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【出席番号35番】真木 温(まぎ のどか)


「先生! 私の中で温まってくださいね!」

 ――うぅっ、寒い!


 2月に入って、更に寒さが増したような気がする。そういや昨日のニュースで寒波がどうのこうのって言ってたような……寒波なんて言葉を聞いただけでも寒さを感じてしまう。

 こんな日は登校するのも辛い。ウチの高校、2月に入ると3年生は登校日を除いて休みになるが教師は関係ない。3年の担任でも1、2年の授業を担当している先生もいるし、そうでなくても何かと忙しいものだ。


 まぁ、H組の変態どもと顔を合わせる機会が減るのは良いことだ。ただ、残念なことに今日は週に一度の登校日……別名「ガマンの日」だ。

 しかも、今日はもうひとつガマンしなければならないことがある。それは、昨夜から降り続いた雪が20センチ以上も積もってしまったことだ……寒い! しかもこの時期、ヒマになりがちな3年生担当の……しかも男性教師は「雪かき」に駆り出される可能性がメッチャ高いじゃないか! 疲れるし面倒くさい!


「先生、おはようございまーす!」

「あぁ、おはよう……おい、あんまりはしゃぐと転ぶぞ!」


 歩いて学校に向かう途中、生徒が追い抜きざまに挨拶してくる。こんな雪が積もった日でも生徒たちは元気だ。

 この時期は制服の上に防寒着を着てくる生徒がほとんどだ。ウチの学校は下に制服さえ着ていれば防寒着は何を着ても自由なので、定番のコートからダウンジャケット、パーカーなど様々な服とマフラーを組み合わせて登校してくる生徒が多い。

 ただ、ここは私立のお嬢様学校……身だしなみに気を遣う生徒が多く、いわゆる着ぶくれをしている生徒は少ない。中にはブレザーの下にセーターだけという防寒対策のみでコートは着ずに、スカートの下は生足……などという強者もいる。それにしても……このスカートっていうやつは寒くないのか? 男のオレには実際のところわからないが、何だか不憫にも思えてしまう。


 そんな中……


ふぇんへひ(せんせい)ほふぁふぉふ(おはよう)ふぉふぁひふぁふ(ございます)

「おう、おは……ギョギョ!!」


 思わず●かなクンみたいな声を上げてしまった。とんでもない格好をした生徒(だよな?)が現れたのだ。その奇異ないでたちに、思わず驚いてしまったのだ。


「おっ……オマエ誰だよ!?」


 いつも会っている生徒に対して「誰だよ」とはあんまりな言い方かもしれない。しかし今、目の前にいる生徒は、ダウンのベンチコートの上にさらにダウンジャケットを着込むという恐らく前人未到の重ね着をして下はロングブーツ、頭はニット帽とファーの耳当て……もちろんロングマフラーにとどめのフェイスウォーマーという、もはや防寒着というより着ぐるみ状態なのだ。これを見て驚かない方がどうかしている。


ふぁ()ふぇんへひ(せんせい)…………私です!」


 フェイスウォーマーを外して顔を見せたのはH組の《真木(まぎ) (のどか)》だ。おいおい、生足にしろとは言わないが、その色気を全く感じさせない着ぐるみみたいな防寒対策はさすがにやりすぎじゃねーのか?


「オマエ……一体何枚重ね着してんだよ?」

「ええっと、1、2、3……12枚ですかね?」

「十二単か! オマエは平安時代の貴族か!? まぁ実際には12枚着ていたワケではないけどな。でも本当に寒いのなら仕方ない……と言いたいところだが、そんなんじゃ身動きとりづらくて危険だぞ」

「えぇっ!? 十二単って12枚服着るんじゃないんですか?」


 ――いや、食いつく所そこかい!?


「とにかく、まだ雪が多いから転ばないように気を付けろよ」

「はーい」


 真木の顔は半分ほどマフラーで隠れていたが、それでもニッコリ微笑んでいたのがわかった。



 ※※※※※※※



 職員用の昇降口に入ると……あぁ、やっぱり!


 雪かき道具一式が置かれていた。朝から雪かきだな……面倒くさいなぁ。


 するとH組副担任の《御坂(みさか) 月美(つきみ)》先生が中から出てきて、


「あ、若彦先生おはようございます! あのぉ、大変申し上げにくいんですが……先生、1時限目は授業ない……ですよね? 前庭の通路の雪かきをお願いしたいんですけど……」


 ――やっぱりね、そうくると思っていたよ!


「あぁ、わかりましたよ! 任せてください」


 満面の笑みで応えた。思いを寄せている御坂先生の前でカッコいい所を見せておくのにいい機会だ!


「すみません、朝のHRは私がやっておきますので……あ、長靴がそこにありますので使ってください」


 一度職員室に入ると、そのままくつろいでしまい外に出る気が失せる。御坂先生にカバンと職員会議の代理をお願いして、そのまま雪かきをすることにした。

 昇降口の片隅に置かれていた雪かき道具の中に長靴が置かれていた。オレは自分の靴を脱いで長靴に足を入れたとき、ある違和感を感じた。


 〝ポチャン!〟


 ん? 何だ? 何か水溜まりにでも入ったときのような音が……すると、みるみるうちに靴下から冷たい感覚が伝わってきた。


「うわぁああっ何だこりゃ!? つっ……冷てぇ!!」


 一度履いた長靴を脱ぐと、靴下がびしょ濡れになっていた。長靴を持ち上げ、逆さにすると〝バシャッ〟という音とともに大量の水……というより「みぞれ」のような雪が入っていた。


 ――何でだよ……もしかして外に放置してあったのか?


 代わりがないので長靴の水分を抜き、靴下を脱いで素足で履き直した……ううぅ~足が冷てぇ~!



 ※※※※※※※



 足の感覚が麻痺しそうになったが、頑張って身体を動かせば少しは温まるかと思い、雪かきに励んだ。すると……


「せんせーい!!」


 校舎から4人の生徒が出てきた……H組の中でも体育会系の生徒だ。全員動きやすいように防寒着の下はジャージに着替えていた。


 元柔道部の《大石(おおいし) (あゆむ)》、

 元水泳部の《唐沢(からさわ) (あくあ)》、

 元ハンドボール部の《多麻(たま) (まり)》、

 そして実家がパーソナルジムを経営している《深城(ふかしろ) (はぐみ)》だ。


「おいオマエら、授業はどうした?」

「あー、どうせ自習だし……ワカヒコ先生のお手伝いをするって言ったら許可下りましたー!」


 ――なんじゃそりゃ? ま、大勢いてくれた方が助かるが……。


 さすが体力に自信のあるメンバーだ、雪かきもはかどってきた……だが、


「先生、なんでスーツのままなんですか?」

「いやぁ、一度職員室に入ってしまうとくつろいじゃって外に出たくなくなるからな……だから今朝は中の事は全て御坂先生にお願いして、そのまま雪かきしているってワケよ!」


「えー先生、やっぱジャージ着てくださいよジャージを!」

「多麻……オマエの目的はわかっているから断固拒否する!」


 多麻 鞠……コイツはキン●マが大好きな【変態】だ。どうせオレがジャージに着替えたらキ●タマを握ろうとするに違いない。


「はぁ……コレって意外と汗かきますよね? ワカヒコ先生! もしインナーが汗でびっしょりになったら、絞って先生に……」

「飲まねぇよ!」


 唐沢 水……コイツは以前、プールから出た直後の自分のスクール水着を絞り、出てきた水を「JK汁」と呼んで飲まそうとした【変態】だ。飲むわけないだろ! それに先週、()()()()()()()を飲まされたわ……思い出しただけでも気分が悪い。


「先生、お疲れでしたら宿直室でお休みになられては? 私が添い寝して……」

「断る!」


 大石 夢……コイツは修学旅行のとき、無理やり人の部屋に押し掛けてきて、寝ているオレに腕挫(うでひしぎ)十字固(じゅうじがため)を掛けて悶絶する姿を見て楽しんだ【変態】だ。


「はぁ、雪が思った以上に重いわよねー」

「あ、だったら気合入れて声を出すといい……」

「深城! オマエは声を出すなー! 近所迷惑だ」


 深城 育……コイツは筋トレできつくなったとき、三流洋モノAVのような喘ぎ声を出して気合を入れる【変態】だ。


 そのうち……


「ねぇ、これじゃ埒が明かないから雪だるまでも作らない?」

「さんせー! 雪、いっぱい集められるじゃん!」


 結局、雪だるまづくりを始めてしまった……しょうがない連中だ。


 だいぶ体を使ったので、長靴の中の冷えた足も温まってきた気がする。生徒が通る最低限の場所は確保できたからそろそろいいかな? すると……


「あれ? 先生!」

「ん、どうした?」

「あんなところに……『粟津まに』の本がありますよ」

「……何だとぉ!?」


 今、我々が雪かきをしている校門と校舎の間にある前庭は、庭園のようになっていて様々な植栽が施されている。その中に、シンボルツリー的な存在の巨大なもみの木がある。その木の下に1冊の本が、表紙をこちらに向けて置かれていた。


 ――おいおい、冗談じゃない!


 粟津まにとは、オレが学校に内緒でラノベ小説家として活動しているときのペンネームだ。しかも書いているのはH組の生徒をモチーフに書いている百合小説だ。残念なことにH組の生徒ほぼ全員にバレているが、この本が校内で……しかも他の教職員に知られたら大問題になる。すぐに回収しなければ!


 まだ雪が大量に残る芝生のエリアに入り、もみの木の下にやって来た。そして本を手にした瞬間、


 〝ドサドサドサーッ!〟


 もみの木に降り積もっていた大量の雪が一斉に、オレの頭上に落ちてきた。


「うわぁ!」

「キャーッ! 先生、大丈夫ですか?」


 一応、頭は強打しなかったがオレは全身雪まみれになってしまった。それにしても何でこんな所にオレの本が……? さっきの長靴といい、何か今日は不可解なトラブルに見舞われる。



 ※※※※※※※



「うぅ~っ、寒い」


 全身雪まみれになって濡れてしまったのでスーツはもう着られない。オレは体育の代行や行事用に使うために置いてあるジャージに着替えようと、ロッカーからジャージの入ったバッグを取り出して急いで更衣室に向かった。


 更衣室で下着姿になって震えながらジャージを取り出した。するとジャージの中から何かが大量に落下した。


 ――げっ! なんじゃコレは!?


 よく見るとそれは、ケーキなどを買ったときに付いてくる「保冷剤」だ。しかも全て凍らせてある。ってことは……?


 うわぁああああ!! ジャージがキンキンに冷えている! しかし今は下着姿だし、今さらびしょ濡れのスーツに戻る選択肢はない。オレはキンキンに冷えたジャージに、震えながら袖を通した。


 ――うぅううううっ! 着替えたのに暖まった気分になれないのは何でだ?


 職員室に戻ってきた。すると、隣の席の御坂先生もブルブル震えていた。


「あれ? 御坂先生、どうされましたか?」

「えぇ、実は……教室のエアコンが壊れていたみたいで……」


 え? そんな状態で授業していたの? どこの教室だよ……ってか生徒も寒いだろ。早く修理しないと!


「それは大変でしたね? 先生、次の授業は?」

「え? あぁ、ありません」

「じゃ、職員室(ここ)はかなり暖かいですから、ゆっくりなさってください」


 と言ってオレは御坂先生のためにコーヒーを淹れてあげた。


「あ……若彦先生、ありがとうございます」

「いえいえ、お気になさらずに……では()は次の授業がありますので……」


 よっしゃ! これでオレの株が少しは上がったな……おかげで寒さも和らいだ気がする。それにしても……何かヘンな日だ。



 ※※※※※※※



 次の授業はH組だ。教室の前に来た途端、オレはある異変に気が付いた。


 ――おいおいおい。


 扉が少し開いていて、上の方に「黒板消し」がはさまっていたのだ。


 ――何で卒業間近のこの期に及んで、こんな昭和の(レトロな)イタズラを……。


 しょうがないな、オマエらにオレのカッコ良さをみせてやるか。


 〝ガラガラガラッ〟


 オレは右手で勢いよく扉を開けると、そのまま落下してきた黒板消しを全く見ずに右手でキャッチした。


「「おぉー!」」


 H組の連中が感嘆の声を上げ、パチパチと拍手が起こった。残念だったな、オレは大学時代、サッカー部でGK(ゴールキーパー)やってたんだ。このくらいの反射神経は持ち合わせているぞ!


 だが、生徒の拍手にひとり酔いしれて中に入ろうとしたときに、「本当のイタズラ」が待ち構えていたのだ。

 教室に足を踏み入れたとき、何かが当たった感覚があった。次の瞬間、オレはバランスを崩して目の前に「あるモノ」が迫ってきたのだ。

 それはビニールプールだ。夏になると庭先で子どもがよく遊ぶヤツ……しかも長方形のかなり大きめのプールだ。そしてその中には……


 ……大量の雪。


 〝ズボッ!!〟


 まさか室内で雪に埋もれるとは夢にも思っていなかった。


「「おぉー!」」


 〝パチパチパチ……〟


 さっきとは全く違った意味合いで歓声と拍手が聞こえた。


「オマエら全員目をつぶれー!!」


 オレはブチ切れした。さすがにここまでやられて怒らなかったら教師として……いや、人間としてどうかと思う。


「この中で『私がやりました』というヤツ、正直に手を挙……」


 と言うや否や、全員が「はーい」と言って手を挙げた……あぁ、無駄な時間だったな。H組の生徒(コイツら)は結束力が強い、みんながお互いを認め合い協力し合う運命共同体みたいな連中だ。つまり、コイツらにこんな質問は愚問ってことだ。


「わかったよ、オマエらに聞いたオレがバカだったよ! じゃあ授業を……って、何か寒くないか?」


 すると、クラス委員長の《愛宕(あたご) (あかり)》が、


「あぁ先生、今日エアコンが壊れているっスよ!」


 と言ってきたのだが……げっ! オレは愛宕の姿を見て驚いた。愛宕は登校時と同じコートを着てマフラーも巻いて完全防寒の格好をしていたのだ。よく見ると他の生徒も同じように防寒対策をしていた。

 そうか! さっき御坂先生が言っていた、エアコンの壊れた教室ってH組のことだったのか!? ちゃんと聞いておけばよかった。すっかり油断していたオレの格好はジャージだけ……いかん、このままでは凍死する。


「き……今日は……じ……自習してていいぞ」


 早くここを出よう! どうせ今日は今までの授業の復習をする予定だったんだから……オレは教室から出ようとした。あれ? さっきの雪が入ったプールがない! 誰が片付けたんだ?


 〝ガラガラガラッ〟〝ズボッ!!〟


 オレは教室を出た瞬間、()()()()()()()雪の入ったプールに再びダイブした。



 ※※※※※※※



 ――誰だこんなイタズラするヤツは!? もう許せん!


 最初、長靴やもみの木の件は事故だろうと思っていたが、おそらくアレもイタズラに違いない。でも誰が何の目的で……?

 職員室に戻ると、衝撃的な光景が目に飛び込んできた! 御坂先生がジャージを着て肩にバスタオルを掛けガタガタと震えているのだ。よくみると髪が濡れ、唇が紫色になってかなり寒そうな状態だ。


「みっ、御坂先生! 大丈夫ですか!?」

「え、あぁ……ちょっと寒いだけなので……ここにいれば何とか……」

「一体何があったんですか?」

「実は……ある生徒さんから凍った池の上に本を落としたので拾ってほしいと連絡がありまして……拾いに行ったんですが……氷が割れて池に落ちてしまいました。それで、全身ずぶ濡れになってしまいまして……」


 え? ()()ずぶ濡れってことは今、御坂先生が来ているジャージの下は……って今はそんな妄想している状況じゃない!


「御坂先生、氷の上に安易に乗るのは危険ですよ!」


 池とはさっき雪かきした前庭の一角にある池のことだが、水深は1メートルほどで大人なら足が付く深さだ。とはいえ何かの拍子で氷の下に入ってしまうと大事故につながる。

 御坂先生が無事でよかった。だが今の話でひとつだけツッコミどころがある。


 それは、池の上に本を落とす状況……何でだ? とても理解できない。池は通路沿いではないのでわざわざ歩いていかなければたどり着けない。投げ入れたのか? そんなバカな……しかもこの雪の中、池の周りで読書するヤツはいないだろう。

 そういえば、前庭のもみの木の下にも本が置いてあったが……まさかっ!?


「御坂先生! その本って拾われましたか?」

「いえ、結局拾うことができなかったのでそのままです」

「ちなみに……何ていう本かは聞いていますか?」

「ええっと……確か『私をベッドで温めて』とかいうタイトルだそうで、作者は粟津ま……」


 オレは御坂先生の言葉を聞き終わる前に職員室を飛び出した。



 ※※※※※※※



 前庭にある池の前にやって来た。御坂先生の言った通り、凍った池の上に本が置いてある。間違いなくオレの書いた本だ! ご丁寧に池の周囲のどの位置からも届かないような場所に置いてある。氷の上に乗らないと取れない状況だ。

 あの本はオレの書いた小説の中でも特にエロい内容だ。あの本が学校関係者の手に渡り、作者がオレだと分かった時点で教師生命が終わる。何としてでも回収しなければ……!


 とりあえず氷が厚そうな部分を探そう! 目の前には御坂先生が落ちたと思われる、氷が割れた場所があるのでその反対側に回り込んだ。

 2、3回足で氷を叩くように踏み、割れないことを確認した……オレは慎重にゆっくりと氷の上に体重をのせた。


 〝バリンッ!〟〝バッシャーン!〟


 1歩目で落ちた……最悪だ。


 ――クソッ!


 池に落ちたオレは右手で水面にある氷を叩いた。すると簡単に氷が割れた。


 ――何だ、簡単に割れるじゃん!


 オレは砕氷船のように氷を割りながら進み、本を回収した。



 ※※※※※※※



 ――さっ、寒すぎる! しっ、死ぬ!


 このままじゃ凍死か、運よく生きていても低体温症になる。全身ずぶ濡れになったオレは、震えながら職員室に戻ってきた。


「あら、若彦先生……ずぶ濡れじゃないですか? 大丈夫ですか?」


 御坂先生が心配して駆け寄ってきた……あれ?


「御坂先生……もう大丈夫なんですか?」


 先に池に落ちて、全身ずぶ濡れで顔色まで悪かった御坂先生が、すっかり顔色が良くなって元気になっていた。


「えぇ、おかげさまですっかり温まりまして……」


 それは良かった……だがこっちは全然良くない! 御坂先生は着替えてジャージ姿だが、オレは着替えたジャージがずぶ濡れになってしまったのだ! つまりオレにはもう着替えが無い。

 仕方ない、まだ乾ききっていないスーツを着るしか方法がない……びしょ濡れのジャージを着たままよりマシだ。オレは湿ったズボンとワイシャツを持って職員用の更衣室に向かった。


 更衣室に入ると、ある生徒が立っていた。


「おい、真木……ここは生徒の立入りは禁止だぞ!」


 立っていたのは朝、着ぐるみのように厚着をしていた真木だ。今も登校時と同じ格好の着ぐるみ状態だ。


「やだなぁ、大好きな先生が寒そうにしているから助けに来たんですよ」

「は? どういうことだ?」

「先生……今日は1日、寒い思いをされてたんじゃありませんか?」

「あぁ寒いよ、今も死にそうだよ」

「なので先生……」


 と言うと真木は、あらかじめファスナーやボタンを外していた上着の前を、まるで露出狂のように広げてきた。その着ぐるみのような上着の中からビキニ姿の真木の体が現れた。

 上着をはだけた瞬間、使い捨てカイロがボタボタと床に落ちた。相当暑かったらしく、肌がほんのりと赤くなっているのがわかった。


「さぁ……先生! わっ私の体で温めてあげますよ! こっこのコートの中に入って……わっわわ私に抱かれてください!」

「……」

「せっ先生、ついでにアソコが縮んでいませんか!? わっ私が……揉んで元通りにしてあげますよぉ~! 何ならいつもより大きくして……はぁ、はぁ……」


 と言うと真木は、手のひらを上向きにして指を小刻みに動かしていた。




「そうか……オマエが犯人だな? この【変態】!! 後で生徒指導室に来い!! たっぷり反省文書かせて、頭()()()()やるからな!」




みなさん、最後に温まりましたか? 次も温まるお話ですよ(ウソ)。

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