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【出席番号25番】天目 波(てんもく なみ)


「若彦君! 主の電波は余が必ずや受信するなり!」


 

「あいたたた……頭が痛い」


 今日は二日酔いのまま出勤している。教師としてあるまじき行為だが、これには理由がある……。


 昨日、帰り道で大学時代の友人とバッタリ会った。彼とは卒業以来会っていなかったので久しぶりに一緒に飲もうという話になり、そのまま居酒屋に入った。当時とても仲が良かった友人と学生時代の思い出話に花を咲かせてしまい、翌日も仕事があるのを忘れ……気が付いたら終電を逃してしまった。

 仕方なく、近くのネカフェで仮眠をとりそのまま出勤したのだが……今、オレは二日酔いの他に、とんでもないピンチに陥っている。


 実はその友人、大学時代から異常ともいえる「AVマニア」なのだ。もちろんオーディオビジュアルのことではない、だったらオレも困ることはない。

 いわゆる「アダルトビデオ」のことだ。この友人は様々なジャンルのアダルトDVDを保有、常に持ち歩いている。それを名刺代わりにいろんな知り合いに貸してくる……という歩くレンタルDVD店だ。断っても半ば強引に押し付けてくる困ったヤツだ。で、酔った勢いでオレも学生時代のノリが出てしまったのだろう……


 気が付いたらオレのカバンに入っていた。しかも何枚も! アパートに帰っていないので当然、今も入っている。


 ――これはヤバいだろ?


 ここは女子高だ。もしこんなモノが生徒に見つかったら軽蔑されネタにされてしまう。教職員に知られたら臨時の職員会議だろう。不幸中の幸い? なのは、中身が全て「巨乳熟女モノ」だということ。オレは年上が好きなので女子高生に興味はない。もし「女子()生モノ」でも入っていたら女子高(ここ)は退職だろう。男子校あたりで就職先を探さなければならない……まぁジャンルに関わらず問題にはなるが。

 カバンは職員室にある個人ロッカーで厳重に保管している。今日1日……無事でいてくれ!



 ※※※※※※※



 今のところ生徒や他の教職員に対して二日酔い(とDVDを持っていること)は気付かれていない。人と話すときはいつもより距離を置いている。

 危機回避を続け4時間目まで乗り切った……今はH組で授業中だ。何事も起こらなければよいが、この時間のH組にはひとつだけ懸念材料がある。それは……


「ゆんゆんゆんゆんゆんゆんゆんゆん……受信した」


 うわっ! やっぱり始まってしまった。静かに授業が進んでいたのだが突然、教室内に怪しげな声が響き渡った。


「あっ、()()()()()()のお告げだわ」

「えー、今日は何が出るの?」


 クラス中がざわついた。


「おい、静かにしろ! 授業中だぞ」


 オレが注意しても誰も聞かない。まぁこの時間だけの恒例行事になっているのだが、今は二日酔いで頭が痛い。できれば今日だけは勘弁してほしい。


「皆の者! たった今、天目(あめのま)一箇神(ひとつのかみ)様より誠に有難きお言葉を頂戴した」


 この意味不明な発言をしている生徒の名前は《天目(てんもく) (なみ)》、本人が言うには自分は「天目(あめのま)一箇神(ひとつのかみ)」という神に仕える巫女で、神と交信できるらしい。姫カットの黒髪と眼帯……要するに「中二病」、もとい「電波」というやつだ。

 天目(あめのま)一箇神(ひとつのかみ)というのは神話に登場する神だが、たまたま自分の苗字と同じ漢字を使っているから勝手に語っているだけだろう。

 ウチのクラスの問題児の1人だ。まぁH組は変態が多く、全員が問題児ではないのだろうか? と最近思うようになってきた。


「ははーっ!」

「で、波さま……本日のお告げは一体何でございますか?」


 おいおい、オマエらも天目(コイツ)の設定に乗るんじゃねぇよ! 普通ならこんな電波ちゃんの戯言(たわごと)など相手にされないだろう。だがH組の連中は彼女の「お告げ」を心待ちにしている。それはなぜかと言うと……


「本日午の刻、学食にて振舞われる日替わり定食は……Aがデミグラスハンバーグ定食、Bがオムライス定食なーりー」


「きゃー! やったぁー! ハンバーグよ!」

学食(ここ)のハンバーグ定食美味しいのよねぇー」

「よっしゃ! 今日はダッシュで行くでー」


 ――おいっ! オマエらまだ授業中だぞ! ていうか騒ぐな! 頭が痛い。


 こんな感じだ。天目はこうやって学食の日替わり定食のメニューを「受信」しているのだ。で、4時間目はコイツの「お告げ」によってクラスが一喜一憂するというのがお決まりのパターンだ。

 基本的に100パーセント的中する。なのでH組のみんなは「お告げ」を信用しているのだが、これは神の啓示でも超能力でもない。オレは理由を知っている。


 天目(コイツ)の母親は、この高校(ウチ)の学食で管理栄養士をしている。何の不思議もない。



 ※※※※※※※



 あいたたた……まだ少し頭が痛い。


 昼休みは保健室に行った。養護教諭の《鳥居地(とりいじ) 新名(にいな)》からは「学校の保健室は二日酔いの対応していないぞ!」とメチャクチャ怒られた。保健室に内服薬はないが、たまたま新名(ニーナ)が私物で市販の頭痛薬を持っていたので分けてもらった。


 まだ休み時間があるから少し休もう。薬も飲まなきゃなぁ……メシは食いたくないけど空腹で飲むワケにはいかないだろう。何か軽く食わなくては……。

 あぁ、そういえばカバンの中に菓子パンとミネラルウォーターがあったな。せめて朝食ぐらい摂ろうと思って出勤前にコンビニで買ったヤツだ。でも具合が悪すぎて結局食べられなかった。オレは職員室にパンと水が入ったカバンを取りに寄ってから、いつものように誰もいない国語準備室に向かった。


「はぁ……」


 オレは国語準備室でパンを食べてから頭痛薬を水で流し込み、そのまま机にうつ伏せになって休んでいた。この時間はたまに生徒(特に3年H組)が暇つぶしにやってくるが、今日は構ってやる気分ではない。


 内側からカギをかけておいた。誰も来るなよ!


 〝コンコンコンッ〟


 チッ! こういう時に限って来るんだよな。一体誰だ?


「若彦(ぎみ)! 若彦(ぎみ)はおらぬか?」


 うわっ! よりによって面倒くさいヤツが来やがった……天目だ。コイツはオレの名前に「彦」という、よく神の名前に使われる漢字があるせいか、オレのことを「若彦(ぎみ)」と呼び、どうやら勝手に親近感を持っている……正直言って迷惑だ!


 関わると面倒くさい……居留守を使おう。


 〝ガチャガチャッ〟


「あれ? 若彦(ぎみ)はおらぬのか?」

「……(無視無視)」


 すると、


「ゆんゆんゆんゆんゆんゆんゆんゆん……受信した」


 ――うわっ、これ(本人曰く、電波の受信音)が聞こえるとロクなことがない。


「なっ、何ということじゃ! 若彦(ぎみ)は首をつって自害しておられるとのお告げじゃ! こっこれは一大事じゃ! すぐに警察を呼ばなくては……」


「あぁーいるよいるよ生きてるよっ! 何の用だ!? 入れーっ!」


 居留守が警察沙汰になってはかなわん。


「で……何の用だ?」


 オレはカギを開け、天目を準備室に入れた。いつもなら話し相手や相談に乗るところだが、今日は勘弁してくれ! 早く天目には帰ってほしい。


「若彦(ぎみ)……(ぬし)は先程、大変難儀しておられたな……何かあったのか?」


 天目は心配そうな顔でオレを見ていた。そうか、天目はオレが具合悪かったことに気付いていたのか? それで心配して……なのにぞんざいに扱ってしまったな。


「あぁ、心配かけて悪かったな……ありがとう! ちょっと具合が悪かったが薬飲んだから大丈夫だよ」


 二日酔いだなんて口が裂けても言えるワケがない。すると


「はっ! ゆんゆんゆんゆんゆんゆんゆんゆん……受信した」


 ――おっおい何だよ! 何を受信したんだよ!?


「おいっ! 主は邪悪な物の怪(もののけ)に取り憑かれておるとのお告げじゃ! これは早く取り除かねば!!」


 物の怪(もののけ)に取り憑かれている? まぁ強いて挙げれば天目(オマエ)のことだな。


「おい何を言い出すんだよ、ただの体調不良だよ」

「いいや、物の怪(もののけ)より発せられる悪しき電波が主に悪影響を与えておる! この悪しき電波を遮断しなければ主は命を落とすやも知れぬ」


 ――は? 悪しき電波? 遮断? 何言ってるんだよ全く。


天目(あめのま)一箇神(ひとつのかみ)の命により、今から()が主の治療を行う!」

「いや全力で遠慮するわ」

「ならぬ!! これは神のお告げじゃ!」


 ――あぁもう面倒くさい。


「まずは痛みを鎮めなければ! ちなみに主はどこが痛むというのじゃ?」

「え? あぁ……頭痛だよ」

「なるほど……では治す術を、余が()()()と交信し聞いてみよう」


 すると天目はスマホを取り出した……え? スマホ?


「地の球に張り巡らされる偶具流の神よ! この頭痛に悩む()()が痛みから解放される(すべ)をお導き給えー!」

「おい! 今、グー●ルってハッキリ言ったよな? 結局ググってんじゃねーか! しかもどさくさに紛れて()()()()()()()()()()言ったよな!?」

「ゆんゆんゆんゆんゆんゆんゆんゆん……受信した」

「こら、人の話聞けー!」

「わかったぞ! どうやら頭痛薬というものを飲めば良いそうだ」

「さっき飲んだわっ!」


 これでハッキリした。今の頭痛の原因は二日酔いじゃなくコイツだ!



 ※※※※※※※



「じゃが、これだけでは悪しき電波から主を救うことはできぬ。電波を遮断する必要がある」


 ――あぁ? 何だかよくわからんが勝手にやってろ!


 すると天目はアルミホイルを取り出した。おいそれどこから持ってきたんだよ?


「金属が電磁波を遮断するのは知っておろう。なのでこれを痛いところに巻いて電波を遮断するのじゃ」


 そう言うと天目はオレの頭にアルミホイルを巻き始めた。バカバカしくて今すぐ外したいのだが抵抗すると余計面倒くさいことになりそうなので勝手にやらせた。


「どうじゃ? 少しは痛みが和らいだであろう」

「あぁそうだな良かった良かった! じゃあもう出ていってもらえないかな?」

「まだじゃ!!」


 天目が語気を強めた。え? まだ何かあるのかよ?


「患部だけを守っても無駄じゃ! ()()()()を電波から遮断せねば意味がない」

「は? アンテナ?」

「そうじゃ、今は頭だけ電波から守られておるが、アンテナから悪しき電波が入ると全身のどこに悪影響がでるかわからぬ! なのでアンテナにアルミホイルを巻かなければ根本的な解決にはつながらぬ」


 ――もうワケわからない理論だ。ていうよりアンテナって何だよ?


「アンテナ? 何のことだよ? そんなモンないぞ」

「そこにあるっ! そのっ、お主の……」


 天目が指差した場所、そこは……



「右脚と左脚の間にある一物……それがアンテナじゃ!」



 ――はぁああああああっ!?


「さぁ、早くパンツを脱ぐがよい! 余が巻いて進ぜよう」

「アホかっ! するわけないだろ!? もう付き合ってられん」

「なんじゃと!? じゃあ余が直接脱がすぞ」


 天目は目の色が変わり鼻息が荒くなった状態で、アルミホイルを持ったままジリジリと距離を詰めてきた。悪い電波にやられているのはコイツじゃないのか?


「うがぁー、捕まえた! さぁパンツを脱がせろー」


 しまった! 一瞬の隙をついて天目がオレに飛びついた。ベルトを外そうとしたので必死に抵抗した。あぁ、さっきまで治まりかけていたのに再び頭痛がしてきやがった。すると突然、天目の動きが止まりオレの顔を見上げた。


「若彦(ぎみ)、さっきから気になっておったが……お主、口が臭いぞ!」


 うわっしまった!! 二日酔いでまだアルコールが抜け切れてないせいか朝から口が酒くさかったんだ。今日はできるだけ人と距離を置き、さっき天目に頭をアルミホイルで巻かれたときも息を止めていたのだが……今のやり取りで酒くさいのがバレてしまったか?


「こっ、この悪臭はもしや!?」

「あぁいやいや、これはだな……」

「これは……さてはお主、体内に悪霊が棲みついておるな?」


 ――え?


「これは急いで吸い出さねばならぬ! 緊急事態じゃ! 余が直接、()()吸いだして進ぜよう」


 というと天目は口を尖らせてオレの顔に迫ってきた!




 コイツは電波系だが……更に【変態】が追加された。




「さぁ、早くキス……悪霊を吸い出させろぉー! チン……アンテナを出せぇー」

「もう所々にホンネが漏れてるなオマエは!」


「ええぃ、これだけ攻めても抵抗されるとは……おそらくこの近くにとてつもなく強力な磁場があるに違いない」

「もう何ワケわからんこと言ってるんだ……少し休ませろ」

「ゆんゆんゆんゆんゆんゆん……むっ!? 怪しい」

「はっ? 何がだよ」


「そこに置いてあるカバンが怪しい! あの中に強力な悪い磁場がある!!」


 ――うわっ! ヤバい!


 あの中には友人から借りたアダルトDVDがある。こんな所で見つかったら大問題だ! オレは慌ててカバンを手に取るとしっかり抱きかかえた。


「やっぱり! それを取られないよう必死に守っているということは、それが悪の権化であろう!」


 いや確かに人によっては悪の権化かもしれないがそういう理由じゃねぇよ!


「ええぃ、早くそれをよこせ! 余がそこから悪い磁場を抜き取ってやる」


 いや確かに最終的に抜くモノだけど……ってオレは何言ってんだー!?


 カバンは持ち手が2つ付いたビジネスバッグだ。天目が片方の持ち手を掴み引き寄せようとしたのでオレはもう片方の持ち手を掴み、かろうじて持っていかれないように踏ん張っていた。

 お互いが持ち手を掴みカバンを引っ張っているのでその様子はまるで綱引きのようだ。女子高生程度の力なら簡単に奪えると思っていたが天目は全体重をかけ引っ張っていたのでなかなか奪えない。

 そうしているうちに持ち手の間を通しているファスナーと、そのファスナーを縫い付けてある布が〝ミシッ、ミシッ〟と怪しげな音を立て始めた。そして、


 〝バリバリバリッ!〟


 ファスナーの部分が破け、カバンが開いてしまった。ファスナーは側面まで通っているタイプなので、まるでノートのように開いてしまい中身が散乱した。その勢いでオレと天目は尻もちをつき、それぞれ後ろに倒れ込んだ。


 ――うわぁああああああああ!


 早く悪の権化……じゃなかったDVDを回収しないと! オレは天目に見つかる前に回収しようと起き上がった。だが、時すでに遅し……


 天目は、オレが借りたアダルトDVDのパッケージを手に取り、じっくりと眺めていた。そして全身をわなわなと震わせていた。


 ――最悪だ!


 学校にアダルトDVDを持ち込んだのを生徒に見つかってしまいさらには巨乳熟女モノが好きという性癖もバレてしまいオレは完全に生徒からの信頼と威厳を失ってしまういやそれ以前にオレは教師という仕事も失ってしまうかもしれないといういろんな考えが句読点で区切る暇もないほど瞬間的に頭をよぎった。


「おっ……おおおおおおおお主っ!」


 天目が声を荒げた。


「はっ、はい!」

「こっこれは……なっななななななぜじゃ!?」


 今度は声を震わせている。無理もない、女子高生……しかもお嬢様学校の生徒にコレ(AV)は刺激が強すぎるだろう。言い訳の言葉も見つからない。



「なぜじゃ!? なぜ……『巨乳熟女モノ』なんじゃぁああああああ!!」



 ――え? 何? なんか論点ズレてませんか?


「おぉぉ、おまっ……お主は、こういうのが好みだというのか?」

「いや、その……まぁ」


 ぶっちゃけ言うとオレは年上で包容力のありそうな女性がタイプだ。ついでに巨乳なら尚のことよい。もちろん女子高生(ガキども)に興味はない……いちいちJKに欲情していたら女子高の教師(こんな仕事)など務まらないわ。

 天目は、まるで親の仇でも見るかのようにオレを睨みつけた。だがすぐに、目に涙を浮かべ弱々しい声で


「なぜじゃ? なぜ巨乳なんじゃ? なぜ熟女なんじゃ? なぜ……『貧乳女子()生モノ』じゃないのじゃ? ひ……貧乳はキライか? 女子高生は……10代の若さはキライか?」

「い……いや、まぁ正直1ミリも興味ないが……」


 すると、その言葉を聞いた天目の目から涙が一気に流れ出した。


「うぅっ! わた……余だって……こんな貧相なオッパ……乳になりとうなかったわ! 早く大人の女になりたいわ! グリちゃん(グリーンヒル結)並みの巨乳になりたいわ()! なのに、なのに()()は……うっ、うわぁああああああんっ!!」


 完全にキャラが崩壊した天目はその場で大泣きした。すると……


 〝ガラガラガラッ〟


 騒ぎを聞きつけたのか、誰かが入ってきた。


「何しているんですか? 若彦先生」


 うわっ! よりによってH組副担任の《御坂(みさか) 月美(つきみ)》先生じゃないか! 熟女と呼んでは大変失礼だが、オレより2つ年上で包容力のありそうな女性……ついでに巨乳だ。つまり、オレにとっては超どストライク! もちろんオレが密かに思いを寄せている女性(ひと)なのだが、今の状況でここに来られてはマズい。


「う゛ぅ……月美先生……うわぁああああああん」

「あら、誰かと思ったら()()()()()()じゃないですか! どうなされました?」


 おいおい、御坂先生まで天目の世界観に付き合ってるのかよ?


「こっ……この者が……ヒック……貧乳がキライだと……ヒック……女子高生では()たぬと……うぅっ」


 ――おい、勃たないとは言ってない! あ、いや勃ったらそれも問題だが……。


 天目は泣きながらそう言うと、アダルトDVDのパッケージを指さした。御坂先生は、天目が指差した方を見て


「え?」


 と、声を上げた。


 ――うわぁああ終わったぁああああっ!


 天目にそんな言い方されてしかもこの状況、どんな言い訳をしてもセクハラ確定だぁああああああ!!


「若彦先生……これは?」


 御坂先生はアダルトDVDを拾い上げた。もうダメだ……臨時の職員会議が始まって理事長に呼び出されてオレのクビが決まる。しかもこのアダルトDVDに出ている女優、心なしか御坂先生に似ているのだ……いや、今さらそんな事実はどうでもよいくらい事態は最悪なのだが。


「つ……月読の神(月美先生)! 余は……ヒック……余は貧乳であってはならぬのか?」

「おぉよしよし、波の巫女さまは今のままで十分魅力的ですわよ! 大事なのは自分を見失わないこと……さ、一緒に下界(教室)に戻られましょう」


 キャラが復活した天目は、そのキャラに合わせてくれた御坂先生に促され国語準備室を後にした。御坂先生は扉のところで立ち止まり、振り向きざまにオレの方を一瞬だけ、まるでドライアイスのように冷たい視線で見た。そして大きくため息をつくとこう言った。



「まったく……先生は何もわかっていらっしゃらないのですね?」



 ――え? どういう意味だ?



 ※※※※※※※



 翌朝……


「若彦(ぎみ)


 始業前の職員室に天目が訪ねてきた。


「あぁ、天目……昨日はすまなかったな」


 オレは天目に謝罪した。「すまなかった」というのは、たとえ事故で相手が18歳とはいえ、未成年の女子生徒にアダルトDVDのパッケージを見せてしまったことに対してだ……他意はない。


「いや、余こそ主に対し大変悪いことをした……カバンを壊してしまったからな。これはお詫びの品じゃ、母君がよろしくとおっしゃていたぞ」


 と言って天目からカバンを手渡された。昨日壊された物より高級そうだ。どうやら母親に買ってもらったのだろう。天目の母親は学食の管理栄養士、つまり学校の職員だ。全く接点がないというワケではない。オレはいつも購買で弁当を買っているが、たまには学食にも顔を出すか。

 そういえば、今回のアダルトDVDの件は天目も御坂先生も口外していないらしく、あれ以来何ごともなかったようになっている。かろうじて首の皮が1枚つながったようなものか? これからは気を付けないと……。


 それにしても……御坂先生の「何もわかっていない」という一言がとても気になる。どういう意味だ?


「さて若彦(ぎみ)、そういえばまだ主に取り憑いておる悪しき電波をまだ取り除いておらんかったな」

「おっおい、まだそんなこと言ってるのか!?」

「大丈夫じゃ! 案ずるには及ばぬ、余がそのカバンの中に主を浄化できる良き磁場を封入しておる。それにより主の汚れた心は浄化されるであろう」

「は? 意味がわからんが……」

「では余はこれで! 今日も良き電波を!」


 と言うと天目は職員室を後にした。何なんだ一体? オレは気になって天目からもらった新品のカバンを恐る恐る開けてみた。



 中には……天目にどことなく似た顔をした()()ジュニアグラビアアイドルのイメージDVDが入っていた。




 ……やっぱコイツとは周波数が合うことはないな。


皆の者! 最後まで受信して感謝するなり! 次回も期待してよいであろう!

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