その2ー6
俺の言った言葉が、アカネさんの想像を超えていたのか、斜め上をいったのか、彼女が大きく顔色を変えた。
「本気か?」
「俺の覚悟は本物だ。俺は、あなたの様々な顔を見ていたい。
永遠に。
そのためにここに来た。」
俺の目には、意志が宿っていたはずだ。
真剣な目というものは、覚悟の瞳は、相手に必ず伝わる。
アカネさんが、はぁ・・・と、ため息をついて言った。
「仕方ないな。仰向けになり。
顔、見たいんやろ?」
歓喜で身が震えた。
ついに、長年の夢が叶う。そんな気持ちだった。出会ったのはほんのひと月前だというのに。それほどの喜びだった。
「し・・・・・みがない・・にして・・・れ。」
俺が仰向けになると、アカネさんはなにか呟いたあと、俺の右手を手にとった。
「じゃあ、いただきます。」
引きちぎるでも、削ぎとるでもなく、俺の手を口まで運び、親指の肉を一気に抜き取る。
俺の手は、親指だけ骨のみの状態になっていた。不思議と、痛みはなかった。
普通、そんな光景を目の当たりにすれば、気絶、あるいは錯乱するだろう。だが、俺はそんなことは気に止まらなかった。それよりも、アカネさんの、甘美に満ち溢れた笑顔の方が、俺の興味を引いたからだ。
その美しく、醜く、狂気と愉悦に満ちた表情に、俺は幸せを感じていた。
今、俺の体を貪り、咀嚼しながら、そのにんまりとした笑顔を顔に浮かべる彼女が、どうしようもなく愛おしかった。
よかった。彼女の糧となれて、本当に良かった。
気がつくと、俺の右腕は肩の部分を残して、骨だけになっていた。
体はもう動かない。
まだ右腕しか食べられてはいないはずだったが、体を動かすことはできなかった。
その後も、彼女は味わうように、早く食べ終わるように、急ぎながらもゆっくりと食べすすめていった。
左腕、右足、左足、腰、胸、肩。
ついに頭だけになった俺に、一言だけアカネさんが言った。
「ごめんな・・・ありがとう。」
そして彼女は、俺の頭に齧り付いた。
そこで、俺の意識は途切れた。