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プロローグ

新作です!

 俺は、太宰治に憧れている。

 いや……憧れている、なんてフレームでは少々物足りないかもしれない。

 もっと、適切な言い方をしよう。

 俺は、太宰治のガチ信者だ。

  


 きっかけは、当時ある女の子が勧めてきた本を呼んだことだ。

 

 『人間失格』


 まるで、太宰治自身を映し出したようなその作品の主人公は、女性関係で振り回され、自殺や心中を繰り返し……最終的には、薬物中毒で自滅した。 


 あまりにも醜く、人間失格というタイトルに名劣りしないと、読んだときにはそんな感想を抱いた。

 恐らく、俺は読むべきではなかったんだろうと思う。

 あーあ、言わんこっちゃないと言わんばかりに。


 それは俺の心に、深くぶっ刺さってしまった。


 その日から俺は、自殺を志願した。


 

 ◆◇◆◇


  

 舞台は高校。もうすぐ次の授業が始まる。

 そしてその準備は、既に完璧に行ってある。

 しかし、その行為自体に意味はなく、寧ろ無駄に張り切りすぎているまであるのだが。

 大切なのは、「今日も俺は生きて、平凡な日常を送っている」ということだ。


 「田代くんっ!」

 「はい?」


 唐突に名前を呼ばれたので気の抜けた返事を返してやると、その女の子はビクッと身体を強張らせた。

 よほど、緊張しているらしい。


 「何か用?」

 「あ、えっと、あの、その……っ」


 ……勘弁してくれよ。後数分で授業が始まるっていうのに。

 

 必死に何かを伝えようとする意思があるのは分かったが、これでは埒があかない。

 そこで俺は、女の子の頭に手をのせ、優しくなでてあげた。


 「焦らなくていいから。ゆっくり、一つ一つ噛み砕きながら言ってごらん?」


 ……まあ、本当は早く終わらせて欲しいから敢えてそう言うんだけど。

 

 俺がさわやかな笑みを浮かべながらそう助言してやると、女の子は頬を赤らめ、ぽけーっとなんとも間抜けな表情で俺を見つめていた。

 だが、恥ずかしくなったのかすぐに目を逸らす。

 そして、やがて決心したように再度、俺の方を向き……


 「好きですっ、付き合ってください!」


 告白。

 それは人生においても最も重要であるイベントの1つなのだと思う。

 だからこの女の子は無駄に身構えていたし、口にするのを躊躇っていたのだろう。

 しかし、それはあくまで女の子視点での話だ。

 こんなことを言ってしまってもいいのか分からないし、言えば間違いなく反感を買うことになるだろう。

 だが、あえて言わせてもらう。

 

 俺視点、正直飽きを感じていた。

 

 「ごめん、それは無理だ」

 「……っ!……あ、あの、理由を聞いてもいいですか?」

 

 理由?聞くまでもないと思うんだが……。


 「まず、俺はお前のこと知らないだろ?」

 「えっ、そ、そんな!自転車の鍵を拾ってくれたじゃないですか!」

 「……いやいつの話だよそれ。それに、その出来事はお前にとっては重要だったかもしれないけど、俺にとっては日常の一部でしかないからな?」

 「うぐ……っ(グサッ)」


 なにやら、女の子の心に傷をいれたような音が聞こえた気がするが、俺は気にせず話を続けた。


 「それに、見た目があんまり好みじゃないし」

 「うぐぐ……っ(グサリッ)」

 

 女の子は、お世辞にも「女の子らしい体型」をしているとは言えなかった。


 「第一、手際の悪い奴は好きじゃない」

 「ぐふーっ(ザクリ)」


 うわあぁぁぁん―――

 

 泣きながら走り去っていく女の子を眺めながら、俺は溜息を1つついた。

 少々苦しい言い方になってしまったかもしれないが、経験上これくらい強く言っておいた方が都合が良いのだ。

 中途半端な断り方をしてしまうと、勘違いを招いて後々同じ事を2度3度繰り返してしまうことになるからな。


 「……何お前、上げてから落とすのが趣味なの?だとしたら自分自身を今一度見つめ直した方がいいぞ」


 前の席に座っている佐々木が、呆れたように言ってきた。

 

 「上げて落とす……?確かに落としはしたけど、上げてはいないと思うんだが……」

 「無自覚ってのがまた、たちが悪いよな……」


 よく分からないことをぬかす佐々木。

 俺の数少ない友人なのだが、たまに理解できないことがある。

 そして、それは恐らくお互い様なのだと思う。

 

 ……まあ、この一連の流れでもうお分かりだとは思うが、俺は女の子によくモテる。理由は分からん。

 というのも、別にこれといって特別なことをしているわけではないのだ。

 成績や身体能力は人並みだし、優しさに溢れているというわけでもなし。

 人を楽しませるのは、寧ろ苦手だ。

 

 ただ何かしら、異性を惹きつける理由があるのだと思う。

 そういうホルモン的な何かを放ったりでもしているのか……?


 「一体、何が原因で……」

 「……お前、鏡見たことある?」

 「鏡?毎日見ていると思うが」

 「……はぁ」


 佐々木はまた呆れ顔を見せ、今度は溜息までつかれてしまった。……一体何なんださっきから。

 

 「もう何回もそれっぽくは言ってやってたんだけどな……。もうはっきり言ってやろう。お前顔が良いんだよ」

 「……顔だと?」

 「ああ。それもちょっとやそっとじゃない。恐らくこの学校の女子全員に告白したら百発百中レベルの逸材だ」

 「……へぇ」

 「だからあんなキザな台詞を吐いても、普通ならセクハラ行為に該当することをしても許される。それどころか好印象を与えるんだよ」

 

 ホルモンじゃないんかい。

 そもそも容姿って、そんなに大事な要素なのか……?そうとは到底思えないのだが。 

 いや、しかし現に俺はモテている訳だし。

 

 「なんか、そう考えると下らない世界だな」

 「……今までイケメンなら沢山見てきたけど、お前みたいな奴は初めてだわ」

 「そうか?」

 

 それは、褒め言葉として受け取ってもいいんだろうか。

 ……いや、コイツの場合は皮肉のつもりなのだろう。


 「普通はな、容姿が良いならそれを武器にして、女遊びを簡略化させるんだけどな」

 「俺は別に女の子にモテたい訳じゃない。なんなら、嫌な要素ですらあるんだが」

 「……お前はそんなんだから、男に好かれないんだよ。ほれ見てみろ」


 そう言われて辺りを見渡してみると、何人かの男子生徒が俺に妬みを持った視線を向けているのが分かった。

 ……あの子もわざわざ、こんな多人数の前で告白しなくてもよかっただろ。

 

 そう、俺は女の子にはモテるのだが、男にはモテないのだ。

 まあ、逆パターンよりかは、なんぼかましなのだが……。


 

 キーンコーンカーンコーン―――


 

 そこまで話し込んでいた所でチャイムが鳴った。

 

 「はーいっ、皆いるね?じゃあ授業を始めましょう!!」


 それと同時に、我らが担任の、りこちゃん先生が教室に入ってきた。

 今日も変わらず元気っ子キャラしてるなぁ……。

 俺は、今日やる内容を予測して教科書を開こうとしたのだが、そこで佐々木がこちらに目を向けていることに気が付いた。


 「なぁ。モテるのが嫌ってんなら、もういっその事彼女でも作ってみたらどうだ?」

 「いや、それは―――」

 「正確には、この人なら恋人にしても良いと思える、運命の人を探すんだよ」

 「……運命の人?」

 「ああ。恐らくお前がいつもやってる、より目立つ自殺法の模索なんかよりよっぽど有意義だと思うぞ?」

 「……」

 

 ……俺は、自殺を目論んでいる。しかもとびきり目立つやつをだ。

 そして佐々木は、俺が自殺志願者であることを知っている。

 その上で、その事を否定したことは今まで一度もない。

 彼も相当変わった人間だということが分かる。


 「ちょっとそこー!私を無視して別の話なんかしないで下さいっ!!泣きますよー!?」

 

 おっと、授業中は授業に集中すべきだろう。佐々木も同じ事を思ったのか、先生の忠告を聞いてからすぐさま向き直った。


 しかし……運命の人か。

 考えたこともなかったが、それもまたありかもしれない。

 ただ―――


 そんな、軽々しく見つけられるものではない。

 なんせ、今まで沢山の女の子から交際を申し込まれたが、一人とて惹かれることはなかったのだ。

 大体、俺が自殺志願者であることを知れば、誰だって離れていくだろう。

 どうせ作るのであれば、それすらをも理解してくれる人でないと……俺の場合は、どうしてもそういう考えになってしまう。

 そんな相手、早々見つからないだろう……。





 しかし、そんな俺に人生を大きく変えるような重要な出会いがすぐ側まで来ていたことを……この時の俺は、まだ知らない。


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