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無花果の裏側

ヒロインごとに話があります。今回は無花果です。ヤンキーだけど、とても良い子です。

時刻半は八時半。もうすっかり夜である。

「お、むっこの彼氏。まだいたん」

「おまっ…彼氏じゃねぇ…」

会議室を出ると、自販機の横でしゃがんでる無花果を見かけた、ヤンキーじゃん。

「おまえ、曲担当なんだってな」

「あー、聞いちゃったか…」

無花果は少し照れたようにボサボサの髪をかく。

「んで、新曲とかつくらねぇの?」

「……」

俺の問いには答えない。

無花果は急いだように急にジュースを飲み始める。

無花果は何も言わずにジュースを飲み干し、缶をごみ箱に投げ捨てた。

「なんか、やる気がでないんだよ」

ぽつりと放たれた言葉はどこか口痛く、寂しさがあった

無花果はそれだけ言い残すと、すたすたと暗闇に消えていった。

「やる気…ねぇ…」

こいつもきっと、多分白婿と似ている、と思った。






「今日は自分の長所と短所を見つける授業だ~」

四時限目。総合。栃丸は不得意そうにぼやいた。

長所と短所か…。

「さ!班をまず組め~」

ぐ、班…。コミュ障にとっては苦痛の時間となりかねないヤツだ…。

教室の皆はいやいや机を動かし始める。

ここで我らの班のメンバーを紹介しよう。

前方、隠れアイドル白婿。またほおづえをしている。白婿の隣は癒しの月城。ショートカットだったらいいんだけどなぁ…。俺の隣は本職力士の右京。おい寝んな。

「じゃぁまずはプリントに書き込んでけ~」

「ん~どうすっかな」

「こんなん明日やればいいんだよ」

力士が起きた。

「お前なぁ…明日やろうはバカ野郎だぞ」

「ほら、右京君さっさと書け~」

「う、栃丸先生…。か、かいてましたよ」

「どこかいてたんだ、変なとこか」

「そのかくじゃないっすよ!

わっはっはっはと笑う栃丸。

「ホンット考えらんないあの変態教師…」

「まぁまぁ…ほら書こう!こだまちゃん」

白婿の転校以来、白婿と月城はすっかり仲が良くなった。

「どする、黒加根」

「おまえはアリエール飲めるところが長所だろ」

「俺は洗濯機じゃねぇよ」

「じゃあお前の長所ってなんだよ」

「えーと、重い…臭い…えんがちょ…とか?」

「お前それ短所だろ…あと、えんがちょってなんだよ」

吉野家の安い早いうまいパクったろ。

「おいおい、オイラからえんがちょとったら何が残るんだよ」

「へりくつとナルシスト」

「やっぱりかぁ」

自覚あんのかよ。

「バカなこといってないで早くかきなさい」

「そういうお前はなんて書いたんだよ」

「ええ?長所…かわいいとこ」

「…おまえバカだろ」

「ばっ!バカっていうな!」

机をたたく白婿。思ったより大きい音が出てびっくり白婿。

ついでにびっくり栃丸。

「まぁ…なんだ」

すると、みんなの様子を見て、栃丸がおもむろに口を開く。

「長所ってなかなか自分で気づかないよねってことよねん」

栃丸の渾身のギャグは教室の温度を下げた。

エアコンいらずじゃん。スゲー。

なるほど…。長所か…。






翌日。俺らはサングラス、深くかぶった帽子、白いマスク、といういかがわしい恰好で電柱の陰に隠れていた。

そう、ここは無花果かなめが住んでいるアパートの前。

「ねぇこれってストーカーっていうんじゃないの?」

白婿の帽子の後頭部…その…沖ノ鳥島みたいだ。

「え?なんて?」

「だから!これストーカーじゃないのって…」

「しっ!来たぞ」

カツカツと音を立てながらさびた階段を下りてくる。

どうやら無花果は俺らと同じ高校生で絶賛不登校中なんだそうだ。ちなみに俺らは仮病を使って、学校サボりました。

それはそうと無花果も俺と同じアパート暮らしか……。なんだか分かり合えそうな気がする。白婿もアパート暮らしだとかいう異論は認めない。

「こんなことして本当に意味あんの?」

あいかわらずぶっきらぼうに聞いてくる現役アイドル。

「これで無花果かなめの本性を知るんだよ。あいつ最近ヤンキーになったんだろ?だったら絶対何かあるに決まってるだろ……」

「まぁそうだけど……」

俺は無花果が角を曲がったのを確認して次の電柱へ身を隠す。

ひらり。なんか刑事っぽくてかっこよくね?

「ちょっと!あんた楽しんでるでしょ!」

「ばっか、ちげぇーよ」

すっかり見透かされてたわ。

しばらくつけていくと無花果は地下へと続く階段へと降りて行った。

「ねぇ、あれって……」

「ああ。よからぬ店であろう」

大体、地下へと続く店はあぶない。暗いし、怖い。

俺らはなんのためらいもなく、無花果のあとを追いかける。

階段を下まで降りていくと細く暗い道が右に伸びていた。

うわ、これマジで危ないやつじゃん。なに?麻薬の密売?

あまりの怖さに言葉を失ったのか、さすがの白婿も黙ったままである。

こういうときのシチュエーションのお決まりで怖がってる女子が男子にしがみついて、涙を流しながら「○○君助けて」などと上目遣い気味に訴えかけてくるものである。

なのに、こいつと言ったらどうだ。自分の荷物を俺に持たせて足で俺をつつく始末だ。足だぞ足。考えられる?

「ほら早くいってよ」

「へいへい」

しばらく歩くとぽつんと明かりのついた扉が見えてきた。中からは人の会話が聞こえてくるから人が大勢いる店だとすぐに分かった。たまに甲高い音楽も聞こえてくる。

俺らクラブとかいうとこ来ちゃった感じ?中に入るとパリピのにーちゃん、ねーちゃんが「おぅおうぅおうバイブスあがるぅぅひえぇぇ」とかわめいてる様子が想像される。てか、バイブスってなんだよ。俺、お前らのこと二倍ブスとか思っちゃったよ。

俺らも少し怖さがあってなかなか中に入ろうとしない。

「ちょっとあんた早く入りなさいよ」

「なーに言ってんだ、レディーファーストって言葉があるじゃないか」

俺はこの辺もしっかり律儀である。偉いな、俺。

「あんたねぇ……じゃあジェントルマンファーストでいいわよ」

「おいなんだそのヤフー検索ワードランキング上位にありそうな言葉」

「レディーファーストっていう言葉があるように、ジェントルマンファーストもあるはずってことよ。いいから早く行きなさい」

どん、と押されそのまま俺は扉を開けてしまった。

「いらっしゃいませ」「いらっしゃいませー」「いらっしゃいませぇ」

からんからん、と鳴ることもなく一斉に「いらっしゃいませー」の嵐である。おいおい、ブックオフかよここは。

しかし目の前の棚には本というよりグッズやTシャツ、CDなどがきれいに陳列されてあった。そして鼓膜に響くリズミカルなアニソン。おお、興奮してきたな。

「ねぇ、ここってなんの店?」

「どうやら…アニメショップっぽいな」

俺は一種見まわしてから言った。

「アニメショップ?」

「ああ。ここのどこかに無花果はいるはずだ。」

そういってアホみたいな速さで白婿が見つけた。

「あ、いた」

「おいマジかよ、お前アイドルの他に野鳥の会もやってんの?」

「うっさいわね、ほらあそこ」

こいつ、絶対野鳥の会知らんだろ。

白婿が指さす方向を見るとしっかりそこには無花果の姿があった。

手には大量の袋。どうやらアニメのグッズやらなにやらが入っているのであろう。パンパンだ。ほかに大きい袋なかったのかな…。

でも、これで無花果の本性はつかめた。あいつは典型的なアニメオタクだ。きっとアニメに夢中になりすぎて作曲のことなんか忘れてしまったのであろう。

「かなめちゃん何見てるんだろう……」

無花果の見つめる先にはショーケースにいれられたフィギュアが立っていた。

「フィギュア…見てるのかな?」

「でもきっと高額なんだろうな。さっきからずっと見つめてる」

「てか、あんたこれでかなめちゃんのやる気につながる何か発見したの?」

俺は思いっきりグッドサインを白婿に見せた。

「あぁ十分すぎるくらいに情報はゲットした」

白婿はまた俺を冷ややかな目で見る。こいつ信じてないな。

「作戦は明日、実行する」


右京やっと役に立ちます

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