前夜
ショートカットそろそろきます
都内某所。
場所はファミレス。
「……ねぇ、こういうときって乾杯なの?」
「うーん……まだお疲れーって感じじゃないからね……」
「なんでもいいじゃん。もういいよ、乾杯で」
よくあるファミレスの席に座る女三人男一人。おいおい、ハーレムかよ。
俺の向かいの席には無花果と白婿。服は白いTシャツにホワイトリターンの文字。おい、いつそのTシャツ作ったんだよ。俺にもくれよ。
そして、もちろん隣には月城さん。今日も楽しそうでなにより可愛い。アイドルになるとこうも違うんだな…。
「じゃ!か、かんぱーい!」
「ほら、黒加根君も!」
「お、おう…かんぱい…」
こんなにも締まりのない乾杯があっただろうか。
もう、乾杯しなくてよかったじゃん。
アイドル甲子園を明日に控えた夜八時半。
明日に向けての意気込みというかなんというか、そんな感じで適当に集まったのである。
「ねぇ本当にアイドル名トリプルリターンでよかったの?」
「うん!その名前のほうがしっくり来るよね」
「だな。うちもその名前気に入ってるよ」
やはり女子というだけ話は盛り上がる。
3人になったため、ホワイトリターンはトリプルリターンに改名したらしい。なにそれ俺しらん。
男一人の俺は…どうしよう、居づらい。ゲームでもしようかな…。
俺がスマホを取り出すとそれを刺し殺す(笑)のように白婿が口を開いた。
「そういえば、秘策どうなったのよ」
「あ、そういえば、そーじゃん」
「よくぞ、聞いた。若きアイドルよ」
そう。このファミレスに来た最大の理由はこれである。秘策を何も考えてなったら多分着てない。
「秘策。それは……」
ごくり。緊張が走る。
3人のアイドルの目が一気に俺に向く。
俺はヘリウムガスを吸う前のごとく息を吐き出して、
「ふぅーーーっ......君たち......」
俺の思い届いてくれ。
「全員ショートカットにするのだぁぁっ!!!」
席から立ち上がり、俺はそう叫んだ。
沈黙。おいそこ、顔見合わせんな。
「…ええええ?!?!」
やっと、反応した。
「ホワイトリターンのみならずこのご時世、ロングヘア~が多い。この世界には刺激が少ない!そこでだ!ショートカットのアイドルを生み出すことでこの世界を変えられるっと思ったのだ!」
俺がプロデュースするアイドルがショートカットのほかに何があるというのだ。
勢いよく我を忘れて立ち上がった俺だったが、いざ周りを見渡すと冷たい視線が刺さっているのに気づく。
俺は静かに着席する。
「…いや、だからだな、ショートカットにすることによって、風の通気性が耳から首筋にかけて滑らかな曲線を描きつつ、なおかつふぁんたちをも引き付ける最高の紙質をだな…」
「私、別にいいよ」
「え?」
「うん。私も…いいよ?」
「うちもさんせーい」
「え?マジで言ってる?」
「はぁ?あんたがやれっていったんじゃない」
まさか本当に承諾してくれるとは。雪でも降るのだろうか。
「そうだよ!マネージャーの言うことは絶対だもん!」
「…じゃあそうと決まればさっさといくわよ!」
他にお客さんもいるというのに、大声出すんじゃねぇ。無花果、スキップすんな。出来てないから。
気づくと俺一人だけ残されていた。
どうやら女子三人衆は理髪店に行ったらしい。こうもすぐに行くとは女子に行動力おそるべし。
しかしながら、これで明日ショートカット娘を三人も見れることが確定した。
もうさっさと家に帰って寝ようと思い机に置いてあったレシートを見た。
「…おいこれ0何個あんだよ…」
女子にしては食いすぎだろ。男かよ。と怒りをかみしめながらも、ショートカットを見れるには安いものだと自己暗示にかけ、俺は残ろ少ない財布を抱え、レジへと向かったのであった。
話の内容薄くなってきたと思うじゃん?そやねん。