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戦神の娘  作者: 高宮 まどか
第一章
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1 道具屋と戦神

初めての投稿になるので不慣れな点もあるかと思います。メンタル弱いので、お手柔らかにお願いします。

息抜きで書いてます。ゆるい設定です・・・。

「星読みの…道具屋…、おまえは殺気がない男だな。」


そう銀髪の老人があきれて言った。老人は髪を短く切り込んだ長身で、綺麗に整えられた髭を手でさすっている。

星読みの道具屋と言われた年の頃20代前半の青年は、にっこりと笑い手元の温かい紅茶に口をつけた。老人も秋口に入りかけたので温かい飲み物は嬉しいと思いながら、自らも口をつけた。

2人がいる対面のソファーが置いてある部屋は、陽当たりがよいが少し肌寒かった。部屋には二人きりだが、続き部屋には老人の部下が控えている。

「確かに、今回はちいとばかし弓が足りないと思ったところであるし、我が国の弓は特殊であるが、道具屋、お前はいつも神出鬼没で売り付けてくる・・・。我が軍に物見でも潜ませているのかと部下達も怯えておるぞ。」

老人はしわがれた手で紅茶のカップを透かし彫りの豪奢なテーブルに置く。

「殺気がないのに怯えられのは心外です。私は星を観測でよく旅をしますので、情報が得やすいのですよ。」

道具屋は、いかにも心外と言うように、目を見張った後、けらけらと笑いながら答えた。

「ただ…。」

笑うのを止め、道具屋は自身の撫で付けてある漆黒の髪を片手で撫でると、自らの前に座る老人をその藍色の瞳で見つめた。

「わたしも予想外でございました。まさか、貴国の貴い方が、こんな裏の武器の購入の席に度々いらっしゃることにこちらの肝が冷えてます。」

「まどろっこしいな。おまえとて()()であろうが」

老人は不遜な態度を隠さず、深い青紫の瞳をぎらつかせ唸った。

2人の間に、つかの間緊張が走る。

控えの部屋にいる老人の部下たちが息を飲むのが聞こえるようだ。

青年は目を伏せつつ、カップをゆっくりと置いた。

「…まさか。ロゼリア王国の国王にして、戦神の異名をとる陛下と、私のような無価値のもの…、こんな商人が同類ではございますまい。瞳の色を見ればお分かりでしょう。」

道具屋は伏せていた美しい漆黒に青をひとたらししたような藍色の瞳をゆっくりと老人、ロゼリア国王である戦神に向けた。そして戦神も迎えうつように、一瞬、視線を交えた。

ふんっと戦神は鼻をならした。青年は視線を外しまた微笑んだ。

「今回の弓は貴国の得意な騎乗から打つ方法にあうように仕立ててあります。今日は久しぶりに戦神様がわざわざ来ていただいたので、矢をすこしおまけいたします。」

「まあ、よい。して届け先はわかっているのか。」

前のめりに身をのりだし青年に問うた。

「戦場に直接。キリル平野にお持ちするよう手配いたします。毎回のことですが、私どもは外国人なので貴国の方にわかるような腕章などをいただきたいのですが。」

戦神は嬉しそうにニヤニヤ笑う。

「ほう…。これはこれは我が部下が怖がるはずじゃ。そう。キリル平野じゃ。我が軍が陣をはるのは。…。あい、わかった。手配いたそう。」と道具屋に言い渡した。

「あと…。」

道具屋が戦神の少し気まずそうに声をかけた。

「まだなんかあるのか?めずらしいな。」

「キリル平野の北側の山々はうちの…クラレス王国との国境側に私は山小屋を所有しているんです。武器のお届けの帰りに星の観測をしようと思うのですが、そのまま昼間はその戦をわたしの部下と見てもよろしいでしょうか。戦神の戦を見てみたいのです。」

戦神は手をしっしと振り、こたえた。

「好きにしろ。ただし、望むようなものは見えないかもしれんが。少なくとも星は見えるだろ。」

戦神は商談が終わったとみて立ち上がると道具屋もすぐさま立ち上がり丁寧にお辞儀をし、礼をのべた。

「ありがとうございます。」

「山側からみるのであれば、安全だろう。保証はせんけど。ただ…。」

戦神の退室を感じとり、部屋に金色の髪の長身の女性が扉を引いた。この金色の女性は甲冑をつけている。ただ、甲冑は男性のそれとは違い、少し腰元に括れがあるデザインだ。女の甲冑には戦神の紋章である百合の紋章が胸元に彫られていた。

本人もしなやかな細身でがっちりした印象もない。女兵士は戦神の側近なのだろう。道具屋に対しては、きっちり身分の別を分からせるよういつも冷たい一瞥をくれる。

道具屋も気にせずにっこりと笑いかえす。毎度のことだが、この女兵士は氷のようだな。身分の象徴である自らの藍色の瞳をふせた。

戦神は女兵士の道具屋への視線に一時眉を顰めたがなにも言わず、最後に

「戦を見るなど、高くつかねばよいな。」と、にいっと笑って去っていった。

「またご贔屓に。ご武運お祈りいたします。」

青年がまたお辞儀をすると戦神はひらひらと手をふり去っていった。

女兵士と部下達がついていく、ひらひらふる手が見えなくなるのを確認してから、青年は、またソファーに身を埋めた。


青年、星読みの道具屋はこの時は今回の商談の成立にほっとしていた。戦神との商談のときは不思議な緊張感がつきまとう。商人の立場としては重要な顧客であるが、商談の相手として無理難題を言うわけではないので、難しい相手とは言えないのだが…と苦笑した。

まったく戦はお金になるよ…。

手元のお茶の入ったカップをあえて鷲掴みにして音をたてて無作法に紅茶を飲んだ。


半年後、星読みの道具屋が戦神のいうとおり、納品で見に行った戦が結果として高くついてしまうことになることをまだ知らなかった。










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