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HOMO

ホモ?なにそれ?

憂鬱な六時間目が終わって意味のない清掃も終了した。

そう、あとは帰るだけである。

基本俺は帰りの会ガチ勢である。人の発表はよく聞くし返事もしっかりしている。ナニコレ自慢になってんの。

今日もまた一人俺は教室を出る。

独りぼっちが日常となった俺には寂しさという感情はもはやない。むしろ心地いいという感情さえある。

なぜ人は群れるのを好むのだろうか。やっぱ動物だからだろうか。

まあいい。俺は群れを好まない一匹オオカミなんでな。

そう思って保健室前の角を曲がると思いがけない遭遇があった。

「わぁぁ!すすすすいませんんん!!」

なんだなんだラブコメ展開かと思ったが、まず声が男だった。

「すいませんすいません」

やけに律儀で高身長のこいつは確か生徒会の杉山だったっけか?

「杉山……くんだっけ?」

「はいっ!杉山耕大ともうします!生徒会役員です!特技はそろばんです!」

いや聞いてねぇよ。

素晴らしい自己紹介に圧巻され、俺は会釈して杉山の横を通り過ぎる。

次の瞬間、

「ぅわわわわわわわぁぁぁぁ」

なんだなんだと思って振り返ると杉山が手に持っていたプリントを床にぶちまかしていた。

「まったく…何やってんだよ……」

俺は仕方なく杉山と一緒にプリントを拾うことにした。

こういうときってどっちに転んでも嫌な結末になるのがこの世の摂理だよな。

例えば、授業中に消しゴムを落としてしまった時。まだ自分で拾える範囲の場所に落ちるならよし。その消しゴムが隣の子の方へ転がっていった時の気まずさと言ったら果てしない。

拾ってもらったら軽くありがとうを伝えなきゃいけない。また拾ってもらわなかったときは少し傷つく。

仮に、仮にだ。その拾う役が自分だった時を想像してみてほしい。消しゴムが落ちた瞬間少しだけは拾うそぶりを見せる義務があるし、自分のところへ来たら拾わずにはいられない。気づかないフリなどもってのほかである。

したがって授業中に消しゴムを落としたら地獄。拾っても拾わなくても気まずい。

だから俺は人に消しゴムを拾わせない、いや拾わせてたまるか。

そんなこんなで杉山の落としたプリントが目に入った。

「夏祭り……か」

思えば夏祭りの時期である。浴衣ももうすぐ見れることであろう。なに、俺って変態なの。

特に使うこともない記憶の中に夏祭りの単語を追加しておいた。

「ほらよ」

杉山は俺を下から見上げるとしばらくぽかんとしていた。やめろ、その上目遣いやめろ。惚れちゃうだろ。

「……なんだよ」

「いや…優しいんですね…」

何を言っている杉山。帰りの会ガチ勢な俺が人に優しくないわけないだろ。

杉山は少し頬を赤らめて俺のほうをジロジロ見る。と思いきや目が合うとそらす。なんだこれ。

もうその場にいるのもなんだか気まずかったので俺はくるりと方向転換し玄関へと向かった。

そういえば昔は夏祭り好きな人と行きたいなぁなんて気持ちもあったものだ。好きな人に勇気を振り絞って「一緒に行かない?」なんてクサい誘い方をしたり、返事が来るまでドキドキしながら待っていたりした自分がいた。まぁ結局返事は帰ってこなかったんだけどね。

好きな人なんて概念は忘れていた。好きという感情さえも失っていた。

俺の理論上、好きな人を持たないということは強い。廊下で会うだけでどきどきしたり、変に勇気を振り絞る必要などなくなるからだ。

好きな人なんてものを作ると、人は正常でいられなくなる。いつもの自分を出せなくなるからな。例えばみんなの前での発表。いつもの自分ならふざけている場面でももしかすると好きな人が見ているんじゃないかという思いが巡り、遠慮してしまう。好きな人が見てるはずないあのにな。

他にもあるぞ。例えば、好きな人とのメール。自分だけが思い上がって、返信が返ってくることに喜びを感じる。実際は自分がメールを送らなければ好きな人からメールがくることはない。いつも思い高ぶって、勘違いして、騙されて、ちょっぴり傷つく。好きな人と一緒に帰っているところを想像していた自分が今思うと気持ち悪くて仕方がない。

だから俺は好きな人はつくらない。今現在もそうだし未来永劫もそうだ。

そんなこんなで下駄箱に着くと栃丸がいつものように下駄箱掃除をしていた。

「さようなら~」

見ると、栃丸は愛用の緑のカゴを横に一心不乱に下駄箱を拭いていた手を止めた。

「はい、さよ……お?黒加根君?」

しれっと帰ろうと挨拶をした俺だったが案の定声をかけられた。

「黒加根君……」

「はい……?」

何か言いたげだ...?告白?ホモ?ホモ丸?

「君……アイドルは好きかね?」

「……は?」

突拍子のない問いかけに俺は思わず聞き返す。

「ごめんなさい、サドル...のことですか?」

「だ……だから、アイドルは好きかね?」

一瞬、白婿のことかと思った。でもそんなわけない気がしたので普通に答えることにした。

「まぁ、嫌いではないですかね」

まぁアイドルといえば白婿とまぁ接点がないわけではないからな……。

「……そ、そうか……」

そう言い残すと、栃丸は緑のカゴを乱暴に取りあげ、職員室に向かっていった。

そのカゴどんだけ気に入ってんだよ。ヘタすりゃ家でそのカゴに話しかけてんだろってレベル。

てか、なんであいつが照れてんだよ。俺のほうが恥ずかしいわ。

待った、何でそんなことを聞くんだ?変な質問を投げかけてくるのが日常茶飯事な栃丸だが、これは滅多に見ないエモい質問だ。これだから栃丸は……。

これ以上変なこと聞かれるのも嫌なので、俺は急いで靴をはいて玄関から出た。

「なんだったんだ今日の栃丸……」

今でこそ、栃丸の問いかけに驚いた俺だったが後に栃丸の言葉の意味を知るのはまだ先のお話……。

「あ、ヨーグルト買っていかなきゃ……」



            *



「ただいまー」

うん。返答なし。いやそりゃそうだろ。

俺はスーパーのレジ袋を置くと敷きっぱなしの布団に飛び込んだ。

「ふーー。今日もいい仕事したー」

まぁ何もしてないんだけどね。

以下いい伸びをしてから、カバンからスマホに手を伸ばす。

「……ん?」

スマホの電源をつけるやいなや、新しい通知が来ていた。

「新しいともだち……?」

その通知は新しいアドレスが追加されたという内容の通知だった。

どうせ何かの広告だろ、とも追って名前を見てみた。

「……す…ぎやま??」

まさかの杉山からの追加であった。

追加ってあいつ、俺と話したの今日初めてだぞ…?

一体だれが俺のアドレスを杉山に教えたのだろうか。

杉山から三件のメッセージが届いていた。

『杉山です。勝手に追加してしまい申し訳ございません。右京先輩から黒加根先輩のアドレスをもらいました。突然で本当に申し訳ございません』

『本日は私のやらかしを見過ごすことなく親切に髪を拾って下さり誠にありがとうございます。この音は一生忘れないという信念を胸に黒加根先輩のような紳士的存在になれるよう日々精進していきたいと思った次第です』

いや、一件一件のメッセージがなげぇよ。ずいぶん読みづらかったぞ。

残り一件の最後のメッセージに俺はただでさえ丸い目をさらに丸くした。

『大変恐縮ではございますが、黒加根先輩と夏祭りに一緒に同行させていただきたく思っております。もちろん、先輩の都合が合わないのであれば無理して来られる

こともないかと思っておりますが、一度検討していただけないでしょうか?』

ん?

俺と一緒に夏祭り?

ほんとに今日はなんなんだ。俺がどうかしちまったのか?

杉山が俺に誘い?しかも夏祭り?あいつ……男だよな?男だっけ?

男は男でも真の男に近い男らしい男である。

困惑タイム。しばらくの回想の末、信じたくない結末が出た。

「もしかして……あいつ、俺のこと好きなのか……?」

杉山はなぜか俺の名前を知っていた。そしてあの挙動不審ぶり。俺がプリントを拾ったときの反応。あの顔の赤らめ方。この長文」メール……。

「ひいいぃぃぃゃぁぁぁぁぁあああ」

そんなことない。そんなことないと自分に言い聞かせて今日はもう寝た。

明日学校行きたくないなぁ……。


新ヒロインいかがでしょうか。

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