時間~時空~
朝方、6時25分。
いつもより少しだけ遅いが、まだ眠い俺は欠伸をしつつ掛け布団を払いのけ1階のリビングに向かう。
「文也! あんたまた寝坊? クラブに間に合わないわよ?! ほら、早く朝御飯食べて! 」
と、台所にいるお袋が言う。
仕方なく、俺は朝御飯である目玉焼きと食パンをかきこむように飲み込む。
こんな光景、どこにでもある光景だろう。
俺はお袋が作った弁当を鞄に入れて、
「行ってきまーす」
と言いながら、まだ入りきれていない片方の靴をトントンとさせて入れて家をあとにする。
俺のところは田舎の方だから駅には人がまばらだ。
俺にしては都合がいい。
電車がホームに来ると、俺は人気のないところから乗り込む。
そして人気のない右側扉の前に行き、軽く体重をのせる。
こっちの扉の方が全く開かないからいいんだ。
電車が何回止まったことだろう。
いつの間にか向かいの方には、女子高生とサラリーマンが立っている。
女子高生が頬を赤くし震えている。
様子が変だ。
よくよく見ていると、サラリーマンが女子高生のスカートの中に手を入れてるではないか?!
心のなかでため息をしてから、俺はケータイを取り出し証拠写真として写メを撮る。
カシャッという音のともに、二人はこちらを見た。
仕方なく俺は、
「痴漢は犯罪てすよ? 警察いきますか? 」
と携帯を振る。
「ガキの癖に生意気なことするんじゃねーよ!! 」
と、サラリーマンが俺にパンチを繰り出してきた。
避けようとしたが、間に合わずパンチを顔面にくらうハメになった。
"あぁ、またやり直しか……"
俺はそう思いながら、目の前の景色がぼやけ暗い暗い渦に飲み込まれる。
目まぐるしい暗闇から抜け出すと、そこはまだ女子高生もサラリーマンも来ていない電車の中だった。
俺は何度もこれを経験してる。
"やり直し"というべきか"リセット"というべきか。
『俺の顔に直接人間が触れる』とこういうことになる。
面倒だ。
嫌気がさしていると、電車は止まった。
そして反対の扉からさっきの女子高生が入ってくる。
さっきの痴漢のサラリーマンは少し離れている扉から女子高生を見つけ狙いを定めているみたいに近寄ってくる。
仕方ないから、俺はうずくまり泣き叫ぶふりをした。
「えーん、お腹い痛いよぅ。えーん」
なんと言う大根役者なのだろう、と俺は思いながら助けを待った。
すると、例の女子高生やら周りの大人たちが近寄ってきて、
「大丈夫?」
「坊や、お腹いたいの? 」
と言うもんだから、痴漢のサラリーマンは近寄れなかった。
諦めて違う列車に移動するのを横目で見ていた。
例の女子高生に、
「僕歩ける?何年生?」
と聞かれたので、
「ひっく、ひっく……ご、5年生」
と俺は大根演技をしながら言った。
そう、俺はまだ小学5年生の10才。
何回も"やり直し"をしているせいか、精神的には小学5年とは思えない成長ぶり。
こうなったきっかけはわからない。
けれど、"やり直し"が始まったのは小学1年の夏休みーーーー
父と母と俺の三人で車に乗り、山奥の綺麗な川があるという有名なスポットで水遊びした帰り。
当時の俺は疲れ来てって後部座席で寝ていた。
すると、車は急に物凄い衝撃を受けた。
それと同時に俺は顔面を強打。
額から血が出ていた。
車はぺしゃんこで横転。
ガソリンも漏れて地元の方でも助けるのは難しい状態であったらしい。
偶然にも、後部座席の左側の窓ガラスが割れていて通りすがりや地元の人に救助された。
大丈夫か?
痛くないか?
という、様々な声が聞こえた。
それよりも、目の前の父と母が助けられずにいたことが嫌で苦しくて。
何度も何度も周囲に『お父さんとお母さん助けて!! 』と泣き叫んでいた。
それからまもなく、引火し父と母は炎に飲み込まれた。
そのとき、俺は周囲の大人を振り切ろうとしたが、周りの大人は俺を抱え込み見ないようにと俺の目を手で隠された。
そのときだった。
ハッと冷や汗をかけながら起きると、後部座席で寝ていた俺は目が覚めたのだ。
よく見ると、父は寝ぼけて車が安定していない。
俺は反射的に、
「おしっこ!! 漏れるよ! 」
と叫んだ。
父はハッとして完全に起きると、車を止めた。
助手席にいた母もそれで起きてくれた。
これにより事故は失くなったのだ。
ーーーー
あれ以来、顔面に直に触れられると"やり直し"が起きる。
でも、いつも"やり直し"の時に頭に響く言葉がある。
『本当にこれでいいの? 』
と。
良いに決まってる!
それで苦しむ人が少なくなるなら俺はそれでいい!
そう思っているのに、心臓がズキズキするのは何でなんだろう?
ーーーー
ある日、学校の帰り道だった。
子猫が道路で亡くなっていた。
母猫であろう白い猫は、必死に車に轢かれないところまでつれていき必死にニャーと声をかけていた。
傷口をなめ、必死に起きてくるのを待っている姿はとてもいたたまれなかった。
そのときだった。
『本当にこれでいいの?』
と頭のなかに響きわたり、心臓がズキズキする。
俺はその言葉とあの親子の猫を見て思った。
あぁ、俺は自分だけいい思いしてるだけなんだ。
自分だけいい思いして、他のことには目も向けてなかっただけなんだ。
だって、嫌いなやつが虐められよう何されようと助けなかった。
俺は傍観者でいた。
なのに、自分だけいい思いしていいのかな?
いや、違うよね。
こんなのはズルい。
俺は応えた。
『違うよ。俺だけいい思いしていいはずがない。』
って。
そしたら、記憶がすべて抜け落ちた。
ーーーー
僕は、額から血が出ていた小学1年の夏休みにお父さんとお母さんを事故で亡くした。気がつけば、僕は包帯で頭を巻かれた状態だった。
お父さんとお母さんの葬儀ってものに出て、ボロボロと疲れきるまで泣いた。
何か虚しさと孤独のなかで、叔父夫婦からわかるように説明された。
これからは叔父夫婦が引き取ってくれるってこと。
そのときの叔父夫婦の温かさを僕は知っている。
短い間だったけれど、お父さんとお母さんがくれた愛と同じだったから。
僕はすっごくすっごく悲しいけど、前を向いて歩くよ。
お父さんとお母さんの分まで。




