無花果かなめという女
無花果 これでイチジクと読みます
[うぃーす、うちは無花果かなめ。さん付けしなかったら殺す」
初対面なのになんなの、この人!
俺の目の前で堂々と自己紹介をするヤンキーは無花果かなめ。
さっきの場所から一転してここは会議室?みたいなところだ。
「で?あんたは?」
どかっと椅子に座るやいなや髪を指くるくるし始める無花果。
今時無花果なんて名字があんのか…。
「お、俺は黒加根司。し、白婿のなんだ、まぁ友達だ。よろしく」
「なにキョドってんの?まじキモイ」
「うっ…」
久々のキモイは胸にぐさりと来るなぁ…。
背は俺小さめで小学生みたいな高さで小顔で大きい目が特徴。
なんといってもこの喋り方。口悪すぎだよ。
そして重要な髪形。残念ながらショートカットではなかった。くそうぅ。
「んで、今日はむっこ、どしたのさ」
「まぁライブで帰ってきたんだけどさ…、このストーカーが」
「おい、そこストーカーいうな」
「もう……あんたがあんなところであんたが転ぶからかなめちゃんにバレちゃったじゃない…」
ほおづえをしてこちらをにらむ白婿が口を出す。
そう。さっきのコケで正体がばれた俺らは仕方なく関係者としてここにいる。
「で、このくろ…なんとかガネさんはどういう関係?本当にストーカー?」
「えっ?あぁ……えっと……クラスメート!私の友達!」
「え、むっこに友達?超うける。しかも男……?」
うける。今時のJK言葉だなこりゃまた。
おい白婿、顔赤くしてこっちみんな。俺に助け求めんな。お前が友達っていったんだろ。
でも、この感じ勘違いされるパターンだよな……。
「……もしかして彼氏?」
やっぱりキタコレ。
「っばか!そ、そそんなわけないでしょ!」
必死に否定する白婿。
「ええ~?ホントにそうなの~?」
「っちょっと!あなたも何か言いなさいよ!」
「お……俺らはホントにその何でもないんです……はい。あの……なんていうか裸の付き合いっていうか……それで知り合ったみたいな……あれ?」
二人ともキョトンとしてやがる。
なんか変なこと言ったか?
「は……裸のつきあい……?」
あれ?俺そんなこと言ってた?
白婿は頭を抱えてため息をついた。
「あんたねぇ…」
「まっ!!大体関係は分かったから!!むっこも今日は早く帰った方がいいよ!」
無花果はいけないものを聞いてしまったといわんばかりの対応でそそくさと部屋を出ていこうとする。
「ちょっとかなめちゃん!本当に違うからね?」
慌てて白婿を見た無花果は軽く微笑み、つぶやく。
「ごゆっくり~」
ばたん。
静寂。マジ静寂。
「はぁ…最悪」
「…なんかすまん」
おいおいなんだよ。今から俺ボコられんの?
「さっきの人……かなめのことなんだけど……」
「お、おう…」
てっきり怒られると思って言い訳考えてたわ。
「実はあの子がホワイトリターンの曲担当なのよね……」
「ええっ!?あのヤンキーが?」
「そうなのよ。あんなんだけど、歌のセンスはすごくて……」
「じゃあ、今日の歌も……?」
白婿はうなずく。
じゃあ、あの無花果が白婿の言ってた一緒に働いてるって人か…。
「じゃあ、あいつに歌をもっとたくさんつくってもらえば売れるんじゃねぇの?」
「それができたら苦労しないわよ……」
白婿は机に顔が見えないように伏せた。
「あの子、全然曲作ってくれないのよ」
「は?」
「あの曲が最初で最後の曲になりかけている……ってこと」
そういうと白婿は急に顔色が曇る。
「他の、曲つくる人を雇うお金もないし…売れない原因はそこにもあると思うわ」
「っじゃあアイツに曲をつくってもらえれば良いんだな?」
「そうだけど、あんたまたくだらないことでも考えてないでしょうね……」
「大丈夫だ。俺に策がある」
「そ。まぁ期待はしないけど」
白婿は静かに笑った。
ちなみに月城が好きです。付き合ってください。