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戦神の娘  作者: 高宮 まどか
第二章
25/66

25 戦神の夢の果て

戦神のセシル一世がアウル神皇国の首都サリバス陥落の一報を聞いたのは陥落したカデフの城内であった。その少し後に、ロゼリア王国首都ユーティに残してきたサラからも至急の密使が届いた。

2つの書類を執務室のテーブルに並べ、セシルは思わず顔を覆った。1つはアウル神皇家の全てを滅ぼしたという戦勝の報告書。

報告書には王太子が近衛隊を打ち破り、ルッティ隊が神皇と大神官、ファサリス皇弟を討ちとったとの記載がある。そしてもう1枚の報告書には、そのルッティが密やかに隊を離脱し、行方がわからない。ほうぼう探しているが見当たらないため、サラ自身が現地に入るとの報告書だった。


「ルナティス…。」

様々な思いが戦神の駆け巡った。

積年の願いであったアウル神皇国の陥落への万感の思いもあるが、もう一つの感情は名前がつかない。自分の孫娘に父と姉、そして伯父を手にかけさせたことが記載されるのを見ると悲しみとも怒りともつかない渦巻く感情が戦神を支配していく。

戦いの勝利を、念願の相手の勝利を素直に喜べない。



ルナティスのことになると、なぜこうもうまく事が進まない。反比例するかのように、ルナティスが絡むと戦の勝率はすこぶる上がる。役にたちすぎてしまう。


戦神は1人執務室の椅子にかけながら、机に肘をつき額に手をあてた。

文書を持ってきた兵士におざなりに告げた。

「少し、1人にせよ。」

兵士はぺこりとお辞儀を、でていった。


戦神は、はぁっと息を吐いた。

草原でヒルカに連れられてきたルナティスを戦神は思い出した。

ルナティスは、ヒルカの顔ばかり見ていた。不安そうな顔…。

あの顔はアウルに嫁ぐときにセイラが自分を見上げたときの顔だと同じだ。


「なに、大丈夫。お父様の姉上が皇太后様だ。優しくしてくれるし、お父様はアウルにはよくお仕事でいくから。すぐ会える。おまえはどこにだしても恥ずかしくないロゼリアの姫なんだから、そんな顔するんじゃない。」


セイラにそう告げると、セイラはこくんと頷いた。まさかセイラに会うのがそれが最後だったとは戦神はわからなかった。


その後、何度戦神が要望しても、セイラとの面会をアウル皇家は認めなかった。同盟国という肩書きがありながら、面会を拒む態度とセイラの情報があまりないことに戦神も焦り、ありとあらゆる手を使った。もともと差し出したくて差し出した娘ではない。人質のようなものだが、きちんと糸をつけていざとなったら手繰りよせるようにしていたはずだ。


「正式な婚礼前に、早く連れ帰るべきですよ。拐ってもいいから。」

当時の先代の道具屋が珍しく、しかめっ面で言った。彼女がしかめっ面するのは珍しかった。長い黒い髪と美しい紫の宝玉のついたピアスを揺らしながらめんどくさそうに言った。

「ファサリス殿下にはセイラ様より好きな方がいるんですよ。同い年の宰相の娘です。セイラ様はまだ10歳で相手にならないから、その娘に手をつけたのか知りませんが…。セイラ様が

戦神に告げ口するとでも思ったのかもしれませんね~。」

道具屋は、戦神の悲しげな様子を憐れんだのか、ヒルカという存在を戦神に教えた。

「私は直接知りませんが、セイラ妃を擁護している唯一の枢機卿です。あたる価値はあるかと…。」

「ヒルカ?若造軍師のヒルカではないか…。」

道具屋は、スパイスのきいた紅茶を戦神に渡す。

「なにか問題でもありますか?セイラ妃とは神学校が同じなんですよ。ヒルカ枢機卿は。それでセイラ妃を擁護しているではないかと…。」

道具屋はにいっと笑った。戦神は聞くのもうんざりと思いながら紅茶に口をつけた。道具屋でだされる紅茶はうまいが、戦神の鬱々した気が晴れない。

「アイシャ。その情報は確かだろうな。」

「父がいないとずいぶんと信頼がありませんね。女だから甘くみてらっしゃいます?けっこう大サービスですよ。」

アイシャと呼ばれた道具屋は長い髪を手で払い、軽口を叩いた。

「18歳の若年で、女だ。疑いたくなるのも普通だろ。」

アイシャは夜空のような瞳で戦神をにらみつけた。

「なんだ。不満か。」

「不満でございますね。35にもなるいい男がですよ。人の優れているところを性別で判断するなんて。まあ、信じる信じないは戦神さまにおまかせします。」

アイシャはうんざりと言うように言い捨てた。

「おまえは本当に口が減らない。そんなんでは婿の貰い手が…。」

と言いかけて、むすっとして紅茶をすする。

「そうだな。おまえは嫁の行き先が決まっているんだった。」

アイシャはニコニコして笑った。

「そうですよ。でも第2妃ですからね。せいぜい立場をうまく使って家業を盛り立てますから。今後もご贔屓に。」

恭しく左手に手をあてて礼をする。戦神はわざとらしい態度にそっぽを向く。

「おまえ、嫁いでからも仕事やる気なのか?」

アイシャは目をぱちくりさせながら答えた。

「えぇ。王子様は第一王妃に首ったけなんです。私に妃の話が来たのも、うちがお金持ちだからですよ。父を軽視できなくなったからです。だから子も作らないでしょうし、特段結婚になにも夢みてないというか…。立場をうまく利用すると言うか…。」

戦神はアイシャの手をつかむと、勢い任せに言う。

「そんなところに嫁にいくなら、俺の…。」

アイシャはセシルの手をばしっと叩いた。

「妃になりませんよ。いくつ離れてると思っているんです。あと、なんてゆうか、そうゆうのってもったいないじゃないですか?」

戦神は叩かれた手を見ながら問いただす。

「もったいない?」

「戦神さまは、私の黒い瞳を好きだとおっしゃるし、軽口を許す珍しい王様です。ただの男と女になるより、こうして時々あってお話する存在はお互い貴重ではありませんか?そう意味では、私はあなたのことが好きですよ。妃にはなりませんけど。だいたい、父の友人が、その娘に手をだすなんてあきれますよ。」

アイシャはタメ息をつきながら、美しい花のように笑った。戦神は頷いた。

「確かにな。おまえの父に憎まれたくない。」

アイシャも頷いて、続ける。

「姫に注ぎたくてもて余した感情を私にぶつけるのはいけませんよ。あなたの姫は強いのですか?強いのであればそのままでもいいですが、強くないなら連れ帰るべきですよ。文字通り、戦神様の夢のアキレス腱になってしまいますよ。」

戦神は自分の唇を触った。

「よくわからないな。美しい娘ではあるが、6歳に別れているのでな…。」

アイシャはため息をついた。

「そんなの父親ではありませんよ。早くセイラ様と会うべきです。」



わかってはいたが、戦神も戦いに身を置く男だ。娘を人質に差し出したのも途方もない夢のためだ。娘にかかりきりにもなれない。


戦神の…、セシルの瞳は紫水晶の瞳ではない。青紫だ。生まれた順番も遅い。王位継承順位も低い。ほったらかされた王子時代、セシルは諸国へ人質として差し出された。ロゼリア王国がまだ今ほど強くなかったからだ。そこで戦神は様々な世界を見た。アウル神皇国、砂漠の国、海に囲まれた国、雪深い国。国は違うのに、みんな最初に瞳の色を見る。


自分の瞳が紫水晶でないかぎり、自分の上には見えない天井がある。自分の下にも。

紫と紫でないもの、宝石の色の瞳を持たないもの。黒い夜空の瞳を持つもの。




瞳の色を見ない国が1つだけあった。ルーテシアだ。

アウルから砂漠の国に向かう途中に、ルーテシア地方に何日か滞在しなければならない。

そこはクラレスに属してはいるが、クラレスの固有の民族とは異なるルーテシア民族が暮らす。ルーテシア民族はクラレス王国より東の地方にしか存在しない黒にほんのり青を足らした夜空の瞳がをもつ人々が多く存在する。珍しく瞳が階級に現れない地方であり、族長であるルーテシア公は黒い髪に夜空の瞳だ。これは他の地域ではあり得ない。夜空の瞳は平民の色と差別されているからだ。実際、ルーテシア公もクラレスに臣下をとる前は一部族の族長であるが、商人であることから平民である。


セシルは、アイシャの父であるルーテシア公のカイルが挨拶にきたときも、ただ紫でないものが来る…と思っていた。

カイルが部屋に入ってきたときは本当に驚いた。カイルは当時14歳のセシルより5歳程年上らしいが、黒い髪で、切れ長の美しい漆黒の瞳を持ち、黒い豹のようにしなやかな美しい男だった。黒に染め抜いた絹に金糸の刺繍の服を着て、肩までの髪は後ろに撫で付け、左耳から紫の宝石をちりばめた銀のピアスを垂らしていた。

まごつく戦神にカイルは滞在する部屋に案内しながら、いきなり尋ねた。

「お腹すいてるんですか?セシル殿下?」

戦神は吹き出した。妙に恥ずかしい気持ちになりつっけんどんに答えた。

「いや…。別に…。なぜそう思うのだ。」

「なんか、満たされてない感じがしまして。」カイルはふふふと不敵に笑った。


カイルは滞在中、ルーテシア地方のいろんなところにセシルを連れ回し、いけない事しか教えなかった。諜報の仕方や武器の製造、抜け荷の仕方…商談の進め方…数えきれない。最後にカイルは1つの金額を書いた紙をセシルに渡した。金額は安くはなかったが馬10頭分というところか…。

「これは??」

「あなたの命の値段です。」

カイルは笑った。夜空の瞳が光で煌めいた。

「安すぎないか?俺は一国の王子だぞ。」

「そう。あなたは今底値ですね。あなたをもし殺してほしいとうちに依頼が来たら、その金額で受けてくれる暗殺者を紹介しますね。」


セシルは自分の顔がかっと熱くなるのを感じた。そして、カイルを見て、口を開いた。

「俺が、王太子ならいくらになる。」

カイルは頬に手をあてて微笑む、妖艶な笑みだ。セシルはなぜか負けられないと思って歯を食い縛る。

「その千倍でもきかない。」

カイルはそう言って、セシルから紙を取り上げると暖炉の紙にくべる。紙が燃え上がるとカイルは挑戦するようにセシルに問う。

「王太子になれますか?第5王子が?ロゼリアで紫水晶の瞳でもないあなたは。」

セシルは眉をひそめながらも答えた。

「なれないとも言いきれないだろ。」

カイルはクスクスと笑った。セシルは腹が立って大きな声をだす。

「なんだよ。根拠とか言うならあるぞ。」

カイルは手を振って笑って返す。

「いや、根拠なんて…。」

「あるさ…。兄貴達の中で紫水晶の瞳の奴らを殺して、押し退ければいいんだ。あいつらその瞳の色に胡座をかいて、瞳の色だけで自分が優れていると思い込んでいるんだ。ロゼリアは独立していながら、アウルの模倣をしているに過ぎないことにも気づかない。」

つらつらとセシルの口から恐ろしく不敬な言葉が滑り出していく。セシルの瞳も鈍く光る。

「何が違うんだ?瞳の色で。それこそ根拠で示してほしいのはこっちだ。」

セシルは肩で息をするとカイルはスパイスの効いた紅茶をセシルに差し出した。

「ここには、各国の人質の王子が数日お泊まりになります。あなただけでした。こんな豪奢な館に泊まれることにと喜んでないのは。これでもこっちは気を使って建ててるのに。ロゼリアの他の人質の王子も大喜びで楽しそうにしてたのに。ずっと怒っていましたね。ここに来るまでに嫌なことでもありましたか?」

「何が言いたいんだ。嫌なことなんて数えてられないよ。」

セシルはイライラしてガブガブ紅茶を飲む。スパイスは嗅いだことのない香だ。

「私はこれでもいっぱしの商人で族長です。取引相手くらい見極められるつもりです。あなたが王位を欲するなら、いろいろ用立ててあげてもいい。あなたは王になればいい。その全身に燻る怒りを放出しながら。」


「怒り?」

「あなたは、瞳の色で決まる世界を憎んでいる。私と一緒ではないですか?」

挑むような瞳にセシルは身動きができない。目の前の男は憎しみなんてもっていないように思える。

「青紫でも王位を継ぎたいなら、全てを紫水晶の瞳から奪えということか?」

「継ぎたいならですが…。それなら面白い夢なので、のって上げてもいいかな…と。王太子や王になったら儲けさせてくれそうだし。先行投資です。」

セシルは儲けるの降りで口を歪めたが、思わず笑ってしまった。

「おまえも、世界が憎いのか。」

そんな、激しい感情をもち得ているとはとてま思えない。

「憎いというか、わずらわしいですね。あなたとだいぶ違いがあるでしょうが。私は、自分の子孫を必ず王にして見せるという長期戦の夢があります。それは自分で叶えるとして、同じ夢を持つ人間が欲しかったのかもしれません。試して申し訳ありません。殿下。」

カイルは神妙に頭を下げた。

「いまさら、遅いぞ…。」

セシルは嘲るように言ったあと、カイルの頭を上げさせる。

「俺はもっとロゼリアを強くして、いつまでも寄生しやがるアウルを最後は倒したい。紫水晶の瞳のやつは皆殺しにしてやる。瞳の色など関係ない。ただ、カイルはどうやっておまえの血脈を王にするんだ。俺に加担しておまえに得はあるのか?」

「なければ、声をかけません。私の夢のやり方は様々ですよ。例えば、私なしではいられない国にしてしまうとかね。殿下。」

カイルは妖艶な瞳でセシルを見るとにやりと笑った。


自分の中でずっと渦巻いた怒りに似た諦めをカイルがどこで見抜いたかはわからない。あの頃は若かったのだ。カイルもセシルも。だが結果としてカイルの見立ては正しく、セシルは紫水晶の兄達を国境での戦場で密かに殺し、王位に就いた。


紫水晶の娘が自分に産まれた時は驚いた。当然のように婚約を申し入れてくるアウルの態度にもだ。その瞳の色、覇王の石の後継者という神話のくだり1つで独立した国が当然のように全てを差し出すと思っているその妄信にセシルは震えた。震えながら、アウルの要求を突っぱねた日には、同じくアウリスト教の教義を持つ周辺3国にロゼリアを攻めさせるきっかけになる。アウル神皇国はロゼリアを盾とし、まわりの3国と争わせることでアウルに目を向かせないようにしているのだ。


娘を一時犠牲にするならば、アウルの期待どおり3国と牽制どころで終わらせず、きちんと3国滅ぼしてやる。その後、落ち着いてアウルを滅ぼしてやる。滅ぼさねば、妄信は覚めない。


セシルがヒルカという存在にいきつき、書簡を交わしセイラの日常を伺い知るようになると、2国目にあたるリズベルグ王国との戦は佳境を迎えていた。その頃、セイラは結婚し、ルナティスを身籠ると神殿に厄介払いされた。セシルはヒルカを経由してセイラの身の回りの全てを支援した。セシルなりに遠くからセイラを守ってきたつもりだ。例え会えなくとも。



リズベルグ王国の陥落し、入城した後、血の汚れを拭っていると、一通の手紙を持った兵士が執務室の机の上に手紙を置いていった。

血まみれの手で手紙を開くと、そこには女の字が書かれていた。字は乱れ、ところどころ滲んでいた。


お父様。

お父様、いつになったら迎えにきてくれるんですか。

私は紫水晶を産むための腹にはなりたくない。

どうして私も姫も紫水晶の瞳なんでしょうか。

どうして、お父様の嫌いな紫水晶の瞳に産まれたのでしょうか。わたしもこの子もお父様と同じ瞳がよかった。


セシルはそのときはまわりの制止を聞かず、ヒルカに連絡をとろうとした。だがうまくいかない。それもそのはずだ。ヒルカは何度も何通もセシルに手紙を送ってきていたのだ。リズベルグ王国の戦いの真っ只中のセシルにその手紙が届いたのは、アウルからの国使からセイラが病で死んだという正式な知らせの後だった。なぜ、ヒルカの目を盗んだセイラの手紙だけが戦地に届いたのか…。あれはいつ書いた手紙なのか…。


セイラが亡くなってから、ヒルカの手引きで、セシルは密やかに国境を越えてアウルの領地に入った。ルナティスを遠くから見た。

ルナティスは幼い頃のセイラと瓜二つだった。ヒルカは声をかけないかぎり、ルナティスは王宮でひとり放っておかれていた。遠くでみていたら、ルナティスはひとりで弓の稽古をしている。

セイラと顔は生き写しだが、セイラではない。ルナティスはその透き通る紫の瞳に何か言葉にならない感情を宿し、弓をひいている。弓は全て真ん中を命中させていた。


神官のフードをかぶり目立たないようヒルカの隣に佇みながら、セシルは呟く。

「見事なものだな…。ヒルカ枢機卿が教えたのか?」

「はい…。さすがに戦神の孫娘なのか筋がよろしかったです。」


ヒルカはルナティスの瞳に青紫になる目薬をつけて、ルナティスの頭を撫でて、稽古を続けさせる。セシルも撫でたい衝動を堪えた。

「セイラ様のご遺言でして。瞳の色のにとらわれないで過ごしてほしいとのことでして。」

瞳の色…とらわれ続けているのは、セシルだろうかと自嘲した。

「ヒルカ枢機卿…。わが娘はなぜファサリスに愛されなかったか…。贔屓めに見てもあれは私の妻に似て、息もつけないくらい美しいし。きつい性格でもない。」

聞いても栓ないことをセシルは吐き出すように言った。ヒルカは困ったように黙り込んだ。

「ファサリス様の公妾は、特段なんでもないんです。年がファサリス様と同じくらいで。戦神のお姉様に育てられた紫水晶の瞳の正しいお姫様のセイラ様は、優れたお姫様です。それ故に、ファサリス様の劣等感全てをあぶり出してしまうそうです。神皇になれない自分には、荷が重くて近寄りがたいという勝手な言い訳です。」


ヒルカは目を伏せて言う。セシルも天を仰いだ。

「そなたはなぜ、いつもセイラの肩を持ってくれて、ルナティスの面倒を甲斐甲斐しくみるのだ。」

ヒルカは思わぬ質問に驚いた様子であったが首をひねって答えた。

「さあ…。理由はありません。セイラ様は正しいことをしているようにいつも思えたからですかね。紫水晶の瞳を盾にせず、正しいことをしている人をわたしはアウルではセイラ様しかみたことがない。ルナ様は、恐れ多い話ですが、この世で初めてこの手に抱いたのが私でしたから…。つい、ですかね。」


セシルはそれは父親のセリフだと言葉にするのを止めた。

「アウルの戦神に最初にいだかれるとは、光栄な娘だな…。」

セシルはルナティスの後ろ姿を見守った。



セシルはルナティスを抱き抱えた草原からの帰り道に、今度は、今度こそは絶対にセイラのように自らの夢のために娘を犠牲にはしない。ルナティスは、ルナティスを幸福にする男にしか嫁がせないと心に誓った。


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