気づかないすれ違い
すれ違い、やってみたかったんです
気づけばすっかり日も暮れて本格的にお祭りモードです。
それとともに私の鼓動も早くなってきました。
いつ、チャンスが来るのか……来ないんじゃないでしょうか。
さっきから、黒加根君は射的ばっかやってるし、私はそれを見てすごーいの連発です。
やっぱり、黒加根君、わたしのことどうでもいいのかな……。
「月城もやってみるか?」
「え?」
私のことを気にかけてくれたのか、黒加根君は話しかけてくれました。
わけがわからぬまま、射的用の鉄砲を受け取る私。
どうしよう…射的なんてやったことないよ……。
射的用のコルクも力がないので全く入りません。
「ほら、貸してみ」
「あ、ありがと……」
「ほら、こうやってほっぺに当ててだな……」
私の目の前で射的のやりかたを教えてくれる黒加根君。
「ほら、やってみろよ」
「こ、こう?」
「ちげーよ」
「ひゃっ」
思わず変な声が出てしまいました。
なぜなら、黒加根君が私のすぐ後ろで……。
息が髪にかかるくらい近い……いい匂い……。
恥ずかしくて、でもちょっぴり嬉しくて、いろいろな感情が混じって、黒加根君のせつめいなんて頭に入ってきません。
「…どうだ?それでうってみな?」
「えい!」
パン!
私が打った球はお菓子の箱の横を通り過ぎて壁に勢いよくぶつかる。
ぱん。
「ひっ」
ぶつかった球が跳ね返って私のおでこに当たりました。
「おい?大丈夫か?」
「うん、へーきへーき」
「平気って……晴れてるぞ?」
[うぅぅぅぅ……」
私のおでこの様子を見る黒加根君……。
近い近い…。
今にも倒れそうだよ……。
「……もういいかな?」
「おぅ、わるい」
「私、ちょっとあそこのベンチで休んでるね…」
はぁ、ずっと心臓ドキドキだよ……。
あぁ涼しいベンチでだんだん落ち着いてきました。
「月城、調子はどうだ?」
「く、黒加根君……」
「大丈夫そうだな。ほらよ」
手渡されたのはアイスクリーム。今日、黒加根君におごってもらってばっかりだな……。
「ありがとう」
黒加根君は、アイスを私に渡すと同じベンチにすわってきた。
「よっこらしょっと」
また近いよ……。
私はごまかし交じりにアイスを一口食べた。
何気ないアイスクリームだけどすごくおいしい。黒加根君からもらったからかな……
「悪いな月城、今日は変なことにつき合わせちゃって」
「いやいや!全然そんなことないよ!」
「そっか。そりゃよかったよ」
沈黙。
次、何話せばいいのかな……?
っていうかこの状況もしかしてチャンスなんじゃ?
そうだ!いましかない!覚悟を決めました月城ともみ!
「あのさ……」
「あ、そうだ。月城に話があったんだった」
私が口を開いたとたん、黒加根君が話を切り出した。
私に話ってなんだろ……?
「月城、俺は覚悟を決めて、言うよ」
え?私に覚悟を決めて言うこと…?
もしかして……告白?!
「俺、おまえを……お前のことを……」
え???本当に告白?嘘でしょ?
黒加根君は座りなおして私のほうを見る姿勢をとった。
顔もどこか緊張……というより赤い……?
「あ、あい……あい……」
愛してる?これ愛してるでしょ!絶対!
おまえのこと愛してるって黒加根君言いたいんだよ!
ふー。ふー。落ち着くのです。月城ともみ。
いつもどおりの振る舞いで返事をするのです。
あの大好きな黒加根君からの告白を……。
「おまえを!アイドルにしたいんだぁぁぁぁぁぁあああ!」
「はい!喜んで!」
ん?んん?なんかセリフが違うように聞こえたような……。
「マジかよ!ありがとう月城ーーーー!」
黒加根君からの感謝の雄たけびに私は困惑するしかなかった。
唯一、この話だけ、ともみの一人称なのです。