その2ー2
「美味しいの?それ。」
「まあまあかな。」
「あおちゃんの料理と、どっちが美味しい?」
「比べるのが失礼やな。」
「まぁ、そうだよね。」
「しゅねは食べなくていいからな。」
「食べたいとは思わないよ。」
「まぁそうか。」
二人の少女が話をしていた。
一人は、黒髪に赤いワンピースを着ていた。身長から察するに、中学生か小学生くらいだろうか。
それにしては、ずいぶん大人びた雰囲気を感じるが。
もう一人はカッターシャツにスカート。学生なんだろうか。
身長的には高校生か大学生くらいだろうか。
隣の少女のせいもあって、少し高身長に見える。
「まぁ、アイツとの契約やから、不味くても、吐きそうでも、食べへんといけないんやけどな。」
「お姉ちゃんも大変だねー。」
「あんまり心配されてるようには聞こえへんけど?」
「だって、お姉ちゃん、すごい笑顔だよ?」
「これは、癖みたいなもんでな。あんまり見ないでほしい。」
「ふーん。」
背の低い少女は、身をかがめ、足元にある死体から、手をもぎ取った。
そして、その肉を歯で食いちぎり、咀嚼して飲み込んだ。
その死体は、片腕が骨のみになっていた。
人の死肉を食らったのだ。
しかし、俺はその異常な光景を目の当たりにしても、動じてはいなかった。
というより、その光景にはあまり目がいっていなかった。
肉を咀嚼していた際、彼女が浮かべた笑みには、得も言われぬ畏怖と、甘美が感じ取れた。
その笑顔に俺は、見惚れていたのだ。
あの笑顔をもう一度………いや、いつまでも見ていたい。
そう感じていた。
「ねえ、あの人、ずっとこっち見てるよ。」
「ああ、逃げないのは珍しいな。」
二人の少女が、ゆっくりと歩み寄ってくる。
俺はどうすればいいんだろうか。
逃げだすべきなのだろうか。
だが、その二人の表情からは、恐怖は感じなかった。
「兄ちゃんも食べるか?」
背の低い少女が、不敵な笑みを浮かべながら、先程かじっていた手から肉をちぎり取り、俺に差し出してきた。
俺はどうすればいいんだ。
人の肉、しかも死肉を食らうだなんて、まるで化物のようだ。
俺にできるはずがない。
「いや、遠慮しておくよ。」
「そうか。」
彼女が、少し残念そうな顔をしたような気がした。
殆ど表情に変化がなかったので、気のせいかもしれないが。
彼女は先程ちぎった肉片を口に放り込んで、食べた。
咀嚼している間は、先程の美しい笑みを拝むことができた。
だが、飲み込むとすぐに、無表情に変わってしまった。
「君たちは、こんなところでなにをしているんだ?」
気づけば俺の方から話しかけていた。
こんな異常な状況なのに、いやに冷静で、落ち着いていた。
「食事やな。」
「ボクは付き添いです。」
それだけいうと、黙々と食べすすめていった。
手を完食したあとは、腕をもぎ、手首の方から順番に食べていった。
脂肪も筋肉も綺麗に食べるのに、骨だけは食べないみたいだった。
綺麗に人の形にならべられている。
次に足、腰、腹、胸という順番に食べていき、最後は、どうやったのか全くわからないが、頭蓋骨を素手で切り開いて、鍋の蓋のように、開け、脳みそを啜った。