ショートカットvsロング
この話、一番内容が濃いです
「黒加根君?大丈夫?」
誰かに揺さぶられているのを認識して俺はゆっくり瞼をあげた。
ん?俺は寝てるのか?
「やっと起きたわね」
仰向けの体で首を回して周りを確認してみた。
右に目をやると心配そうな表情をした月城。あ、髪切ってる…。
左に首を向けると怒り顔の白婿。ん、ショートカットやん…。
そして、その後方には椅子に座って無関心にスマホをいじる無花果…。む、こいつも髪短い…。
「ぎやぁぁぁあっ!!」
「なによ、急に」
俺の脳が税上に戻った。
「しょしょ、おまえらショートカットやん!」
そうだ。昨日俺が頼んだんだった。すっかり忘れてたわ。くそ、白婿が投げたリモコンのせいで少し脳が混乱してたぜ。リモコンおそるべし。いや、白婿じゃないのかよ。
「あんたがショートカットにしろって言ったんじゃない!」
「あのあと、急いで床屋に行ったからすごい嫌な顔されたんだけど」
「似合ってる…かな……?」
ううう…、ショートカットの女の子が俺に話しかけてる…。しかも三人も…。ゆ、夢かこれ…?
「す、すげー似合ってるよ…」
無視しちゃいけないので何とか話をつなぐ。
「そ、そう…?嬉しいな」
頬を赤らめて照れ隠しなのか、髪を耳にかける。キタコレ!
女子の可愛い仕草(俺調べ)の上位に君臨するしぐさの一つ!髪を耳にかける!よりにもよってショートカットだぞ?たまんねぇーってまじ。
「あんたねぇー…私たちの出番まで時間ないのよ?わかってんの?」
「ぐ、もうそんな時間なのか?」
左腕の腕時計に目をやると、かなりやばい時間となっている。
「おい、急げ!俺らのアイドルドリームが!」
「あなたも必死なのね…」
控室のドアを開けて俺はステージに向かおうとしたが右か左かわからない。
スーパーでよくある天井からつるされたプレートにお菓子とか、売られているものの商品名が書かれているように、上に案内板があると思ったが特に見当たらない。
それもそうだ。天井低すぎるもん。こjの天井の低さは設計上のミスなのか?
俺が行く方向を「どちらにしよーうかなーかーみさまーのいーうーとーおーり」方式で決めていると後ろから俺を追いかけてきた白婿たちが来た。
「ちょっと、あんた何やってんのよ!」
「ステージってどこ?」
「あんた、マネージャーでしょ?!」
くぅう。情けない。
そういえば、さっきのマネージャー会議の時の冊子はどこ行ったんだ。あ、といれに置いたままだわ。やっべーな、あそこに全部書いているというのに…。
俺が再び「かーみーさーまーのー…」を続けようとしたとき、無花果が口を開いた
「さっき、あっちにステージ控えってかいていたような」
「おい!なぜそれをもっと早く言わん!」
「なんかあんた困ってんの面白かったから」
「っおいぃ!」
おい、ひどい仕打ちすぎんだろ…。
この緊迫した場面で黙秘件ですか…これだから今時の女子高生は…。
こいつがショートカットじゃなかったら、ごつんとなぐっていたところだ、まったく。
俺は、無花果の言葉を信じて、小学校以来の回れ右をしたのち、再び走り出した。
ちなみに、俺らが走っているこの道は控室の集まった道のような場所で、歩く人もここの関係者間アニカサッシがつく服を着ている人ばかりだ。
それにしても、ここの関係者なら、ステージの場所を聞いてそれで終わりじゃないか。けれど、それは俺にとって無理難題なものであった。なんせ、俺は今世紀最大のコミュ障難民だからな。日本の恥といってもいい。
そんな俺が人にものなど聴けるはずないのだ。話しかけてなくてよかった…。緊張して「プギャ」とか和気倭kラン言葉が飛び出しかねないからな。
そうこうしてるうちに、ステージはこちらとなんともわかりやすい看板が置いてあった。
何でおれはこれに気づかなかったんだと、自問するや否や、意気揚々としたアナウンスが響き渡る。
「みなさーん!こんにちはーーー!只今よりアイドル甲子園を開始いたします!!」
声は若めの美人そうな感じの人の声だった。これで男だったら、俺は何を信じればいいのだ。
「ねぇ、ちょっとやばいんじゃない?」
おお、そうだった。こんなところで、ぜーはーしてる場合じゃねぇ。
「いっくぞ!」
振り返って白婿たちに呼びかけるがみんな呼吸を整えるのに必死で表情をうかがえない。
もう走りすぎで体力の半分が減ってるように俺には見えた。(俺も)
「がんばれ!あともう少しだ!」
箱根駅伝のコーチがゴール直前のランナーに応援する場面のように呼びかけてみた。まぁ、箱根駅伝見Tことないんだけど。
なんとか、呼吸も戻り、参人はやっと俺の後をついいてきた。
歓声がすりぬけてくる重い扉に手をかけた。
ふーっとそれらしい深呼吸をしつつ、扉を開くとステージのいわゆる、裾みたいなところへ突なっていた。
さっきまで、こもっていた歓声はクリアに聞こえ、雰囲気も空気も臨場感もまるで別世界。
ステージ上では審査の概要やら、メンバー紹介やらでまだ時間があった。
係員の指示のもと、誘導され、裾のパイプ椅子へと座ることが許可された。
「ふあーーっ」
深く腰掛けおっさん張りの一斉を出すと白婿の冷たい支援が背筋をかすめる。
「あんた、足…もっと、ゆっくり走りなさいよ…はぁ…」
「そうだよ…私転びそうに…なんたんだから…んね…」
「もう少し女心をわきまえろハゲ」
「いや、なんでまえだけ生ききれてないんだよ」
ひとりだけ、すごいやついるぞ。
「いざというときのために。ひごろからfb並みの特殊訓練を受けてきたほどだわ」
おい、まじかよ。fbiぴちゃったよ。おれ、fbiの一回トイレの清掃員のめーらー・ダエモンしかしらないぞ。
俺が無花果の超人ぶりに困惑どころか落胆していると、白婿がいつになく、恥じらいながら反し始めた。
「…あの…ちょっとさ…ん…」
いつもと違う白婿に一同は市営を正す。
「て、…緊張してるから…て、てて、手…つないで…」
「なっ…」
きた、女子の男子を浴乾違いさせる行動。え、俺とつなぎたいの?とかってに妄想して勘違いする男子とは裏腹にただ、緊張をほぐしたいがためにでる言葉である。
こういいうときは無心になると、けっこういいよ。実体験は俺。
あれは理科の授業。
はーいそれでは反射の実験します、と、理科の先生が告げるや否や生徒一同は手をつなぎ始める。そう、前の人が自分の手を握ってきたら、すかさず、自分も次の人bの手を握って、人間の反射タイムを体感しようじゃないかという、よくあるアレだ。
こrで、あの可愛いことも手をつなげる、と思ったクロガネ少年だったが、あいにくその子は欠席。結局、中途半端な子と、手をつないで俺の最初で最後の手をつなぐ機会が終了した。
ああ、今思えばいっそ千手観音みたいになってrば、一人ぐらいは、可愛いこと手をつなげたのに…。
が、しかし!時は今。
俺の右手にほんのりかんじる柔らかく温かい手。あぁ…手つなぐのっていいもんだな…。
最近手すら触れてい鳴ったので、なんだか新鮮である。
いちばん最近、人の手を触ったといえば、スーパーにいたペッパー君だな。っておい、それ人じゃなくてロボットだろ。
「え、なになにおまじない?うちも、手つなぐー」
どさっと、俺の左に座った無花果は俺の左手をつかんで、強く握った。
「ひゃっ」
「なに変な声出してんの、マジきもいし」
うう、強烈。
「じゃぁ、あたしも…」
頬を染めて、月城も白婿無花果に次いで手をつなぎ始めた。
…もう少し早く来てくれませんかね、白婿氏……。
そう、俺の両手は白婿、無花果に絶賛抱擁中のため、月城と手を触れあうことさえできないのだ。くそ…。
まぁいい、全員所とカットだからな。許す!!
そうこうしてるうちにスタッフのお呼びがかかった。
「あ、そろそろいくぞ」
「よーし、今日は絶対優勝するぞー!」
「そうだね!髪もこんなに短くしたんだし!」
「私の曲は誰にも負けない」
トリプルリターンの意気込みののち、俺らはアナウンスの予備を待った。
「それでは、今回初出場!トリプルリターンの皆さんです!」
はいどーもーと言わんばかりに三人はステージへと出て行った。いや、Мー1グランプリじゃないから。
「えー、アイドル甲子園、最年少グループ!リーダーはホワイトリターンで有名な白婿児玉さんがリーダーということですが…」
司会の人が淡々と進めていく中、我らがアイドルたちは緊張でふるえてすらいる。大丈夫かこれ。
「それでは、意気込みの方お願いいたします!」
「っえ?えと…そ、その・・」
まずい、ひじょーにまずい。緊張には慣れていないみたいだ。ここはどうか一つのりきれ!白婿!
「えと…みーんな真っ白に…染め返れっ」
「ばか!それ勝ったあとの決め台詞だろ!」
白婿が絞り出したその言葉はちょっと数日前に考えたよくある決め台詞だった。
会場に静かな沈黙。マズイ、これはやらかしたか…?
「「「かわいいいいいいい」」」
会場全体が可愛いで埋め尽くされた。
会場全員アホでよかった…。
そんな俺はマネージャーなので舞台袖で、孫の運動会を見るごとく、見守る義務を任されている。
それにしても、この舞台袖からでも伝わる会場の緊迫感。ちょっと覗いてみてみたけどざっと二万はいるな、これ。
やはり、あいつらも緊張はするそうだ。さっきの手つないだ意味はあったようだな。
「意気込みにはなっていないような気がしますが、まぁいいでしょう!ではつづいて、対戦相手!桃色フェイクでーす!」
ぶぁわわあわわわあああっわわわわわわあああわわわっわああああわっわわわあわわわわわ
恐ろしいほどの歓声。
「おい、嘘だろ…」
桃色フェイク…。そう、それは確か白婿のライブの時も聞いた覚えがある。
日本一の人気を誇るアイドル。俺ら運悪すぎだろ…。
ってアレ?ストロンガーじゃねぇの?なんかおかしくね?
ぐ、マネージャーとあろうものがここでひるんでどうする…。ここからが真骨頂!
「えーー、それでは桃色フェイクの皆さん!これはもう説明いらずですね、リーダーの恋夢みちるさん、意気込みを!」
「はぁい!えぇーとぉ私たちはぁ日ごろのぉ練習のぉ成果をぉいかしてぇがんばりぃまぁすぅ」
「「「「「かわいいいいいいいいいいいいいい」」」」」
さっきよりもかわいいで埋め尽くされた。
おい、可愛いの声だけだたぞ。言ってることほぼ内容ゼロだったぞ。
「つーことで!さっそく勝負開始と行きましょう!それではルーレットスタート!」
は?ルーレット?
白婿たちが一斉に俺のほうを振り返る。怒りと不安とが入り混じったような表情で俺を見つめる。多分、おれもそんな顔をしているところだ。
ルーレット…こりゃ俺全然試合の中身理解していないようだな、手へ。てへじゃねーよ。
「えー、ルーレットの内容は歌唱力、ダンス、リアクション、演技力、マネージャー力の五つで構成されてます。今私の手にあるボタンを押せばルーレットが止まり、そrで対決すrということになります!」
よかったー、全部司会の人開設してくれたやん。
俺がすかさず、三人にグッドサインをやると、無花果はすかさず中指を立てた。おい、それアイドルやっちゃダメだろ。
「それでは押しまーす!」
ぽちっ!!
てててて、とだんだんルーレットのスピードがい遅くなり停まる。
そういえば、なんかマネージャー力とかいゆ一番当たってほしくないやつあったような…まぁ、五分の一やし、あたるはずもないよねっ!
ててててててててててて、て、て、て…てんっ!
「マネージャー力でぇーーーず!」
おわったーーーーー。
「それでは、両アイドルのマネージャーさんステージに出てきてくださーい!」
どうしよう、帰ろうかな。
強引にスタッフに押され、ステージへと投げ飛ばされた。
「いっつーーー」
「ったく、がふぇーなぁ」
突然頭上から男の声がする。相手のマネージャーだろうか。
「がふぇー、がふぇーねぇ」
今時がふぇーなんて言う人がいるのだろうか。いるとしたらどこぞの学校の先生か、どっかの先住民族…。
立ち上がって相手のマネージャーと、顔を見合わせる。
がっちりとしたガタイに、どす黒い模様のネクタイ。社会の汚さを表現したようなその憎しみと哀れみにも感じられるスーツの色からは地獄をも連想させる。コーヒーの飲みすぎなのか妙に茶色い肌…、マリアナ海溝並みの深いしわ…。
「おまえっ・・?と、とt、とちまる?」
「おやおや、いきなり呼び捨てかい」
お互いが誰かわかった途端に俺らはこそこそ話し始めた。
「どういうことだよ、ここはアイドル甲子園だぞ?」
「まったく…君なら理解は早いと思ったんだがねぇ」
栃丸は深くため息をしたのち、口を再び開いた。
「桃色フェイク、アイドルプロデューサー兼マネージャーの栃丸庄司です。以後お見知りおきを」
「っはぁあああ?」
「色々聞きたいことはあるが、まず一回戦の対戦相手はストロンガーのはずなんだが?」
「わはっ。それは一種のジョークだよジョーク」
「ってことはお前、俺がマネージャーやってること事前に知ってたのか?」
いやーー、僕も最初はびっくりしたよ、まさか君がマネージャーをしているなんてね…。君のことだからすぐ投げ出すんじゃないかと思って、聞いたじゃないか。アイドルは好き?ってね」
「あの時からかよ...」
変な汗でてきた。
「待てよ、さっきのマネージャー会議にはおまえいなかっただろ?」
「あーー、それか。ちょうどその時、わしは学校に忘れ物を取りに行ってたんだよ。証拠にそこに、わしがよく持っていくカゴが置いてあっただろう?ほら緑の」
そういえば…あの時、一つだけ席が空いていて、謎の買い物カゴが…。
「って、教師がこんなことしていいのかよ!」
「君が言えた口か?」
「ぐっ……」
「いいか、ここはふたり、ただの顔見知りということにするんだ。その代わり互いの秘密は守る、それでいいじゃないか」
「ああ、でも勝負は正々堂々だからな」
「もちろんだとも」
「おーーーっとっ、二人は知り合いなのですか?」
案の定視界が食いついてきた。反しすぎたか。
「い、いやぁーーたまたま、銭湯でお会いしただけでうよぉーーー」
「そ、そうです、銭湯で一回、ね。裸の付き合い、ね」
「そーーいうことですかぁーー!」
ふぅ、なんとか持ちこたえた。
栃丸と、最後にアイコンタクトをしつつ、互いのアイドルの横に移動した。
「ちょっと、あのマネージャーって栃丸…」
「わりぃ、話はあとだ」
白婿も気づいてたらしい。そりゃそうか。
「それでは、ルール説明をいたします。いたってシーーーンプル!シンプルイズザベスト!自分のアイドルの魅力をどれだけ表現できるか論争していただくだけです!アイドルはマネージャーあってこそ成り立つ!そんあマネージャーが自分のアイドルの魅力を伝えられないで何んと言おうか!そーんなこんなで、試合を開始いたします!」
おい、展開はえーな。マイクまで持たされちゃったよ。
「制限時間は三分!よーいアベルクツオキブリアス!」
いや、スタートの言い方独特ーーー!
俺がてんやわんやしていると栃丸が先手を切り出す。
「こほん、林君。わつぃらのチームと君らのチームには「決定的な違いがあるが、わかるかね?」
すげぇな、まるで先生みたいな口調だな。そりゃそうか。
「ああ、もちろん。可愛さだろ?」
栃丸はふっと軽く笑う。何わろてんねん。
「まったく……わしを失望させないでくれよ…」
「はぁ?俺らの方が可愛いに決まってんだろ」
「可愛さももちろんそうだが、よく見たまえ。君が最も重視するカテゴリーだよ」
「ったく、何言って……ぬはっ?!?!」
やっと気づいた。
「か、か、髪形!!俺らがショートでそっちがロングだ!」
「もっと早く気づくと思ったがね…。ストロンガーの時点でヒントは出しているんじゃが...」
いつも先生の振る舞いをしている栃丸が偉そうにしてるとなんだか気持ち悪い。
「まぁ、髪形比べたところで、勝ち負けはもうついているんだがな」
「うるせぇよ、こっちはショートカットだぞ。俺が最も望んだ次世代アイドルだぞ」
栃丸はさっきからにやけた表情のまま、こちらを見つめ続けている。
「この際だから、行っちゃうけど俺はショートカットが大好きだぁ!世界で一番愛してる!ちなみに二番はすき家の三種のとろ~りチーズ牛丼!!」
「なんだとぉお!わしはロングだぁ!!!」
なんだよ。急に大きな声出すなよ。びくってしちゃっただろ、びくって。
「ちょうどいい、ショートカットかロングどっちがいい髪形か決めようじゃねぇか」
「ふむ。のぞむところじゃ」
俺と栃丸が初めて対立した決定的主運管だった。
まさか、栃丸がロング好みだったとはな…。
「ちょっと、本当に大丈夫なの?」
「まかせろ、ショートカットは好きだ。もちろんショートカットも好きだ。あと、ショートカットも好きだぞ」
「どういうことよ!」
まさか、白婿に心配されるとはな。
ふと、なぜ、俺はショートカットを好むようになったのだろうか、と自問に至った。考えてみると、あまり思いつかない。
まずい、このままでは栃丸に論破される、死ぬ。
予想していた通り奴の声はマイク越しに聞こえてきた。
「おや?わしからでいいのかな?」
栃丸はふーっと息を吐いたかと思うと、焼きそばの湯を捨てた時の排水溝のようにぶぉぉぉぉぅと思いっきり空気を吸った。おい、カービィになるんじゃねぇの。
「ショートカットのどこがいいというのだ!後ろから見れば男子じゃねぇか!くさい!第一、女の子は髪が長いことで、女子として成り立つのだ!髪は女の命っていうじゃろ!自分の命を象徴しているものを短くしてどうする!寿命減らしたいんか!短命か!青森県か!」
栃丸の高速マシンガントークに、一瞬圧倒され負けたことを確信した俺だったが自然とマイクを自分の口へと持ってきていた。
「おばか!髪が短いからいいんだよ!濡れた髪もすぐ乾くし、ボサボサしないし…んー、あとなんだ、…えとま、まるい!丸っこい!そう!小顔効果ってあるだろ!あれだよ!アプリいらずだよ!そもそもロングってなんだ!ドンキーコングか!髪長いと結うとか、髪の扱いとか大変だろ!まず、夏熱いだろ!死んじゃうよ!自作サウナだよ!」
はぁhぁ、と両者息を切らしながらもまだ言い足りないようなムードの中会場は盛り上がりの最高潮に達していた。あちこちから聞こえてくる歓声もほぼ何言ってるか聴きとれない。
「「「「いいぞーー!栃丸ロングーー!!」」」」
「「「ショートカット!!ショートカット!!」」」
「「「帰ったら洗濯物取り込まなきゃ!!」」」
もはや誰も勝敗の結果は予想できずにいた。
「はぁはぁ、やるじゃねぇかバカロング…」
「そっちも…だいぶいたぶってくれたな…クソショートカット…」
「残りいっぷーーーん!!!」
気づいたら、マネージャー対決も残り一分のころ合いである。
会場の鼓動が早くなるとともに、俺と栃丸の髪形に対する愛情も増していくように思えた。
「うぉぉおおっ!ロングバカにすんじゃねぇぞ!ショートカットに比べたら、バリエーション豊富なんだコラ。三つ編み、ポニーテール、ツインテール、…あとなんだ?えぇぇぇええい!おまえ、ちゃんとわしの話聞いテール?」
「「「うっぉおおおおおおおお」」」
おいおい、うそだろ。ダジャレいっただけでこの盛り上がりようかよ。
「バカタレ!ショートカットだって種類あるわい!直伸ばし、内巻き、外ハネ、
とかいろいろあるんだわボケ!なお、名称はすべて自分で考えたやつだなめんな!」
「「「ぱねぇぇぇぇぇえええええ」」」
一言いうごとに、それに呼応するようにたびたび盛り上がる。なにこれ、楽しいやん。
「がっふぇぇ!ロングはな!床屋に行ってもほぼ何も言わなくてもいいんだよ!風呂入ったあともあのくしでスーーってやる感じがたまらねぇんだこれがな」
突然、会場が水を打ったように静寂と化した。
俺も、司会も、白婿たちも、相手のグループの女の子たちも異変に気付いた。
会場にいる誰もが目を丸くした。ほら、せーかいーはまーるいーみたいに、ごめんやっぱなんでもない。
「おい、なんでおまえそんなこと分かるんだよ」
栃丸は何かを諦めたように長い溜息をついた。
「バレちまったら、仕方ねぇわな」
そういうと左手で勢いよく自分の頭をつかんだ。
この時、時間はすでに六秒前の残り時間を静かに表示していた。
会場が一斉に唾をのみ、栃丸に注目した。
栃丸が髪をつかんだままの右手を空高くつき上げた。ん?突き上げた?
さっきまであった栃丸の頭はなくなり黒い髪が滝のように栃丸の頭にだらんとぶら下がっていた。
それはとてもカツラではなく、正真正銘の地毛、ザ・地毛だった。
「わし、実は女の子なんでぇーすっ!!!!」
同時にマネージャー対決終了の合図が鳴った。
しかし、一向に誰も口を開こうとはしない。司会も、もちろん俺もだ。
「「「ぎぃやぁぁああああああ」」」
以外にも一番最初に声を発したのは観客であった。そりゃそうか。
それにつられ、俺も声を出す。
「…あ、あのー、もう一度おうかがいしてもよろしくて?」
「だーかーらー、わし女の子なんだってばっ!」
口をとがらせて目をぱちくりさせる栃丸が絶妙にキモイ。
白婿たちに助けを呼ぼうと振り返ると、見事に口が開いていた。
あいた口がふさがらないとはこのことである。まぁ、あいてたのは白婿だけだったんだが。おまえバカだろ。
「っはい!というわけで対決が終了しました!これから審査に」
「いやいやいや、重大極厚機密問題発覚事件でしょ、これ!」
世紀の大ニュースをなかったことにしようとする司会に思わず口が走った。
ついさっきまで皆が男だと思ってた奴が女になってるんだよ?マジックかよこれ。
「えーー、皆さんを混乱させてしまい、すいません。わし、実は男じゃなくて女なんだわ、わっはっはっはっは!」
「いや、わっはっはっはじゃないから!」
正直、誰も信じてない。だって顔まんまオッサンだもん。
「えぇい!しゃらくさい!皆見てろ!今からこいつの嘘を暴いてやるからな!」
俺はすたすたと栃丸ちゃん(おっさん)に歩み寄り背後に回った。
「どうせ、サプライズかなんかで頑張って髪生やしただけだろ…」
俺はおずおずと栃丸が男であることを確かめに行った。
たのむ、男であってくれ!
「…っひぃ!」
「な、な、ない!こいつ、ないぞ!」
「まったく、どこ触ってんのよ、わしは女っていってるじゃない!」
会場にどよめきがさまよう。
「おい!ばか!セクハラじゃねぇから!」
「この際だから全部言っちゃいます。わしの過去…」
会場は第一回戦とはおもえない、超展開のど真ん中にいた。
栃丸は実在します(女ではありません)