【出席番号23番】多麻 鞠(たま まり)
「先生! タマはしっかり握ってください!」
放課後の体育館……オレはハンドボールのゴール前に立っている。
ある生徒と「対決」をしている最中なのだ。
なぜ、こんなことになったのかというと……話は今日の昼休みにさかのぼる。
※※※※※※※
「納得いきません! なぜダメなんですか?」
学園祭も終わり、いつも通りの生活に戻ったある日の昼休み。職員室で午後の授業の準備をしていたオレのところに、H組のある生徒が怒りを露わにしながらやってきた。
生徒の名前は《多麻 鞠》。ハンドボール部に所属していてポジションはLB(レフトバック・左45)、チームのエースとして活躍していた。その多麻が先日「部活動設立申請書」を提出したのだが却下されたというのだ。
実を言うとオレはハンドボール部の顧問をしている。大学時代はサッカーをしていたのだが、この学校にはサッカー部がない。なので試合形式が似ているからという安直な理由でハンドボール部の顧問にさせられてしまった。体育部の顧問と言うと多忙なイメージがあるが、この学園は部活動にそれほど力を入れておらず、大会に出てもほとんど1回戦敗退というレベルだ。まぁどちらかと言えばレクリエーション的な色合いが強いのでそれほどキツくはない。
実際には予算管理などの事務作業がほとんどで、部活動に直接顔を出すことはあまりないのだが……それでも多麻とは顔を合わせる機会が多い。
そんな多麻が突然、ハンドボール部を辞めて新しい部を新設したいというのだ。だが、この件はツッコミどころが最大積載量オーバーなのだ。とりあえず一つ一つツッコミを入れていこう。
「まあ……ダメだろうな」
「何でですか!?」
オレはいったん深呼吸をし、これからやってくるであろう精神崩壊必至の事態に備えた。
「まずはオレからいくつか質問があるからそれに答えろ」
「えぇいいですよ! 何ですか?」
「まずは……オマエが新設したい部って何だ?」
「ビーチハンドボール部です」
ビーチハンドボールというのはビーチバレーやビーチサッカー同様、砂浜で行う競技だ。最近は日本でも大会が行われているらしい。
「いや、学校にはハンドボール部があるしオマエもエースだっただろう。なぜ今さらその……ビーチハンドボールとかいうのをやろうと思ったんだ?」
「ビキニが着たいからです!」
多麻が即答した。想定外の答えにオレはツッコむどころか一瞬言葉を失った。どうやらビーチハンドボールでは女子のユニフォームはビキニのようなスタイルが一般的らしい。オレは気を取り直し、
「で……部活動を新設したいってことは部員は集まっているんだろうな?」
「私1人です」
――はぁ~っ……学校内は禁煙だがメッチャ煙草吸いてぇー!
「オマエな……1人でどうやって試合とかするんだよ? そもそも県内……いや、隣県を探してもそんな部はないぞ」
「あ、いえ、練習がしたいだけなので……」
――は? もうコイツ何言ってるんだよぉおおお!?
「そもそも部員1人じゃ申請できないぞ! 現実的に考えてみろ! ビーチってことは大量の砂が必要になってくるし、他の部が使ってるから今のグラウンドに砂を敷き詰めるスペースはない。それにこれから冬になったら寒くて練習なんかできないだろう」
「あ、大丈夫ですよ! 体育館に砂を敷き詰めればいいじゃないですか」
――やべぇやべぇ……コイツマジで頭がおかしい。
「できるワケないだろ! 体育館だって他の部が使っているからスペースいっぱいだし、砂なんか入れたら他の部が活動できなくなる! それに……」
この申請が却下される「決定打」がある。オレは眼鏡を外し、精神集中をしながらレンズを拭き再び眼鏡をかけると冷静になって多麻に聞いた。
「オマエ……何年生だ?」
「やだなぁ先生、私の担任じゃないですかぁ……3年ですよ」
――コイツは……確信犯なのだろうか?
「だよな? オマエは3年……ってことはあと半年ほどで卒業だ。ウチの学園はエスカレーター式で入試がないからオマエたちは余裕だろうが、世間一般の高校は受験勉強があるから今ごろは部を引退している時期だ。つまり部活動自体やっていないんだよ! なのにオマエは何で今から部を新設したいと考えているんだ!? しかも賛同する生徒もいないのに……」
「あー、もちろん大学でも(部を)新設するつもりです。ですがその前に高校でもやっておこうと思いまして……」
ダ……ダメだ! 多麻と話をしているとこっちまで頭がおかしくなりそうだ。
「とにかく! こんな申請は通るわけがない。あきらめて教室に戻れ」
「じゃあ先生! 部活動新設を賭けて私と勝負しませんか?」
「オマエ人の話を聞いてんのか!?」
「先生……今日の放課後、私と7メートルスローコンテストで勝負してください! 私が勝ったらビーチハンドボール部の新設に協力をしてください」
7メートルスローコンテストとは、ハンドボールの試合で決着がつかなかったときに行われるシュート合戦……要するにサッカーのPK戦のようなものだ。
それにしてもコイツは何を一方的に話を進めようとしているんだ!? それに今日の放課後って……
「幸い今日は部活動が休みですから体育館使えますよね?」
「それだよそれっ! なぜ部活動が休みかわかるか? 明日から中間テストだから今週は部活動禁止なんだよ! そんなときに7mスローなんかやるワケないだろ! わかったらとっとと教室に戻って試験勉強しろ!」
「えぇーっ」
そのとき、となりの席の《御坂 月美》先生が話に割って入ってきた。
「まぁまぁ若彦先生、いいじゃありませんか少しくらい付き合ってあげても」
「いやいや、いくら御坂先生にそう言われてもテスト前にそんなことできません! そもそも勝負してもしなくてもこの申請は通りませんから」
「ふぇ……月美せんせーぃ!」
「おぉ、よしよしっ」
多麻が御坂先生に抱きついて胸に顔をうずめ、御坂先生は多麻の頭をなでなでした。うわっ、羨まし……じゃなかった! コイツ、泣き落としに出やがったな?
「あ、若彦先生……ちょっと鞠ちゃんお借りしますね。それと……」
そう言うと御坂先生はオレに一言耳打ちし、多麻を連れてどこかに行ってしまった。面倒くさい生徒がいなくなってホッとしていると、
「若彦先生!」
向かいの席でオレを呼ぶ声がした。声の主は10月から産休代替教員で勤務している《雁坂 良夢》先生だ。オレは勝手に「ラムちゃん」と呼んでいたが、やがて名前を知った生徒たちからも「ラムちゃん先生」と呼ばれるようになり、今では生徒たちのアイドルとなっている……だが〈男〉だ。
職員室ではオレの向かいの席にいる。そんなラムちゃ……ラム君がオレに話しかけてきた。
「御坂先生って……ずいぶんとH組の生徒1人1人に寄り添った対応をなさっているんですね」
「あ……あぁ、そうだな……まぁ副担とはいえ自分のクラスだからね」
あまり意識していなかったが、改めて言われてみると御坂先生は、H組の生徒と一緒にいる機会がオレ以上に多い。まぁ同性でお姉さん的存在だから相談しやすいのかもしれない。
「すごいですねー、教師の鑑のような方だ……若彦先生とは大違いですねー」
――はぁ!? どういう意味だよ! そんな飼い主を見つめる子猫のようなカワイイ顔してなかったら手に持っている出席簿でオマエを叩いてやりたいところだ。
「そんな生徒1人1人に対して親身に関わっていたら身体がいくつあっても足りませんよ……ただでさえウチのクラスにはああいう困った生徒が多いんですから」
オレは1人の女性として御坂先生のことは好きだが、指導方針というか生徒への対応には賛同できない。あくまで仕事なんだからもっと事務的な対応で良いのではないか? ただでさえ忙しいし、生徒は【変態】ばかりで面倒くさいし……。
※※※※※※※
というわけで現在、テスト前で部活動が禁止されている放課後の体育館で、多麻とオレが対峙しているのだ。
おっと! 大事なことを言ってなかった……なぜオレがこんな無意味で理不尽な勝負を引き受けたのか? それは御坂先生に「今度、2人っきりで飲みに行きましょう」と耳打ちされたからだ。ちくしょう! 下心が優先してしまった!
「先生! 今回はチームではないので試合形式の7メートルスローコンテストはできません。なので、私が3回シュートして2回止めたら先生の勝ち、2回ゴールしたら私の勝ちです」
「おい、何を勝手にルール作って話進めているんだよ! だいたいオレは顧問をやってはいるがハンドボールは未経験だぞ」
「でも先生、学生時代はGKやられていたんですよね?」
何だ、知ってやがったか……そう、確かにオレはサッカー部でのポジションはGK (ゴールキーパー)だった。
「全身使って止めていいのはサッカーもハンドボールも一緒です。ゴールの大きさもフットサルとほぼ一緒ですよ。守備範囲が狭い分、ハンドの方が楽だと思いますけど……」
いやいや、1度だけコイツらの練習風景を見たことがあるが、ハンドボールのシュートもなかなか強烈だぞ。しかもPKより距離が短い分、瞬時の判断力が必要とされるに違いない。
まぁでも……今の多麻は何言っても聞く耳持たない。ここはひとつ、この理不尽な勝負を正々堂々と受けて多麻のシュートを3回とも止めて……ぐうの音も出ない状況にしてやろう。なぁに、いくらチームのエースとはいえ所詮JK、しかも常に1回戦敗退するような弱小チームの部員だ……何とかなるだろ。
「わかった、その条件を受け入れよう! オマエが勝ったら部活動新設の件、検討しておこう……だが、オレが勝ったら今後、この件に関して一切口にするな!」
まぁどうせ多麻に勝ち目はないだろう。しかも「検討する」とは言ったが「実施する」とは言ってない。たとえオレが負けても部活動新設はあり得ない話だ。
「先生! 私が勝ったら……もうひとつ(お願いを)追加してもいいですか?」
「おぅ何だ? 言ってみろ」
どうせ実現不可能だ。何でも言ってみるがいい。
「先生も一緒にビキニを着て試合出てください。絶対似合うと思いますよ! だって文化祭のロリメイド服、メチャクチャ似合……」
「やめろぉおおおおおおおおおおお!!」
黒歴史だ、思い出したくもない……。
※※※※※※※
多麻が7メートルラインに立っている。ジャージを着たオレはゴール前に立つ。ハンドボールのキーパーはサッカーと違い、スローの際に邪魔という理由でグローブは着けていないそうだ。だが今回はスローをする必要がないからと、多麻が軍手を用意してくれた。シュートを直接素手で受け取るなんてサッカーでグローブをするのが当たり前になっているオレからしたら考えられないことだ。
「じゃあ先生、1投目いきますよ」
多麻がボールを床にバンバンと叩きつけながらスタンバイしていた。オレは多麻がどこを狙ってシュートを打ってくるか考えていた。
多麻は身長170センチ超の長身でショートカット、切れ長の目が特徴で美少女というより養護教諭の《鳥居地 新名》に近いイケメン女子だ……後輩から絶大な人気がある。そんな長身から繰り出されるシュートは相当な威力があるだろう。
「先生、まずは左下を狙っていきます……先生の右足の方向です」
――何だとっ!? コイツ、予告してきやがった!
クソッ! なめてやがるな。だが待てよ、これはハッタリをかましている可能性もある。こういう勝負は駆け引きだ。たとえ予告した方向と反対に投げたとしても「手が滑った」とか何とでも言い訳できるし、そもそもウソを教えてはいけないという決まりもない。つまりこれはオレの判断力を混乱させるための「作戦」だ。
さぁどうする? ここは一応、多麻を信用する……と見せかけてシュートするギリギリのタイミングで判断しよう。
「じゃ、いきまーす」
多麻はボールを床にたたきつける動作を止めて両手で持った。そしてそのボールを右手で掴み直すと腕を大きく後方にまわしシュートの体勢をとった。
一気に投げ込むか!? オレは自分から見て右下の方向に動こうとした。しかし、多麻の動きが一瞬止まった。
――フェイントか!?
多麻の視線が逆方向、オレから見て左上の方向を狙っている。やはりそうか!? オレはこんなこともあろうかと、どちらにでも移動できるよう片脚に体重を掛けないようにしていた。
左上の方向に視線を集中した多麻は一気に腕を振り、ボールを投げ込んだ。オレは左側に体重移動してボールを止めようとした。だが……
――あれ? ボールは?
そのとき、多麻の姿を見て驚愕した。何と多麻はシュートを打ったと見せかけてまだボールを持っていたのだ。
――しまった!!
左側に体重移動してしまったオレは体勢を立て直すのに時間がかかった。その隙に多麻は振り下ろした手にまだ持っていたボールを左下……オレから見て右下のガラ空きになったスペースにポンっと放り込んだ。
――やられたぁああああ!
「先生、まずは私が1本先取ですね」
「オマッ……きたねぇぞ! そんなフェイントあるかよ」
「何言ってるんですか、7メートルスローならこのくらいのフェイントは当たり前ですよ。軸足さえ動いてなければサッカーのPKよりは自由度高いですよ」
くっそぉおおお! それにしても、何であれだけ思いっきりシュートしたはずなのに片手でボールを持っていられるんだ? 何で落とさないで……
――あ!
よく見ると多麻の指先にテープのようなものが巻かれている。
「おい多麻、その指先に巻いてあるのって……」
「あぁこれ? 両面テープですよ」
なるほど、それでか……って
「おいおい、そんなモノ巻いていいのかよ? 何か卑怯じゃね?」
「何言ってるんですか? こんなの試合でも当たり前に使ってますよぉ! 両面テープと松やには部費で購入しているから先生もご存じのはずです」
「え? えぇ……そうだっけ?」
その言葉を聞いた多麻はため息をつき、半ば呆れた顔でこう言った。
「……ったく、先生! たまには部活の練習も見に来てくださいよ」
――うわぁ、言われちまったな……。
「じゃあ2本目いきまーす! 今度は右上いきまーす」
また予告か! くそぅ、これで止められないと余計恥ずかしい。1本目は予想外のフェイントがあったが予告通りに来た。2本目は? もうフェイントはやらないだろう、オレが警戒していることはお見通し……だから一気に打ち込んでくる!
問題は方向だ。1本目が予告通りだから2本目はウソをついて反対方向に、つまりオレから見て左上以外の方向に……いや、投げない! きっと裏をかいて予告通り右上、オレから見て左上を狙ってくる!
多麻が2本目を投げた。予想通り! オレから見て左上に力強いシュートを打ち込んできた。オレは左腕を伸ばしボールを弾き飛ばした。弾き飛ばされたボールはクロスバーをかすめて体育館の壁に当たった。
何とか止めることができた。多麻は小さく「チッ」と舌打ちした。それにしてもボールを弾いた左手がメチャクチャ痛い。なんちゅう力だ。こりゃ下手すると突き指するぞ。
「これでイーブンですね? じゃ、これで決まります」
まさかこんなに苦戦するとは!? だが、こうなったら次は何が何でも止めてやる! そして多麻を「ぐうの音も出ない」状態にしてやろう。
「じゃあ先生、最後は先生の〈顔面〉を狙いまーす! 私が出せる最速のシュートで……」
――な、何だって!?
「おいおい、それって反則じゃないのか? 顔面って……やったらダメだろ?」
「ルールにはありませんけどね……ま、試合でやったら退場か失格でしょうね」
「だよな? じゃあなぜそんな危険プレーをわざわざ……」
「だって、これ試合じゃないですし……それに部員相手じゃできないでしょ?」
――男でもダメだよぉおおお!!
「じゃあいきまーす!」
「おっおいちょっと待て」
こちらの言い分など全く聞き入れる余地を与えず、多麻がシュートの体勢になった。まぁでも、これはさすがにハッタリだろ?
――!?
いや違う! コイツ目が本気だ! ヤバい、多麻はマジで当てに来る。でもここで避けたら負けてしまう。
シュートを打つ多麻の視線は確実にオレを狙っている。とりあえずボールはキャッチできなくても弾き返すだけでいい。オレは本能的に両腕をクロスするように顔面を保護した。
〝バシーンッ!!〟
体育館中にボールが当たった音が響き渡った。だが、当たったのはオレの顔面ではなかった。ボールは……
オレの『股間』を直撃していた。
――うっ……うげぇええええええええええ!
痛みを通り越して全身に気持ち悪さが伝わった。今、この状態で尿漏れしていても気が付かないのではないかと思うくらい股間の神経が麻痺している。
「あらぁ~すみません先生、あタマじゃなくてキ●タマに当たっちゃいましたか」
多麻が駆け寄ってきた。おいおい、嫁入り前のお嬢様が●ンタマとか安易に口にするな! と、注意したいところだが……
「う゛ぅぅぅぅ……」
実際には苦しくてとてもしゃべれる状況ではない。
「どうしましたぁ? 先生、もしかして苦しいですかぁ? 苦しくって『ぐうの音も出ない』ですかぁ?」
――ぐうの音も出ないの使い方が違ーう!
苦しいに決まってるだろ! ハンドボール部のエースが全力で打ってきたシュートが完全無防備の股間に直撃したんだ、苦しいなんてもんじゃない。
オレは両手で股間を押さえながらその場でうずくまって悶絶していた。すると多麻は押さえているオレの股間に手を伸ばしてきた。おい、何をする気だ!?
よく見ると多麻の表情は一変していた。切れ長の目でクールビューティーなイメージとはかけ離れ、完全にエロいモノを見て発情しているようだった……まさか?
「わっ私ぃ、男の人の睾丸……つまりタマタマが大好きなんですよぉおお……ハァハァ……みんな、男の人の陰茎にばかり興味があるみたいですけどぉ~私はタマの方が興味津々です……あの2つぶら下がっている姿がとってもキュートだと思いませんかぁ? ウチにオス猫いるんですけどぉ、キ●タマをなでたり指先で転がしたりギュッと握ったり……ハァ、ハァ……もぉ楽しくて全然飽きませんよぉ♪」
――やっぱり! コイツは【変態】だ!! ネコもいい迷惑だろう。
「せ~んせい……もしかしてタマ潰れちゃってますかぁ? 大好きな先生の●ンタマに何かあってはいけませんから私が診てあげますねぇ~、ついでにナデナデしてモミモミして……ペロペロチュッチュってしたぁあい!」
多麻がオレが穿いているジャージのパンツに手を掛け脱がそうとしてきた。何だよペロペロって!? やめろこの変態! と言いたかったが
「う゛ぅ……」
苦しくて言葉が発せられなかった。脱がされないように必死に抵抗するのが精いっぱいだった。
「さぁ! 早く先生のキ●タマ見せてください! そしてこの手に握らせてください! そして……そのタマを……タマを……潰れるほど力いっぱい掴んで……思いっきりジャンプシュートさせてくださぁあああああああい!
コッ……コイツは変態に加えて「男の敵」だぁああああああ!!
※※※※※※※
1週間後……
何とか「タマタマ御開帳」は避けることができたが……あれ以来、多麻が苦手になっていた。もちろん股間直撃のこともあるが、もう一つ理由がある。
翌日は中間テストだった。前日の放課後に帰宅しないであんなことをやっていたにもかかわらず、テストの結果が何とH組の中で3番目という好成績だったのだ。
――試験勉強をろくにやっていなかったハズなのに……何なんだアイツは?
そんなことを考えながら廊下を歩いていると前方から……うわっ!!
「先生!」
多麻だ。
「お……おう」
正直関わりたくなかったが……一応、社交辞令で言っておこう。
「な、なぁ多麻……オマエ、中間テストめちゃくちゃ良かったじゃないか」
多麻は満面の笑みを浮かべながら
「あぁ、あれはタマが当たったんですよ」
――ひぃいいいっ!!
オレはあのときの恐怖を思い出し思わず股間を押さえた。
「ああすみません、間違えました! ヤマが当たったんです……たまたまですよ」
コ……コイツ、わざと間違えただろ。
「あ、そういえば先生、お昼休みに国語準備室に伺ってもいいですか? お弁当のおかず作りすぎちゃって……先生に食べてほしいんですけど」
「え? おかず……?」
「スクランブルエッグです! タマゴをぐっちゃぐちゃに潰したやつですよ」
――うわぁあああああああああああ!!
「いっ……いらない! いらないっ!!」
「えぇ~しこたま作ったのにぃ~」
おい、そこは普通「たくさん」って表現するだろう。わざわざ「しこたま」なんて表現をするなよ。
「ところで……部活動新設の話だが」
「あぁあれは取り下げましたよ」
「えっ?」
ケロリとした顔で多麻が言い放った。元々認めるつもりはなかったのだが、多麻からの意外過ぎる返答に困惑してしまった。
「だって先生、3回目を止めましたよね? つまり私の負けです」
確かにシュートは止めたが……股間で。そこは律義にルールを守るんだな。
「私、今月から大学のハンドボール部の練習に参加させてもらっているんです。でもいつの日か大学でビーチハンドボール部を立ち上げたいと思っています」
まぁ大学でやるんだったら勝手にやればよい。
「それと、今回は叶わなかったけど……私が成人したら今度こそ先生のキ●タマで遊ばせてくださいね♪」
はぁ!? 何でだよ! そういえば学祭前に《高田 羽》も言ってたが、成人したら……って、オマエら卒業したらオレとはほぼ無縁だろうが……何なんだ一体?
「お願いします! 今度は先生の●ンタマ見せてください! キ●タマを触らせてください! ●ンタマを握らせてください! キ●タマを舐めさ……」
多麻がグイグイ来た。あーもう! 公共の場所でキ●タマ●ンタマうるせぇー!
オマエは『厚顔(睾丸)無恥』かっ!?
ねぇ、そこのタマタマ読んだというキミ! ちゃんとアタマから読み直してね!




