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白婿の本音

白婿こだま、略してしろむこだま

ライブが終わってしまったことで喪失感が半端じゃなった俺は、しばらく席に座って、ただ一点を見つめてボーっとしていた。

単刀直入に言うとライブはマジでおもしろかった。

最後の方なんか汗かいて熱狂してたもん俺。

あやうくアイドルヲタクになるまであるよこれ。

まわりを見るともう誰もいないではないか…。

どうやら観客はそそくさといなくなり、グッズのブースへと向かっていったようだ。

俺もブースへ向かおうと、リュックを背負ってふと白婿のことを思い出す。

「……確かサブホーールだったよな……」

この際だから俺がここにいることぐらいバレてもいいか…。

「…?どっちが出口だ…?」

人がいないからどこが出口すらわからない。

大体、非常口が出口なので緑のランプを見つけて、歩き出す。

ピクトさんに会釈して、出口であろうドアを開けた。

「うわ、すごい人……」

ドアをゆっくり開けると、そこは人人人。そして人。

人がごみのようだと言わんばかりの、人の量だった。こりゃ、ムスカ大佐に同情しちゃうくらいだわ。

「桃色フェイクのグッズ販売最後尾はこちらでございまーす!」

「あ、ここがもうグッズ販売のブースなのか…」

どうやらこのすごい人だかりは桃色フェイクのファン達らしい。

桃色フェイク。今回のライブで一番盛り上がっていたグループ。

三人のバンドユニットでどのアイドルよりもずばぬけて歌唱力が高く、歌もいい。と、僕は思ったよ。

ましてや全員美人でプロも顔負けなんだそうだ。

ちょっと桃色フェイクのグッズに興味はあったが、この長蛇だと、到底買うことは不可能だと悟って、白婿を探すことにした。

俺は人込みをかき分け、かき分け、やっとのことで、人のいないスペースに出た。

思わず壁によたれて座り込む。

「……ったく、すげー人気だな」

桃色フェイクのファンたちは皆、桃色の鉢巻きをつけている。

「運動会かよ…」

桃色のはちまき集団は群れを成し、ピストルの音が鳴ったら皆走り出しそうな勢いだ…。

おいおい靴もピンクだし。こいつらの家ピンクかなんかでできてんの?

「いけね、白婿探すんだっけか」

よっこらしょと立ち上がるやいなや、桃色フェイクの列から声が聞こえてきた。

「おい、みろよあれ大赤字じゃね?」

「うわ、かわいそー。おまえ買ってやれよ」

「なんでだよ。いらねーよあんなの」

ハハハと笑いがおこる。

まさかと、そいつらが指さす方向に目をやる。

山積みされたCD。大量に売れ残ったグッズ。机に伏せたまま動かない女の子。

後ろには手書きで書かれたホワイトリターンの看板。

白婿だった。

「あいつ…」

俺は無意識に白婿の方へ向かっていった。

「おい」

声をかけてもピクリとも動かない。

「おい白婿」

こいつ……こんなになるまでずっと……。

「このタオル買いたいんですけど……」

ちょっとお客さんっぽい立場で声をかけてみた。

すると、見るからに疲れ切っていルアイドル白婿は動き出した。

「…あ、あっお客さん…ですか?すいませんわたし寝ちゃってて……」

こちらに気づいた白婿はアイドルとは言えない風貌をしていた。

さっきまでキャピキャピアイドルだった白婿とはまったくの正反対で、目にはくま、髪はボサボサで、衣装なんか盛大に着崩していた。

「白婿」

「……え?」

「お前…マネージャーとかいないのか?」

「…っちょちょなんであんたがここにいんのよ!」

机をばんとたたいて、白婿は一気に赤面する。

「お前アイドルだったとはな」

「くっ……」

白婿は睨んでた目を横にそらす。まあ恥ずかしがるのも無理はない。

「あんた…なにがどうなってここにいるのよ…」

「それがよ……昨日たまたま聞いちまったんだよ……」

「…聞いたって何を?」

口をとがらせて、横目で睨みつけてくる。うぅ…身震いするぜ…。

「おまえが昨日…電話しているのを…チョットな」

白婿の表情は急変してまたもや机を壊れるくらいたたく。

どよどよと後ろから何となく、どよめきが感じられる。

おいおいマグニチュード何だよ…。

「…っこのド変態!」

「いやいやたまたま聞こえたんだって」

「それで、なに?茶化しに来たっていうの?」

「そういうわけじゃねぇよ。お前の歌、すげえ良かったぞ」

白婿は不機嫌そうに頭をかいて、しばらくうつむく。

「……おい?」

「っと、ともかく!もう帰っていただきますか!お客様!」

「わ、分かったよ…。でもこれで全裸事件はチャラな?」

白婿は俺をぎにに……と歯を食いしばって今日一番の悔しさマックスである。そんなに根に持ってんのかよ……。

「それはそうと……だいぶ売れ残ってんな」

「ええ。いつもこうよ。だからこのタオルとか全部使いまわし。ファンも増えるハズもなければ、グッズが売れることもないのよ……」

「は?何言ってんの?お前めっちゃファンいたじゃん。ライブの時こーだーまって言ってたじゃねぇか」

白婿は深くため息をついた。

「あんた…何もわかってないのね……」

白婿は座りなおしてゴスっとほおづえをする。

「あれはファンじゃないわ。ライブを盛り上げているように見せるいわばサクラよ。金で雇われているただのバイト」

「そ、そんなんわかんねぇだろ?会場のノリでこだまコールしてる人だって…」

「所詮ノリでしょ?」

俺は言葉を失った。

こいつは、過去に何かあったのだろうか。

それでないと、こんな冷めたアイドルは出来上がらない。

白婿はまたため息をついて、片づけを始めた。

「…だから私にはファンはいない」

「……じゃあ俺がファンになってやるよ」

白婿の手が止まった。背中を向けていて、こちらからは表情がうかがえない。

「…どした」

「あんた……黒…加根だっけ?冗談もほどほどにしてちょうだい」

「なっ…俺は本気だぞ」

なぜかわからないけど、白婿を助けたくなった。

「あんたねぇ…。もういいから、今日はとっとと帰ってちょうだい」

白婿は再び作業を始めた。

もう帰れと言われた以上、俺は帰るしかない。

俺は、回れ右して玄関に向かう。

どさどさっ。

後ろから音がしたので振り返るとアイツが倒れていた。

「おい、どーした白婿…白婿?」

白婿はうつぶせに倒れて動かない。

俺は白婿の体を起こす。

「おい大丈夫かって…熱…お前熱あんじゃねか…」

疲労でくたくたになってるから、まぁ熱がない方がおかしい。

「うっさいわね!!早く帰ってよ!!」

「帰れって…お前、病弱の女の子を放っておけんでしょうが」

「いいから…大丈夫だから…」

そういいつつ白婿は、一人で立つことすらできない。

「やっぱりお前無理してんだろ……」

「むむむ無理なんかしてないし!」

「おまえこれからどっか行くんだろ?送ってやるよ」

「はぁ?ばっかじゃない?あんたなんかに助けられても……」

体に力が入らないことを悟った白婿は、今度は諦めのため息をこぼして、口を開いた。

「事務所までよ」

「おうよ」

俺は、売れ残ったグッズをダンボールにつめて、ガムテープでふさいだ。いつぶりだよこんなの。

「このダンボールどこに運べばいいんだ?」

「外よ外」

「お前はどうするんだよ」

「あとからついていくわ」

「ついていくわって…お前歩けねぇだろ」

「うっさいわね大丈夫だっていってるでしょ?」

「ったく…ほらよ」

「ほらよってあんた…」

「おんぶだよ、おんぶ」

俺はしゃがんでおんぶ体制に入る。

「おい、どうした早く乗れ…って、うぅ!」

白婿が倒れるように背中に乗ってくるもんだから、白婿の腕がのどぼとけにひっかかって引っ込んじまったじゃねぇか。どうすんだよ、のどぼとけ戻んなくなったら。

「お前なぁ…少しは敬意をもってだな…」

「…ありがと」

お礼はいえるのか…。

「はいよ」

うっ…結構キツイなおんぶしながら段ボール持つの…。

「さー、さっさと運んだ運んだ!」

「おまえなぁ…」

「……あ、そこのバスターミナルにタクシー停まってるからそこにいってちょうだい」

「……了解」

さすがアイドルだな……タクシー用意しておくなんて……。

バスターミナルは外と直接つながっていて、寒い。

「うっ…さぶ…」

「ほら、あっち」

こいつ…もう熱ねぇだろ…。

「よいしょ」

まずはダンボールを降ろす。それと同時に白婿も不器用に降りた。

「…お前おんぶの折り方も知らんのか。右足を大きく上げて感謝を込めながらだな…」

「ありがとう。ここまででいいわ」

「だめだ。お前事務所ついて、どうやってこのダンボール運ぶんだよ?」

「あー……もう何言っても帰らないわねこの感じ。いいわ、ついてきなさい」

なんかあっさり許可されたがなんだか腑に落ちない。

「はい、その段ボール持って。あとそこのバックと袋も」

このとおりこき使われまくりである。

まぁいいさ。アイドルの事務所に潜入するなんて面白そうだもんな。

白婿は俺に見向きもせずタクシーへと乗り込んだ。

ダンボールをタクシーのコンテナにのせて俺もタクシーへ乗り込む。

「うぅ…さぶさぶ」

タクシーの中はオッサンの熱気か知らんが温かい。

俺はシートベルトをする。これ大事。

「お客さん、どちらまで?」

「桑原ヒルズ前でお願い」

おお。タクシーの運転手の受け答えも慣れてる。アイドルらしい。うんうん。

白婿は不貞腐れた表情でほおづえをしながら外を見つめていた。

「なにこっち見てんのよ」

相変わらず不愛想だ。

「なぁちょっと聞いていいか?」

「なによ」

この際だから、いろいろ聞いてみることにした。

「お前いつからアイドルやってんだ?」

「中学に入ってからよ。もともとは父の影響ね。父が大のアイドルオタクだったから私もやらされただけよ」

「……アイドルオタク?」

「そう。それでもってアイドル会社に入社して私をコネでアイドルにしたの。私は当然やりたくなかったけど、父がきかなくてね…。最初のライブにも一応客は来てたんだけど……」

窓に反射して見える白婿の表情はなんだかちょっぴり悲しげだたった。

「父の仕事が忙しくなってから客は減ったの。あたし、何でアイドルなんかしてんのかなーって時々思うの」」

「そ、そうか……」

久しぶりにこんなにしんみりした。

「っでも!今は事務所に所属してうまくやっていけてるの!」

興奮気味にはなす白婿も初めて見る表情だ。

「事務所ってどこのだよ」

「なんか良くわかんないけど…?アイドル養成所的な?」

「的な?ってお前マネージャーもいねぇだろ」

「雇う金なんかあるわけないでしょ?」

「お、おぅそうだったなスマンスマン」

白婿は再びほおづえをする。

「…おまえずっと一人でアイドルやってきたのか?」

白婿は首を横にふる。

「いや違うわ。私のほかに楽曲を作成している子がいるの。」

「そいつは雇ってんのか?」

「んー…雇っているっていうか、好きでやってるボランティア的な?」

こいつ「的な」使いすぎだろ的な?

「お客さん着きました」

気づけばそこはどでかいビルの前。

白婿はさっさとタクシーから降りる。

トランクから荷物を運び、俺も白婿のあとを追う。

「ちょまてよ」

アイツ金はらってなくね?

なるほど!これがアイドルというやつか!

勝手に解釈して俺はビルを見上げる。

「うわぁ…でっけぇなぁ…」

「早く来なさい!」

アイツもう熱なさそうだし、帰っていいかな俺。

と思いつつぬかぬかとビルに潜入してしまう自分が情けない。

ビルの玄関なのに昼間みたいな明るさだ。電気代どうなんだよこれ。

「ちょっと!あんた早くしなさい!」

どこにいるのだ、と白婿を探すとエレベーターで不機嫌そうに待っている。

細い目をしつつ片足で貧乏ゆすりまでしている。

かなりご立腹のようだが、一人でいけばいいのを俺を待ってから出発するとは、意外とアイツはいいやつなのかもしれない。

俺はにらみ返す間もなく小声で「すみません」とつぶやきながらエレベーターに乗り込む。

「事務所ではあまり目立たないように行動してちょうだい。私が恥かくから」

「事務所にはだれもいないんじゃねぇの?」

「バカねぇ…少しはいるわよ」

その少しが気になるが…。

『五階です』

どうでもいいけど五階ですって誤解ですって聞こえるよね。

「こっち!」

エレベーターからでた白婿はこそこそと暗闇に消えていなくなる。

「おい、ちょっと待てって…」

大きいダンボールのせいで前が見づらい。

若干だが、白婿が壁に隠れて、俺に手招きをしているのが見える。

「ほら、こっち!!」

白婿はバレないように必死なのかしらんが、さっさと行ってしまう。

「ちょ……そんなに早くいくと荷物が……あっ」

足が突っかかって視界が揺らぎバランスを失う。

ぐわっしゃぁぁあ。

こけた。盛大にこけた。ダンボールの名kに入ってたものが雪崩のようにでていく。

「ちょっと!あんた何してんのよ!」

小声で言ってるつもりの白婿だったが全然小声じゃない。

「いてて…」

見上げるとしかめっ面の白婿の後ろに人影が見える。

なんというか、壁からこちらの様子をうかがう感じでこっそり見ている。

社員か?

すると、ソイツが白婿の姿を見て安心したようにこちらに向かってくる。

「むっこ?どした?」

「あ、かなめ。ちょっと今あのバカが」

「バカ?」

ヤンキーじみた長い髪。冷め切ってるんだが腐りきってんだか分からない薄く横に伸びた瞳。

服は今時ギャルみたいな胸元が開いたフードのようで手にはマニキュアやらプリキュアのようなものまでついていた。

これが無花果かなめとのファーストコンタクトだった。

ホワイトこだま(リターン)

まあまあ良くね?

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