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マネージャー

今思うとアイドルって…ねぇー

昼下がりの温かい西日。そう、今日は日曜日だ。

「で、なんであたしたちがここにあつめられたわけ?」

「集まってもらったのはほかでもない!」

「じゃぁ何なのよ……」

月城のあきれた声がよく響くここは月城の事務所の談笑室。

この部屋にいるのは、俺、白婿、無花果、そして月城である。

「なんで私がここにいるのかな……?」

「これからすべて分かる!」

月城のおびえた一言に食い気味に入る俺の発言により当たりは水を打ったように静寂と化す。

一同がそのいつもと違う雰囲気に緊張が走る。

ごくり。

一同が唾をのんだ。

「君たち三人にはアイドルになってもらう!」

「はっぁ?!何言ってんの?」

「黒加根君……さすがにそれは冗談だよね……」

「……まぁ私、もうアイドルなんだけどね」

一斉に猛攻撃をくらった。だが、そこまでは想定内である。

「いいから、これをみるんだな」

そういって俺はカバンから一枚の紙を取り出して見せた。

三人とも、机に身を乗り出して髪を真剣にのぞき込む。

「三人組結成ユニット……マネージャー黒加根司って……ええぇぇぇ?!」

「そう!俺が君たちのマネージャーだ!」

「あんた冗談でしょ??」

「ばぁか言っちゃいけねぇ。事務所には話はすでについてる」

「事務所に話って……?」

首をかしげながら月城が問いかける。

「そう!もう君たちはアイドルなんだよ!ついでに言うとアイドル甲子園にも応募してやったぞぉ!」

椅子から立ち上がり、雄たけびを上げるマネージャーの俺。

「え?」

「黒加根君……」

「あんた……今なんて……」

「だーかーらーアイドル甲子園って……」

「あんたねぇ!アイドル甲子園ってあのアイドル一位を日本全国で競うあの大会よ!あんた本当に言ってるの?」

「ああ、本当だよ……あと近い」

俺の胸倉をつかむ白婿。近いよちかい。

[アイドル甲子園って有名なアイドルも登場するのよ?」

「……ていうか私たちそもそも出場できるの?」

「た、確かにそうだわ!予選とかオーディションとかどうなのよ!」

「あーそれなら大丈夫。なんか新人アイドル制っていうやつでやらずに済んだ」

「新人アイドル制って……新人アイドル用の予選じゃないわけ?」

確かに。俺も今それ思ったわ。

「あのさーちょっと聞いていい?」

緊迫した空間に鋭い無花果の一言が聞こえる。

「そのアイドル三人ってうちも入ってるわけ?」

「おう、あたりまえだ」

「あんさーうち曲つくらないけないんだけど?」

無花果さんその目怖いです。

「あー、それなら大丈夫だ。このアイドル甲子園が終わったら、通常通りの生活に戻っていいからな」

「え?じゃあこのアイドル甲子園だけうちらアイドルってこと?」

「いかにも。だから無花果は曲作りに専念しなくていいんだ」

「あーそゆね」

無花果のとがった視線からも解放された。ふー。

「どうだ?月城、できるか……?」

さっきからずっとおどおどしていた月城に話かけてみた。

「……うん。私やってみようかな。楽しそうだし」

「うちも」

「そうと決まったらさっそくやるわよーー!」

「でも、やるって何やるん?」

「君たちは曲にあったダンスを練習したまえ。俺はマネージャーとして最大の秘策を考える、まぁ心配するな」

「誰も心配なんかしてないわよ」

「変な秘策にすんなよ」

「よろしくね!黒加根君!」

そう言い残して数分前に誕生したアイドル一味は部屋をでていった。

「さーて、どうすっかな……」

正直なんも考えてないや。



*



アイドル甲子園まで残り一か月となった。

場所は事務所のダンス室。

この部屋の中では三人がダンスを日々練習しているらしい。

ちなみにここの事務所は白婿ぐらいしかアイドルはいないからダンス室はいつも空いている。

無花果が作った曲にまみれつつ俺は、音の振動で揺れるダンス室の扉を開けた。

扉を開けるとそこはよくある壁一面に鏡がある部屋が広がっていた。

ともみは鏡に向かってダンスを踊っている。そして無花果がそれを温かい目で見守っていた。

「おー、今日もやってんなぁ……」

「ともみちゃん、そこ振り付け逆だよ!」

「はっ!また間違えちゃった……」

「大丈夫大丈夫。もう一回やるよ」

三人の団結力は、日に日に高まり、俺の存在にすら気づかないくらいに集中している。

「あれ?白婿は?」

扉から青を出して覗いてみたがどこにもいない。

「え?こだまちゃんなら、さっき出てったよ」

俺のほうを向いて話しかけてきた月城が不覚にもかわいい。

軽めのTシャツに汗のみずみずしさが……何考えてんだ俺。

月城はしばらく俺を見てから赤くなった頬に流れる汗をふき取って笑みを見せた。

ぐっ……なんつー衝撃だ……。

「お、おう、ありがとう……」

あぶねー、うっかり惚れちまうところだったぜ。

家にかえろうと思って扉を開けた途端、誰かとぶつかった。

「あ、すいませ……って黒加根?!」

「な、なんだ白婿か…ヤンキーかと思ってちびるところだったぞ」

「ちょ、あんた何言ってんのよ!」

本当に何言ってんだろう俺……。疲れてんのかな……。

「んじゃ、俺帰るから…」

「待ってよ」

「は?」

振り向くと白婿が柄にもなく、不安そうな顔を浮かべていた。

「どうしたんだよ」

「私たち本当にアイドル甲子園で優勝できるの……?」

いつになく悲しそうな表情を浮かべる白婿。

俺に目を合わせるわけでもなく、うつむいたままどこかを見ている。

俺が返答にこまりながら白婿の表情をうかがうと白婿は話を続けた。

「でも!ちゃんと、練習してるし、かなめちゃんの曲もいいよ……?でも、アイドル甲子園って有名なグループが優勝したこともあるし…」

つまり心配ってことか……。

「大丈夫。秘策はある」

「だから、それが何なのよ!本当はなんも考えてなかったりしないでしょうね?」

「ぎくっ」

をつかれた俺は指をさす白婿から目をそらす。

「まぁいいわ。でも、何かしらの策は考えて頂戴。あんた、マネージャーなんだから!」

白婿は俺の横を通り過ぎてダンス室に入っていった。

「はぁー、秘策どうしよう……」

何かしら秘策は思いつくだろうって思っていた、過去の俺アホやな……。

がらん。

俺は少ない小銭を使い、自販機でコンポタを購入した。

ごくっ。

「あぁ~五臓六腑に染み渡るぅ……わっ」

ポケットに入っているスマホが摩擦熱でも起きるんじゃないかと思うほどの揺れが起きた。びっくりして、コンポタこぼしちゃったじゃないの。

「はい、もしもし?」

「お、黒加根か?」

「んだよ、右京か。切るぞ」

「っおい!まだなんも言ってんぇだろ!」

「なんかあったのか?」

いつも右京と電話してるから、ここまではいつもの会話。内容がわかるのはこの後である。

俺はコンポタを口に流し込み、右京の話に耳を傾けた。

「実はよー。生徒会の杉山君?だっけ?杉山君が、最近おまえのこと全然追っかけなくなってるけどどうした?なんかあったのか?」

「いや、原因お前なんだけどな。

あの事件から学校ではなぜか俺の知名度が上がった。

喜ばしいことなんだろうが、全く嬉しくない。

なんだゴッドホモ加根って。神になっちゃったのかよ。

杉山が生徒会役員ということもあり、情報の伝達は光レベルだった。

杉山は言いふらすキャラでもないから、どうやって広まったのだろう…と思ったが、きっとあいつのことだから独り言で聞こえてしまったか、何かだろう。

「まぁ、あいつも男だし好きになってはいけない人だって気づいたんだろ」

「あいつにはまだ頑張ってほしかったな……」

「ちゃっかり杉山のこと応援してんじゃねぇ」

杉山にこくられても俺は絶対に断る。てか、一回こくられてたわ。

「用件はそれだけか」

「ああ。お前の声を聴いただけでもうれしいよ」

「彼女か。もうこれ以上ボーイズラブはいいんだよ」

電話を切ろうとしたが切るのをためらった。

「なぁ、右京。ひとつ聞いていいか?」

「なんだ、お前が俺に…?珍しいな……」

こいつに聞くのは府に落ちなかったがとりあえず聞いてみた。

「おまえもし、自分がプロデュースしたアイドルがあったとしたら、どう成長させていく…と思う?」

少しストレートな質問だったがなんせこいつはアホだからすぐ答える。

「愚問だな。そんなもの自分の好きなものに変えていけばいいじゃないか。それ以外に何があるというのだ。っハァンん?」

ぴ。

うざかったからすぐ切った。

まともな回答は期待してなかったが思いのほか、いい返答がきた。

自分の好きなもの……といったらあれしかないじゃないか。

秘策こそこれに値する。

今回ばかりは右京に感謝せねばな。

あいつがこうも役にたったのはトイレのビデ以来だな……。


おかしいところだらけやな

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