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【出席番号36番】妙見 白(みょうけん はく)


「先生! 私の手作り○○を食べてください!」


【おそらくこの連載で最大級の閲覧注意案件です】

 2月14日、今日は言わずと知れたバレンタインデーだ。


 女子高の若い男性教師はモテると言われている。まぁ共学など男性が多い環境に比べて選択肢が少ないので、ハードルが下がった「だけ」というのが正解だろう。

 言わずもがなオレの机の上にも大量のチョコレートが置かれている。国語準備室は共用スペースだから正確にはオレの机ではないのだが、今日は授業もなく日がな一日ここで事務作業なので国語準備室は独占状態だ。


 今年のバレンタインデー……3年生は休みだが、それでもある生徒は昨日の登校日のうちに、またある生徒は今日わざわざ登校してチョコレートを渡しに来た。

 しかもほとんどの生徒が持ってきたのが、いわゆる手作りチョコというヤツだ。手作りと言ってもカカオ豆を焙煎してから作るというワケではない。チョコレートケーキにしたりトリュフチョコにしたりと、それぞれ工夫を凝らしている。ここまで聞いていると、とてもうらやましく思われているだろう。だが……



 ――全然うれしくない!! それはなぜかって?



 全て3年H組(オレのクラス)の生徒からもらったチョコだからだ! 他のクラスの生徒や女性職員からは1個ももらっていない。当然ながら、H組副担任の《御坂(みさか) 月美(つきみ)》先生からも……もらってい……ゴメン、ちょっと泣いていいかな?

 まぁH組はウチの学校でも一番の美少女揃いと言われている。じゃあ何が不満なんだと言われそうだが、もちろん理由がある。それは、



 このクラスの生徒……全員が【変態】だからだ!



 変態が作る「手作りチョコ」だぞ! どんな(トラップ)が仕掛けられているかわかったもんじゃない! とてもじゃないが食べる気がしない。

 こうして置いてある状態でもすでに危険な臭いがプンプンする代物がある。ここにある物はお菓子でも愛情でもない……「危険物」だ!


 今、オレはこれらの処分方法をどうするか考えている。H組の生徒全員分集まったら危険物処理業者にでも頼もうかな……あ、そういえばあと1人持ってきていないが……まぁいいか。


 〝コンコンコンッ〟


「若彦せーんせい! どうせここでしょ? ここぐらいしか居場所がなくて『国語準備室は独占状態だー! わーい』なんて言ってひとりで喜んでるんでしょ~!? ねーえーっ! コミュ障の若彦せーんせーい♪」

「うるさーい! 正解だ! 入れー!!」

「おじゃましまーす」


「妙見……オマエはオレのメンタルを破壊する気か!?」

「あはは、ウケる」


 やってきた生徒の名前は《妙見(みょうけん) (はく)》、今日は休みだが遊びに来たようだ。さっそくオレの机の上が気になったようで、


「わぁ先生、モテモテじゃーん! やっるぅ~♪」

「うれしくねぇよ、これ全部H組のチョコだ!」

「えーなんでですかぁ!? いいじゃないですか、何が不満なんですかー?」

「全て【変態】からじゃねーか!! どうせ何かロクでもない仕掛けでもしてあるんだろう?」

「うわっ、ひっどーい! それは勘繰りすぎですよ! 別にみんなそうだからってチョコの中身までそんな……仕掛けなんてしてないでしょ?」

「おい、じゃあこれ見てもそう言えるか?」


 オレは、外観からして怪しいチョコをいくつかピックアップして妙見に見せた。


「まっまぁ、これは~その……個性ってことじゃない? たぶん、中身はフツーのチョコだと思う……よぉ、あははっ」

「どうだか……信用できんわ」

「先生、それひどいですよ! 自分の生徒を信用できないなんて! せっかく私も持ってきたのに……じゃあ、試しに私のから食べてみてくださいよ! これが食べられなかったら(H組のチョコを)信用しなくて結構ですよ!」


 〝キーンコーンカーンコーン〟


 チャイムが鳴った。ちょうどお昼時間だ。


「わかったよ、そうさせてもらうわ」

「じゃあ先生、私からです……どうぞ!」


 妙見はニコッと笑うとチョコをオレに手渡した。これでH組の生徒は全員だ。妙見の作ったチョコは……


「え? これってホワイトチョコ使ったのか?」

「はい! 私、名前が白のせいか白い食べ物が大好きなんですよ! 白米でしょ、ホワイトアスパラでしょ、白身魚、白玉、白子……あと白トリュフも! まぁ普通のチョコレートも好きですけどね」


 なんじゃそれ? 最後の白トリュフはそうそうお目にかかれるものではないが。


 妙見が作ったのは、ホワイトチョコチップが入った白いクッキーだ。ちょうどお昼で、まだ弁当を買っていなかったから昼食代わりにはなりそうだが……やはり本能的に手が止まる。危険回避能力が発動しているようだ。


「先生、食べないんですか?」

「い、いや……その、これ、何が入っているんだ?」

「何って? それはもう、たっぷりの『愛情』ですよ♪」

「いや、その『愛情』が一番恐ろしいんだが」

「大丈夫ですよ! 普通のクッキーの材料にホワイトチョコが練り込んであって、さらにホワイトチョコチップがまぶしてあるだけですよ!」

「そ、それだけか?」

「それだけですよ! 疑り深いですねぇ~、失礼です!」

「わっわかったよ」


 作った本人がいる手前、オレは勇気を出して一口食べてみた。まぁここで何かウラがあったら、すぐ本人を怒鳴りつけられるのだから下手な小細工はないだろう。


「あ……美味い」

「でっしょお!? 私の自信作なんですから! これ、ホワイトデーにも使えますから後でレシピ教えますよ!」

「いや、オレは料理できないからいい」


 それに……ホワイトデーのときはもう、オマエら卒業してんじゃん!


 思った以上に妙見が作ったクッキーは美味しかった。思わず完食してしまった。


「これでわかったでしょ? 全然普通ですよ」

「あ、あぁ……疑ってすまん」

「そうですよ! だから皆さんのも今、食べてくださいな」

「えぇっ、今?」

「そうですよ! ざっと見たところ、どれも保存がきかなそうなモノばかりです。それにバレンタインなんですからできるだけ美味しいうちに食べていただいた方がクラスの皆さんも喜ぶと思いますよ」


 いや……確かに妙見のチョコは正常(まとも)だったが、まだH組の生徒全員に対して疑いが晴れたというワケではない。


「じゃあコレ、アカリンのからどうぞ!」


 アカリンとはクラス委員長の《愛宕(あたご) (あかり)》のことだ。スタンガンなどでオレに痛みを与え、苦痛の表情を見て楽しむ【変態】だが……


「ほぉ、アイツのはチョコレートケーキか……ん?」


 愛宕のチョコレートケーキは円形のホールケーキを8等分にしたものだが、全体的に丸みを帯びている。それと、一緒にメッセージカードが添えられていた。


『お仕事お疲れさまっス! これは今年発売された新製品の炊飯器で作ったケーキっス! よかったら感想聞かせてほしいっス』


「え? 炊飯器で作ったのか?」

「あ、知りませんでした? ケーキってオーブンがなくても炊飯器で手軽にできるんですよ!」

「へぇ、そうなんだ……」

「先生、もし不安だったら私にも1個いただけますか? 私が食べられたら問題ないでしょ?」

「まぁそうだな、それに8個はさすがに多いし……妙見、食ってもいいぞ」

「やったぁ! いただきまーす……んんっ、美味しーい! 何コレ? こんなに上手にできるものなの?」

「そ、そうか……大丈夫か」


 オレは妙見が「毒見」をして大丈夫なことを確認してから食べてみた……んっ、炊飯器で作ったとは思えない、普通に美味しいチョコレートケーキだ。


「すごーい! 炊飯器って手軽だけど生焼けとか失敗も多いんですよねー! 最近ではケーキ専用のモードもあるって言うけど……どこのメーカーかしら? 今度アカリンに教えてもらおうっと!」


 そういえば、愛宕の父親は家電品を中心としたレビューサイトを運営しているのだった。なので自宅にはいつも最新の家電が置いてあるって話だ……だから感想を聞きたがっていたのか。


「じゃあ次! 花ちゃんのも食べてみて!」


 妙見が勝手に指定してきたのは《岩松(いわまつ) (はな)》の……またチョコレートケーキか。でも今度は四角い形だ。見た目は美味しそうだが……


「うん、美味しい! さすが花ちゃん、料理上手!」


 ……って先に妙見が食っているじゃねーか!?


 岩松はH組の花粉症女王だ。でもってコイツは、オレの顔をクシャミや鼻水で汚して楽しんだ【変態】だ。


「岩松のはてっきり鼻水でも混ぜ込んでいるのかと思っていたが……」

「そんなワケないじゃないですかぁ! まだ花粉症シーズンじゃないですよ!」


 そっか、そういえばまだ岩松も普通に過ごしていたな。しかもコイツは以前、料理が得意だと自分で言っていたっけ。

 まぁこの辺はまだまともか……だがチョコレートケーキがここまで続くと他のチョコは食べられなくなるな。愛宕と岩松の分は残りを家で食べるとして……


「問題はここからだ! 宇の岬のチョコだが……」

「え、ともちんの? 別にフツーじゃないですかぁ」

「いや、それがだな……」


 H組の問題児(おバカ)でエロ()識好きの【変態】《宇の岬(うのみさき) (とも)》のチョコは見た目が普通だが、これにもメッセージカードが添えられていて……


『ねぇ知ってる? チョコレートって古代メキシコでは媚薬だったんだよ! これ食べてコーフンしたらアタシとHしよ!』


「……食えるかー! これじゃ何入っているかわかったもんじゃない!」

「え、もしかしてガラナチョコでも入っているとでも? モグモグ……」

「ってオマエ、すでに(宇の岬のチョコ)食ってんじゃん!」

「うん、別に大丈……う゛っ!」

「お、おいどうした妙見! やっぱり何か変なものが……」

「いや、うめぇ」

「美味いんかぃ!!」


 そういえば、さっきから妙見は一通り、オレがもらったチョコをつまみ食いしているな……そうだ! いいこと思いついた!


「妙見、ちょっと頼みがあるのだが……」

「え? 何ですか先生」

「いや……さっき、これらのチョコは保存がきかないって言ってたよな? なのでできるだけ今日中に食べたいのだが、さすがにこれだけの量は食べきれない。そこで……だ、すまないが妙見に半分ほど食べるのを手伝ってほしいのだが……H組はオマエが最後でもうここに誰も来ないし、感想を言ってもらえれば後で本人に伝えられる。大丈夫! オマエが食べたことは内緒にするから……な、頼む! 協力してくれ!」


 妙見はしばらく考えたあと、


「いいですよ、私もお腹空いていたし、みんながどんなチョコ作ったか気になるので……じゃあ先生が食べられないと思ったチョコをください、私が食べますよ!」


 ――やった、ラッキー! 妙見のおかげで助かった。


 実はこの中には、確実に『地雷』と思われるチョコがある。とてもじゃないが食べたくない。さっき、危険な香りがした宇の岬のチョコを何の躊躇(ちゅうちょ)もなく食べた妙見だ……大抵のモノは大丈夫だろう。



【変態】が作ったチョコを【変態】が食べる……これぞ理想的な循環型社会だ!



「じゃあまずはコレだな! 宇の岬と同じニオイがするんだが」


 と言ってオレが取り出したのは、元書道部部長で他人の体に卑猥な言葉を書きたがる【変態】《右左口(うばぐち) (すみ)》のチョコだ。ハート形のチョコに大きく『絶倫』と書かれている。


「うわー! 墨ちゃんってチョコでも達筆ねぇ……モグモグ……大丈夫ですよぉ、ともちんと同じく何も怪しいモノは入ってはいませんよぉ」

「そっ……そうか」


 このときオレは、追い詰められ見つかってしまうというバッドエンドの設定に憧れる【変態】《小永田(こながた) (ひめ)》のチョコを食べていた。これはたぶんセーフだと予想していたが、やはり1口目は勇気がいるロシアンルーレットのような状況だ。


「あとコレだよな、怪しいのは……」


 オレが妙見に見せたのは、外箱が亀甲縛りで結ばれたチョコと、イチゴ柄のパンツ(のような形の布)で包まれたチョコだ。


「あぁー結ちゃんと縫ちゃんね! 大丈夫でしょ? 包装が独特なだけですよきっと! これは、先生がどちらか食べてみたらいかがですか?」


 そう、これは亀甲縛りマニアの【変態】《グリーンヒル (ゆう)》と、イチゴ柄パンツマニアの【変態】《中津森(なかつもり) (ぬい)》のチョコだ。


「え? そうか……じゃあ、中津森のをいただくか」

「じゃあ、私は結ちゃんのをもらいますね!」


 グリーンヒルのチョコは、外箱が紐でキツく結んであり開けにくそうなのでパスした。だが中津森のチョコも、パンツを脱がすようで何だか後ろめたい感じだ。


「あ、先生! 言い忘れましたけど、結ちゃんのチョコは市販品でベルギーの最高級チョコですよ! 結ちゃんが冬休みに実家アイルランドへ帰ったときに、ベルギーに寄って買ったって聞いていましたから……いやぁラッキー! 1粒だけ食べてあとはお土産で持って帰ろうっと♪」


「何だってぇー!?」


 ――うわぁーやられた!! まさかそんな「お宝」が眠っていたとは……。


「ちなみに縫ちゃんは()()()()()だから、もしかしてオムツに付いたウン……」

「うわっ、やめろー!!」

「冗談ですよ! いくら縫ちゃんでもそんなことはしませんよ」

「いや……それがシャレにならんのだ」

「え?」


 オレは、危険度が1ランクアップしたチョコを取り出した。


「コレだよ!」


 オレは、あるチョコレートを机の上に置いた。透明なビニール袋の中に白い紙が敷き詰められていて、その中に……まさにリアルなウ●コそのものの形をしたチョコが入っていたのだ。そして、メッセージカードが添えられていた。


『先日、2週間ぶりに()()()()が出ましたので、記念に同一スケールの(ブツ)を再現したチョコを贈ります。師匠! 私だと思って可愛がってやってください』


 当然、これはウンコ見せたがり【変態】の便秘娘、《七里岩(しちりいわ) (めぐり)》の仕業だ。


「めぐちゃんね? うわっ、(おっ)きいのが出たわねー!」

「っていうか嫌がらせにしか見えないが……」

「彼女の愛情表現ですよー、じゃあ代わりに私が……いただきまーす!」

「おっおい、オマエ……よくそれが食えるな?」

「別にー、チョコですから……」


 そ、そりゃそうだけど……やっぱこの形には抵抗がある。オレは妙見の勇気ある行動を《笹久根(ささくね) (なな)》からもらったチョコを食べながら見ていた。

 笹久根は激辛好きのドM【変態】だ。当然このチョコも唐辛子たっぷりの激辛チョコレート……さすがにこれを妙見に食べさせるのは可哀想なので、激辛勝負で笹久根に勝ったオレが食べている……結構キツいが。


 さて、ここまでは食べられるギリのチョコだが、ここからはオレが絶対に食べたくない「超危険ゾーン」だ。


 まずは犬プレイ好きの【変態】《下瀬口(しもせぐち) (りん)》、コイツのはチョコではない……ドッグフードだ! メッセージカードには『マニ、おあずけ! 犬がチョコレート食べてはいけません!!』と書いてある。

 オレは犬じゃねーし、だいたい犬だったらメッセージカードは読めないだろ?


「ポリポリ……さすがにドッグフードは味しませんねぇ」

「オマエ食ってんのかよ!?」


 妙見の味覚に付いていけない……やっぱコイツも【変態】だな。


 次に、この3つのチョコ……


「なぁ妙見、この3つ……袋で密封されていてパンパンに膨れているんだが」

「あぁ、つむつむに匂ちゃんにまかちゃんでしょそれ?」


 正解だ! 放屁【変態】《鴨狩(かもがり) (つむぎ)》、口臭【変態】《塩川(しおかわ) (かおる)》、使用済みナプキン【変態】《羽根戸(はねど) (まかな)》のチョコだ。当然中に入っている気体(ガス)は、絶対に開封したらいけないヤツば……


 〝ベリベリッ〟


 うわっ開けるなぁー妙見! う゛っ臭い、しかも3種類集まったら超危険レベルだ……って中身食うのかよオマエは!? オレはたまらず窓を開けた……げほっ!


「うん、クサいけど美味しい!」


 ――何で食えるんだよコイツは……?


「だいぶ減ってきましたね先生!」


 机の上からチョコが減ったが、気のせいか妙見のお腹が膨れたような気がする。コイツ、かなり食っていたよな? 何か心配になってきた……大丈夫か?

 残りはあと5つ! だが、この5つが危険物の中の「超」危険物だ! まずは同じようなものが2つ……


「生チョコだな」

()()()()()()のが特徴ですね? 誰からですか?」

「唐沢と……不動」

「おそらく水分は、JK汁と……おしっこですね?」


 ――もはや人間が食して良いモノじゃあねぇよ!


「そういやあくあっち……昨日、水泳部の練習に顔出して泳いでいましたよ!」


 元水泳部の《唐沢(からさわ) (あくあ)》は泳いだ後の自分の水着を絞り、出てきたプールの水を「JK汁」と称して飲ませようとする【変態】だ。片や《不動(ふどう) (しずく)》はステンレスボトルに自分の尿を入れて飲ませようとする【変態】だ。唐沢は昨日プールで泳いだ(ウチの学校は温水プールなので水泳部は1年中練習可能)ってことは確定だ!


 さすがに、こんな衛生的にダメな物を妙見に食べさせるワケには……


「う~ん、やっぱ水で薄めている分、味がイマイチですね! 雫ちゃんのは……あはは、ちょっとアンモニアくせぇ!」

「オマエ! 食ったのかよぉ~!!」

「え、味はビミョーでしたけど食べられましたよ」

「いやオマエ、後でどうなっても知らないぞ」

「平気ですよ! それよりあと3つですね?」


 残るは3つ、1つ目は板チョコだ。チョコの中に確実に何かが混じっている。


「この混ざっているの……何ですかね?」

「だいたい予想が付く……ちなみに照坂からだ」


 《照坂(てるさか) (まつり)》、自分の鼻くそを人に食べさせたり、人の鼻くそを食べたがる鼻くそ交換【変態】だ。当然、混ざっているのは……


「あぁ、鼻くそですねコレ! 食感が独特っていうか……」

「だからぁ、食うなよぉ~妙見~!」


 ――こいつの胃袋、マジで大丈夫か?


「次はこれなんだが……」

「あ、トリュフチョコですね? でも大きすぎませんか? それに……」


 そう、トリュフチョコといえばだいたいウズラの卵くらいの大きさが一般的だ。だが目の前にあるのは、鶏卵ぐらいのサイズのトリュフチョコが2個くっついた状態になっている。しかも……


 周囲に縮れた「毛」のようなものが生えている。これはまさにアレそのものだ。


「……誰ですか? これ作ったの」

「合作だってよ……多麻と高田の」

「なるほど! キン●マトリュフ・陰毛付きですね?」


 そう、これはキンタ●マニアの【変態】《多麻(たま) (まり)》と、体毛マニアの【変態】《高田(たかだ) (つばさ)》のコラボだ。


「でも何でこの大きさ……あっ、まさか先生のサイズに合わせたとか? えぇっ、こんなにデカいんですか先生のキ●タマ……一体何人子どもつくるつもりなんですか? うわー、引くわー」

「勝手に想像するな! いくら何でもこんなにデカくねーよ!」


 ――何だ、このもらい事故は?


「でも、この表面に生えた毛って……もしかして、羽ちゃんの陰も……」

「そっそれ以上言うなぁー!」


 毛が入ったチョコなんか食えるか! しかも高田の陰も……


「う~ん、やっぱり食べにくいですねぇ、毛が入ると……」

「おいっ! 何でソレ食えるんだよぉ~」


 初めのうちは食べたくない物を食べてもらってラッキーと思っていたが、だんだん妙見に対して申し訳ないと思うようになった。ただ、本人は()()()()食べているのだが……。


「さて……いよいよ危険度MAXの登場だ」


 取り出したのは大きな板チョコだ。


「こっこれは!?」


 妙見も驚いている。


「あの、元生物部の2人と霧山のコラボだ!」


 虫嫌いなオレの「天敵」、元生物部! カタツムリを溺愛し、ナメクジに至っては料理にも使う【変態】《金井(かない) (にこ)》と、昆虫を食べる姿を見て興奮する【変態】《日野春(ひのはる) (ゆかり)》、そして死体マニアの【変態】《霧山(きりやま) (こころ)》……こいつらが作るチョコは……


『ローストしたナメクジと昆虫がたっぷり入ったチョコレート』


 しかも、ご丁寧に位牌の形に作ってある……趣味が悪い、バチが当たるぞ!


「な、なぁ……別に無理して食わなくてもいいんだぞ」

「ダメですよ、クラスの誰ひとりだって……気持ちを踏みにじるようなことしちゃいけませんよ! 先生! 先生も今持っているそれ、早く食べちゃってください」


 オレは今、自分の恥ずかしい音を聴かせるのが好きな【変態】《鳥坂(とりさか) (おと)》がくれた咀嚼音が大きくなるシリアルチョコバーを食べているが……何か虫チョコを見ていたら、オレの食べているチョコも同じように見えてきて食欲が失せた。


「うん、ちゃんと水分が抜けているからサクサクして食べやすいですよ」


 食ったよぉおおおコイツ! 最近は昆虫食が未来の食料として注目されているらしい。でもナメクジは……どのみちオレは食糧危機になっても食べたくない!!


 それにしても、妙見は大丈夫か? 食べたモノも問題だが、量もかなり……鼻血が出そうなくらい食べている。体調が悪くならないか心配だ。やがて、


「う゛っ!」


 妙見が口を押えた。しかも顔色が悪い……やっぱり!


「おい妙見! 大丈夫か!? トイレ行くか?」

「いえ、そうじゃないんです! せっ先生の口の中に……」

「え?」


「シリアルチョコと一緒に……生きたナメクジが入っていくのが見えたんです」



 ――はぁああああああああ!?



「マジか!? いや、そんな感覚はなかったが……」

「先生! さすがに生きたヤツはヤバいですよ! 早く床に仰向けになって口を大きく開けてください!! 私が取り出しますから!!」

「お、おぅ……そうか」


 オレは言われるままに、床に仰向けになり口を開けた。正直、虫が入った自覚はないのだが、妙見の気迫に押されてしまった。すると、

 妙見が思わぬ行動に出た。オレの口の中を覗き込むように顔を近付けたのだが、めちゃくちゃオレの口に近い位置まで妙見が自分の口を近付けた。そして妙見の口がオレとキスするくらいまで近付くと……





「ヴッ! プゲッ……ゲロゲロゲロゲロレロレロレロレロレロレロ……」





「……」


「先生、よかったですね! これで()()()()()()()()()()を食べられましたよ!」


「……」


「まぁ! しかもお顔がチョコレートフォンデュみたいになっていますよ! うふっ、食べちゃいたいです!」


「……」




 今の妙見のセリフでオレが今、どのような状態になっているのか察してほしい。「いや、これだけでは状況がわからん」という人は、オレが今から()()()()()するから、心臓の弱い人はここから先を読まないでくれ!


 妙見は、大きく開けたオレの口の中に大量の嘔吐物を流し込んだ。大量過ぎて、口の中に入り切れなかった嘔吐物がオレの顔面にあふれ出たのだ。彼女が今まで食べたモノは全てH組の生徒からのチョコレート……なのでH組の生徒からのチョコを全部食べたね! という理屈だ。そしてその色は当然の如くチョコレート色なので、妙見はオレの顔面がチョコレートフォンデュみたいだと言ったのだ。

 今オレは、適度にこなれたチョコと妙見の胃液が混じり合ったモノで顔面が覆われて前が見えない。臭いもチョコ以外に酸っぱいような臭いもする。


 ――とにかく今の状況は……地獄絵図だ。



「せんせーい! 実は私、好きな人に自分のゲロを食べさせたい【変態】なんですよぉ! H組のチョコも全員分食べさせることもできたし、今日はとっても満足できました! 先生! H組のみんなの気持ち……踏みにじっちゃダメですよ! みんなそれぞれ変態だけど……その前にひとりの女の子なんですから!」


「……」


「それじゃあ先生、お疲れっしたぁ!」



 ※※※※※※※



「……げほっ!!」


 ぐはぁー……やっと呼吸ができた。


 死ぬかと思ったが、こんなゲロまみれで死にたくないわっ!



 オレは国語準備室の床に寝そべり、ひとり思っていた。



 ――何やってんだ……オレ?


 ――何なんだ……あいつら?


 ――もっと生徒と向き合え?


 ――生徒を信用しろ?



 何言ってんだよ! こんな【変態ども】と向き合えるワケないし、信用できるワケないし……そもそもアイツらの存在を認めたくない!!



 あーあ、早くアイツら卒業してくれないかなー! それとも……




 オレが教師辞めようかなぁ……。

みなさん、最後まで読んでヴッ! プゲッ……ゲロゲロゲロゲロレロレロレ……

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