表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戦神の娘  作者: 高宮 まどか
第一章
5/66

5 覇王の石

キリル平野の二週間後、アウル神皇国の神都であるサリバスより黒煙があがった。


「陥落したかな…。」

アデルは山側からサリバスの方向を見ていた。


アデルは変わらずキリル山脈に滞在していた。北の空に黒煙があがった際は、武器提供の名のもと、その片棒を担いだ1人としてほんの少しだけ、胸が痛んだ。

小さな感傷に浸る時間も資格もない。そうゆうのは別の人間が浸ればいい。

これからはまた忙しくなる。

ロゼリア王国のセシル一世の治世下における征服した国はこれで4つ目となるが、最古の神の国を滅ぼしたということに、各国も動揺を隠せないだろう。アデルのクラレス王国もロゼリア王国と国境を接することになったのだ。


「そろそろ帰りますかな…。主。」

キースは自身の荷物の整理をしながら言った。

「そうだな。こんなに近くで戦神ではないが、ロゼリア軍の戦いが見れたしね。サリバス陥落の様子は出している斥候から後から確認でいいか。」


アデルは伸びをすると、縦横計40盤目に戦う駒を置く陣取りゲーム「セルト」を持ってきて、テラスのテーブルに並べ始めた。キースに隣に座るように言った

「一局指さないか。」

キースはアデルの幼なじみだけあって気の置けない仲だ。

「喜んで。うるさいセルジオもいませんし。湖を見ながらの一局なんて、望むところ。」

もうひとりのセルジオは、いささか遊びにのめりこむふたりを諌めることが多いが、今回はクラレス王国のアデルの本宅で留守番だ。

「カルロは?」

「あー、茸とりに行ってるよ。」

「毒茸だな。夕飯に混ぜるなよ。」

軽口を叩いて、勝負をスタートする。先に王様の駒を取ったものが勝ちだ。


「しかしね、主、今日の黒煙は宮殿が落ちたとみるか?」

キースが御影石を削ってできた「騎兵隊」の駒をアデルの陣地へ打ちながら尋ねた。

「だろうな…。斥候はまだ戻らないんだろ。宮殿からの火の手はちょっと笑えないね。捕まえて終わりにできなかった可能性があるな。」


アデルは騎兵隊の駒を取ろうとして断念しながら、宮殿が火に包まれる様を想像した。

あの綺麗な少女も宮殿に攻め行ったのか…。

平野の戦いと、非戦闘員のいる宮殿を攻める戦いはまったく違うものだ。



「今、皇帝はいくつだっけ?私の父と同じくらいか?」

アデルは歩兵の駒を唇に寄せながらキースに尋ねた。

「確かロータス皇帝は主の父より年若いんではないか?皇子も皇女もいたと思う。神皇だけでなく、大神官もと同じくらい権力があり、ややこしい国ではあるな。大神官は確か…ここ数年で新しい人に就任したばかりだったと思う。すまない、資料みないとぱっとでてこないが。」

キースは素直に詫びた。

「まさに、宗教の国だな。クラレスがアウル神をあまり信仰してなくてほっとするよ。」

クラレス王国は北から南へ領土拡大して、もとは山岳民族だ。平野の宗教には馴染んだとも言えない。

そのためクラレス王国は山の神であり、その化身とされる狼を神格化して偶像崇拝まで行かないが崇拝している。


実際クラレス王家の紋章は金色の狼である。

クラレス王国はアウル神皇国の紫の瞳を渇望していた国であるの一方で、自らの直系の血統に現れる狼を連想させる金色の瞳を尊いと感じている。


そのため、王家は金色の瞳を守るため、金色の瞳の王家の血筋が入ったものとしか婚姻を結ばない。いささか閉鎖的なところがある。唯一外の血で認めているのが、紫の瞳であるが

これには最古の高貴な血の象徴以外にも理由がある。

紫色と金色の組合せであれば、金色が遺伝子上勝つことが多く、クラレス王家にとっても都合のいい相手だ。

「狼の瞳信仰か、覇王の石信仰か。どっちも悩ましいな。」

アデルは、ぱちっと歩兵をキースの騎馬隊の横につける。


アウル神を神と崇めるアウリスト教の紫の瞳が高貴だといわれる根拠は、宗教の起源となる石碑に書かれた一説からである。

創世の神であるアウル神は世界を治める際に覇王の石という聖なる石を使用した・・・・というものだ。

この覇王の石が紫水晶のように美しい石で、同じ瞳の色を持った人間しか動かすことが許されなかったというのだ。

アウル神は、時の皇帝に覇王の石を託し、世界から消えた。その偉大な力を守ることが神皇国の成り立ち、世界の成り立ちと信じられている。つまり、皇帝はアウル神から覇王の石を託された現人神だったことになる。王宮に治められているだろう覇王の石を継承することがアウル神皇国の神皇帝となることなのだ。覇王の石は皇統を継ぐものの象徴であることは確かだ。


キースはセルトの弓兵隊をアデルの歩兵にぶつける。アデルはムッとして、弓兵隊に騎馬隊をぶつける。

「覇王の石ね…。ただの神器だろう。実際どんな力があるか誰も知らないし、力が使われているところ見たことないからわからないけど。俺のような黒系の瞳のものには関係ないな。」

キースは苦笑いして、アデルの瞳をみた。確かに黒系の瞳が下に見られる原因の一端はこのアウリスト教がある。クラレス王国のアデルの立場は、アウリスト教と狼の目信仰によりだいぶ縛られたものであるということは相違なかった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ