本的に生徒や教職員は利用できない。台車を使った荷物の運搬や、室伏のように車いすだったり、怪我をして歩行困難な生徒や教職員が許可制で利用できるのだ。
オレが2階の廊下を松葉づえをついて歩いていると、前方に人だかりが……
「うわー、カワイイ!!」
「抱っこしたーい」
「ねねっ先生、名前なんて言うの?」
大勢の生徒に囲まれていたのは……あれ?
「宇野尾先生!」
「あっ若彦先せ……って、足どうしたの!?」
生徒に囲まれていたのは《宇野尾 那美》先生、去年の10月から産休に入られて、現在は育休中だ。
「あ、あはは……昨日ちょっと転んじゃいまして」
生徒に拉致られて放置プレイさせられたなんて……口が裂けても言えねぇ。
「まぁ、気を付けてね!」
「ははっ、すみません気を付けます。それより、その子はもしかして……」
「あぁ、おかげさまで……去年産まれた子よ」
宇野尾先生は赤ん坊を抱っこしていた。何か学校に用事でもあったのだろうか?
「へぇ、かわいいお子さんですね」
と言って赤ん坊の顔を覗き込んだら
「こら若彦! その子に近付くなー、性格の悪さがうつる!」
「やかましい! チャイム鳴ったぞ、早く教室に入れ!」
「ベーッだ!!」
生徒たちは教室に入っていった。
「今日3年生は休みだったのね、うっかりしてたわ。まぁ、あの子たちがいてくれてよかったけど……」
宇野尾先生は3年D組の副担任だが、2年生のクラスも担当していた。
「そうですね……それにしても、あれだけ教育熱心な先生がまさか育休まで取るなんて……やっぱ家庭が大事なんですね!」
宇野尾先生は同じ国語科の先生で、着任以来お世話になっている良き先輩だ。何よりも生徒のことを大事にしている先生で、教師の間では育休どころか産休すら取らないんじゃないかと噂をしていたくらいだ。オレが何気なくそう言うと、
「あのね若彦くん、そのことで……ここだけの話なんだけど……」
突然、宇野尾先生は周りを見回してからこう切り出した。
「実は私、本当は育休を取る予定なかったの」
「え?」
「ウチは両親と同居だから、産休明けたらすぐに復帰したかったんだけど……校長がね、育休も是非取ってくれって……最初は世間に対して福利厚生が充実しているアピールかと思ったんだけど……何かあの代替の先生を長く置きたいからって……その……理事長が言ってきたという噂を聞いたの」
「そっ、そうなんですか?」
「うん、だから心配で……たまたま近くを通りかかったから顔出してみたの! まぁ3年生はもう卒業だから教えることはないけど、2年生とはまた会うじゃない? だから忘れられないようにしないと……」
「大丈夫ですよ! 先生は人気ありますから……じゃあ、オレは授業がありますからこれで!」
何だって!? 宇野尾先生からとんでもない情報を聞いてしまった。宇野尾先生の代わりに入ってきた教師は理事長が連れてきた……という噂は以前、養護教諭の《鳥居地 新名》から聞いたことがある。
2年生の授業が終わった後、オレは職員室に真っすぐ向かった……まぁ足の筋肉痛で少しフラフラしたが。
この時間、職員室にいる「あの男」と話をするためだ。あの男とは……そう、宇野尾先生の代わりに入ってきた産休代替教員……《雁坂 良夢》だ!
雁坂は着任以来、怪しげな行動が多い。ちょうど同時期に、ラノベ作家でもあるオレの商売敵の『良坊 種夢』が現れ、明らかにH組の生徒や鳥居地新名をモチーフにしていた。しかも、H組の生徒に対して何度も接触を試みているらしい。
ただ1点だけ疑問が……それはこの男が着任する前からH組の生徒に、オレが生徒をモチーフに百合小説を書いているといった内容のメールが送られていた。これが不可解なのだが……もしかして疑惑のある人間は他にもいるということか?
いずれにせよ、昨日の一件も雁坂が怪しい。表向きH組の生徒は雁坂のことを嫌っているようだが、もしかしたらそれは偽装で、実は裏でつるんでいる可能性もなくはない。
とにかく……雁坂に会って、昨日は何をしていたのか聞こう!
「あっ、若彦先生!」
おっと、飛んで火にいる……ってヤツだ。向こうから声を掛けてきやがった。
――雁坂だ!
「あぁ良夢先生! ちょっとお聞きしたいこ……」
「若彦先生、昨日は放課後にどこ行かれてたんですか?」
――げっ! 先に言われてしまったぁ!
「えっああ、ちょっと私用で……」
生徒に拉致られて放置プレイさせら……(以下略)。
「昨日、先生に用事があったんですけど、どこにもいらっしゃらなかったので探したんですよ! っていうかダメじゃないですか!? 『外出届』に何も書かないで出かけるなんて」
うわぁ、逆に怒られてしまった! 突然、拉致されたんだから外出届なんか書けるワケない……ん? あっそうだ!
「あぁすみません、今から書いておきます!」
オレは職員室の角に置いてある外出届の元へ向かった。そう! もし昨日の運転手がウチの職員なら外出届に名前が書いてあるハズだ! 外出届はバインダーで綴じられていて、教職員が各自、名前や時間、外出目的などを記入する決まりになっている。オレは昨日の記録を見た……あれ?
オレの名前が書いてある、しかも「直帰」って……何で?
「あれ? オレの名前が書いてあるんだけど……」
「えぇ!? 私が昨日見たときにはありませんでしたよ」
雁坂も驚いてオレのところに来た。そしてオレの名前が書いてあることに不思議がっていた。
「あれ~、おかしいですねぇ……誰か代わりに書いたのでしょうか?」
「いや……これはどう見てもオレの筆跡なんだけど」
2人とも狐につままれたような状態だ。しかも……まぁ本人がわざわざ言ってくるくらいなので、当然そこに雁坂の名前はなかった。
ただ、約1名……オレが拉致されたのとほぼ同時刻に外出していた者がいた!
――まさか! コイツか!?
オレの足は自然にその者の元へ真っすぐ向かった……まぁ足の筋肉痛で少しフラフラしたが(2回目)。
※※※※※※※
オレとほぼ同時刻に外出していたのは……養護教諭でオレの大学時代からの友人のニーナこと「鳥居地新名」だった。
――まさか……アイツが運転手?
ニーナは学生時代、まだ異世界モノを書いていたころから、オレが作家活動をしていることを知る数少ない人間だ。
H組の生徒と仲が良く、彼女たちの性癖にも理解がある。それに『良坊種夢』の最新作の主人公はニーナをモチーフにしていたし、彼女は良坊についても何か知っているようだった。
しかも生徒に送られてきた「謎のメール」は、雁坂が着任する前から送信されていた。だとしたら以前から学校にいるニーナがメールの主という可能性は十分に考えられる。
そう考えると、ニーナが良坊という可能性も出てきた。信じたくはないが……。
ただし、そうなるとおかしな点も出てくる。以前、H組の《鴨狩 紬》が「良坊の正体はペンネームでわかる」と言っていた。だが、良坊の名前と鳥居地新名の名前にはどう考えても関連性が思いつかない。
どういうことだ? じゃあニーナと雁坂がグルってことか? 考えれば考えるほどワケわかんなくなるし人間不信にもなりそうだ。とりあえず、ニーナに話を聞くしかない!! オレは保健室の前に来た。
「おーい、ニーナ! 入るぞぉ」
しーーん……
「あれ? おいニーナ! いないのか? 入っていいのか?」
しーーーーん……
「あれ、いないのか? じゃあ入るぞ! 生徒もいないよな?」
ここは女子高、男性教師が保健室に入るときはトラブル回避のため細心の注意を払わなければならない。
「おーい、ニーナ……って、オマエ何してんだよ!」
「しーっ! 先生、さっきからうるさいですよ!」
オレに注意をしたのはH組の《棡原 寿》だ。ニーナは保健室のベッドにうつ伏せになりながら棡原からマッサージをしてもらっていた。
「あ……あぁおはよう若彦」
「おはようじゃねーよ! 勤務中に何でウチの生徒にマッサージさせてしかも寝てやがるんだよ!?」
「え、あぁだって寿ちゃんマッサージ得意じゃん! ボクは昨日、長距離移動したから疲れてんだよ……ちょうどいいタイミングで寿ちゃん見かけたからお願いしたんだ……あ、寿ちゃんありがとう! スッキリしたよ」
棡原の実家は整体も行えるリラクゼーションサロンを経営している。本人も小さいころからマッサージを見よう見まねで覚えていたのでとても上手いらしい、現在は実家の店でアルバイトをしているが、結構評判がいいという噂を聞いている。
「おう、その昨日のことで聞きたいんだが……ニーナ、オマエ確か自動車通勤だったよな?」
「あ……やっぱりボクのことを疑っているんだね? 聞いたよ昨日のこと」
「何で知ってんだよ」
「あぁ、寿ちゃんから……」
すると棡原がスマホを取り出し、
「あ、もうクラスL●NEで出回っています」
H組の情報伝達スピードは光ファイバー並みだな……。
「残念だけど……ボクは昨日、研修だったんだよ! 生徒がいる間は基本的に保健室待機だけど、この日は1、2年生が期末テスト前の部活動禁止期間で放課後は生徒がいなかったから、その時間を利用して出かけていたんだ。それにウチの学校、教師の車に生徒を乗せるには許可が必要でしょ? 学校の車を利用するにしても許可が必要だよ……疑うんならその類の許可申請書を調べてみればいいよ」
「そ……そうか、疑ってすまん」
「いいよ別に……ま、若彦も最近災難続きで気が立っているみたいだし」
――うわっ、また振り出しだよ……でもニーナじゃなくて少し安心した。
「そうだ若彦! お前筋肉痛だろ? 寿ちゃんにマッサージしてもらったら?」
「えっ? 別にあのくらいの移動じゃ大したこと……」
「つまらんことで看え張るなよ、ほれ!」
「う゛っ! うぅぅ……」
――痛ぇっ~! コイツ、人の太ももを叩くんじゃねぇよぉ~!
「あっ先生、まだ時間ありますからどうぞ! 筋肉痛のマッサージもできますよ」
「時間って……そういえば棡原は何しに来たんだ?」
棡原は制服ではなく私服を着ていた。
「今日はH組のみんなとランチに行くんで学校を集合場所にしているんです。そしたらニーナ先生にバッタリ会っちゃって……」
「学校を待ち合わせ場所に使うな!」
「まぁまぁ、じゃあベッドで横になってください」
「あ、あぁ……じゃあお願いするか」
するとニーナが、
「あ、そうだ若彦! ボクちょっと用事があるから代わりに居てくれる?」
「えぇっ……ま、まぁマッサージしてもらっている間くらいならいいけど」
「じゃあよろしく! 何かあったら連絡して……あ、それと……保健室のベッドに女の子と2人っきりだからって……事案を起こすなよ」
「起こさねーよ!」
「あ、ウチはマッサージ店ですけどそういう性的なサービスは……」
「しねぇよ!!」
ニーナは保健室を出ていった。
※※※※※※※
「ええっと、マッサージの目的は……勃●不全の改善でよろしかっ……」
「脚の筋肉痛だよ! 何でそうなる」
「そうですか……じゃあ脚に直接マッサージを施したいので、下半身の衣服は下着も含めて全て脱いでください」
「おかしいだろ! 普通にやれよ」
「えー残念! じゃ、ベッドに横になってください」
棡原に言われるまま、ベッドに寝転んだ。
「それじゃあ始めまーす」
棡原が脚を揉み始めた。だが……
「あれ? 思っていたより力入ってないな……いいぞ、遠慮しないで」
「いえ、先生……筋肉痛の場合は元々筋繊維が傷ついているので、あえて弱めにマッサージしているんです……強めにやると逆効果なんですよ」
「へぇ、そうなんだ」
その後も棡原のマッサージは続いた。噂には聞いていたが確かに腕がいい。普段からよくクラスメイトの肩を揉んでやったりしていたそうだ。
「あぁ気持ちイイ……さすが上手いなオマエ……なぁ、やっぱ将来はマッサージ師を目指すのか?」
「はい、いずれは国家資格を取りたいです。こちらの大学でも専門のコースがありますから……っていうかそれが目的でこの学校に通っているんですけど」
「そうか、でもこれだけ上手なら今すぐ仕事に就けそうな気がするが」
「無資格者は『医療行為としてのマッサージ』はできないんですよ……やったら法律違反です。私が今やっているのはいわゆる『もみほぐし』ってヤツで、あくまで疲労回復が目的です。私は……将来自分の店を開業するのが目標ですから、やはり国家資格取得は必須ですね」
そうなんだ……みんな将来の夢に向かって進んでいるんだな。
「先生、いかがですか? 疲れは取れましたか?」
ひと通りのマッサージが終わったので、オレはベッドから起き上がった。
「あぁ、おかげでだいぶ楽になった! お金を取ってもいいくらいのレベルだな」
「そうですか、じゃあお金を頂きますよ」
「おい冗談だよ! 今、お金持ってねーし」
「でしたら……カラダで払ってください」
「……え?」
「先生……この後、少しお時間ありますか?」
※※※※※※※
「実は私、最近『足つぼマッサージ』を勉強していまして……ぜひ先生に協力してほしいのですが」
「え? 足つぼって、よくバラエティー番組の罰ゲームでやっているアレか?」
「あっ、悶絶するヤツですね! いえいえ、実際はそこまで痛くしませんよ。イタ気持ちイイくらいがちょうど良いそうですよ! 私、今まで自分の足では何度も試していたんですけど他人にはやったことがなくて……」
なるほど、カラダで払うってこういう意味か……要するに実験台だな。
「わかったよ、マッサージもしてもらったし、かわいい教え子のためだ」
「ありがとうございます! じゃあベッドに座っていただいて足をこちらに……靴下ははいたままで……あっ、でもこれからランチなのに手に臭いが染みついちゃうといけないから、やっぱ靴下は脱いでもらっ……」
「おい、誰だ! オレの足がクサいという噂を流したヤツは!?」
「冗談です! はいたままでいいですよ」
オレは言われた通りに足を突き出した。棡原は椅子に座り直しオレの足首を掴むと、傍らに足つぼマッサージの専門書を置いた……本当に実験台じゃねえか!?
「先生、どこか体の中で調子の悪いところはありませんか?」
「え? まぁ特にないけど強いて挙げれば……胃かな?」
理由は激辛好きと……オマエらH組のせいだがな。
「そうですか……じゃあ土踏まずの……この辺りですかね?」
棡原がオレの右足、土踏まずの内側辺りをギュッと押さえた。うっ! ちょっと痛い……でもTVで芸人がリアクションするほどじゃないな。
「先生、痛いですか?」
「あぁ、ちょっと痛かったけど……もう大丈夫」
「そうですか、痛いということは効いている証拠ですね。じゃあ今度はバランスよく左足もいきます。胃のツボは両足にありますから」
そう言うと今度は左足の土踏まずをギュッと押さえた。すると、
とんでもない『激痛』が!!
「痛い痛い痛い痛いぃーーーー!!」
「えっすみません先生、大丈夫ですか!?」
棡原は本のページを見直すと
「あっそうか、先生の胃を治す秘孔はこれだ」
「うぐっ!! ぐああ!!」
「ん!? まちがったかな……」
うわぁ!! ここに「偽りの天才」がいるぞぉ! ト●兄さん、助けて!!
「おっかしいなぁ、確かここだと思ったんだけど……じゃあここかな?」
「うぎゃあっ!!」
「すみません! やっぱこっちでした! えいっ」
「痛ぇーーーー!!」
「あぁっもう! 指が勝手に……えいっ!」
「うわ●らば」
痛ぇよぉ! な……なぜオレがこんな目に!!
オレは棡原の顔を睨んだ! だがこのとき、棡原の顔がいつの間にか恍惚の表情に変わっていた……まさか?
「う……うへへ! さっきから先生の絶叫ボイスを聞いていたら……何だかすごく快感になってきました……あぁっ、先生! もっともっと絶叫してください!!」
コイツ、そういう【変態】だったのか……ならば絶対に絶叫なんかするか!
「えいっ♪」
〝グリッ〟
「うぐぐぐっ、ぬぅうううう!!」
「あ、ガマンしてるなぁ~、じゃあこれはどうだ!?」
〝グリグリッ〟
「ぎぎぎぎっ……がはぁああああ!!」
「なかなかしぶといですねぇ……じゃあ」
棡原はカバンの中から何か取り出した。げっ! 出てきたのは「ツボ押し棒」と呼ばれるモノだ。
「先生、えいっ! これでどうだ!?」
「う゛っ……うぎゃぁああああああああああああああ!!」
すると、
〝ガラガラガラッ〟
「ちょっと! 保健室から絶叫が聞こえると思ったら……何やってんスか!?」
やってきたのは私服姿の3人の生徒……あっ!!
「モゥ、寿チャーン! 待ちくたびれマシター」
「寿ちゃーん、教室で待ち合わせ言うたやんけぇ、なんぼ待たせ……あっ」
あっ、じゃねーよ! 昨日オレを拉致した愛宕と鍛冶屋坂と、縛り上げたグリーンヒルじゃねえか!? っていうか教室を待ち合わせ場所に使うな!!
「あっごめーん、先生に足つぼやってたら…つい」
「オマエら! 昨日はよくも……!」
「あっ先生、無事マヨたん(室伏)を連れて帰ってきたっスね! 試験合格っス」
「何が合格だ! ふざけんな! おい、あの運転手は誰だ!?」
「何やセンセェ、知りたいんか?」
「知りたいに決まってるだろ!」
「じゃあ、今カラ『2次試験』デース!」
「2次試験? 何だよそれ」
「今からウチらがセンセェに攻撃するでぇ! ほんでもってウチらの性欲を満たさな……じゃないわ、攻撃にまったく音を上げんかったらセンセェの勝ちや! 運転してたの誰か教えたるでぇ!」
「わかった! その賭け……乗ってやろうじゃねぇか!」
オレは1年間、コイツらの「変態攻撃」に耐え抜いてきたんだ! 絶対コイツらに勝って運転手の名前を聞き出し、今までの謎を明らかにして見せるぞ!!
棡原が「ツボ押し棒」、愛宕が「スタンガン」、鍛冶屋坂が「ハリセン」、そしてグリーンヒルが「ムチ」を取り出した。何でそんなものを持ち歩いているんだ? 特に鍛冶屋坂……
「ほな、行っくでぇー!!」
〝グリグリッ!〟
〝バチバチッ!〟
〝ピシーンッ!〟
〝パシーンッ!〟
「ぎゃぁーーーーーーーーーーーーーーーー!!」
……秒殺で聞き出すことができなくなった。
※※※※※※※
せっかく棡原のマッサージで筋肉痛が楽になったのに、なぜか全身が痛い状態で職員室に戻ってきた。すると雁坂がオレの元にやってきた。
「若彦先生、どうされたんですか? 何か保健室の方から絶叫がしましたが……」
「あぁ、いえ……別に」
生徒と「痛みのガマン対決」してたなんて……口が裂けても言えねぇ。
「聞きましたよ、昨日の出来事……完全に犯罪じゃないですか?」
「えっ……あぁ、まぁ……そうですね。っていうか誰から?」
「H組の3人からです! 彼女たちは私がキツく叱っておきましたよ!」
「あ、あぁ……そうですか?」
「以前から彼女たちの問題行動は気になっていましたが……どうします先生? 被害届を書いてあの子たちを警察に突き出しますか?」
「あっ、いえ……彼女たちももうすぐ卒業で大事な時期ですから、そういうことは内密に……」
あれ? おかしいな……本来ならオレが一番アイツらを訴えてやりたい気分なんだが……第三者から言われたらついかばってしまった……何でだ?
「あと、さっきの外出届の件なんですけど……」
「はい?」
「あれ、本当に若彦先生の筆跡ですか?」
「えっ? どういうことです?」
「筆跡ってある程度までなら似せることはできます。もちろん鑑定のプロなら簡単に見破ってしまいますけど、私たちのような素人ならごまかせます。それと……外出届に名前がなかったとしても……」
「?」
「当日、欠勤した人なら……書く必要ありませんよね?」
――そっ、それはそうだが……。
筆跡を真似ることができる人間は心当たりがある。だがそれは生徒だ……車の運転はできない。
昨日休んでいた教職員……そういや1人だけいたが……
――でも……何であの人が?
えぇっ、次の話読んでくれないのぉ~? じゃあこれでどうだ!? グリッ!




