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群生

作者: 泉 羅卯

 花が群生していた。どれもが綺麗に咲いていた。色も形も揃っていて、小さな花々が集まり、大きな一つの花となっていた。

 そんな花々の中に、いまだに蕾のままの者がいた。隣で咲いていた者が、彼に訊いた。

「君だけ、どうして咲かないんだい?」

 すると、蕾のままの者は、

「どうして、一緒に咲かないといけないの?」

 と問い返した。

「だって僕たちは、ワンチームじゃないか」

「それって、何?」

「みんなで同じ目的を共有する仲間ってことだよ」

「どうして同じ目的を持たないといけないの?」

「どうしてって……」

 隣の花は黙ってしまった。あきれたような顔をして見つめていたが、すぐにその顔を、軽蔑するような表情に変えた。そしてそれきり、もう話しかけなくなった。隣の者だけではなかった。群生している花全員が、蕾のままでいる者を無視した。

 春が終わり、夏も過ぎ、やがて秋になった。誰もが押し黙っている中で、春に蕾のままでいた者が、花を開いた。彼は秋が大好きだった。皆は春に咲いているが、その理由がわからなかった。あるとき隣の者に訊いたら、

「だって、周りと合わせないといけないだろ」

 そんなことを言われた。その答えに納得できなかったので、今年は自分だけ、大好きな秋に咲いてやろうと、そう決めていた。

 咲いてみると、注目を浴びた。仲間たちにではなく、近くを通りかかる他の生き物たちに、褒められた。

「一つだけ、咲いている花があるよ。周りに花がないからかな、とても綺麗に見えるね」

 ハムスターが、彼をうっとりと見つめた。

 そのハムスターの言葉に答えるように、インコも言った。

「こんな時期にひとりぼっちで咲くなんて、勇気があるね」

 そうした言葉に、秋に咲いた花は喜んだ。彼は、自分がしたいようにしたことは、間違っていなかったと思った。そのことも嬉しかった。

 彼が得意げに咲いていると、一人の人間が通りかかった。まだ小さな女の子だった。女の子は彼を見つけると、

「わあ、綺麗」

 そう言って、駆け寄ってきた。

 女の子は「綺麗、綺麗」と喜んだ。花も喜んだ。可愛い女の子を喜ばせていることに、誇らしさを感じた。

 ところが、そんな花に、女の子が手を伸ばした。そうして、にこにこしながら、その花を摘み取ってしまった。

「あ、ああっ」

 摘み取られた花は声を上げた。が、それきり何も言えなくなった。

 周りの者たちも、何も言わなかった。ただ冷やかに、摘み取られた花を見つめるだけで、助けようとする者はおろか、慰めの言葉をかける者さえいなかった。



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