表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/42

【出席番号18番】七里岩 巡(しちりいわ めぐり)

「師匠……いっぱい、出ちゃいました」


【食事中の閲覧注意】

 〝バターンッ!!〟


 授業中、突然大きな音を立てて1人の生徒が床に倒れた。生徒の周囲では悲鳴があがり、教室内にざわめきが起きた。


「どうした七里岩、大丈夫か!?」


 授業を中断し、オレは生徒の元に駆け寄った。生徒の名前は《七里岩(しちりいわ) (めぐり)》、意識はあるようだが起き上がろうとはしない。顔色も悪い、これは大変だ。


「おい、先生が保健室に連れて行くからみんなは自習していてくれ」


 普通、生徒の具合が悪くなった場合、自力で歩けるなら保健委員が付き添いして保健室へ連れていく。だが、今回のように生徒が自力で歩けない緊急事態なら、近くにいる男性教師が連れていくしかない。

 オレは七里岩をおんぶして保健室に連れて行った。おんぶして気がついたが、七里岩って見た目より重い気がする……なぜだろうか? 



 ※※※※※※※



 放課後、オレは保健室を再び訪ねた。


 結局、七里岩は保健室のベッドでしばらく横になった後に早退した……と養護教諭の《鳥居地(とりいじ) 新名(にいな)》から授業終わりに連絡があった。だが、いきなり教室で倒れるなんてただごとではないと思ったオレは、鳥居地……いや、ニーナに七里岩の病状について直接聞こうと思った。


「おうニーナ、今日はすまなかったな」


 ニーナは大学時代からの友人だ。この学園で、オレがラノベ作家の「粟津まに」だということを知る数少ない人間だ。


「あぁ若彦……あの子、とりあえず落ち着いたから帰したよ」

「え? そんな簡単な処置でいいのか!? 病院は? 入院とかしなくて……」

「うーん、まぁ本人も定期的に病院に行ってるって言うし……あとは本人の()()()()()っていうか……」

「ええっ何だよそれ!? 教室で思いっきりぶっ倒れたんだぞ! そんなんでいいのか!? 何か命に係わる病気じゃないのか?」

「落ち着けよ若彦」

「いったい何の病気なんだ七里岩(アイツ)は?」


 するとニーナは苦虫を嚙み潰したような顔で、軽く咳払いをした後……


「お、おい……他言無用だぞ」

「え? 何だ?」

「うん……実はな……」


 ニーナがオレに耳打ちした。


「…………」

「えぇっ! 便秘ぃ!?」

「しーっ! 声がでけぇよバカッ!!」

「あぁすまん! しっかし便秘かよ……しょーもな」


 倒れたときの緊迫感と、倒れた理由とのギャップに呆れてしまった。


「おい! しょーもなとか言うな! 便秘だってちゃんとした病気だぞ、場合によっては外科手術が必要な場合だってある」


 ニーナが珍しくキレた。


「えっ、そうなの?」

「そうだよ、あの子……話を聞いたら2週間も出ていないそうだよ」

「えぇっ!? 2週間?」


 信じられん……つまり2週間ウ●コしていないってことだよな? うわぁ、オレだったら腹がコンクリートみたいに固まって死にそうだ。


「そっ……それはヤバいな」

「だろぉ? まぁ通院して薬も処方してもらっているっていうから、入院や手術をするほど大事には至ってないと思うけど……あとは……」

「あとは?」

「色々話を聞いたけど彼女、生活習慣がかなり乱れていると思う。専門分野は医者に任せるとして……若彦、お前も彼女の生活習慣をチェックしてくれないか?」

「えぇ? 何でオレが?」


 ――こっちは授業やら何やらで忙しいんだよ。そんな生徒1人1人の生活習慣まで見ていられるか!


「あのなぁ……彼女たちが平日に、日中の大半を過ごしているのは学校(ココ)なんだよ! 自宅の次に長い時間を過ごす場所だ。教師と生徒じゃなくて、ボクたち大人が子どもたちをさりげなくコントロールしてあげないと、あの子たちは何も知らないまま育ってしまう……教科だけじゃないよ、教育って」

「あ……あぁわかったよ、やってみる」

「よろしく! ボクも協力するよ」


 オレは立ち上がり、保健室を出ようと歩きだした。


「ところでニーナ」

「ん?」


「オマエは大丈夫なのか? ウ●コの回数は?」


 ニーナは顔を真っ赤にして、オレにファイルを投げつけた。


「おいっ! それはセクハラだぞっ!! …………毎日出てるよっ」


 ……答えるんかい。



 その日の夜、オレはニーナから借りた家庭医学の本やネットを使って、便秘について色々と調べてみた。



 ※※※※※※※



「あ、先生おはようございます……それと、昨日はご迷惑おかけしました」


 七里岩がわざわざ朝早くから職員室を訪ねてきた。真面目で明るい子だ。ただ彼女は、美少女揃いのH組なので当然ルックスは申し分ないのだが……微妙にぽっちゃりしているのだ。まあ、そういう体型が好みの男性読者もいるので、過去に1度「粟津まに」の小説でダイエットに励むヒロインのモチーフにしたことがある。


「おぉ、七里岩おはよう……大丈夫か? もう学校に来て……」

「あ、はい……よくあることですから」


 七里岩は笑顔で答えた。いや、そんなに何度もぶっ倒られては困るのだが。


「なぁ七里岩……ちょっと話があるんだが」

「はい、何ですか?」


 オレは他の先生方に聞こえないよう小声で言った。


「オマエのことは……鳥居地先生から聞いた。その……2週間はキツいよな?」


 すると七里岩は顔を少し赤くして


「あっ…………はぃ……」

「オマエもそんな状態がいつまでも続いたら成績にも影響するだろ? それは担任のオレとしても喜ばしいことではない」


 生徒の生活習慣にまで口出しするのはプライバシーの侵害になりそうだが、学業のため、さらには担任の責任ってことならば口出ししてもいいだろう。


「そこでだ、オレも学生時代は運動部に入ってた経験から、オマエに協力したいと思っている。専門的なことはお医者さんや鳥居地先生には敵わないが、オマエの生活習慣の改善だけでも、毎日顔を合わせているオレが指導してやりたいのだが……どうだろうか?」


 うーん、そんな簡単に首を縦に振るかなぁ? 便秘って、要するにウ●コの話だからなぁ……デリケートな話だけに嫌がられる可能性が高い。すると、七里岩は目をキラキラと輝かせながらこう答えた。


「ホントですかっ!? 先生に指導していただけるならとても嬉しいです! さっそく先生のこと『師匠』と呼ばせてください!!」


 ――師匠? 先生と大して意味は変わらんと思うが……まぁいいか。



 ※※※※※※※



 その日の放課後、オレと七里岩は教室に2人きりでいた。


「それでは()()! よろしくお願いしまーす!」

「お、おう……」


 何か調子狂うなぁ……。


「まずは食生活の改善だ! 色々な栄養素が必要だが、一般的に言われているのはやはり〈食物繊維〉なんだが……」

「はーい、師匠! ちゃんと食物繊維は摂っていまーす!」


 と言って七里岩が取り出したのは何と、ポテトチップスだった。


「え? これって……」

「原料ジャガイモでしょ? 食物繊維たっぷりですよ!」


 あぁそうきたか……よく野菜嫌いの人間が使う「言い訳」だ。


「あのなぁ……確かに理論上は、水分を取り除いて凝縮するから食物繊維が多いかもしれないが、その分炭水化物も多い。炭水化物は糖質に変わるが、糖質が多いと便秘になりやすいっていう話もあるぞ」

「えっそうなんですか! じゃあ甘い物は?」

「まぁ摂るなとは言わないが控えた方がいいな」

「えー、じゃあコレとか……」


 続いて七里岩が取り出したのはチョコレート菓子だった。


「オマエいくつ持ってんだよ? 弁当にそんなもんプラスしたら摂取カロリーメチャクチャ多いだろ」

「あ、大丈夫です師匠! お弁当は持ってきてないです」

「はぁ?」

「これが主食です! ダイエットしていますから! 1日に食べる量はメッチャ少ないですよぉ」


 七里岩がニコリとほほ笑みながら答えた。ちょっと待て! この「弟子」は何かとんでもない勘違いをしている。ただ質量を減らせばダイエットできると思っているのだろうが……根本から間違っている。


「おい七里岩、オレが調べたところダイエットも便秘の原因になるそうだぞ」

「えぇそうなんですか? 食べなければ詰まらないんじゃないんですか?」


 ――何だその理論? 人の身体はそこまで単純じゃねーよ。


「便通の改善には食物繊維以外にもビタミンやミネラル、良質な油分や水分、そして腸内環境を整えるための乳酸菌とかが必要らしい……今オマエが手にしているお菓子類にはそういったものが圧倒的に不足していて便秘には良くない、さらに量の割に高カロリーだからダイエットにも逆効果だ」

「え? お菓子は水分と一緒にカロリーが飛ばされるんじゃないんですか?」

「そんな謎理論、どっかの芸人以外で聞いたことがないわ」

「えぇえええじゃあどうすればいいんですか師匠!?」

「あぁ、そう言うと思ってあらかじめ学食の栄養士さんに聞いてみたんだが……こういうものを摂るといいらしいぞ」


 オレは栄養士さんが書いてくれたメモを七里岩に渡した。


「ただし、食物繊維には水溶性と不溶性ってのがあって、不溶性食物繊維は場合によっては逆効果になる可能性もあるから、摂り過ぎには注意してと言ってた」

「わっかりました師匠! あ、でも……お菓子NGは……死ねる」

「まぁ絶対摂るなというワケじゃない、要は量を減らすより質を変えろということだ! それから、腸に刺激を与えるための『運動』も大事だぞ」

「ええっ!?」


 何だその「ええっ!?」って……イヤな予感がする。



 ※※※※※※※



 翌日の放課後、今度は七里岩を体育用具室に呼び出した。以前《鍛冶屋坂(かじやざか) (えみ)》にコテンパンにされた「いわくつきの場所」だ。2人とも既にジャージに着替え、マットも用意していた。


「よーし七里岩! 便通改善に必要なトレーニングはやはり〈腹筋〉だ!」

「はいっ! 師しょ……う……」


 ――何だコイツ、返事だけは勢い良かったが急にフェードアウトしたな?


「よし、じゃあオレが足を持つからそのままお腹を意識して、胸から上だけを上げるような感じで……上半身全体を無理に上げるのは腰を痛めやすいからやらなくていいぞ」

「……は、はぃ」

「じゃいくぞ! いーち…………!? お、おい」


 七里岩は上げるどころか微動だにしない。


「おーい七里岩、腹筋やるぞー」

「し……師匠……やってま……す」


 よく見ると七里岩は全身をプルプルさせている。え? おい、マジか?


「オマエ……腹筋ねぇな」

「……うぅっ」


 そういえば七里岩は体育の成績がH組の中でダントツに悪い。それにしても、顔すら持ち上げられないほどできないとは……。


「すっ、すみません師匠ぉ~」

「い、いや……想像以上の運動音痴だな」

「うぅっ! 体育はマジで嫌いです~」

「それじゃダメだな。食事以外に運動も大事だぞ! 腹筋運動で腸に刺激を与えるのが良いのだが……」

「いやーもおーポテチがないとーチカラがでなーい」(棒読み)


 仰向けに寝ていた七里岩が手足をバタバタさせていた……子どもかっ!?


「そっか……ポテチはないが、こんなこともあろうかと助っ人を呼んである」

「え? 助っ人?」


 すると、体育用具室の扉が開いた。


「え……えぇえええええええ!?」


 体育用具室に入ってきたのは《山伏(やまぶし) 巴恵(ともえ)》先生だ、体育教師で柔道部の顧問もしている。


「あー、今日は柔道部の部活の合間を縫ってわざわざお越しいただいた……じゃ先生、お願いします」

「おー七里岩! 自ら運動したいとはいい心がけだ……喜べ! これは補習扱いにしてやるからな! その代わり……覚悟しろよぉおお」

「ひっひえぇええええええ~っ、たっ助けてぇぇ師匠ー!」


 体育嫌いの七里岩にとって山伏先生は、校内で最も会いたくない人物だろう……正直オレもあまり会いたくないが。


「ふぇええええええん!」

「オラオラッ! 今日の目標は20回! できんと帰さんぞ! ……おい、若彦! お前は30回5セットなっ!」

「えぇええっ! オレもやるの?」

「ったりめーだ! お前も最近、腹がたるんでるじゃねーか! 今からそんなんじゃ童貞卒業できんぞ!」

「だだだっ誰が童貞だっ! 関係ねーし」

「うるさい!! お前は柔道式の腹筋な!」


 ――うげぇえええっ! やっぱ呼ぶ人を間違えた。



 ※※※※※※※



 その次の日の昼休み。国語準備室にいたオレはいつものように購買へ弁当を買いに行こうとしたそのとき、


「師匠! お昼ご飯はもう食べられましたか!?」


 七里岩だった。


「あ、いや……今から買いに行くが」

「あっよかったです!」


 ――?


「私、お弁当作って来たんですー!」


 と言って七里岩が見せてきたのは、先日栄養士さんが教えてくれた便秘に効く食材をふんだんに使った弁当だった。


「ほぉ、すごいな」


 つい先日までスナック菓子が主食だったとは思えない……頑張っているなぁ。


「で、師匠……師匠の分も作って参りましたー!」

「え? マジか? そりゃうれしいな」


 七里岩の頑張りには応えてあげよう! 食事代も浮くし……ただ、


 ――肉が入ってない。


 肉類は便秘にとって良くない食材だからって……弁当が野菜とキノコと海藻と芋と果物のみ……真面目な子だから栄養士さんに言われた通りに作って来たようだ。

 いや、少しくらい入ってもよくね? あ、でも美味いわ。



 その後も……


「いいか、運動は腹筋以外にもウォーキングとかストレッチも効果あるぞ」

「はぃっ! 師匠!」


 放課後、校内のウォーキングやストレッチを一緒にやったり……


「いいか七里岩、トイレは行く気がなくても定期的に座る習慣をつけた方がいい。そのときの理想的な座り方は上体を直立させるよりも少し前傾にした状態。例えるなら……これだ!」

「はぃっ師匠! しかと目に焼き付けておきます」


 美術室に展示してある彫刻、ロダンの「考える人」の前に2人で座り、同じポーズをしながら考えたり……


「いいか七里岩、食物繊維を含んだ食品以外にも、発酵食品なんかも良いぞ! 納豆やヨーグルトとか……」

「師匠! シュールストレミングなんかもよいのでしょうか!? 」


 ――うわぁああ! 《塩川(しおかわ) (かおる)》の「口臭」を思い出しちまった……おぇええ!


 1週間後……


「よく頑張ったな七里岩、このトレーニングを続けていけばきっと大丈夫だろう」

「はい師匠! なんか明日あたり出てきそうな気がしてきました!」

「そうか、じゃあ『成果』を期待しているぞ!」

「はいっ師匠! ありがとうございました!」


 ちょっと待て! 出てきそう……ってまだ出てないのかよ? もう3週間だぞ。



 ※※※※※※※



 翌日、トイレの中……



「……ふぅっ」



 〝カラカラカラ……〟


 〝クイッ〟

 〝ジャーーーーーッ〟


 〝バタンッ〟



 ――なかなかの快便だったな………………オレ。


 七里岩に付き合わされてオレも腹筋やストレッチ、はたまた七里岩が作ってくれた特製弁当を食べ続けた。おまけに、刺激物が良くないというのを知ったので、この1週間は激辛料理を食べていなかった。

 元々オレは便秘ではないのだが……それでも、いつにも増して調子がいい。



 ――七里岩はどうだったのだろうか?



 その日の放課後……


 オレは事務作業がいくつも重なってしまったので1人職員室で残業をしていた。すると廊下のはるか遠くの方から走ってくるような足音が聞こえた。やがて職員室の前で足音は止まり、職員室の掲示物が一気に落ちそうな勢いで扉が開いた。


 〝ガラガラガラッ! ドーンッ!!〟


「おい廊下を走るな! それと扉は静かに開けろ!」

「師匠ーーーーーーーーーーーーーーーーっ!」


「なんだ七里岩か、どうした?」


 すると七里岩は目に涙を浮かべ、満面の笑みで


「ついに、ついに……出ましたーーーーーーーーーーっ!!」

「何? 本当か!? やったな、おめでとう!!」


 ↑これだけだと、まるで大学入試に合格した生徒が恩師に報告に来たシチュエーションだが、実際はウ●コが出ただけの話である。

「やりました師匠! はじめは苦しかったんですけど……硬いのが出たあとは一気にニュルっと……も~う便器からはみ出るくらいのモノが……」

「おっおい、そこまで具体的に話さなくていい!」


 ――もうちょっと羞恥心持てよ。と言いたかったが、この後の七里岩の発言で事態は思わぬ方向に進むことになった。




「じゃあ師匠! さっそく『成果』を見に行きましょう!」




 ――は?



 ※※※※※※※



「いててっ! 引っ張りすぎだ、離せ七里岩!」


 七里岩は強引にオレの腕を引っ張り、オレは女子トイレの前まで引きずられるように連れてこられた。コイツ、意外に力が強い。


「おっおい、オマエ一体何をする気だ?」

「言ってたじゃないですかぁ~師匠! 『成果』を期待しているって……だからその『成果』を師匠に見てもらいたくて、()()()()とっておいてあるんですよ!」


 ――おい、それってまさか……いや間違いない、最悪の展開だ。


「おい、ここは女子トイレだぞ! 男性教師のオレが入っていいワケないだろ」

「大丈夫です! 今は放課後で誰もいません。私が許可します!」

「オマエに何の権限があるんだよぉおおお!」

「ええぃ、つべこべ言わず入ってください! えいっ!」

「うわったっ!」


 オレは七里岩に後ろから体当たりされて、よろけながら女子トイレに入れられてしまった。あ……もう既に()()()()がかすかにしてきた。

 七里岩は個室の扉を開けると、閉じている便座の蓋に手を掛けた。


「さぁ師匠! 私たちの1週間に及ぶ努力の成果、とくとご覧あれ!」


 七里岩が蓋を開けた。うわっ、絶対見たくない! オレは目をつぶり、個室のドアに手を掛け絶対中に入らないように抵抗した。


「なっ何ですか? 『成果』を見てくれないんですか? 私、せっかく頑張ったのに……師匠! 私のウンコを見てくださーーーーーーーーい!」

「オマエ自分が何言ってるのかわかってんのかーーーーーーっ!」


 ――コイツ、何かおかしい方向に向かっているぞ。


「し……師しょぉ~、何で見てくれないんですかぁ~! 師匠に私の『成果(ウンコ)』を評価してもらいたかったのにぃ~、ふっ……ふぇええええん」


 七里岩が泣き出した。泣いたところでこの状況が異常であることに変わりない。


「べっ別に見る必要はないだろ!? 出たことがわかれば十分だろ?」


 すると七里岩は突然、態度を豹変させた。


「あっそ……師匠! 師匠の書いた小説で、私をモチーフにしたキャラクター……あの扱い酷くないですか? 何ですかあの腹肉をぷにゅってつまむシーン! 私、あそこまで太ってませんよ! これは学園にクレームを言わないと……」


 ――うわっ! この期に及んで粟津まにの(バレたらヤバい)話を持ち出してきやがったぁあああ!


「わっわかった! 見るからその話は勘弁してくれ!」


 何で他人の排泄物を見なくちゃいけないんだよぉ……、オレは嫌々ながら遠巻きに少しずつ便器に近付いた。アレ(ウ●コ)の臭いも徐々にキツくなってきた。

 でもまぁ当然、七里岩も用便後に(ケツ)を拭くだろうからトイレットペーパーくらい被せてあるだろう。いくらなんでもそんな直接的(ダイレクト)に見えることはないと……。


 ――コイツ、直に見えるようにワザと紙をブツから離して捨ててやがる。


 ウ●コの周囲に、トイレットペーパーが敷き詰められているように捨てられていて、まるで緩衝材に守られた貴重品のようだった。肝心の「ブツ」は大きいブツと小さいブツが2本あり、そのうちの1本は長すぎて「水面」から大きくはみ出していた……どうりで臭いわけだ。


 ――うわぁ、ついに見ちまったぁ……とてもじゃないが今日は晩飯食えない。


「師匠! 何やってんですか! もっと近くで見てください!」

「おっオマエなぁ、自分のウ●コを見せたがるって異常だぞ」


「何言ってるんですか!? 私は師匠のことが大好きです! 大好きな人だったら自分の体内にあるモノは全てさらけ出したいじゃありませんか!? ウンコだって見てほしいじゃありませんか! ……ハァハァ、わっ私は師匠に、ずっと溜まっていたウンコを見てほしいんです。ウンコの臭いも嗅いでほしいんです。これが私の愛のカタチです! ハァハァ……さぁ! 私のウンコを見てください! 私のウンコを嗅いでください! 私のウンコ……私のウンコをぉおおおおおおおお!」


「あああああっ! さっきからウ●コウ●コうるさーーーーい!!」


 ――わかったよ、七里岩(オマエ)の正体は「【変態】ウ●コ見せたがり少女」だ!


「うるさいとは何ですかーーーーっ!」


 〝ドンッ〟


 いきなり七里岩に押されバランスを崩してしまった。狭い個室の中、このままではタンクに頭をぶつけそうなので支えて止めようと両手を前に突き出した瞬間、


「そうです! もっと近くでっ!」


 七里岩に後頭部を掴まれ一気に真下へ! このままでは便座に顔面強打しそうなので慌てて両手で便座を抑えつけた……が、時すでに遅し。オレの顔面は便座にすっぽりとハマった。つまり目の前には……七里岩のブツがドアップに!


 うっ……うわぁああああああ! メチャクチャ近い! 鼻先があともう数ミリで()()()()に触れそうだ! くっ……くっせぇえええ! おぇええええ!


「さぁ師匠! 私のウンコはどうですか!? ブリストル・スケールで『評価』をおなしゃああああす!」


 あ…………「ブリストル・スケール」ね……オレは最近、便秘について調べていたのである程度詳しくなっていた。ブリストル・スケールとは糞便の状態を7段階で診断する方法だ。


「ええっと、底に〈タイプ1〉が2個、そして右側の短いヤツが〈タイプ2〉……そして左側のメチャクチャ長いヤツが〈タイプ4〉……まぁ合格じゃね?」

「あざーっす! いや~最初はお尻の穴が痛かったんですけどそこから一気にドーンって……スッキリしました! 師匠! 色々とあざーっす!」


「そうか…………それはよかったな…………」


「あれ師匠、どうしたんですか?」

「いや実はな……さっき便器に押し込まれたときの衝撃で……」

「?」


「便座から抜けなくなった……」


 最悪だ。普通は便座に顔がハマるなんて考えられないが、七里岩が強く押したせいで、メガネのフレームの厚みが影響してしまい耳が引っ掛かってしまった。


「えぇっ、それは大変! 師匠! すぐ助けますから!」


 七里岩が後ろから引っ張り上げようとした……イテテッ! 耳が痛いっ!


「えぇ~どうしよう……あっ、そうだ師匠! 食物繊維を摂ったらどうですか? それか腹筋運動ですね……師匠! 今から腹筋運動やってください!」




 バカヤロウ! オレはウ●コじゃねぇええええええええええええ!






 ……その後、救出されたがメガネが犠牲になった。


最後まで読んでくれてありがとうございます! お礼に私のウン(自主規制)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ