【出席番号20番】角瀬 先(すみせ さき)
「先生……もっと激しく指を動かしてください!」
――最悪だ! まさかH組の生徒から……
オレは授業を受け持っていない時間に急遽、生活指導室でH組のある生徒と個人面談をすることになった。実は今朝、抜き打ちの持ち物検査が行われたのだが、ここである生徒の「ある持ち物」が見つかり、それが問題になってしまったのだ。
見つかったのは……避妊具、わかりやすく言えばコンドームだ。
確かに昨今の高校生の性交経験率から言えば、このようなものを持っていても特に不自然なことではない。逆に「買うのが恥ずかしい」とか「付けたら気持ちよくない」などの理由で安易にそういう行為に及ぶ方が危険だ。ウチの学校でも保健体育で避妊の重要性は教えている。
ただ……ここはお嬢様が通う「女子高」だ。学校内で(あるいは登下校中に)使う必要はないはずだ。男子生徒がいない学校内でこれを使うシチュエーションは考えられない。それともお守り的な意味か?
まぁオレも大学時代、バッグに忍ばせていたことはあったが結局一度も開封することはなk……そんなことはどうでもいい。
とにかく、この生徒にはなぜコレを持ってきたのか? そういう関係を持つ相手がいるのか? この2点を聞いて生活指導主任に報告しなければならない。まぁ基本的に男女交際は自由だと思うが、こういう行為で後々問題が起こると、未成年のご息女を預かっている立場として管理責任を問われることになる。今のうちに正しい方向に導かなければならない。
〝コンコンコンッ〟
どうやらその生徒がやって来たようだ。授業中だが呼び出した。
「入れ」
「し……失礼します」
弱々しい声で恐る恐る入ってきたのは《角瀬 先》、演劇部に所属していて特に声に特徴がある子だ。将来は声優を目指しているらしい。
それにしても……よりによって意外過ぎる生徒が引っ掛かってしまったものだ。この生徒は声優を目指しているだけあってアニメとかマンガが好きな、どちらかと言えば控えめな雰囲気の美少女だ。しかも以前から「3次元の異性に興味がない」と周囲に語っていたらしい……なのになぜあんな物を持っていたのだろうか?
「座りなさい」
「は……はい」
「何で呼ばれたか……わかっているよな?」
「……はい」
かなり怯えているようだ。まぁすでに反省しているように見えるし、怒鳴ったり強引な尋問をするつもりはない。ただ、こちらも学園に報告書を書かなければならないので、所持していた理由と交際している相手のことは聞く必要がある。
オレは机の上に没収したコンドームを置いた。
「なぁ角瀬……これを持っていること自体は違法でも何でもない。むしろ男女交際でそういう関係になったとき、ちゃんと後々のことを考えて行動している訳だから良いことだと思う……だがここは学校だ。しかも女子高だ。校内にいる間は必要ないよな? 下校時も、まっすぐ帰宅するよう校則に書いてある。もし寄り道して異性とそういう関係になった場合、我が校の制服を着ている以上、学校の管理責任も問われることになるんだ……わかっているか?」
角瀬は終始下を向き、目に涙を浮かべ
「はい……すみません」
と蚊の鳴くような声で返事をした。
「ま、まぁ怒っている訳じゃない。一応、どうしてこんなものを持っているのか理由を聞かせてほしい」
「は……はい」
オレは報告書の記入をしている手を止め、一度だけ深呼吸をした。
「まず……これをどこで使うつもりだったんだ?」
すると、角瀬の口から予想だにしない答えが返ってきた。
「が……学校……です」
――はぁああああ!? ちょっと待て! ここは女子高だぞ! 誰に対して使うんだよ? まさか……
――教師!?
だとしたら大大大問題だ!! 角瀬の答えによっては誰かのクビが飛ぶ可能性が出てきた。当然だが、教師と現役の生徒の恋愛なんてご法度だ!
怖い怖いっ! 怖いけどこれは聞かなければならない。個人名がプライバシーの侵害に当たるとしても、せめて教師かどうかだけでも知っておかなければいけないだろう。
「な、なぁ角瀬、ここは女子高だ。これを生徒同士で使う必要はないよな? それを踏まえて……相手はどういう立場の人間だ? あ、個人名は言わなくていいぞ」
「……先生……です」
うわぁああああ! 大事件だぁああああ! 禁断の恋だぁ! ご法度だぁ! タブーだぁ! 淫行だぁー! いーけないんだーいけないんだーせーんせいにいってやろー♪ って先生が当事者じゃねぇかどうするんだよぉおおお!
あまりの衝撃に頭がパニくってしまった。
まぁここで名前を聞かずとも、報告書に「職員」と書いた時点で「犯人探し」は始まるだろう。だが、やはりここまで聞いてしまった以上、誰なのか気になるところだ。知らずに帰ったらオレは今夜、絶対に眠れないだろう。
「なぁ角瀬、オレにだけ……その先生が誰なのか教えてくれないか? あっああもちろん口外はしないぞ」
「えっ?」
角瀬が不審そうな顔でオレを見た。ヤバい! 越権行為だと見透かされたか? 角瀬はしばらく考えたあと
「いいですよ、先生……その代わり」
うわっ、何か要求するつもりだ。やっぱり聞くの止めるか? いやでも誰なのか知りたい!
「な……何だ?」
「先生、私と……」
角瀬がオレの手を握ってきた。えっまさかオレまで巻き込む気か?
「指相撲して勝ったら教えてあげますよ」
――え? 指相撲? 意外な要求に拍子抜けした。
※※※※※※※
何だか話がおかしい方向に向かってしまったが、オレは角瀬と指相撲をすることになった。隣同士に座り直し、お互いの右手を組んで親指だけを立てた状態でスタンバイした。親指以外の4本の指を組んだ時、角瀬が
「あっ……」
と驚いたときの声とは何か違う、どちらかと言えば苦しいときに思わず漏れてしまうような声を出した。
「じゃあ先生、始めますよ……よーい、アクション!」
手の大きさ、指の長さから考えたらオレの方が断然有利だ。じわじわと攻めていくが角瀬もすばしっこく前後左右に親指を動かしている。
ここまでは普通の指相撲だが……オレはすぐに、この指相撲が普通と違うことに気づいた。
「はぁ……はぁ、はぁ」
「……?」
「なっ何ですか!? あなた誰なの? 警察呼びますよ」
「……??」
「はぁ、はぁ……い、イヤっ! 何でついてくるんですか!?」
「……???」
角瀬が何か妙なことをつぶやき始めた。そして角瀬の親指の動きが一瞬止まったので、オレは角瀬の親指を押さえつけた。
「いやぁあああ! やめてください!! たっ……助けてぇええええ!」
「……」
オレは違和感と危機感と罪悪感と恐怖感を感じ、指を離した。
「えぇーっ、何で止めちゃうんですか先生?」
「当たり前だ! 何だ今の叫び声は? 廊下に誰かいたら確実に通報されるぞ」
「そんなぁ~、一番いいところだったのにぃ」
角瀬はハァハァと息を荒くしながら、少し興奮状態だった。
「ていうか何やってんだよオマエは」
「これですか? これは……『指レ●プ』です」
――はぁ!?
「何だそれ? 指相撲じゃないんかぃ」
「一般的にはそう呼ばれていますけど……私は指レ●プって呼んでいます! だって興奮しませんか? 私の大事なアレが男の人のアレに犯されてしまうんですよ! あぁっ何てワイルドで恥辱的な行為なんでしょう」
――おい、もしかしてコイツも……まさか?
「ちょっと待て! それじゃ勝負にならないじゃないか?」
「え? 何ですか? それじゃあ次は痴女プレイで逆レ●プを演じましょうか?」
そういえば角瀬は演劇部だ。指を使って演技をしているということか?
「いやしなくていい! それより周りが誤解するから大きな声を出すな」
「えぇ~っ……わかりました、じゃあ続きからいきますよ」
「続き?」
「先生が私のアソコを押さえつけたところからです」
「アソコって言うな!」
「じゃあ押し倒したところから10カウントですよ! それじゃあいきまーす! TAKE2、よーい、アクション!」
押し倒しって表現おかしくないか? 仕方なくオレは角瀬の親指を押さえつけたところから再開した。
「いーち、にー」
「あぁっ、ダメッ……こんなのイヤッ」
「さーん、しー」
「私……まだ処女なのに……こんなことで……」
「ごー……ろ……く」
「お母さん……ごめんなさい……はぁ、はぁ……私は悪い子になりま……」
「あぁああああーもうやめろー! 終わり終わり! 終了ー!」
「えぇえええっ何でですかぁ!? これから処女喪失するシーンなんですよ」
「アホか! こっちはオマエの声でメチャ罪悪感を感じたぞ! このあと警察に自首しようかと思ったわ」
角瀬の「声の演技」はリアルすぎる。コイツは声優でも十分やっていけるのではないか? それにしても……相手の教師の名前を聞こうと思っていたのだが、もうどうでもよくなってきた。
「もういいよ、終わり! 角瀬も教室に戻りなさ……」
「待ってください! 先生!」
角瀬が呼び止めた。
「も……もう、10カウントしなくても先生の勝ちですから……教えます、相手の名前……ていうか言わせてください」
一応、指相撲の勝負も有効だったのか? オレはそっちの方に驚いた。で、角瀬と「関係」を持っている教師の名前を言うのか? しかも言わせてって……?
「え? いいのか言っても?」
角瀬は小さくコクリと頷いた。
「私と……関係を持った先生は……」
うわぁ、改めて言われると緊張する……機密文書を持ち出すスパイの心境だ。
「……若彦先生です♪」
角瀬は満面の笑みを浮かべながら言った。
「は?」
「えっ? ですから……コレは若彦先生とHするために用意したんですよ」
――はぁあああああああああああああ!?
「ちょっと待て! オマエとはまだ何も関係を持っていないよな? おい、ヘンな誤解受けるような発言は控えろよ……大問題になるぞ!」
「えっ? だってもう先生とは関係を持ったじゃありませんか?」
「持ってねぇだろ!? いつ持ったんだよ?」
「えぇっ酷い! さっき私を押し倒したじゃありませんか!?」
「は? おい……それってまさか?」
「生徒にレ●プするなんて鬼畜の所業ですわよ!」
――それは指相撲だよぉおおおおおおおおおおおお!!
「私を……傷モノにしたくせにしらばっくれるなんて……酷い!」
おいおい、もしかしてコイツはやべぇヤツじゃねぇのか? 電車の中で無実のオッサンの手を掴んで「この人チカンです!」って言うタイプに違いない。
「おい、落ちついて話そう……オレはオマエと指相撲をしただけだよな?」
「はい……まぁ性交には至っていませんから〈未遂〉ってことになりますわね」
「いや未遂も何も『指』だろうがっ! 法的に何の問題もないわ」
「何をおっしゃるんですかっ!」
突然、角瀬が語気を荒げた。
「手や指はとっても大事な部分なんです……そう、性感帯ですわ! わっ……私はもう……指を絡めたり撫でられたりしたら……ハァハァ……もうそれだけでイってしまいますわぁ」(※個人の感想です)
さっきからコイツ……おかしいとは思っていたが、これでハッキリした。
――コイツは……【変態】だ。
「だから先生……私と『指H』しませんか?」
「はぁ? 何だそれ意味わからん」
「わからない? こういうことですわ!」
というと角瀬はオレの手を掴むと、オレの人差し指の指先に、自分の人差し指の指先を合わせた。
「はぁああ、せっ先生とキス……しちゃいましたぁ、しかもハグまで」
――いや、ただ手を握って指先を合わせただけだが。
「先生、もっと気持ちよくしてください」
「はぁ? なにするんだよ?」
「もうっ、ムードがありませんわねぇ……こうやるんです!」
と言うと角瀬は、片手でオレの手を持ち、もう片方の自分の手に這わせるように動かした。角瀬の手を擦るような体勢だ。
「あぁ……そこいいわぁ、ちゃんと前も後ろも攻めてぇ」
息遣いが荒くなってきた角瀬を見てオレは思った。
――何やってんだオレ?
するとオレの指先が一瞬、角瀬の「指の付け根」に触れた。
「あんっ……も~う先生、まだそこは早いですわ……焦っちゃだーめ!」
――い・や・な・に・が?
それにしてもコイツは、声優を目指しているだけあって声の演技は本格的だ。声だけ聴いたら完全にAVとかその手の類と変わらん。
「ハァ、ハァ……じゃあ、今度は私が先生を気持ちよくさせてあげますね」
いやオマエ、手を擦っただけで気持ちよくなるのかよ? すると角瀬は、オレの人差し指を2本の指でつまむと、その指を前後に素早く動かした。
「おい、何やってんだよ」
「えぇっわかりませんかぁ? 手●キ……いえ、指●キです」
――はぁ? 何じゃそれ!
「どうですか先生……気持ちよくなりましたか?」
――なるワケねーだろ!!
「先生ダメッ! まだ出しちゃダメですよ!」
――何も出ねーよ!! 指だよ! 逆に指から何が出るっていうんだよ!?
「まぁ先生、こんなに大きくなっちゃって」
――指の大きさが変わるワケねぇだろー! 変わったら気持ち悪いわ!
「先生、そろそろ……挿れてください」
〝ブチッ〟
オレの頭の中で何かがキレる音がした。もう付き合いきれん! オレは角瀬から手を振りほどいた。
「えぇっ、何で離すんですか? 焦らしプレイですか? 何て高度なテクを……」
「ちげーよ! こんな不謹慎な遊びに付き合ってられるか!」
「酷い! 私のことは遊びだったんですか?」
「そういう意味じゃねーよ!」
初めのうちは、角瀬の妄想遊びに付き合ってやったが、もう付き合いきれん。結局、こんなことしたところで、コイツがコンドームを所持していたことと何の関係もないじゃないか……時間のムダだ! すると角瀬が
「何ですか? 私 (をモチーフにしたキャラクター)が演劇部の部室で『性の演技指導』したときは最後までシていたじゃないですか? まぁ本当の私は百合に興味ないですけど……」
――うわぁああああ! コイツもオレが書いた「粟津まに」の小説読んでんじゃねぇか!
「さぁ先生、ちゃんとあの小説みたいに2人でフィニッシュを迎えましょうね? 拒否したら……」
わかったよ、それ以上言わなくても……最近この脅しがパターン化してるわ。
※※※※※※※
「で、どうするつもりなんだ?」
「先生、指を出してください」
言われるまま、指を角瀬の前に出した。
「まぁ、もうビンビンじゃないですかぁ~硬くなっちゃってますよぉ」
いや、指って普通こんなもんだろ……ふにゃふにゃの指ってあるのか? 角瀬は握りこぶしをつくると、親指以外の4本の指を緩めて輪っかをつくった。「ずいずいずっころばし」で遊ぶときのような手の握り方だ。
「おい、これって……」
「そうです! この中に……挿れてください」
何でこんなことに付き合わなければならないのか……自分が情けない。
「先生、どの指を挿れますか?」
「どれでもええわ!」
「じゃあ、一番テクニシャンな人差し指とぉ~、一番巨●な中指で……いや~ん! いきなり2本だなんて……変態ですわよね、私」
――あぁ、オマエは別の意味でも【変態】だよっ!
オレは角瀬がつくった握りこぶしの輪っかに自分の指を近付けた。角瀬は目を閉じながら……
「先生……実は私、初めてなんです。だから先生……痛くしないでね」
――あぁオレもこんな頭のイカれた行為は初めてだよっ! もうこんなくだらないこと、とっとと済ませて早く帰りたい。
だが、オレの指が角瀬の握りこぶしに触れた瞬間、
「やっぱり……イヤーーーーーーーーーーーー!!」
〝ドンッ〟
オレは角瀬に両手で思いっきり突き飛ばされ、椅子ごと転倒してしまった。
「イテテテテ……一体何だよ?」
「や……やっぱり、初めてでいきなり『生』は怖いですー!」
「は? オレはオマエが怖いが……」
すると角瀬は、机の上にあったコンドームを開封すると、慣れた手つきでオレの2本の指にするするっと装着した。
「さぁ先生、これなら避妊もばっちりです! 先生! カモ~~ン♪」
そういう使い方だったんかーーーーい!! 装着する意味ねぇだろおがぁ!
※※※※※※※
「疲れた……」
角瀬のアホな行動に付き合わされて疲労困ぱいのオレは職員室に移動していた。結局、報告書には何て書いたらいいんだ? オレと「指H」するため……そんなこと書けるかっ!?
職員室の隣には校長室がある。ちょうどその校長室に教頭と……見たことがない人物が入ろうとしているのが見えた。 誰だろうこんな時間に……来客か?
その人は、校長室に入る直前オレに気づき、こちらを向いてニコッと微笑み会釈をした。オレも身に覚えはないが軽く会釈を返した。
その人は童顔で小柄だがスーツ姿だったので、転入する生徒とは考えにくい。臨時教員だろうか? 髪型はショートカットでパンツスタイルだが、見た目は明らかに女性だ。一瞬しか見えなかったが、かなり可愛らしい顔をしていた。
何だろう? 何かが起こりそうな感じ……妙な胸騒ぎがしてきた。
あら、最後まで読んじゃったのぉ!? じゃ、次はもっと激しいお話でイッてね!




