出会いのやらかし
一人暮らしの主人公。一人暮らし良いよね。
「いってきます」
呼吸のように吐き出されたその一言に返事はない。それもそうだ。
俺は、アパートで独り暮らしをしている。アパートの名はガッピン竜宮。ガッピンってなんだよ。ガチャピンかよ。
部屋は六畳一間でトイレ、台所も完備されている。そりゃそうか。太陽の光もしっかり入るようになっており、光合成するには申し分ない。俺は植物かな。
そんな部屋だが、住んでもうすぐ一年である。カップラーメンこぼしてシミになっている畳も、けん玉ぶつけてヒビが入った窓も、今となってはすっかりなじんでしまった。
だから、いってきますの返事は帰ってこなくとも全く寂しくない。いやホントホント。
すっかりぼろくなった靴とはいえぬ靴を履いて玄関のドアを開ける。
相変わらず立て付けが悪いので、「ぎぃぃぃ」とホラーでよく聞くサウンドが響く。
どん。
何かがドアに当たった。なに?死体?ホントにホラーじゃん。
ちらりちらりと言わんばかりに見てみると、たくさんのダンボールが積み重なっておいてあるではないか。なに?ドッキリ?よくダンボールの中から人がでてきて驚かすドッキリあるよね。それにしては段ボール多すぎか。
そういえば、先週隣の人が引っ越していったから、ひょっとすると新しく越してきた人の荷物なのかしら。
「…衣装?」
視界に入ってくるダンボールを見ると、マッキーで雑に書かれた「衣装」の文字があるではないか。なに?ハロウィン?今ゴリゴリの夏だよ?
人の荷物をジロジロ見るのも良くないので、俺は段ボールの隙間を通り抜けて学校に行くことにして…カニサン歩きで歩き出した。
カニサン歩きの時はまず、心をカニにしてカニを思い浮かべる。なんでだ、カニカマしか思いつかん…。
カニサン歩きではベテランの俺が、一つ目のダンボールの山を過ぎると、隣の部屋の前まで来たのでアァァァァアアアルゥ。
部屋の中は家具もなく、中にもダンボールがたくさんおいてあった。
ダンボールの複数形ってなんやろな…。ダンボールズ?悪くない。
「やっぱり誰か引っ越してきたのか……」
そうこう考えているとカニサン歩きが止まっていた。
大ベテランの俺が止まってしまうとは…。なんだか悔しいと思いつつ、別にそこまで悔しくない。どっちだよ。
すると、部屋の奥から誰かが歩いてくるのが見えた。逆光でよく見えない。
やべーな、挨拶しなきゃいけないパターンだなこれ…。
シルエットで長い髪が見えたので女の人だとすぐに分かった。
女の人か…とちょっとドキドキしてしまう俺。
可愛い人だといいなと思って、待っていたその時だった。
ぶわっ。
風が吹いた。さっきまで風ひとつ吹いてなかったのに、吹きやがったんだこれが。
まるでスローモーションのように、ゆっくりと光が差し込んでいく。
さっきまで逆光でシルエットだったものがスポットライトのように照らし出された。
「な……」
雪のように透き通った真っ白な肌。カントクの目みたいに輝く瞳。そして、ザ女と言わんばかりの整った顔立ち。顔からして俺らと同じ年だろうか…。
脳天からのびる黒髪は腰のあたりまであって、CMに出れるんじゃないかと思うぐらいのツルツル具合だった。でもショートカットじゃなかったから、ちょっとガッカリ。
そして、服はというと……人類古来の肌色の服装を身にまとっていた。
要するに全裸。
その子と俺は互いに目を合わせる。
なかなか口を開こうとしない。
自分も体が全く動かず、三秒くらいの静寂があった。
「こ、この変態!」
やっと口を開いたかと思えばなんだそれ!
「どちらかというと変態はお前だろ!」
女の子は顔を真っ赤にさせて部屋に戻っていった。
これがラッキースケベというものか…。
「何かを得ると同時に、失うものもあるんだな…」
俺は何事もなかったかのように歩き始めた。
とんでもないラッキースケベに出会ったにもかかわらず、冷静な自分が一番変態だった。
まさにフィクションだよね。