【出席番号16番】笹久根 七(ささくね なな)
「先生……もっと刺激をください」
〝キーンコーンカーンコーン〟
「はい、今日の授業はここまでー! 次回の授業までに各自渡された宿題をやっておくように……じゃあ解散!」
授業終了を告げるチャイムが鳴った。でも今日は通常の授業ではない。2学期が始まったワケでもない……今日は夏休み中の「補習授業」の日だ。
補習授業には2種類ある。一つは進学希望の生徒が、より高いレベルの学校を目指すための学力を補うために行われる授業で……もう一つは成績が著しく低い生徒が、次の学期で何とか普通レベルに追いつくために行われる授業だ。
ウチの学園は幼小中高大一貫だ。中には他の大学を目指す生徒もいるが、基本的に厳しい受験戦争とは無縁である。なので今回の補習はもちろん後者だ。
――それにしても胃が痛い。
基本的に補習は、同学年の全クラス合同で行われる。今回オレが担当する現文の受講者は7名いたが、その中で……
オレが担任をしているH組から、何と3人も受講対象者がいたのだ。7クラスもある中で何でH組から3人も出てくるんだよぉ……ストレス半端ないわ。
その3人とは……1人目は《宇の岬 知》、性に関する雑学だけ博識で、その雑学を実践しようとする【変態】だ。性知識以外は安定のおバカっぷりで、中間テストはギリ赤点回避したが、期末はダントツでH組の最下位だった。
2人目は《鴨狩 紬》、人に向かって放屁してその反応を楽しむ【変態】だ。期末の成績はまあまあ良かったが、残念ながら中間テストの成績が悪すぎた。
そして3人目は《笹久根 七》、彼女は先週公園で会った《小永田 姫》同様、あまりクラスでは目立つ生徒ではない。そういえば最初の自己紹介で料理が趣味だと言っていた記憶がある。今まで1日も休むことなく自分の弁当を作り続けているらしい。その心がけは素晴らしいが、学業の心がけはあまりよろしくない。
「ねえねえ若彦ぉー、このあとヒマ?」
オレが授業の後片付けをしていると、H組のバカ3トップが教卓に駆け寄ってきた。補習は全クラス合同だが、コイツらは他のクラスの受講者とは一切口をきかず3人でまとまっていた。
最初に、普段からオレに対してタメ口の宇の岬が話しかけてきた。
「ん? あぁ、今日は午後から半日休暇を取ったからこれで上がるが……」
夏休みとはいっても教師は普通に仕事だ。ここは私立なので一応、一般的な会社と同様の有給休暇がある。とはいっても普段の授業を私用で潰すのは気が引けるので、できるだけ夏休み期間中に有休を消化するようにしている。
今日も半休を取得したが正直予定はない。まあ「粟津まに」の新作を執筆するぐらいだな。先週、公園で会った生徒たちのおかげで色々アイデアは出てきた。その代わり、後で大変な目には遭ったが……。
「じゃあ先生、みんなで一緒にゴハン食べに行きましぇんか?」
続けて鴨狩が話しかけてきた。この子は滑舌が悪い。
――そうか……もうそんな時間か。
さっきの授業は普段の4時間目にあたるので、今は昼休みの時間ということになるが……夏休み中は学食や購買が休みなので、購買のメチャ安い弁当が手に入らない。おまけにこの時期は昔の友人や、学校の教師仲間と飲み会だのビアガーデンだの付合いが多く、食費はキビシイ状況だ。正直、外食はできるだけ控えたい。
「いやぁ、せっかくだけど今月食費がキビシイからなぁ……」
すると、笹久根が
「あっ先生、それなら大丈夫ですよ!」
「え? 」
「駅前に『スコヴィル』っていうカレー屋さんがあるんですけど、そこに期間限定のカレーライスがあるんですよ。で、そのカレーを30分以内に完食したら無料になるイベントをやっていて、みんなで行こうっていう話をしていたんです」
「へぇ、カレーか? カレーは……まぁ好きだが」
「え、本当でしゅか?」
「オッケー! じゃ、決まりだね若彦」
「おっおい、まだ決めたわけじゃないが……まぁいいぞ」
「あっ、ありがとうございまーす! じゃあ先生……あとどのくらいでお帰りになられますか?」
「ああ、まだちょっと雑用があるから……20分くらいかな?」
「わかりました、じゃあその頃になったら校門前でお待ちしております」
※※※※※※※
雑用を済ませたオレは校門前に急いだ。約束の時間は過ぎていて、すでに3人は待っていた。校内活動である補習授業は、夏休み中と言えど制服着用だが、どうやら彼女たちは更衣室で私服に着替えてきたらしい。最初から遊ぶ気だったな?
私服姿の彼女たちは上品な出で立ちだった。補習授業に参加したおバカさんではあるがさすがお嬢様だ。校門の前でなにやら雑談をしていた。
「ねえ知ってる? 肛門って性感帯になるらしいよ」
「しょうなの? じゃ、連続でオナラしたらイッちゃうんでしゅか?」
「えっそれって入れたら絶対痛いよね? でもそっかぁ、それは快感なのかぁ」
上品? 前言撤回だ! コイツらの会話エグすぎる。
「オマエら、校外の人間も通る場所で何ちゅう話してんだよ」
「あっ若彦、いやぁー校門の前にいたからコウモンの雑学を……」
「おい、今から行くのカ……もういい、行くぞ」
コイツらと同類に思われたくないのでスルーしておこう。カレー屋までここから歩いて5分くらいだと笹久根が説明してくれた。暑いが店まで歩いて向かった。宇の岬と鴨狩は日傘をさしていたが笹久根は持っていなかった。
「笹久根、暑くないのか?」
「あ、大丈夫です! むしろ気持ち良いくらいです」
「そう……か?」
すると、宇の岬が話し掛けてきた。
「でさぁ若彦ぉ、折入って相談があるんだけどぉ……」
「何だ?」
「今から食べるカレーなんだけどぉ……もしアタシたちの1人でも、若彦より早く完食したらぁ今日の『宿題』免除してくれる?」
――やっぱり! ロクなことを考えないな宇の岬は!
「おいおい、そんな要求飲めるワケないだろ! と、言いたいところだが……」
宇の岬のことだ、こういうことを言ってくるのはある程度予想はしていた。
「どうだろう、それならこっちも条件を付けるということで……」
3人が「えっ?」と驚いた顔をした。まさかオレがそんなことを言ってくるとは思っていなかったのだろう。オレはカバンの中からプリント用紙をちらつかせ
「宿題の免除は認めよう。ただし、オレが勝ったら今日の宿題と、更にこの課題もプラスして提出してもらおう」
どうだ3バカども! こんなこともあろうかと、予備で作っておいた課題を3人分コピーしておいたのだ。
3バカは急にコソコソと集まり密談を始めた。
「どっ、どうしゅる? 負けたら更に宿題増えるって……」
「え? でもまだ『アレ』の正体を先生は知らないよね?」
「だだっ、大丈夫! ねえ知ってる? こっちには『秘密兵器』があるんだよ」
お前ら、密談が丸聞こえだぞ……で、何だ『秘密兵器』って?
※※※※※※※
駅前のカレー店「スコヴィル」の前まで来た。店の前には完食したら無料というイベントのポスターが貼ってあった。そこには……
『期間限定 超激辛ブート・ジョロキアがたっぷり入った地獄カレーwithT
30分以内に完食したら無料!! 挑戦者求む
当店で最も辛いカレーライスです!
ちなみに、現在までに達成者はおりません』
宇の岬がドヤ顔してこっちを見た。なるほどな、そんなことだろうと思った。
「若彦ぉ~! ギブアップするなら今のうちだよぉ~! まぁ今ギブしたら負けってことで……」
「じゃ、入るか」
「えっえぇえええっマジぃ?」
宇の岬が動揺していた。
〝カランカランッ〟
入り口のドアを開けて中に入る。元々喫茶店だった店をリノベーションし、カレー店として1年前から営業している。
「イラッシャイ……アァセンセー、オヒサシブリ」
インド人の店長が挨拶した。宇の岬たちは唖然としている。
「おう、今日は生徒も連れてきた! よろしくな」
「アァ……トテモプリティナ生徒サンネ」
「あ……あのさぁ若彦……もしかして」
「ああ、オレ? ここの常連だよ」
「「えぇえええええええええっ!!」」
――引っ掛かったなオマエら!
実はオレ、激辛料理が大得意なのだ。大学時代にサークルのみんなで激辛のカップ焼きそばを面白がって食べて……いわゆる学生のノリってヤツだが。
それ以来、激辛料理にハマってしまった。今では、そんじょそこらの辛さでは物足りないレベルに達しているのだ!
4人掛けの席が空いていた。オレの隣に鴨狩が座り、向かいに宇の岬、宇の岬の隣に笹久根が座った。
「センセー、ゴ注文ハ?」
「ああ、例の30分以内ってヤツ頼むよ、4人分……オマエらもそれだろ?」
「う……うん」
「でも店長、地獄カレーだったらオレ、余裕で食っちゃうけど大丈夫か?」
「アァ、センセー強敵ネ! デモダイジョウブ! 今回ノwithTダカラ」
「withT?」
「トリニダード・スコーピオン、一緒ニ入ッテルヨ!」
「マジか? そりゃチャレンジのし甲斐があるな」
トリニダード・スコーピオン(・ブッチ・テイラー)とはブート・ジョロキアの約1.5倍辛いといわれている唐辛子だ。
オレと店長が盛り上がっている側で3バカは動揺していた。再び3人で、話し声が筒抜けになっている密談を始めた。
「きっ聞いてないでしゅよ! 先生が辛いもの好きだなんて!」
「うわぁ予想外だよぉ! 追加の課題なんてイヤだぁ! でっでもこっちには『秘密兵器』のナナちゃん(笹久根)がいる! ナナちゃん、期待してるよ!」
「う……うん、頑張る」
――何だ、笹久根が『秘密兵器』か。よかろう、受けて立つぞ!
※※※※※※※
「ハイ、オマチドオサマ、ガンバッテネ!」
超激辛の地獄カレーライスが運ばれてきた。見た目は真っ赤で血の池地獄のようだ。普段この店のメニューは3種類のカレーと、ライスまたはナンが別の食器で盛られてくるのだが、この地獄カレーは1種類しかないので、インドカレーにしては珍しくワンプレートで盛られてくる。
ブート・ジョロキアはカレーに溶けこんでいるが、以前食べたことがあるのでこれは想定内。ただ今回、いつもと違うのはカレーの上に「あるモノ」が丸ごと1個トッピングされているのだ。
どうやらこれがトリニダード・スコーピオンのようだ。スコーピオンという名だけあって、唐辛子の先端部分がまるでサソリの針のようにこちらを向いており「さあ、食えるもんなら食ってみろ」と言わんばかりだ。
よっしゃ、やってやろうじゃんか! オレはネクタイを緩めた。
まずは1口目……うん、以前食べたヤツに比べてかなり辛くなっている。トッピングのトリニダード・スコーピオンが染み出しているのだろう。最近はH組の変態どもに悩まされる日々が多いから、胃が無事でいられるかちょっと心配だ。
「うぎゃっ! 予想以上に辛いでしゅ……もう無理!」
「うがぁあああ! 辛いっていうか痛いよぉおおおっギブギブッ!」
鴨狩と宇の岬は早くも1口目でギブアップした。そりゃそうだろう、こんなもん素人が簡単に完食できる代物ではない。
「うわぁあ……みっ水っ」
2人は慌てて水を飲んだ。
「あっバカ! 水は……」
「うがぁああああっ! 全然辛さが引かないぃいい!」
水はただ辛さを口の中に広げるだけで逆効果になる。
「あっ店長、マンゴーラッシー2つちょうだい」
しょうがない……2人にラッシーをおごってやった。ヨーグルトの方が少しは辛みを和らげることができる。
そんなパニック状態の2人を尻目に、黙々と超激辛カレーを食べている生徒がいた……笹久根だ。
コイツ、なかなかやるな……普通の人間は完食はおろか、1口食べただけでも他の2人みたいに悶絶するレベルだぞ。
正直なところ、身体が完全に形成されない未成年にはあまりオススメできないのが本音だ。まぁ18歳だし、本人が希望しているのだから仕方ないが・・・それでも心配なので聞いてみた。
「なぁ笹久根……大丈夫か? ま、まぁ止めるわけじゃないがオマエの身体のことを思ってだな……その、無理をしないように……」
すると笹久根はニコッとほほ笑みながら言った。
「大丈夫です。私、小さいころから唐辛子食べ慣れていますから……小学生のとき、ふりかけの代わりに七味唐辛子をご飯にかけて食べていました。でもそれじゃあ物足りなくなってタバスコを足すように……中学生のときはおやつ代わりに生のハバネロをかじっていましたね」
(注※この話はフィクションです、マネしないでね)
こっこれはなかなかの好敵手だな。
「ゴホッ……ナ……ナナちゃんはねぇ……ゴホッ、普段からスゲーんだよぉ!」
顔を真っ赤にしてむせている宇の岬が口をはさんだ。
「これ見てくだしゃい……前に撮ったナナしゃんのお弁当でしゅ」
同じく戦意喪失状態の鴨狩がスマホの画面を見せてきた……弁当の画像だ。
「ねえ知ってる? このお弁当の中身……何だと思う?」
「何って……んっと、チキンライスと赤ピーマンの肉詰めと青椒肉絲かな?」
「ブッブー、全部不正解! 正解は島唐辛子入りタバスコライス、ハバネロの肉詰め、ハラペーニョと鷹の爪のきんぴらでしたぁー」
「わかるか! そんなもん」
「でしょお!? ナナちゃんの手作り弁当は今まで誰ともシェアしたことないよ」
――だろうな。普段からこれはすごいわ。こりゃ根っからの『激辛マニア』だ。
さっきから黙々と食べているが……辛いのを我慢しながら食べているのか? それとも完全に舌が麻痺しているのか? ちょっと探りを入れてみよう。
「どうだ笹久根、ここのカレーは? 辛味の中に旨味が凝縮されていて、なかなかイケるだろ?」
「ん~、ごめんなさい! 私、正直味とかわからなくて……」
――あーこれはヤバいヤツだな、舌が鈍感なタイプか?
「っていうか先生、辛味って味覚じゃないですよ」
「え?」
「味覚は甘味、酸味、塩味、苦味、旨味の5つです。辛味は『痛覚』なんですよ」
「マジか?」
「ええ……だから……」
というと、さっきまで無表情で黙々と食べていた笹久根が、口角を上げ嬉しそうな表情をした。そしてニヤッと笑うと
「わ……私、この痛みがたまらなく好きなんです! 口の中で爆発するような痛みが……快感に変わってくるんです……だから、辛ければ辛い……いえ、痛ければ痛いものを求めて……あぁっもっと! もっと痛いのをください!」
――あ……これはもっとヤバいヤツだ。
すると、宇の岬が口をはさんできた。
「ねえ知ってる? ナナちゃんは『地味な痛み』が好きなドMなんだよ、よくアカリン《愛宕 星》からスタンガンを当てられて『ご褒美』をもらってるよ」
――単なる【変態】じゃねーか!? こりゃ負けてられん、コイツらの「宿題免除」だけは何としてでも阻止しなければ!
激辛好きはよく「え? 全然辛くないけど」と、謎のマウントを取りたがる。でも実際はやせ我慢しているか、あるいは本当に舌の感覚が狂っているかのどちらかだろう。オレは前者だ……正直言うとメチャメチャ辛い! ただ、辛さに対する耐性があるので、ある程度までなら我慢できる。
笹久根もおそらく前者だと思われる。しかしコイツの場合、辛さ……いや、痛さを「快感」として感じる変態なのでタチが悪い。
「あぁ辛い! あぁ痛い! も……もっと……あぁ!」
笹久根は辛み……じゃなく痛みを1口ごとに感じながら食べていた。お互い完食は可能と思われるので、あとは早く食べた方が勝ちだろう。ならば! オレは食べるペースを速めようとしたが、トッピングのトリニダード・スコーピオンに行く手を阻まれている。
「ヤ……ヤバいじゃないでしゅか? 先生の方が早く完食ししょうでしゅ」
「マズいぞぉこれは……ん?」
宇の岬がテーブルの上に置いてある小瓶を手に取った。
「何これ? そば屋じゃないのに一味? 店長さーん、コレ何?」
「オジョウサン! コレハ、トテモトテモ危険ネ! コレ、『キャロライナ・リーパー』ノフリカケネ」
「んぐっ!」
それを聞いてオレは食っていたものを吹き出しそうになった。キャロライナ・リーパーだと!? リーパーとは死神のことで「キャロライナの死神」という名の唐辛子だ。今、苦戦しているトリニダード・スコーピオンよりも辛いらしい。
「ねぇツムツム(鴨狩)、ちょっと……」
宇の岬が鴨狩に何か耳打ちをした。
※※※※※※※
「あぁ辛い! あぁ痛い! あぁ嬉しい~っ!」
ドM変態・笹久根はブレーキがかかることなく黙々と食べ続けている……が、1口1口感動しながら食べるので、いかんせんペースが遅い。
トッピングのトリニダード・スコーピオンもようやく食べ終わり、勝機が見えてきたオレに、隣に座っている鴨狩が手招きをしてきた。
「しぇ……先生、ちょっと……」
「ん、どうした?」
すると鴨狩はオレに耳打ちをすると、猫なで声でこう言った。
「先生、実は……しゃっきからオナラが出しょうなんでしゅ……もっもしかしゅると●が出るかも?」
「おっおい! 時と場所と今、オレたちが食べているモノを考えろ!」
「あっ大丈夫でしゅ、引っ込みました」
何なんだコイツ……と思いながら再び残り3分の1ほどになった自分のカレーに目をやると、さっきとは明らかに様子が変わっていた。本来、赤くないはずのライスにまで「赤い粉末」が大量にかかっていたのだ。
「おい、宇の岬!」
「え? 何」
「オマエ……それかけただろ?」
宇の岬は右手に「キャロライナ・リーパーふりかけ」を持っていた。店長に促されたのであろう、ご丁寧に怪しげなゴーグルまで着用していた。
「大丈夫だよぉ若彦! ヘルもんじゃないし……」
宇の岬……「地獄(カレー)」と「減る」を掛けたつもりか?
宇の岬と鴨狩はグルになって、オレのカレーに「キャロライナ・リーパーふりかけ」をかけたのだ。卑怯なマネをしやがって! オマエらそこまでして宿題やりたくないのかっ!?
こうなったら意地でも食ってやる! かと言って勢いに任せてこの粉末を巻き上げてしまったら失明するほどの大事故につながる。
慎重に食べ進めたが……うわっ! さすがにこれは辛い。身体じゅうの毛穴から汗が噴き出てくるようだ。よく見ると笹久根も汗をかいている。だが、
「あぁもっと! もっと激しいのちょうだぁあああい!」
――完全にヤバいヤツだ。
残り3分を切った。2人とも、あと2口ほど食べれば完食だ。だが、その2口がなかなか進まない。
「あぁあああもっとぉ~もっとぉ~!」
笹久根が1口分をスプーンですくうと口に入れた。あと1口で笹久根が勝ってしまう。ヤバい! 何としてでも笹久根に勝たなければ……オレはライスを最後に残しておいたのだが、誰かさんのせいでライスが真っ赤な粉末で染まっていた。
オレはライスをスプーンですくったが、どうしてもその1口が入らない……絶体絶命だ! そのとき
「あっ、あぁああああああー!」
笹久根が辛み、いや痛みに耐え切れず失神してしまった。限界を超えてしまったようだ。オレは呼吸を整えると、最後の2口を一気に口の中に放り込んだ。
オレは時間内に完食した……完全勝利だ!
※※※※※※※
初の完食者となったオレの写真が張り出され、カレーは無料になった。
笹久根は最後の2口分を時間内に食べきることができなかったが、健闘を称えた店長の計らいで無料にしていただけた。
宇の岬と鴨狩は自腹だ……でもラッシーおごってやったんだからいいだろ。
約束通り、追加の課題を3人に渡した。
「「ふぇ~ん」」
宇の岬と鴨狩にとっては踏んだり蹴ったりだったな……まぁこれに懲りて2学期は頑張れ!
「せ……先生」
笹久根が話しかけてきた。
「まさか先生がここまで激辛に強いとは……おみそれしました」
「いや、笹久根も大したものだったよ」
――まぁ痛み好きの【変態】だったが……。
「今度また、(激辛料理の)食事にご一緒させてください! 今度は韓国料理でもどうですか?」
「そうだな、考えとくよ」
オレは笹久根と握手した。同じ激辛好きということで気が合いそうだ。
「あ……あのっ先生!」
頬を紅潮させた笹久根が突然大きな声を上げた。
「先生とは将来上手くやっていけそうです……だから、結婚してください!」
「いやそれは断る」
※※※※※※※
翌日……
「うっぎゃあああああああああああああああああああああああああああああ!!」
……トイレで地獄を見た。詳細は言うまい。
1人暮らしなので病院に行けない……
……誰か、ヘル プ。
最後まで完食していただきありがとうございました。次回も超激辛です♪




