【出席番号30番】羽根戸 贈(はねど まかな)
「せんせ~、プレゼントはワ・タ・シの……」
【色々な意味で問題作です】
学生時代、オレが今の仕事……つまり女子高の教師になると決まった当時、同じく女子高の教師をしている大学のOBから言われたことがある。
「若彦、女子高ってのはな……ナプキンが飛ぶ場所だ、覚えておけ」
オレは最初、この人は何言ってるんだろうと思っていたが、女子高の教師になって早3年、その意味がようやくわかってきた。
「あ……来ちゃった、ねぇ! 誰か余ってない?」
「あ、私持ってるよ……はいっ」
〝ヒュッ〟〝パシッ〟
「ありがとー! あ、先生! トイレ行ってきていい?」
「あぁ行ってこい(棒読み)」
……そう、このことだ。着任して3年間、何度も経験しているからもう慣れた。
授業中に生理用品の貸し借りをしているのだ……しかも堂々と。他にも夏の間は蒸れるからといってスカートの中を下敷きで仰いでいるわ生徒同士で胸の揉み合いをしているわ体育の後は制汗剤のガスが充満するわ……ましてや4時間目が体育で5時間目に授業のパターンだと制汗剤に加え、昼休みに食べた物の臭いがブレンドされて授業どころじゃなくなる。
男性教師が空気のような存在なのでやりたい放題だ。他の先生に話を聞いても同じような答えが返ってくる。一応、ここはお嬢様が通う学園だが……親の目が届かないところじゃこんなものだ。まったく……自由すぎるよ女子高生って。
話を戻そう。こうやって堂々と生理用品を貸し借りしている光景に対して「おい授業中だぞ!」と怒れないのが現実だ。着任したてのとき、H組とは別のクラスで一度だけ注意したことがあったが、結果そのクラス全員を敵に回してしまった。とにかく生理に関することには「無視」するのが得策だと、そのとき実感した。
トイレに向かう生徒を無視して授業を続けようとしたが、最近、ちょっと変わったことが起きている。
「あっ、ねえねぇ! 例のヤツ……よろしくね」
「うんわかった! たぶん明日あたりだと思うけど……」
トイレに行こうとするクラスメイトに謎の声掛けをする生徒がいるのだ。生徒の名前は《羽根戸 贈》……ボランティア部に所属している。
ちょうどこの時期も年末の募金活動をしているようだ。彼女がH組で募金活動をすると、生徒個人のボランティア精神が強いのか彼女にカリスマ性があるからなのか、クラス全員が募金をする。募金額は全校で3年H組がダントツに多いらしい。
また、彼女は普段から友達や教職員に対して事あるごと……例えば誕生日やバレンタインなどにプレゼントを渡してくるのが習慣になっている。これはゴマすりとか裏があるとかそういうワケではなく、純粋に奉仕好きだということだ。
それにしても……何だ? 「例のヤツ」って?
※※※※※※※
「若彦先生、お疲れさまです」
授業が終わって廊下を歩いていたら声を掛けられた。声の主は別のクラスで授業を終えた産休代替教員で古典教師の《雁坂 良夢》だ。
「あぁ、お疲れ……どうです、(この学校には)慣れましたか?」
「いやぁ、なかなか大変ですねぇ女子高は……以前、共学校で臨採(臨時的採用教員)やったときとは全然勝手が違いますよ」
虫も殺さぬ顔をしたカワイイ系男子の「ラムちゃん先生」だが、この男にはある「疑惑」がある。それはコイツが最近、オレと同じくH組の生徒をモチーフに百合小説を書いている謎の新人作家、《良坊 種夢》ではないかということだ。
「そうですね、アイツらホントに謎の生命体ですからね! だから……色々知りたくなるでしょ? 特にオレのクラスの生徒からは……」
こっちから仕掛けてみた。オレは先日、この男がウチのクラスの《八幡 運》と口論している姿を目撃した。八幡の話だと、最近コイツはH組の生徒にしつこく付きまとい、場合によっては脅しまでして「何かの情報」を聞き出そうとしているみたいだ……おそらく小説のネタであろう。
すると、さっきまでニコニコしていたラムちゃん先生が一瞬真顔になったが、再びニコニコしながら
「あれ~? 若彦先生……もしかして起きてましたか?」
そう……オレはあのとき八幡に殴られ気絶していたが、意識を取り戻していたときにこの男が八幡と口論していたのを見ていたのだ。
「えぇ何となく……どうやらウチの中津森と鴨狩にも何か話を聞いていたとか……それって教師の仕事と何か関係あるんですか?」
H組の生徒、《中津森 縫》と《鴨狩 紬》が付き合っているという話を先日知った(オムツ仲間という変態的な関係だが)。その2人にコイツは接触したというのだ。それを裏付けるかのように、その後「良坊 種夢」が書いた小説は、明らかにこの2人をモチーフにした内容だったのだ。
「……どういう意味ですか?」
「いやぁ、良夢先生……もしかして教師以外に何かお仕事やってらっしゃるのかなぁって思ってしまいましてね……何か、生徒の行動を反映できるような……」
すると、ラムちゃん先生……いや、良坊 種夢はため息をつきながら
「若彦先生、この学園って特に副業は禁止されていないはずです。しかも私は、依頼されてやっていることなんですよ……」
――はぁ? 依頼だって!? 何だよそれ? じゃあオマエは影武者で他に「良坊 種夢」がいるってことか?
「それに……今はLGBTが一般的になった時代、(女子)生徒同士の恋愛に口出しすることはありません、ただ……」
――だろうな、逆にオマエは女子生徒同士の恋愛をネタに小説書いているんだろうが……オレもだが。
「教師と生徒との恋愛はどの時代でも『ご法度』なんですよ……若彦先生」
そういうとラムちゃんは職員室に入っていった。
――え? ちょっと待て! まさかそれってオレのことか?
確かに最近、H組限定でオレのことを好きだって言ってくる生徒が多いが……オレは誰とも付き合ってねーし、むしろ【変態】どもとは関わりたくねーし……どういうことだ一体?
※※※※※※※
「先生、明日はクリスマスイブですけど……ご予定ないですよね?」
おい何だその失礼な聞き方は!? この時期一番センシティブな質問だぞ! 何で予定がない前提でしかもド直球に聞いてきやがったんだ?
放課後の国語準備室、オレに無礼極まりない質問をしてきたのは……羽根戸だ。
「はいはい、ご予定はねぇよ! 仕事だよ……そういうオマエは予定あるのかよ」
オマエ、オレに彼女がいないことを承知で言っているだろ? 逆に聞き返してやった。ここで「そういうオマエは彼氏と……」という聞き方だとセクハラになりそうだが、「予定……」くらいじゃ問題ないだろう。
「え? 私はH組のみんなとクリスマスパーティーですよ!」
「あぁそうかい、楽しそうで何よりだな」
「えぇ、とっても楽しみです」
……ったく、世間一般の高3っていったら受験勉強でクリスマスどころじゃないはずだぞこの時期は。オレは思わず心の声がこぼれて
「あっそ、いいよなぁ女子高生は気楽で……」
と呟いた。すると、その言葉を聞いた羽根戸は突然ムッとした表情になった。
「先生ひどーい! 女子高生だって大変なんですよぉ!」
「そっかぁ? 受験戦争と無縁で遊んでばかりいるオマエたちを見てるとそう感じざるを得ないけどな。大人は……しかも男は大変なんだぞ」
クリスマスイブに彼女いなけりゃ惨めだし、かと言って彼女いてもデートや食事の支払いとか金銭的に大変なんだよ……男はつらいよ。
「女だって大変なんですよぉ……まぁでもよかった、実はパーティーに行く前に先生のお宅に伺ってクリスマスプレゼントをお届しけようと思っていまして……」
――え? プレゼント? そういや羽根戸は誰かにプレゼントするのが好きだったよな? オレも事あるごとにもらっていたが……。
「あぁ、おそらく定時で帰れると思うが……でも、学校じゃダメなのか?」
「やだなぁ先生、クリスマスですよ! サンタさんが自宅まで届けるのが当たり前じゃないですか」
サンタ? 自宅? なんかイヤな予感がするが……まぁいいか。
※※※※※※※
そしてクリスマスイブ当日、こういう日に限って残業になってしまった。せっかくのイブだというのに……まぁ予定もないが。
だが……天は我を見放さなかったようだ! 実はこの日、残業していたのはオレだけではなかった。
H組の副担任、《御坂 月美》先生も残業していたのだ!
他の先生方は定時で帰っていった。そんな中、憧れの御坂先生とクリスマスイブに2人きり……これはチャンスだ! せっかくのイブだし……このあと食事にでも誘いたいなぁ……。
「あ、お……お疲れさまです」
「お疲れさまです」
「……」
うわぁ、いざとなったら緊張する! いつもならこの後、(他の先生も交えて)よく一緒に飲みに行っているというのに……。
クリスマスイブという特別な日がそうさせているのか? まぁでもあれだ、ここで2人っきりで食事だなんていうとハードルが高くなってしまうからな。いつものように飲みに行く……とかだったらイケるかも?
「あ、御坂先生……この後ご予定はありますか? よかったら……その……飲みにでも行きませんか?」
大丈夫! クリスマスイブでも居酒屋は営業しているんだ! 高級フレンチだけじゃないんだぞ……クリスマスイブの需要は!
「え? あぁ実はこの後予定があって……すみません、また次の機会にでも……」
――うわぁああやっちまったぁあああ!
だよなぁ、御坂先生のような美人がクリスマスイブに予定がないワケがない。きっと彼氏と食事にでも行ってそのあと……うわぁああああっ!
やっぱ浅はかすぎたか? そりゃそうだ、こんな美人に対して直近で食事に誘うなんて、有名アイドルのコンサート当日にチケット持たず当日券に期待して行くようなものだ……無謀すぎた。
この後の残業時間はメチャクチャ気まずかった。
※※※※※※※
結局、御坂先生とはその後何も話さず、気まずいまま1時間ほど残業した。
帰り道……今日は街中にカップルが多い気がする……いや、絶対多い! 彼女いない歴5年のオレに対しこれ見よがしにイチャイチャしながら歩いているようだ。
コイツらこの後食事にでも行ってそのまま……あーあ、この日だけはカップルをブン殴っても罪に問われない法律でもできないかなぁー!
今夜はコンビニ弁当買うのも癪だから、まっすぐ家に帰って買い置きのカップ麺でも食うか……そう考えたとき、ふと思い出した。
――そういえば今日、羽根戸がプレゼント持ってくるって言ってたよな?
ヤバい! 定時で帰るって言ってたのに残業してしまった。家の前で待たせていたら悪いよな……オレは慌てて家路を急いだ。
「ハァ……ハァ……」
オレはアパートまで走って帰ってきた。するとオレの部屋の玄関前に何やら怪しげな「箱」が置かれているのが目に入ってきた。
外観はプレゼントで使うような包装がされていてリボンも掛けられている箱なのだが……メチャクチャでかい! 1辺が1メートル近くある巨大な箱だ。
ここはアパートといっても建物自体は高級マンションと同じ造りだ。共用スペースの廊下も広めだが、これは絶対他の住人に迷惑が掛かっているに違いない。
もうオチが読めているので、オレは巨大な箱のフタの部分を〝コンコンッ〟と軽く叩いた。するとフタが開き、中から
「ジャーーーーン! メリークリスマーース!! セクシーサンタさんだよぉー! プレゼントはぁ~ワ・タ・」
〝バンッ!!〟
オレは無言で力任せにフタを閉め、一瞬だけ出てきたヤツを強引に押し込めた。
「痛ぁ~い!! 何すんのよー!」
「ったりめーだ! こんなベタすぎるネタ、今どき三流同人誌でもやらねーぞ!」
再び開いた箱から出てきたのは、ほぼビキニに近いサンタクロース(え? それってサンタって言えるのか?)のコスプレに身を包み、全身にリボンを巻いた羽根戸だった。
「もう、先生! 遅いよぉ」
「いや残業になっちゃったし……それにオマエがこんな格好しているなんて想像していな……いや想像したくもなかったし」
「もう! この格好で箱に隠れて……メッチャ恥ずかしかったぁ」
「だったらすんなよ……っていうか、寒くないのか?」
〝ヒュゥゥゥゥゥー〟
そう、ここは高級マンション風の建物だが、廊下は吹きさらし……つまり外の風がモロに当たる場所なのだ。
「うぅっ……メッチャ寒ぃいいいいっ!!」
「バカだなオマエは」
オレは凍える羽根戸を家に入れてやった……後で箱は片付けておけよ。
※※※※※※※
リビングに入ってすぐに暖房をつけ、ホットコーヒーを淹れた。
別の部屋で着替えた羽根戸がやってきた。このあとクリスマスパーティーだというが、普通の格好だった。彼氏とか一緒ならもう少しオシャレな格好でもするだろうが……H組のみんなと一緒というのは間違いなさそうだ。
「あぁー、暖まったぁ~!」
コーヒーを1口飲んだ羽根戸は満足そうに言った。
「オマエなぁ、何もプレゼント渡すだけであそこまで体張らなくても……」
「だって私、みんなが喜ぶ顔を見るのが好きなんですから」
「だからって……あ、まさかプレゼントってコレなのか?」
「え? まさかぁ~、ちゃんと用意してありますよ」
と言うと羽根戸は、リボンと包装紙でラッピングされた箱を取り出した。
「はい、先生! メリークリスマス! これはH組全員からのプレゼントです」
「あ、あぁありがとう」
1辺が3、40センチくらいある平べったい箱だ。持ってみると意外と軽い……何だろう? シャツとかバスタオルとかそういう類かな? すると羽根戸が
「あ、先生! ちょっとおトイレ借りていいですか? ずっと外で待っていたから我慢していて……」
「あぁそうか、悪かったな……廊下に出てすぐ右側のドアだよ」
「先生、その間にプレゼント開けてみてください……気に入っていただけるといいんですけど」
「あぁ、見てみるよ」
そういって羽根戸はトイレに向かった。さて、プレゼントは何だろう? ワイシャツとかならうれしいが……。
包装紙を破り、箱を開けてみる……ん? 何だ? 中の見えない黒い袋が出てきた。しかも布団圧縮袋のような真空状態でカチコチに固まっている。
あぁ、これは枕かクッションだな? コンパクトにするために真空梱包しているのだろう。オレはハサミを取り出し、袋の端を切って開封した。袋が少し膨らんできて中身が取り出せるようになったので手を入れてみた……さて、中身は一体何だろう? 正直、クッションならあまりうれしくないが枕だったらいいな……安眠できるヤツ、抱き枕でもまぁいいが…………ん?
なんか……臭うぞ! しかも中は微妙にしっとりしている感じだ。何だコレは? クッションっぽいのは間違いないが、あまりに違和感を感じたため袋の中に入れた手を一旦引き抜いた。すると、それまで期待に胸ふくらませていた喜びの感情が一気に凍り付いた。
うわっ! オレの手に赤い血のようなものが付いていた。何だコレは? 突然ホラーのような展開になってしまった。え? 死体でも入っているのか? このまま中を見ずに捨てたい気分だが、一応何なのか確認しておかないと……オレは意を決してリビングテーブルの上に中身をぶちまけた。
「うわぁああああああ!!」
思わず絶叫してしまった。中からは大量の血が付いたポケットティッシュのようなものが出てきたのだ。
よく見るとそれは……生理用のナプキンだ。つまり、使用済みのナプキンが大量に入っていたのだ。大量の血液……いや、経血が付着したナプキンが全て広げた状態で入っていたのだ。確かコレって普通、丸めて捨てるよな? やがて……
――うっ……くっせぇえええええ!!
独特の臭気が部屋中に広がってきた。おえっ、これはキツい! 早くまとめて捨てなければ! オレはパニック状態になってゴミ袋を探していると、リビング入り口のドアにさらなるホラー的シチュエーションが待ち構えていた。
「せ~~~~んせ~~」
ドアから顔だけを出した羽根戸が、ニヤリと笑った顔でこっちを見ていた。
「うわぁ!」
「せ~んせ~、いかがですか~? 私たちからのクリスマスプレゼントは~?」
羽根戸は話し方がホラーに出てくるメンヘラ女のようだった……こっ怖い!
「なっ……何だよ! 何のマネだ!?」
「これは~H組全員の使用済みナプキンですよ~! 1ヵ月かけて集めたんですよ~! 今回は~タンポン派の子にもお願いして~ナプキン着けてもらいました~」
「い、いや……だからどういうつもりだ!?」
「先生~、先生はこの前『女子高生は気楽』っておっしゃってましたよね~?」
「え? あぁそういえば言ったかもしれないが……」
「先生~! 女子高生だって大変なんですよ~! 毎月毎月、正直来てほしくないものが来るんですよ~! 痛みもひどいときには……そういえば先生、この間マリリン(多麻 鞠)からボールを股間にぶつけられていましたよね~? あの痛みが何日も続くと思っていてくださ~い! そんな辛さに耐えながらですね~女子高生はそれを表に出さず、何事もないように日々学校に来て勉強しているんですよ~」
「わっわわわかった! わかったからこのクサいのどうにかしろ!」
「せ~んせ~! まだわかってらっしゃらないようですね~! そのナプキン、よく見るとH組の人数よりひとつ足りなくないですか~?」
「そっそんなんいちいち数えられるか!」
ただ、よく見ると2つだけ異常に大きいのがあった……これはナプキンではなく紙オムツだな?
「その中には~……まだ私の分が入っていないんですよ~!」
――え? まっ、まさか!?
リビングに入ってきた羽根戸の右手には……まだ赤々とした経血がベットリ付いた使用済みナプキンがあった。包み隠すどころかその部分をこちらに見せつけている……うわぁあああ! 怖い!!
「これは~今、トイレで交換してきました~! 実は私、今日2日目なんですよね~! 先生~、さっきクサいっておっしゃいましたよね~? それは時間が経ったナプキンの話で~す、本当は出たばかりのヤツは無臭なんですよ~! 今、ここにいいサンプルがありますから~~先生! 本当にクサいかどうか嗅いでみてくださいよ~! さあ~!」
「いっ……イヤだぁあああ」
「何でですか~? 世の中にはコレが好きで~わざわざ汚物入れから盗んで収集するヘンタイもいるらしいですよ~」
「オッオレはそんな趣味ねーよ!」
「まぁ見ず知らずのヘンタイにそんなことされたら引きますけどね~、でも好きな人なら話は別ですよ~! 生理があることを理解してもらって~生理が来た自分も嫌がらずに受け入れてもらいたいです~! だから~~H組のみんなは先生のことが好きですから~全員のことを受け入れてくださ~い!」
そう言いながら羽根戸は、使用済みナプキンを持って1歩ずつ近付いてきた。
「だっだからってその理屈はおかしいだろ」
「ま~だそんなこと言ってるんですか~? もしかして~生理って青い液体が出てくると思ってませんか~? そんなことマジで思っているヤツがいたら~そいつは女性に対して勉強不足です~一生童貞でいてくださぁ~い!」
おい何言ってるんだコイツ……
「先生~、そんなワケなので~せっかくのクリスマスイブなのに先生とS●Xできないです~ごめんなさ~い」
「いや別にオマエがどういう状態でもしねぇよ!」
「でも~『生理中は妊娠しないから』とか言って~こういう日を狙って生でヤろうとする男がいるみたいですけど~そういう男って~女を物として扱っていますよね~? 私は~願い下げで~す! ちなみに~妊娠はすることもありますよお~」
もう、さっきから何言っているんだよコイツ……メチャクチャ怖い!
「せ~~んせ~~!」
羽根戸が使用済みナプキンを持ったまま至近距離まで近付いてきた。うわっ! オレは尻もちをついてその場に倒れ込んだ。そのとき手をテーブルについてしまい、上にあった使用済みナプキンが床に散乱してしまった。
――うわぁああああああああああ!!
倒れ込んだオレの身体にナプキンの粘着面が張り付いてしまった。その上に羽根戸が覆いかぶさるように乗っかってきた……オレ、もしかして殺されるのか?
「先生! 女子高生は気楽じゃないですよ~! 発言を取り消して謝ってくださ~い! 毎月大変な時期があるってことを理解してくださ~い!」
羽根戸が自分のナプキンを目の前にチラつかせながら迫ってきた。
「わっわかった! 発言は取り消す! オマエたちが毎月、大変辛い思いをしていることはわかった! だから許して……ごめんなさぁああああああああい!」
オレが謝ると羽根戸は、殺人鬼のような顔からいつもの表情に戻った。
「よろしい! じゃあご褒美に私の使用済みナプキンもう1枚オマケしますね~! 1枚はコレクション用で~もう1枚は自由に使ってください! 匂い嗅ぐもよし、頬ずりするもよし、舐めるのも……あ、これって疑似ク●ニですよね~! 想像しただけで感じちゃいそうで~す……あぁっ!」
今さら言うことじゃないが……コイツ、【変態】だぁああああ!!
※※※※※※※
やっと羽根戸の暴走が落ち着いた。まぁでも羽根戸の言う通り、女子生徒を相手している身としては、こういうことに対して理解や配慮ができるようにならないといけないよなぁ……。
「そういや羽根戸、オマエこの後クリスマスパーティーに行くんじゃないのか?」
「あぁそうだった! そろそろおいとましなきゃ」
羽根戸は帰り支度をした……折りたたんだ巨大な段ボール箱を持って。
「じゃ、先生! よいクリスマスイブを!」
いやオマエのせいで最悪のクリスマスイブだわ! っていうかコレ(使用済みナプキン)も持って帰れよ!
「ところで羽根戸、そのクリスマスパーティーって……H組の生徒だけなのか?」
過干渉になりそうだが一応確認してみた。もし男友達とか誘っていて羽目を外しすぎ、いわゆる不純異性交遊とか問題を起こしたらマズいからな。
「えぇ、H組の生徒と御坂せんせ……あっ!」
羽根戸はそう言いかけて「しまった!」という顔をした。
「おい! 今なんて言った!?」
「えっええ何も言ってませんよ!」
「ウソつけ! 今、御坂先生ってハッキリ言ったよな?」
すると羽根戸は観念して
「すっすみません! 実は御坂先生は誘っていたんですけど……今回は女子会にしようって話なので若彦先生は誘っていなくて……」
「いやそれは全然かまわない」
「え!?」
そんなH組の生徒の集まり、誘われても絶対に行かない! それより……
「そっかぁ御坂先生、オマエたちと一緒なんだな? それはよかったぁー」
「え……え? えぇ?」
困惑している羽根戸をよそに、オレはとても清々しい気分だった。今夜、御坂先生は「予定がある」と言ってオレの誘いを断った。てっきり他の男とデートだと思っていたが……。
「あ、そうだ羽根戸」
「は……はい?」
「御坂先生ってさぁ……その……彼氏とかいるのかな?」
オレは勢い余って聞いてみた。
「あー、彼氏はいませんよ! それは間違いないです。ちなみにH組も全員彼氏持ちはいないですよ……まぁ生徒同士で付き合っている人はいますけど」
「あ、『ちなみに』以降の情報はいらない!」
「え゛ぇっ!?」
特に中津森と鴨狩の情報はいらない! アイツら今日、「私たち今夜はクリスマスオムツ交換会やるんですよー」と聞きたくもない情報をわざわざ報告しにやって来やがった。
オレは天にも昇る気持ちになった。御坂先生が彼氏ナシだとわかったのだ! よっしゃ! こりゃワンチャンあるかもな!? 今年のクリスマスイブは最低から最高に変わったぞ!
「そっかぁ、じゃあ羽根戸! みんなによろしくな! あ、これは差し入れだ」
といってさっきの使用済みナプキンを箱に戻して羽根戸に渡した。
「ちょ待ってください! これは私たちからのクリスマスプレゼントですよ」
「バカヤロー! 週末はさんでゴミ出しの日まであと3日もあるんだぞ! そんなに置けるか!?」
「あー! ひどーい! 私たちの想いをゴミ扱いするんですかぁ!?」
「冗談じゃねぇ! もうすでに臭いが拡散してるんだよ! あと3日置いたらどうなると思ってんだ?」
「いいじゃないですか! 私たちJKの匂い(本当は時間経過とともに増殖した雑菌の臭い)ですよ! 芳香剤代わりに使ってください! 何ならビン詰めにして商売始めてもいいんじゃないですか? これが本当のJKビジネスですよ」
「アホかー!!」
結局、密封はしたものの臭いが抑えきれない状態で3日間保管……部屋中に臭いが染みついた。
最後まで読んでくれましたか~!? じゃあご褒美に私の使用済みナプ(以下略)




