終わりはビデ
伏線回収します
「…これがわしの過去じゃ」
会場ははりつめられた空間になっていた。
「これで分かったか、小僧」
「いや、わからん!」
「なっ?」
「確かに栃丸の話も一理ある。でも、それは短くしすぎたのが原因だろ?俺らは適度な短さだから勘違いされないんだよ!」
「小僧!何をぬかしておるんじゃ!ショートカットは悪じゃぞ?」
「俺だって女じゃねぇからわかんねぇけどよ、ショートカットが昔のお前を形作っていたことに変わりはねぇだろ?」
「ああ、わしはショートカットが好きじゃった」
「じゃ、もうそれでいいんじゃねぇの。ロングもショートカットも自分を一番主張できる髪形なら何も文句は言えねぇ、そうだろ?」
「…そうじゃが」
「実際ロングだショートカットだなんてどうでもいいことなんだよ。大事なのは自分をどれだけ表せられるかだろ?おまえのはたまたま男に表れちまっただけだ」
「小僧…おまえ……」
栃丸はあふれた涙をぬぐあ、俺の前に手を出した。
「わしが間違っていた。髪型なんて、自分を表せられればどんな髪型でも良い、そう思うことにした…ぞ」
「おう」
今ここに、ロングとショートカットの見えない境界線が握手によって壊れた気がした。
「「「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおお」」」」
今までにない歓声とともに号泣している司会がやっと切り出した。
「ぐす、ぐす…えー、それでは…審査に入ります」
今やっと和解が終わったと思ったら、ここからまた優劣をつけなければいけないのか…。うーん、。
「えと、審査はみなさんお持ちのボタン!ありますよね!赤と青のボタンが二つ付いていると思われますがどうでしょう!」
「「「わぁぁぁぁぁああああ」」」
ボタンを持った右手を各々点に突き上げる。スタジアムの奥まで見えるもん、本当にたくさん人がいるんだなと、改めて実感してしまう。
「ただいま、この会場には二万人!ちょうど二万人の人がいます!その人たちの投票によって第一回戦の結果が決まるわけです」
ほーん、そーなのか…。マネージャー用に渡された冊子、全然見てないから全くわからん。
「ここで、どっちかは敗退ということになるのじゃよ…」
隣にいた髪の長い女、栃丸がぼそっとつぶやいた。
「いやー、ほんとそーなんですよねー。もうこれはショートカットやなんやとかじゃなくてどっちの話に共感できたかですよねぇ」
「うむ、そうじゃな。わしもやれることはやりきった。悔いはない!」
てか、本当にこれで勝負になってんのか、というところである。
アイドルとして、歌も歌ってないし、そもそも俺らに至っては全然魅力について語っていない。髪型の魅力しか語ってない。
まぁ、今までにないぐらいの盛り上がりを作り上げたようだし結果オーライってところか。ヤーレンソーラン。
「さ!集計結果がでました!こちらです!」
俺らの後方にでんと配置されていたスクリーンに大きく数字が表示された。
「桃色フェイク!得票数九千六白八十七です!これは?」
あ、これは負けたな…そう確信した。
「トリプルリターン!得票数九千二百四十二票!惜しくも一回戦敗退です!」
まぁ、予想はしていた。
「よくやったよ、今日は楽しかった。またいつか会おう」
栃丸もそういって敗退者への慰めとした。
最近でてきたアイドルが日本のトップアイドルと対等に?戦えていた(ほぼ俺)のはすごいことだし、なんいせアピールできたんだ、この会場の人たちに!
ショートカットは偉大だということを!!
白婿たちも別に泣きじゃくっているわけでもなく、ほのかに笑顔が見られる。
さっきまでの緊張もまるでなくなり、堂々としていて本当にアイドルっぽい。
そう考えると今回の出場は無駄じゃんかったんだとマネージャーさながらに思う。
白婿たちのダンスを披露できなかったのは悔しいが、そんなものはライブでもなんでも俺がまた開いてやる。
最後に会場のみんなに別れを告げようとマイクを握りしめた瞬間、懐かしい声が突然会場に響きわたった。
「ちょっとまったぁぁぁぁぁあああああああああーーーーーっ!!」
会場の二階席に見覚えのある人影が見える。しかし逆光で誰かよくわからない。
会場も誰だ誰だとざわめきながら後ろを振り返る。
「黒加根センパァーーーーーーイ!!!」
この一声で誰かすぐに分かった。
「五本杉高校生徒会長の杉山耕大です!黒加根先輩にひとつ!!ききたいことがあーーる!!」
おいおい未成年の主張かよ、思わずなーにー?っていいたくなっちゃっただろ。
「なーにー?」
「無花果、なんでおまえが言ってんだよ」
「一度は行ってみたかったの」
「わろた」
ちょっと大きい声を出すのも嫌だったのでなに?と顔で表現した。
杉山は俺の表情を察するやいなや、また大きく息を吸った。
「なんでショートカットが好きなのに、超ショートカットの僕を好きになってくれないんですかーーー?」
「いやいや、おまえそりゃそうだろ男が男を好きになるわけ」
「右京先輩はじゃあなんなんですか?」
あー、そっか、誤解まだ解いてなかったわ。
「あのなー、あれは誤解だって…」
「でも!そんなホモでも僕は黒加根先輩のことが!」
おいやめろ。誰かあいつを止めろ。
「だいだいだいすきでぇええええええーーーーーすっ!!!」
「「「「ぎやぁぁぁぁあああああああああ」」」
今までにない盛り上がり。今日一番の盛り上がり。
メインこっちだったんじゃないの。
白婿たちもマジ引くわー状態で俺をさげすんだ、目で見つめる。おいだから中指たてんな無花果。
「そんな!僕の愛をこめて!今からお助けしまーーーす!!」
そういうと杉山の後ろに大勢の人影が現れた。
「え?なになに?」
「僕の信者たちだぁあ」
表れたのはまぁまぁ顔も知っている高校の生徒数十名だった。いや信者ってなんだよ。誰もお前を教祖と思ってねぇよ。
「いや、お助けって…もう負けたんだよ」
「行くぞみんな!」
杉山が後ろに呼びかけてこぶしを突き上げたのが微かにわかる。気合入ってんなー、どうやって助けんねやろ。
俺が高みの見物のような目で見つめていると杉山の声に同調したかのように杉山の信者?も次々にこぶしを…ん?あれこぶしじゃない、なんか持ってる。
「おせーーーーーーー!!」
そういうなりぴぴぴぴぴぴと何かが増えていく音が聞こえた。もしやと、振り返るとさっきまで負けていた俺の得票数が増えて行ってるではないか。
「な?杉山おまえ何をした?」
「お助けしたまでですよ」
どうやら、まだ押してなかった人たち(杉山の信者)が一気に押したらしい。あいつこれのためにわざわざ押すなと呼びかけたのだろうか。なにこれ、泣ける。涙なんて出ないけど。
「おおっとぉーーーー!?乱入者によりまさかのだい逆転かぁあーーっ?」
司会もこの気合の入りようだ。得票数はいまだ止まる気配もなくぴぴぴとカウントを続けている。
「え、嘘…私たち勝てるの?」
「やった…やったよ黒加根君…」
「ええと…あれと、これと、ぐへへへ」
トリプルリターンの希望すら見えてきたよこれ。無花果、おまえ賞金のことばっか考えてるだろ。おい、何買うか決めん。うちでやれ、あと賞金出ないから。
会場が一体となって大逆転の様子を目に焼き付けんとばかりにじっと誰も動かない。
一回、勝ったと確信した栃丸も冷や汗たらたら状態である。わりぃな、こっちには杉山っていうスペシャルアイテムがいたんでな。
誰もが大逆転を予想していたこの場面にぴぴぴぴの音がフェードアウトしていく。
ぴぴぴ、ぴ、ぴぴ…ぴ。
?!?!?!?!?!あれ?!?!
「なな、なんと同点だぁああああああーーーっ!!!!」
誰がこの展開を予想してだろうか。マネージャー対決になって、髪形について語って、女宣言して、過去を知って、結果発表に次ぐ大逆転かと思いきや、まさかの同点。
もうどうにでもなれ、とさえ思いそうだった。
会場ももういいよムードでちらほらヤジもとびかいつつありそうな緊迫した会場になってしまった。
「同点と、なりましたので特別ルール、アイドル運を試せ!にうつります!アイドルには時には運も必要ということで只今からひとり、この会場にいない人が押すボタンによって勝敗が決まります!」
ん、ん、どゆこと、どゆこと。
「例えばエレベーターの上ボタンか下ボタンで上ボタンがトリプルリターン、下ボタンが桃色フェイクの場合だとして、対象者が上を押せばトリプルリターンが勝利、下を押せば…ということになります」
いや、なんだそれ…。もう泥仕合じゃんこんなの。
「いやー、なんせ同点なんてアイドル甲子園初の出来事ですからねー」
もう杉山もあんな顔なっちゃったよ。あとでなんか買ってやろ。
俺らはひたすら早く試合を終わらせたい一心だったが会場は再び盛り上がりターン。ずっと会場のターン!!である。
「「「うおおおおおおおおお」」」
今日何回、会場に助けられているのだろうか。俺も混ざりたい。
「はい!!只今その勝敗を決める人が決定したしました!スクリーンご注目願います!」
ぱっ。
映し出されたのは何とも、くらーい部屋。なんか、白っぽいのがあって…個室?みたいなのも…。
「おい、ちゃとまって、これ俺らの高校のトイレじゃね?」
ドンピシャだった。おい、嘘だろトイレ撮られちゃうのかよ。
「えー、ただいま小型ドローンで撮影しているため、多分ばれていません。カメラさんもうちょっと寄ってー」
完全に盗撮してんなぁ…これ……。炎上しそうやな...。
「はい!!今映している人が今回のジャッジメンターです!」
「これ絶対用足してるところだよねぇ?!」
「ふむ、これはもはや犯罪じゃないのか…?」
「ちょっと、これ男子でしょ?ちょっと待って、私たち何見せられてんの?」
あ、ちなみに立つほうじゃなくて座るほうだよ。それと、様式ね!
「大丈夫です。大事なところはうつさないようにできています!それともちろん本人には後で許可をとります!」
後でとります!じゃねぇよ。今とれよ。もう遅いが。かわいそうだなぁ…この人。自分が用足してるところものすごい人たちに見られるなんてな…。
『やっべ、紙ねぇーじゃん。やっば、やっば』
おい、なんか聞いたことある口調だな。
『やっば、手でふくしかねーじゃんかよ…』
「おいこれ右京じゃね…」
「もう無理私見たくない」
「ともみも…」
どうやら右京と察した瞬間、見る気が失せたらしい。俺もできるなら早く帰りたい。
それにしてもなんで無花果はあんなにくぎ付けなんだ。なんもいいもん映っちゃいないぞ。むしろ目に変に焼き付いちゃって、一生思い出しちゃうレベル。
栃丸のあの苦笑いからして、もうこれ右京確定です。まぁ、やっばって言ってる時点で寝…。
「衝撃発言でドン引き中ですがボタン発表いたします!今回のボタンはビデとおしりです!」
「「「うわぁぁぁああああああ」」」
おー、盛り上がった盛り上がった。もう俺たち平日の午後に何やってんの。
この歓声絶対悲鳴も入ってるよねとか思いつつ、一つあの時の出来事が思い浮かんだ。
ビデ…?びで?-一度だけ右京がビデを押す瞬間を俺は目撃したことがある!
そうだ、給食間近のことだったから覚えてる。あの日なんも食えなくなったんだよ。
「それではどちらのボタンを選ぶか両者お伝えください!」
「びでぇっぇぇぇぇっぇぇぇえええええええええっっ!!!」
そう、、右京、あいつはおかしいやつ。ビデを押したあの時からあいつはビデの話を一切しなくなったんだ。そう!それはすなわち、ビデに魂売ったと見受けられる!名探偵クロガネここに爆誕!
きっとあいつもあのときのビデの快感を忘れられずに毎回トイレでウォシュレットするたびに自分の欲望に負けてビデを押してしまっていたはずだ!そうにちがいない!
「じゃぁ…おしりで…」
恥じらいつつ、栃丸も宣言した。
女の子におしりと言わせるのは何となく興奮したが、もう俺の中で右京がビデを押すことは絶対的だったのでそんなこと気にもしていなかった。
「それでは!ビデを押した瞬間トリプルリターンが!おしりを押した場合は桃色フェイクが!勝利ということになります!結果は?!?!」
再び会場全体が高校生の用を足す盗撮カメラに見入る。
『ふぅーきょうもいっぱい出たな♪』
右京は人差し指をビデのボタンの上にのせる。
押せ!!押せ!!ビデ押せデブ!ビデれ!!
右京はすっと横に人差し指をスライドさせ、おしりボタンをおした。
しゃーーーーっ…。
急なヲシュレット音。
『やっぱ、おしりはおしりだよな』
右京の声が最後だった。
さっきよりしょーもな!




