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戦神の娘  作者: 高宮 まどか
第一章
13/66

13 残酷の湖畔

アデルは、ルティにもう一度落ち着くように水を飲ませた。感情をみせたことにルティは後悔しているようだった。アデルは

ルティは誰かと何かをするのが得意でないのだろうなと思った。

わかるよ。俺もそうだからと声をかけようとしたが、アデルは止めた。ここで慣れあってもしょうがない。


「そもそも、神殿の中にあるクレマチス隊は、先の戦いで数を減らしてますよね。神都が陥落し、今敗走している状態だ。怪我人をあそこで休めているのですかね…。」

アデルは灯りがついた神殿を見て考察する。

「この隊は、宮殿前で戦い、神皇一家と大神官を守っていた…。皇太子軍がクレマチス隊を撃破したから…わたしは宮殿内部に入れたはずだったんですが…。」

ルティは自らの刺し傷がある左の腹を撫でた。そこにはカルロがつける傷の前に小さな刺し傷があったはずだ。


「あの人も…最後になかなか嫌なことをする…。」

ルティは神殿を見ながら呟いた。ルティは一時押し黙ったが、

アデルに向き直りはっきりと言った。

「道具屋。最悪なのは、隊長が生き残ってあの神殿にいた場合です。」

「隊長…。」

「ベルクート…。クレマチス隊の隊長で、大神官の夫で、神兵一の武人です。」

アデルもその名前に聞き覚えがあった。槍の名手だ。ルティは弓の矢尻をチェックしていく。

「大神官は私が殺したので、私を見たら激情するでしょうね。やっぱり…、そんなことに道具屋は巻き込めません。」

「まだ、隊長が生き残っているとは限らないでしょう。しつこいですね。めんどくさいので、話もとに戻しますね。」

アデルは自分の荷物からネックレスとろうそくを取り出した。

「とりあえず、数が少ないので、大抵の兵士には()殿()()()()()()()、死んでもらう…。獲物も隊全体槍のようですし。」

アデルは、物陰にかくれながら、にゆっくりと近づいた。見張りの数は5人…。

「ちゃんと、保険はかけますからね。」


アデル湖畔から弓を構え、見張りの5人が立っている位置に弓矢を放った。下からの弓だから、当たったらめっけもんだ。


火矢にしていたため扉に一瞬火がともる。

「弓矢だぞ。」

「おい、下からだ」

「湖のほうだ。」

いっきに神殿がざわめき始める。


アデルは自分の足元にランプをおいた。そして自らの外套を引き裂くと枯れ葉とともにろうそくで灯した火をつけた。

「さあ、降りてきてくれよ。」アデルは草むらのほうにちらりと視線をおく。そして自らの弓もルティに渡した。

「わたしはもう使いませんから。」

「道具屋…。」

「なかなか降りてきませんね。じゃあそろそろ始めますか…。」

「道具屋、やっぱり。交代したほうが…。」

「あなた、弓上手なんだから、私にあてないでくださいね。私だと手元、狂います。だからこの分担で間違いありません。」

ルティの信頼していない顔をみて、アデルはため息をついた。


それはそうかもしれないけど、まだ、信頼してないのか。確かに、俺もこういう損な役回りをやりたくないけど。


アデルは星を見上げた。あぁ、いい夜だなぁ。こんな夜に何をしているんだか。


アデルは火元に戻ると巾着とはべつに首にかけたネックレスをだした。ネックレスの先には小さな笛が2つ、ついている。アデルはまず一つの笛を思い切りふく。音はならない。そして次は先程よりやや大きい笛を口に含む。アデルは口含むと大きく息を吸い込んで思い切り笛をふいた。

ビィィイイイイイイイイイイン

静かな夜に不快とも言えるような音が響いた。火矢に続いて、この笛の音が決め手となり神殿前がざわつきだした。

「あそこだ。敵だ!!」

「ロゼリアがここまで来たのか?」


笛の合図で射かけられた記憶があるのであれば、何人かは、すぐに降りてくる。案の定、槍を持ってこちらを指してる。丘から湖畔まで降りてくるのはやや大回りだ。そのため下からは降りてくる兵士の数を数えられる。まずは五人の兵士が丘から走りよってくる。みんな揃いの炎を模した槍と松明を持って。


「おい、1人だぞ」

「お前はなんの真似だ。何者だ。」

アデルの正面までくると、1人のアデルを不審がって兵士の何人かが質問をしてきた。

兵士は傷だらけであった。激戦の後と言ったところか…。

アデルはにっこり笑うと一番湖畔側に立つ兵士に近づいた。

「この男、髪の毛が黒い…。軍人ではないな…。追い剥ぎか?」

「弓矢持ってないぞ。民間人じゃないのか。」

近づいた兵士はやや気の抜けた言葉を口にした。兵士の槍をもつ右手は怪我のせいか包帯が巻かれている。

アデルは誤解ですと言うように、手をふり兵士に急接近する。

「軍人でも、追い剥ぎでもないですよ。」

アデルは優しく言うやいなや、一気に剣を抜くと一旦身をかがませ、湖畔側に立つ兵士の右腕に向けて剣を振り上げた。

「う…。」

兵士の右腕は槍とともに宙に舞い、ぼとんと湖に落ちた。

あまりの速さに隣の兵士が横を見ようとした瞬間、アデルは無表情に右腕を切り落とした兵士の左足を、立ち上がりながら切りつけた。

「ひぃ…。」

兵士は声にならない声を小さくあげた。

兵士が湖に倒れこみむのを隣の兵士は静止画のように見ていた。しかし、急に右半分が真っ暗になる。なぜ…と隣の兵士が思った瞬間、顔に火に焼かれたような強烈な痛みに襲われた。目を切られたという事実が分かると思わず膝をついた。槍にすがると、アデルはすがる右手を狙い剣を振り下ろした。

「ぎゃあああ」

兵士は思わず槍を離した。アデルは自らの剣を収めると、その槍を奪い取り、兵士の首に振り下ろした。

頸動脈からの血が横にいた三人とアデルに平等にしぶきとしてかかった。しぶきが止むと、2人目の兵士は湖の波打ち際に倒れた。

三人は事態を飲み込み槍を構えた。アデルは湖畔を背に立ち、槍を構えた。

兵士の1人は、アデルを睨みながら

「おまえは何者だ。」と低く唸った。松明を足元におき、槍をかまえ、じりじりと湖の波打ち際に追い詰める

アデルは答えないで、槍を上に掲げた。


ヒュッ


槍を合図に小さな音が湖の水音に紛れた。

3人のうちの1人の兵士が

「あ…。」と小さな声を漏らした。そのまま湖に前のめりで倒れかかると同時に、


ヒュッ、ヒュッ


また2つ小さい空気を切り裂く音がした。

1人目は右腕に、2人目は首に、3人めは包帯を巻いていた左肩に、ルティが打った弓矢が貫通していた。


アデルは、神殿を見た。追加の兵士は来なそうだ。もうちょっと来てほしいところだな…。このまま籠城されたら困るし…。


松明をかざして3人を見ると、首を貫通した兵士は虫の息であった。左肩に矢が刺さった男は、傷が開いているのか包帯に血が滲んでいる。肩で息をしている様子をみて、もう一回包帯の上から槍をつきたてた。

「ぎゃあっ」

アデルはそのままその男を見捨てると、槍の構えを続ける、一番軽傷の右腕に矢がささった兵士に近づいた。

「見上げたものですが、不審者にだれか聞く前に殺さないといけませんよ。」

アデルも槍を構えた。

「民間人は殺さないのが隊の掟だ」

「優しいですね。」

アデルは、槍を前に振り上げてくる兵士を避けると胴を狙わずに、槍を持っている手を切りつけた。槍が手から離れるのをみて、槍掴むと自分の足元にすてる。アデルは、後退する兵士に近寄り、足を自身の剣で切りつけると矢を無理やり抜いた。そしてそこをグリグリと剣でついた。

「ぎゃあああああああああああ」

兵士は、大きな声で叫んだ。静かな湖畔に叫び声は響き渡る。アデルは眉をひそめて神殿を見た。

早く来いよ。仲間が殺されてるんだぞ。仲間思いなら助けにこいよ。


アデルはもう一度笛を吹いた。

ビィィイイイイイイイイイイン

そして、もう一回剣をつく

「もうやめてくれ。ぎゃあああああああ。」

神殿がざわめきだした。アデルは兵士達がもってきた松明のうち1つ残してあとは湖にいれて消す。。そして事切れた4人の死体を山にすると残りの1つの松明をその死体の上に置いた。


アデルは神殿を見上げた。神殿からまた今度は10人程が槍を持って入り口付近に集まっている。燃えている松明と叫んでいる男を目掛けて、降りてくるようだ。

アデルは急いで、騒ぐ男を松明の灯りが届かないところに引きずると、無言で首を切った。


それから、自身も闇に消えてルティの草むらに戻った。血を手で拭った。ルティはアデルの事をじっと見つめた。

「弓…。お見事でした。さすがです。」

小声でアデルはルティをに言った。ルティは目を反らした。ちょっとやり方が乱暴だっただろうか…。


「軽蔑します?」

気まずさを隠そうと敢えて冗談みたいに聞くと、ルティは大真面目な顔でアデルを見た。

「いえ…。思いの外予想外の動きだっただけです。」

「そろそろ降りてくるので、松明の近くに寄ったら、弓で打ってください。これで半分くらいは倒せますね。」

「途中で場所に気づかれたら…。」

「半分くらいで気づくかも…ですね。そうしたら、場所を異動しながら、打ってもらいます。その時はわたしがこの場所に残ってあなたに必ず敵が背を向けるように引き付けます。」

ルティは弓を構える前にアデルの顔についた返り血を自身の手で拭った。アデルはぷいと横を向くと、

「あっ、ほら降りてきましたよ。始めましょう。」と囁いた。


今度はルティが死体の山の上の松明に群がった兵士4人を弓矢で絶命させた。森の草むらからの弓に気付き森に近寄ってきたもう6人もルティが首の腹を狙い一発で倒してしまった。


「あの、ルティさん…。一発で殺すのはそれはそれなんですけど。ムキになんないでください。静かに殺すと、助けがこないし、悲惨さが伝わらないじゃないですか。」

アデルも言ってて、我ながらよくわからないこと言ってると思いながら、とりあえず、死体をまた山のように重ねた。

そして今度は音にならない笛を吹いた。

バサバサ…。アデルの頭上に羽音が聞こえた。アデルが手を伸ばすと一羽の鷹が肩に止まった。鷹は足に手紙をつけていた。

「クルクル…。遅いよ。」

クルクルと呼ばれた鷹はアデルの手に頭をすり付けた

アデルは手紙を足からとり、自らの手紙をくくりなおすと、また飛び立たせた。アデルは手紙の中身を読み、とりあえずかけられる保険は全てかけた…。と思った。


死体の山にもう一度松明を置き、今度は死体の着ていた法衣に火をつけた、麻の法衣はよく燃えた。

大きい火柱になる。この間のキリル平野の戦いとおなじだ。

しかし、いまようやく半分くらいといったところだが、指揮官は全然でてこない…。傷を追っている兵士がほとんどだ。


アデルはもう一度笛を吹いた。そして槍を1つと死体から法衣を剥ぎ取ると、また森の草むらへもどった。

「次で終わりにしたいな…。」

アデルは法衣を着た。ルティにも法衣を渡し、着るよう勧める。素直にルティも法衣を上からかぶった。

「でてこない時は、これでクレマチス隊のふりして中にはいりましょ。」


半分くらいは今部下が消えた。


もうそろそろ、部下思いの指揮官なら、でてくるはずだ。部下が消えている事態を確かめにぐらいにはくるはず。

そして神殿からの離脱…を判断してほしい。

アデルは神殿を見つめた。


「副隊長がでてくるか…。」

「副隊長は…生きているか…どうでしょう。ロゼリアにだいぶ隊自体は追い詰められてましたからね。それに…。」

ルティの言葉を飲み込んだ。アデルはルティを無視して、

「もう少し待って、でてこないならこないで、こちらから行きましょう。欲を言えばもう4~5人は減らしたいとこですが…。あの人達全員に死んでもらう必要はないですしね…。」

「道具屋…。」

アデルはルティを振り返ると、神殿を指差し尋ねた。

「あの、神殿の中は覚えていますか?」

ルティは頷いた。

「えぇ。神殿の奥の書斎の部屋の裏が隠し部屋です。そこに、ヒルカ…枢機卿ががいるはずです。」

神殿は静まりかえっている。


「来ませんね…。敗走先までついてきた貴重な部下の断末魔も気にならないようですね。」

それもそうですよね…。身分の高い人ならそうするはずだ。副隊長あたりに現地を確認させて、このまま少数でどこか別のところに逃げだしてくれるはずだ。

こちらは副隊長を死なない程度…。槍持てない程度に止め急いで報告に行ってもらい、神殿からでてってもらうのだ。


アデルは立ち上がるとルティの手を引いた。ルティも強く握りかえした。

「ここは…。もう少し待ちましょう。多分、退却します。私ならそうします。」

「道具屋…。ベルクートは…。」


アデルが声をかけたその時神殿の扉ががん、がんっと開く音が響いた。アデルは思わずびっくりしてルティを引き寄せ抱きしめる。



扉が開くと馬のいななきが聞こえた。法衣をマントにし、下に甲冑をつけた兵士が騎乗しているのがわかる。そしてもう1人の男も同じ格好をして馬に騎乗するそのまま一気に湖にむけて丘を駆け降りてくる。


ルティはアデルの胸を押し返した。

「ベルクートと副隊長のシエルは…。」

ルティは立ち上がり、背中から弓矢を一本取り出した。

「とても部下思いの、正義感にあふれる気高い軍人です。」

アデルも駆け降りてくる馬の足音を聞いた。火柱が近くなると男のうち1人は髪が長いのか、たなびく髪が火に照らされた。

「確認しないで、逃げるなんて…選択肢にない。 」

それでも…とアデルは口にはださず、ルティの矢を手でしまうように示唆した。

「わたしと違って情に厚い人です。」


ルティはなかなか弓矢をしまわない。これだから困るんだ。武力で必ず屈服させてきた人間は。

弓矢を取り上げると、背中の矢筒にもどした。


「だったら、情に厚いところを利用するだけです。」



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