8 男と俺と精神世界/いかなきゃ
「……。あ、んん──っつてー!」
真っ白な空間で目を覚ました。
なにもない。ここにはなにもない。辺り一面の白が、そう言っているように思えた。
「ハッ……! アストは! ユノちゃんは!?」
俺は立って走り出す。少し不思議だ。今さっきまで、学校にいて、それで。
「あれ……、なんで動けるんだ? 俺……」
無意識に両手を見つめる。
「ここがきみの世界、だからだよ」
俺以外の声がして、勢いよく振り返った。
「久しぶり? なのかな、それとも初めまして?」
そこには、どこかで見たことあるような病衣のような服とどこにでもいそうな顔をした、若い男が立っていた。
「誰だ!?」
俺は慌てて腰を落とす。臨戦態勢に入り、謎の場所と謎の相手に対して敵意を表す。
「あああ、怪しい者ではないよ! 僕の名前は瀬田 真之介だ。よろしく」
「名前、言った方がいいか? ……エルヒスタ・レプラコーンだ。変わった名前だな、セタ・シンノスケ」
シンノスケは笑って言った。
「ああ、瀬田が家名? で、真之介が名前だ──何回これ言ったっけなぁ……」
不可解な言葉をぶつぶつと呟きながら、セタ・シンノスケと名乗る謎の男……見たこともあるし、聞いたこともある。彼の記憶も俺にはある。だが彼と会ったことは無いはず……だが、初めて会った気がしない。
「そんなに怯えなくていいよ。僕はエルくんに言いに来たんだから」
彼はそう言った。それはもう、底知れぬ闇を含んだ企みの笑顔で。ニヤリと。
「そうだよ、エルくん。君の思っている通り、僕が日本の男の子」
俺は狂ったように言葉を荒げる。
「……お前の……だよな。俺がおかしくなったのは! ふざけるな。お前のせいで! 俺は!」
「いやー。誰かに憑依して転生できるって、神様とそう言う話だったはずなのになぁ~。きみの精神力が強すぎる所為だよ。むしろ1年で済んだことに感謝してよ。本当なら一生、僕の精神の裏に眠っているはずだったのに」
「どういうことだよ! ってか、ここはどこなんだ……」
目の前の男は笑うことなく、かと言って目も細めていない。なんだろう、不思議な表情だった。
「精神世界だよ。って言って、わかるでしょ?」
「……まあ、それくらいは分かる。じゃなくて──!」
彼は俺の言葉を遮った。
「きみの心の中の世界。僕はそこに住んでいるんだ。という訳で──お互い、仲良くしたいなーって。まあ今出てこれたのはイレギュラーだし、どっかエルくんに異常が起きたとしか思えないけど」
声は出せなかった。単純な恐怖。自分の身体の中に異物が混じっているということに対しての、単純な恐怖がそこにはあった。だってそうだろ? 俺で無い俺が、ここに、目の前にいるのだから。
「やっべ、時間かぁ。じゃあエルくん、最後に一つ。情報をあげるよ」
シンノスケは右の手首を見る仕草をした。
「──ああ、やっぱ何でもない」
「は?」
俺の足下だけが、純白と対をなす漆黒に変わり、落ちていく。
「おい、ちょっと待て! 速すぎるだろ!? おかしい、何が言いたい!? てかお前なんなんだよ! 聞きてーのに、お前に聞かなきゃいけないことめっちゃあるのに、俺は!」
「じゃね。また話そ、エルくん──」
☆
「………………先輩……。……! …………先輩! エルヒスタ先輩!」
声が、聞こえた。
この声は、誰だったか……。
「エルヒスタ先輩!」
「はっ! ハァ、ハァ……ハァ。 ここは?」
さっきまでの純白の異空間ではないことだけ確かだ。俺は腰を上げ……
「痛ぇっ!! ったー! あぁ?」
肩に包帯が巻いてあった。それと、となりには……
「だだだ大丈夫ですか!? エルヒスタ先輩!」
……、あぁユノちゃんか。俺はベッドに寝そべる。この態勢なら痛くない。
「ここは?」
「保健室……です。今はその……かっ、貸し切りです」
ちょっと赤くなるユノちゃん。熱でもあるのか?
「ユノちゃん、大丈夫?」
「わっ、私も、アストゥーロ先輩も大丈夫で──
「そうだ! アストは!?」
俺は周りを見まわす。ちょっと痛かったが気にしない。
「アストゥーロ先輩は……体育祭の前夜祭に行きました。それと」
ユノちゃんは、涙目になりながら俺に言ってきた。
「……たぶん、『召喚獣』による被害が、出ました。警備の人だったので、そこまで広まってないんですけど……」
被害? 広まる……? 前夜祭?
「ユノちゃん! 今って夜なの!?」
「はっ、! はい!」
「ねぇ俺、寝てたの? 一日中ずっと」
「はい。一日中、ずっと」
ずっとか、損したな。
だけど今夜は前夜祭。お祭りといえば、アレだよな!!!
「よいっしょっ!! ガ、痛ッ!!」
「だっ、駄目です! 安静にしていなくちゃ!」
「……今日は最大の好機なんだ。あの、光に弱い『召喚獣』を、倒すための!」
ユノちゃんが宥めるように、諭すように俺に言う。
「……私が行きます。私ひとりで」
「ちょっと、何言ってんのユノちゃん!?」
ユノちゃんは覚悟ガン決まりの、真剣な表情で言う。
「だって……私のせいだから。わっ……私が! 責任をとります!」
……。違うよ……。違うよユノちゃん。声にならない何かが、俺の中にある。
「なので……今から行きます」
「……」
何を言えばいいのだろうか。ひとりじゃ危ないから行くな? 違う。それは、そんなことは理由にはならない。危ないのは何人でも一緒なことだ。
俺も行く? どうやって? 俺は今動くこともできない状態なんだ。
どうやって? 駄目だ。シンノスケとかいう奴の記憶にも、それらしきものはない。
どうしよう。もうユノちゃんは剣をもって、一人で行こうとしている。
思い出すんだ。ユノちゃんのことを。ユノちゃんにして貰えること、できること。なにか……俺にできること。
「回復魔法……。もしかしたら!」
俺は呟く。最後の希望を。
「ユノちゃん! 俺に、最大限の回復魔法、体を修繕できるやつ、痛みを取るやつ、何でもいい! 俺も行く。だから、足手まといにならないように頑張る、からっ!!」
渾身の勇気で、彼女に頼み込む。
「あっ……あの。回復魔法……って何か、本当に分かってますよね!」
ユノちゃんは真剣な眼差しで俺を見てくれた。
見てくれた。それだけで十分だ。俺も、一緒に、行く。
「分かってる。その場しのぎ、だって」
でも、だけど。それでも俺は。
「俺も行きたい。連れて行ってくれ!」
「分かりました。あとでどうなるか……しっ、知りません」
はぁ……。年下に呆れられちゃったか~。でもこれで、一つのチャンスを手にできた!
☆
いろんな魔法を掛けられ、スーパーマンみたいになった俺は、何も持たずに保健室をでて、夜の学校を駆ける。
何となくだが、どこにどんな物があるのがとか、分かり始めてきているので、とりあえず召喚獣を探す。
もちろん、ユノちゃんも一緒に。
「被害に遭った人、どこで?」
俺は疑問を口にする。
「ごっ、ごめんなさい! それはちょちょっと分からないんです!」
「分からない」と、ユノちゃん。そりゃそうか、噂だもんな。
「ゴゴグガァ!!!」
遠くで、聞こえた、咆哮が。
「ユノちゃん!」
「あわわ! たったた多分この階で、です!」
「慌てなくていい! 行くぞ!」
くっ、! 痛みが少しクる。でも、だけど!
「倒さなくちゃーっ!」
ユノちゃんの声を、決意こもったその思いを聞いていると……
「だな!」
こっちまで、本気になりたくなる、強くなれる!
だから、諦めることはできない──!!
拙いなぁ……俺




