表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/42

【出席番号15番】小永田 姫(こながた ひめ)

「先生に……見つかってしまいました……あぁっ」


『粟津先生~、いや~やっぱこれダメですよぉ~』


 オレは今、女子高教師の《不逢(ふあい) 若彦(わかひこ)》ではなく、百合小説がメインのラノベ作家《粟津(あわず) まに》として電話している。

 電話の相手は出版社でオレの担当をしている《大穴(おおあな) (あたる)》という男だ。「名は体を表す」という言葉通り、出版社の中では「大穴狙いの男」として有名で、将来大ブレイクしそうな作家を探し出しては、自ら担当を名乗り出てくるらしい。

 ということはオレは将来大ブレイク……つまり一流作家になれる素質があると思われそうだが実際のところ、この男が担当して売れた作家は未だにいない。それどころかこの男が担当になった途端、売れずに消えていく作家の方が多いらしい。なので作家たちの間でこの男は「死神」と呼ばれ、忌み嫌われている。

 おまけに、この男はオレより1つ年下だが、今のタメ口でもわかるようにかなり生意気な男だ。今、オレはそんな「先見の目がない生意気な死神君」と次回作の打ち合わせをしている。


「え? ダメって……具体的にどこですか? 」


 昨日送ったプロットにダメ出しをされてしまった。まあこの程度のダメ出しなら慣れているが、コイツに言われると無性に腹が立つ。正直こちらもタメ口で話したいところだが、あまり親密になりたくないので他人行儀な対応をしている。


『ここですよぉ……休日デート中に立ち寄ったフードコートで、主人公とヒロインが1本のフライドポテトを両端から食べるっていう(くだり)

「何か……おかしいですかね? 」

『おかしいですよぉ! ショッピングセンターのフードコートって基本オープンスペースで、しかも休日は子ども(ガキ)が大勢いて……衆人環視の中で普通そんなことできますかぁ? しかもこの2人は初々しいカップルの設定でしたよねぇ? まだ付き合い始めてリアルなキスもしていないのに、こっれは無理ゲーでしょお? 』


 うっ、確かに……悔しいけどコイツの言う通りだ。キスまで踏み切れない主人公が勇気を出してヒロインを休日デートに誘い出す設定だが、いわゆる「ポッ●ーゲーム」をするだけでもハードルが高いのに人混みの中って……無理だな。


「うーん、どうしよう……でもこの件は次のステップに続くためにどぉーしても入れたいんですが」

『あー……じゃあ……テイクアウトして公園で食べるってどうですかぁ? 』

「公園? 」

『ええ公園ですよ! 休日は子どもたち(ガキども)が多いけど、大きな公園なら人気のない場所も必ずあるでしょ? 』


 公園か……確かにそれならベンチとかに座る設定にすれば可能だが……。


「あーでもオレ、大きな公園ってほとんど行ったことがないんですよねー、どんな感じか想像つかなくて」

『えぇっ行ったことないんですかぁ? 彼女とデートぐらいするでしょお? 僕は今まで付き合った彼女と最初にキスしたのはいつも公園でしたよ! まだ次の打ち合わせまで余裕あるから取材行って来たらどうですかぁ? 』

「ああ、わかりました。ちょっと取材してきます」


 ――何だよ最後のリア充マウント……マジでムカつく!



 ※※※※※※※



 翌日、この日は学校も夏季休暇(職員たちの夏休み)だったので、近くのハンバーガー店でベーコンレタスバーガーとポテトのセットを買い、公園にやって来た。


 ――それにしても暑いなぁ。天気予報では、今日は猛暑日らしい。


 夏休みなのでガk……子どもたちや家族連れが多いが、カップルもあちこちにいる。こんな中で独身男が1人、ハンバーガーのセットを抱えているのは……。


 ――いかんいかん、これも小説のためだ。


 できるだけ涼しくて人気のない場所を探そう。遊具の近くはもちろんダメだ。しばらく歩くと林の中に遊歩道があり、所々にベンチが置かれている。ここなら涼しいし、小説のイメージにもピッタリの場所だろう。

 ベンチに腰掛け、お腹が空いたので先にハンバーガを食べ、恥を忍んで小説と同じように、最後に残したフライドポテトを1本咥えてみる。主人公もこんな気持ちなんだろうか? 百合なので一見、友達同士の遊びに見られるが、この後の行為を考えるとやはり周りを気にするだろう。ドキドキしている感覚が想像できる。


 オレも「別な意味」でドキドキしている。間違ってもこんな姿を()()()()()には見られたくない。この緊張感の中でポテトを咥えてキスするポーズをとってみた。すると……



「あれ? 先生、何してるっスか? 」



 ――うわぁあああああああああああああああああ!


 咥えたポテトを落としてしまった……そっその声は?


「あらセンセイ、お久しぶりでございますわね」

「あーホンマや、センセェ何してん? 」


 最悪だ! 声だけでわかった……H組の生徒だ。


 クラス委員長の《愛宕(あたご) (あかり)》、副委員長で書道部部長の《右左口(うばぐち) (すみ)》、お笑い芸人を目指している《鍛冶屋坂(かじやざか) (えみ)》だ。

 順に、「電撃攻撃して快感を得る()()」「体に卑猥な言葉を書いて快感を得る()()」「ハリセンなどの暴力的ツッコミで快感を得る()()」だ。


 あ、あともう1人……《小永田(こながた) (ひめ)》が3人の後ろに隠れていた。体が小さく大人しい性格、目立たない存在なので一瞬気が付かなかった。自己主張の強い他の3人の【変態】に囲まれたらまぁ存在感がなくなるのも致し方ない。


「い……いや、オマエたちも何してんだよこんな所で? 」



 ※※※※※※※



「私たちは4人で映画を観に行った帰りっスよ、姫ちゃん(小永田)がゾンビ映画観たいけど1人じゃ怖いっていうから一緒に行ったっス」


 へぇ、小永田はそんな趣味があったのか? そういえば近くの映画館でやっていたなぁ……確か「ゾ・ン・ビ・ノフ・ク・シ・ュ・ウ」ってタイトルだっけ?


「す……凄かった……です」


 言い出しっぺだという小永田が、両手で顔を抑えぶるぶる震えている……なのに何でそういうのを観たいんだろう?


「まぁ私は何とも思わなかったっスけどね」


 ――愛宕(オマエ)はそんな感想だと思ったよ。


「い……いえ、ワタクシはもう観たくないですわ」

「ウチもぉ……もうかんにんしてやぁ」


 ――この2人は付き合わされたクチか?


「みんな具合が悪くなったみたいだから、とりあえず公園(ここ)で落ち着こうって話になったっんスけど……で、本題! 先生、何でここにいるっスか? 」

「い、いや……それは……」

「彼女いない独り身のセンセイがこんな所で1人ハンバーガー……惨めですわ」

「ホンマや、ここはドーテーが来るところやあらへんで」

「ほっといてくれ」


 すると愛宕が……


「あ、もしかして小説の取材っスか? 」


 ――ぎっくぅうう! 図星じゃねーか!


「あら? 粟津まにの新作でございますか? 」

「なんや、ポテト使(つこ)うて●ッキーゲームでもするんか? 」


 ――うわぁああああ! 何でコイツらこんなに勘が良いんだよぉ?


「あっあぁぁぁぁぁななななんのことかなぁー? 」


 ちくしょう! ごまかしてもオレの目が400メートル(メチャクチャ)個人メドレー(泳いでいる)


 オレがラノベ作家をやっているのは学園には秘密だが、この3人にはバレている……あ、ちょっと待て!


「おい! その話は小永田には……」

「あ……私にもメール来ました」


 小永田が即答した……もしかしてH組は全員知ってんじゃないのか?



 ※※※※※※※



 オレがここに来た目的が、彼女たちの「オンナの勘」によっていとも簡単にバレてしまった。すると、


「先生、そんなの1人でイメージしてもわからないっスよね? よければ私たちがモデルやるっスよ! 」


 愛宕が意外な提案をしてきた。


「まぁ、それはエロい提案ですわね? 淫靡(いんび)ですわぁ」

「あーオモロいなぁそれ! ウチ主役やりたいわぁ」


 おいおい、何オマエら勝手に盛り上がっているんだよ? でも待てよ、確かに今まで登場人物の動きは想像で書いていたが、実際にモデルがいた方がリアルな仕草がわかるかもしれない。さすがに未成年の彼女たちに肉体的(ディープ)な絡みをさせるわけにはいかないが……プラトニックな表現なら協力してもらっても問題ないだろう。


「そ……そうか、じゃあお願いしようかな」


 オレは、公園の背景を撮るために用意したデジカメを取り出した。スマホでも撮れるが、粟津まに関連の画像を普段使いのスマホに保存して、万が一何かの拍子に表示させたらマズいので、取材はデジカメを使っている。


「じゃあ早速、ポテト使ってポ●キーゲームっスよね? 墨ちゃん、一緒にやろ」

「えっえええワ……ワタクシそういうのは……はっ恥ずかしいですわ! 」


 右左口は下ネタ大好きだが、自分に絡むと委縮するウブ少女だ。


「えーそれウチやりたーい! 」

「いいっスよ、どこまで近付くっスか? 」

「そやなぁ、どうせやったら舌まで入れるか? 」

「おっおい! そこまでしなくていいっ! 」


 鍛冶屋坂の過激発言に焦ってしまった。まったく……JKのノリにはいつもヒヤヒヤさせられる。ってか、前から思っていたが、H組はここにいる生徒も含めみんな仲が良くて結束力が高い。


 せっかくなので参考資料として、ベンチに座りお互いが寄掛かって眠っているところや膝枕してるところなど、いわゆる「尊い」ポーズを何カットか撮ってみた。

 現役JKの彼女たちにモデルをやってもらうと、手の位置や視線の向きなど今まで気づかなかった細かい部分までリアルにわかってきた。


「オッケー、このくらい撮れれば十分だ。とても参考になったよ」

「えっもう終わりっスか? まだ青(カーン♪)のシーン撮ってないっスよ」

「そんなもん撮れるか! 犯罪だぞ! 」



 ※※※※※※※



「ありがとう、オマエたちのおかげて助かった」


 たまたまコイツらと出会ったおかげで思わぬ収穫を得た。次回作は今まで以上に良い作品が書けそうな気がしてきた。


「ほなセンセェ! 」


 と言って鍛冶屋坂が両手を差し出してきた。


「……わかったよ、バイト代って言いたいんだろう? 」

「せいかーい♪ 」


 まぁコイツら(小永田以外)は変態だけど、普段は素直で良い子たちだ。何かお礼しなきゃな。オレは財布を取り出して


「近くの自販機でジュースぐらいならおごってやるよ」

「えぇっ、ガキの使いやあらへんでぇ」


 鍛冶屋坂が不満そうに言った。まぁ想定内の反応だ……すると、愛宕が


「まぁそれもいいっスけど……先生、せっかく休日にこうしてご一緒したんですからたまには外で遊ばないっスか? 」

「あ、ええなぁソレ」

「まぁ、面白そうでございますですわぁ」


 鍛冶屋坂や右左口も同調した。今日はこの後も大した予定はないし、普段は生徒とこうやって交流する機会もあまりないから……たまにはいいか。


「姫ちゃんもどうっスか? 」

「あ……私も……遊びたいです」

「やったぁ、決まりやな! で、何するんや? 」


()()()()()……っスよ」


 愛宕が不敵な笑みを浮かべてそう言うと、右左口と鍛冶屋坂が顔を見合わせた。


「あぁ……そういうことでございますわね」

「そやなぁー」


 え? 何だこの申し合せたようなやりとりは? まぁいいや、公園内でかくれんぼなら特に問題はないだろう。

 ただ今日は暑い。あまり日なたで歩き回ると熱中症になるので、オレは彼女たちにスポーツドリンクを買って渡した。そして、公園の敷地内から出ないこと。水分補給はこまめに行うことを伝えた。


「あっ、先生! 」


 愛宕が挙手した。何か言いたいことがあるらしい。


「姫ちゃんは1人だと何もできないっスから()()()()()でいいっスか? 」


 ――え? 何だそのルール。まぁ確かに小永田は普段から人見知りする性格で、いつも誰かの後ろに隠れているが……。


「ま、まぁいいけど……小永田はいいのか? 」


 すると小永田はコクリとうなずき、すぐさまオレのワイシャツの袖を掴んで後ろに隠れた。右左口と鍛冶屋坂も異論はなさそうだ。


「じゃあオニ決めるよ……最初はグー! じゃんけんぽん! 」


 ……・・


 愛宕が最初のオニになった。オレは小永田と一緒に隠れ場所を探すことになり、その場から立ち去ろうとした。そのとき愛宕が突然、


「いーち、にーぃ、さーん……あっ先生! 先生()()特別ルールで見つかったら()()()()()『罰ゲーム』っスよー! 」

「おい! この期に及んで理不尽なルールを追加するな! 」


 かくれんぼなんだからいずれ全員見つかるだろ? それじゃあ罰ゲーム不可避だろうが! しかもオマエたちの罰ゲームなんてだいたい想像つくわ。



 ※※※※※※※



 小永田と一緒に隠れそうな場所を探した。小永田は常にオレのワイシャツの袖やら脇腹の辺りやらを掴んでくるので歩きにくい。

 林の中は意外と見つかりやすいだろう。整備された公園なので下草もないし、樹木も広い間隔で植えられている。ここは人工物の陰とかの方が有利なハズだ。

 石でできた大きなオブジェがあった。この中に大人が2人ほど入れそうな空間があり、日陰にもなっている。ここに小永田と2人でしゃがむようにして隠れた。

 そろそろ愛宕が探しに来るだろう。暑い中歩き回ったので喉が渇いた。オレは持っていたスポーツドリンクを飲んだ。いつの間にか小永田も持参したスポーツドリンクを飲んでいた。


「そういえば珍しいよな? 小永田(オマエ)愛宕たち(アイツら)といるのは」


 小永田はあまり目立つ生徒ではない。特に誰かと行動を共にしているのも見たことがないので交友関係がよくわからない。


「え? 私……あかりちゃん(愛宕)たちとも仲……いいですよ」


 まぁそうなのか……愛宕はクラスの誰とでも平等に付き合う生徒だ。


「H組はみんな仲良しですよ、扇崎さんもすっかり溶け込んでいますし……」


 そうか! 入学時から基本的にクラス替えせず同じメンバーのH組だが、3年になって1人だけ《扇崎(おうぎざき) (まな)》というお嬢様(ただし、食べ方が下品な変態)が入ってきた。初め、このクラスに馴染めるか心配していたが……それは良かった。


 ただ心配なのは……小永田のような「普通の」生徒が愛宕たちのような「変態」に染まらないか? ということ。


 すると、小永田がスマホを取り出した。


「これを……見てください……先生」


 スマホの画面にはこの公園と思われる「地図」が表示されていた。よく見ると矢印が3つ、まとまってこちらに向かっているのが見える。


「実は……あかりちゃんたちの位置情報がここでわかるんです。もちろんこちらの情報も筒抜けです」


 ――は?


 位置がバレてるってことは……かくれんぼの意味が全くないってことじゃん。


「おい、それじゃすぐ見つかるじゃん! 場所変えよう」


 立ち上がろうとしたオレを、小永田はとても強い力で引張って止めた。


「ダメです! 先生」

「え? 何でだよ」


 すると小永田は、顔を紅潮させハァハァと息が荒くなってきた。目がトロンとして……あれ? このパターンは……


「わっ私……悪者に追われて逃げたり隠れたりする設定(ストーリー)が大好きなんです。そこで王子様がやってきて私を助けてくれるという設定も好きです……せ、先生! 先生は私の王子様です! 」


 そして小永田はオレの手をにぎり、目を見つめて言った。



「お願い……助けてください」



 あぁコレって「シンデレラコンプレックス」ってやつだ。夢見る少女設定が好みなんだろう……と思っていたら、さらに小永田がとんでもないことを口走った。


「でも本当は……結局捕まってしまうバッドエンドがもっと好きなんです。悪者が向かってくる緊張感……見つけられたときの恐怖感、そして助けてもらえなかった絶望感と虚無感……ゾクゾクしてワクワクします! 今もこうして(愛宕たちが)迫ってきているのが……ハァ、ハァ……快感です! だから……見つかるまでここに留まって……見つかってしまう快感を味わいたいんです」


 ――前言撤回! 違うなコレは……もしかしてコイツ【変態】かも?


「さっき観た映画にも……お姫様が隠れているところをゾンビが見つけるというシーンがあったんですが……ハァ、ハァ……姫が見つかった瞬間……私、その場で気絶してしまいました…………気持ちよすぎて」


 ――かも? ……じゃねぇ、【変態】確定だ。


「せっ先生! 私と一緒に迫られる……見つけられるスリルを味わいませんか? 大好きな先生と一緒にこのスリルを体験できるなんてとても幸せです! そして怖いです! ゾクゾクします! 恐怖ですよねぇえええ? 先生ぃいいいいい! 」


「オレは今、オマエに恐怖を感じているわ! 」


 するとオブジェの陰から、


「姫ちゃん! 」

「きゃぁああああ! 」

「先生! 」

「うわっ! 」


「「見ぃ~つけたっ! 」」


 愛宕たちがいきなり顔を出した。


「あぁ……カ・イ・カ・ン」


 すると小永田が気を失い、オレに倒れ掛かった。


「おっおい小永田! 」

「あら? 姫ちゃんイッてしまいましたわねぇ……淫らな娘ですわぁ」

「姫ちゃん気持ちよさそうに気絶しとるわぁー、センセェと一緒にいたから嬉しさ倍増やな? 」

「オマエら……こうなることを知っててオレと組ませたな」

「さぁ? 何のことっスか? 」


 すると、気を失っていた小永田が目を覚ました。


「じゃあセンセェ、約束通り罰ゲームやで」

「オレは誰とも約束していないけどな」

「えぇ~、ワタクシたちも姫ちゃんみたいに性的絶頂(オーガズム)に達したいですわぁ」

「何だよそれ!? 単に性的欲求のはけ口じゃねーか! 」

「まぁまぁ、別に痛みや屈辱を伴う()()()じゃないっスよ」


 ――いや、痛みを伴うプレイが2つと屈辱的なプレイが1つだよ! ってか、すでにオマエらスタンガンとハリセンと油性ペン用意してんじゃねーか!? いつも思うがそのハリセンどこから出した?


 〝ビリリッ! 〟


「痛ぇー! 」


 〝パシーーーンッ〟


「痛たたたっ! 」


「じ……じゃあ次はワタクシでございますわね? 」


 ――右左口! 油性ペンを持ったままヨダレ垂らすな!


「おっおいちょっと待て! 公衆の面前で……顔だけは止めろ! 」

「もちろんですわ、センセイ……シャツと下着をめくってくださいませ! 」


 どうやら右左口は、オレの背中に書きたいらしい。オレはシャツをめくり、背中を見せた。右左口は興奮しながら背中に何か大きな文字を書いていた。でもシャツの下で外からは見えない。これなら公の場でも問題ないだろう。


「じゃあ2回戦やるよー! 」

「おい、まだやるのかよ? 」


 オレは()()の【変態たち】と、かくれんぼの続きをやることになった。


「次はオレ()()がオニか……じゃあやるぞ小永田」

「あー、姫ちゃんは次、私と組むっスよ、先生もわかったでしょ? この子は()()()()()()っス 」


 ――何だよそのルール改変は?


「あっそうそう、せっかくセンセイがオニでございますから……次は〈隠れオニ〉になさいませんこと? 」


 隠れオニ? それって見つかったヤツが逃げても良いというアレか? ちょっと待て!


「オマエら……何か自分たちの都合のいいようにルールを改変してないか? 」


 全員、視線がバラバラになっている……鍛冶屋坂に至ってはわざとらしい口笛を吹いている……やっぱそうだな!


「じ……じゃあスタート! 先生! 30秒数えるっス」


 ――あーっ! オマエら、うやむやのままで始めやがったな!? クソッ! こうなったら全員捕まえてやるっ!



 ※※※※※※※



 とはいっても「隠れオニ」は実質オニごっこだから1人だけ捕まえればいいはずだ。よーし、絶対に探し出してやる。


 そんな訳でさっきから公園内を探しているが意外と見つけられない。そういえばアイツら位置情報を共有していたよな……オレには無いじゃんか!? 初っ端から不公平だ。

 でもまぁ落ち着けオレ……アイツらとは2年以上顔を合わせている……性格も行動パターンもお見通しのハズ。ここは冷静に行動パターンを分析しよう。

 まずはこの中で一番の狙い目、賢そうではない鍛冶屋坂からだ。アイツはお笑い好き……何かしらウケを狙ってくるだろう。

 公園にはいくつかオブジェがある。しばらく進むと、さっき小永田と隠れていたのとは違うオブジェがあった。異国情緒漂う(エキゾチックな)人物が数名並んでいる彫刻だ。

 その異様な顔をした彫刻を順に眺めていると……一番端、明らかに生きている人間……いや、女子高生がその彫刻の顔に寄せて「変顔」をしている。


「鍛冶屋坂ぁあああ! 見つけたぞ! 」

「うわっ! 何でわかったん!? 完璧な変装やったのに」


 ――バレバレだわ。


 オレは夢中で追いかけたが、全力で走る鍛冶屋坂に逃げられてしまった。


 ――クソッ、あともう少しだったのに。


 最近運動不足だな……こんなときに体力の衰えを感じる。とりあえず作戦を練り直そう、次は……右左口だ。

 右左口(コイツ)は頭が良い。現文の成績も良く、書道が得意なので漢文や古典、ことわざにまで精通している。ただし、いつもエロいネタに変換しているが……。

 さて、アイツならどこに隠れる? 隠れる……隠す……そういえば「木を隠すなら森の中」ということわざがある。たぶんこれだ! 人が多い場所だ。

 ヤツは大人びた外見だ。子供の多い遊具広場にいたら浮くだろう。母親のふりをすればわからないが1人でいると不自然だ。

 林の中にバーベキューができる広場がある。この日は若者グループが大勢バーベキューを楽しんでいた。

 1人1人顔を確認する……いた!


「右左口ぃいいい! 見つけたぞ! 」

「ひぃいいいい! せっかくお肉が焼きあがりましたのにぃいい」


 コイツ、ちゃっかり割りばしと紙皿持って知らないグループのバーベキューに参加してやがる。右左口が全力で逃げていった……意外と足速いな。


 右左口にも逃げられた。後は……愛宕と小永田か。愛宕も頭の良いヤツだ。常識的な探し方では見つからないだろう。おそらく右左口と同じような方法をとる可能性が高い。ただ違うのは、小永田と一緒……という点。

 小永田は身長が低い。確か140センチちょっとだったと思う。愛宕は160センチ以上あるはずだから、右左口みたいに若者の集まりに紛れ込めるが、小永田がいると浮いてしまう。

 そういえば小永田、少し子どもっぽい服装をしていたな? ならば……


 ――()()()()に扮している可能性が高い……遊具広場だ!


 オレは遊具広場に急いだ。それにしても暑い……かなり動き回ったのでシャツが汗だくになってしまった。

 遊具広場には大勢の親子連れが来ていて子どもを遊ばせていた。こんなところに女子高生がいるはずがないと踏んでいるだろうが……そうはいくか!

 しかし、小永田も小さいとはいえ幼児体型ではない。すべり台などの遊具で遊んでいてはとても目立つ。と、いうことは……?

 砂場だ! 他の子どもに交じってしゃがみ込んでいればそれほど目立たない。近くで愛宕が母親のふりをしていれば完璧だろう。

 砂場を遠巻きに見つめる……他の母親たちが不審な目でオレを見ているのが気になるが。


 ――いたっ! 思った通り、愛宕が母親のフリをして立っていた。しかも他の母親と談笑してすっかり溶け込んでいる。そして下では子どもたちと一緒に砂場で遊んでいる小永田の姿が……。


 オレは2人に気付かれないようにそーっと近付いた。気のせいだろうか? オレの後ろにも誰かがそーっと近付く気配を感じた。

 確実に捕まえられる距離まで近付いたところで声を掛けた。


「オマエら見つけたぞぉー! 覚悟しろ! 」


 すると愛宕は、以外にも冷静で


「あっ見つかったっスね」


 というと、手に持っていたスタンガンを


 〝バチッ〟


 とオレに押し付けようとしたが、そんなのは想定内だ! オレは愛宕の攻撃をかわした。愛宕はその隙に逃げ出したが、オレが狙っていたターゲットは……しゃがみ込んでいたので逃げるまでに時間のかかってしまった小永田だ!!

 慌てて立ち上がり、逃げようとした小永田の肩を掴んだ。


「捕まえたぞ! 観念しろ! 」


 小永田は「あぁ~っ! 」と気持ちよさそうな声を上げそのまま気を失い、砂場に倒れ込んだ。すると背後から、オレの肩を誰かが掴んでいた。



「観念するのはアナタですよ」



 ――え? 誰だ?


 振り返ると見ず知らずの男が2人立っていた。制服のようなものを着ている。


「警察です。ちょっとよろしいでしょうか? 」

「は? 警察の方が何か用でしょうか? 」


 オレはなぜこのような状況になっているのか皆目見当がつかないでいた。


「いやぁ実はですね……先ほどからこの公園内で、女子高生を執拗に追い回している『変態』がいるっていう通報が何件かありまして……どうやらアナタのようですから少しお話を聞かせてもらいたいのですが……」

「え? ちょっと待ってください。確かに今、オニごっこをして追いかけてはいましたけど……私は教師でこの子たちの担任です! 『変態』じゃありませんよ」


 するとその警察官らしき男は「ふぅっ」とため息をついた後、


「いや、アナタねぇ……自分でアピールしてるじゃないですか? 」

「はぁ!? してませんよ! 」



「だって……背中に『変態』って大きく書いてありますよ」



 ――!?


 ちょっと待て……まさか? すると、さっきまで逃げていた鍛冶屋坂と右左口も集まってきた。オレは右左口に聞いてみた。


「おっおい右左口……オマエさっきオレの背中になんて書いた? 」

「えっ? 大きく『変態』と書かせていただきましたが……」


 やっぱり! 右左口(コイツ)はシャツの下、オレの背中に直接油性ペンで文字を書いたのだが、この暑さで汗だくになってシャツの下から文字が透けてきたんだ!!


「じゃあ詳しい話は署で聞かせてもらいましょう」

「えっちょっと待って! いや違うんですよこれはぁ! ってかおいオマエら! 何かフォローしろよ! 」


 すると愛宕たちは


「じゃあどうするっスか? オニは姫ちゃんだけど……」

「それは……ペアなんだから(あかり)さんがオニですわ」

「よっしゃ! じゃあ3回戦行くでぇー! 」


「おっオマエらなんで続けようとしているんだよぉおおお! 」


 オレは警察官2人に両脇を抱えられながら公園を後にした……誰でもいい、王子様でもお姫様でも……お願い、





 助けてくださーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーい!!


最後まで見つけていただいてありがとうございま……あぁっ!


彼女たちが見た映画

「ゾ・ン・ビ・ノフ・ク・シ・ュ・ウ」

https://ncode.syosetu.com/n3327he/


【グロ注意】じゃなくて【ゲロ注意】です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ