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朝の公開処刑

こんなこと起きたらいいなとか思ってねえよ。

外はマジ真夏。

考えてみると、俺はすごい経験をした。

警察に連絡でもされていたらどうしようと、今更怖くなり始めた。

「おいどうした。青ざめた顔して」

校門の前に立つアイツが珍しく話しかけてきた。

「いや別に…」

「ほぅか」

学年担任、栃丸庄司だ。

説明しよう!栃丸とは、誰もが恐れる氷の社会教師なのだッ!

説明みじかっ。

付け加えると、話していることの七割はちょっと何言っているかわからない。分かった時は特に嬉しくもない。生徒たちからは【トッチー】という名称で親しまれているようで親しまれていない。誰かがその名称で呼んでいるのを一度も見たことがない。

「おい、今日は転校生が来るんだから早くしろ」

「ほぅか」

俺は栃丸のマネをしてその場を去った。

珍しい。今日は結構聴きとれた。

転校生。久しぶりに耳にしたワードだ。

転校生となると考えることが途端に増える。

例えば、例えば…特にない。いやないのかよ。

教室に入ると相変わらず右京はいびきを立てて寝ていた。コイツは家で寝てないのか。

「生存確認っと」

「俺を化け物みたいに扱うんじゃねぇよ」

「黙れ起きんな」

「えー…」

起きるのだけは早いんだよな…この力士。

右京はクラス…いや学校の中でSランクの嫌われっぷりなので、話しかけるやつは俺ぐらいだ。もはやレアポケモンとして生きていかなきゃいけないレベル。

『ねぇねぇ今日の転校生ってさー』

『転校生かわいい子らしいよー』

『すごい美人でー』

教室の話声は嫌でも耳に入ってくる。

「ほほう、転校生女の子なんだな…」

「力士の次に性犯罪者はちょっとやりすぎだぞ…」

「ちっげぇよ!」

右京は悪口罵声言われなれているから、全く効かない。脂肪でもちょっと守られてるかも。

黒板の前のお調子者ははうれしすぎて教壇の上で三転倒立している。いや何してんだよ。

「ねぇ黒加根くん」

左耳に癒しを与えるその声は月城ともみの声だった。

月城ともみとは俺が唯一話す髪がショートカットでない女の子だ。だからといって、他に話す女子もいないんだけどな。友達少なすぎるだろ俺。

「今日って転校生来るらしいよー」

「ああ。そうらしいな」

「黒加根くんはどんな子だと思う?」

髪を耳にかけて、上目遣いで問いてくる。おい、やめろ、惚れちゃうだろ。

「まあ、かわいい子なんじゃない?」

ちなみに、かわいいって可愛いって書くよりもかわいいよね。のろちゃんが言ってた。

「黒加根君もそう思う?」

月城はちょっと残念そうにして席に戻っていった。

「なんかまずいことでも言ったかな……」

すっきりしない気持ちをどうにか紛らわそうと右を見ると、やっぱり力士だった。

「だから、早く稽古いけよお前」

「力士じゃねーよ」

このくだり何回やっただろうか。そろそろ飽きてきた。

「俺ってどうすりゃモテるん?」

「うん、いいから下はけよ」

「はいてるわ!」

このルーティンも飽きてきた。

「だから!どうすりゃモテるん?」

「愚問だな。死んでやり直すんだよ」

「それ以外で!]

「その、ちょんまげやめればいいんじゃない?」

「はいはい、力士じゃねぇよっと」

「いいからお前は漂白剤だけ飲んでりゃいいんだよ」

「洗濯機じゃねぇよ!」

おおお。新しいの見つけた。

「おーい、今日は全校朝会だぞー」

栃丸がなにかぼやいている。

でた、全校朝会。

全校朝会。それは、週一の地獄イベント。表彰やら校長の話やら、俺らにとっては何のメリットもない時間をただひたすら座って耐え忍ぶ。いまだに全校朝会の意味が分からない。

廊下に並ぶところから全校朝会は始まる。

また右京が右足あげてた。

「お、四股ふんでる」

「り、力士じゃねぇよ」

小声でしっかり突っ込む右京。きっと根はやさしいロボットなのだろう。

気づけばそこは体育館。

ステージには生徒会長の杉山が立っていた。張り切ってんなー。杉山とは学校を良くしようと日々頑張る生徒会長なのだ!

「え、えー今日は転校生を紹介します。」

おどおどと杉山が話し始めた。

ステージで全体的に紹介されるパターンか…。

杉山に連れられてきた女の子は妙に堂々としていた。というか胸張って歩いていた。

胸張っているといっても胸は物静かなものだった。まったく、どこを見ているのだろうか。

「おい、結構美人じゃね?」

隣にいる右京が何かつぶやくがナチュラルに無視しつつ、転校生のほうに意識をむけた。

スカートまで伸びるツヤツヤの黒髪。大きい瞳に…ん?

どこかで見覚えのある顔だと思ったらやっぱりソウデシタ。

「……あいつ」

今日朝見た全裸の女の子だった。

「みなさんこんにちは!白婿こだまです!」

彼女の透き通った声が体育館を響き渡ったかと思った瞬間歓声がわきおこった。

お祭りさわぎである。

しかし、俺は全裸のことがバレるのではないかと、ビクビクしまくっていた。もし彼女が俺の顔を覚えていたらどうしようと、どうごまかそうと、そもそもあれは事故でとか思っているうちに、うっかりソイツと目が合ってしまった。

「あ」

「あ」

「ぜ、ぜ、全裸の人…」

「なっ……」

全校生徒の注目が一気に俺に向く。

全裸の人って…俺が全裸だったみたいじゃねぇか!

「おい!お前あれは事故だろ!」

「事故じゃないですぅ~!見られたという事実がしっかりあります!」

見られたという情報が加わったことで、さらに事件化してくる。まずい。ざわざわすんな。

「もとはといえばお前が全裸で部屋からでてくるからだろ!」

「ぐっ……それでも私は被害者だし!」

「俺も被害者だ!」

うっ……周りの視線が痛い……。これ以上抗いても到底俺に勝ち目はない。痴漢冤罪もこんな感じなのだろうか。

隣の洗濯機はずっと「ゼンラゼンラ」連呼してるし…。全裸知ってる?

「そもそもなんで全裸だったんだよ!」

「誰でも全裸になる時はあるでしょう⁈」

「あぁ、確かに...ってなるかっ!」

あぁ……俺が今まで築いできた信頼が……。

俺は負けを認めたようにおとなしく座った。

白婿はまだ言いたそうに歯を食いしばって俺をにらみつけている。……ったく、なんなんだよ……。

「……まあ、あの人も悪気があって見たわけじゃなさそうなので……それより自己紹介を……」

フォローをした杉山だったが、それも虚しく、白婿はすたすたと階段を降りて、体育館から出て行った。

俺が出ていきたいぐらいだわ……。どうすんだよこの状況…。

まず、ありえないからね。

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