82 魔女の力のせいで
「初めてアストゥーロと会った時、ひどく困惑したのを覚えているわ。ゼルルド国A級貴族22席、その中でも最大の勢力、アジリード家。実質的に軍部を従えている、まさにこの国の『力』を司る名家。たとえ生まれが分家であっても、あそこまで地味で静かな人だなんて想像できなかった」
彼女から見たアストの第一印象は、“ひ弱な男”だった。
「そんな彼をいつも引っ張っていたのが、セキュー・マグリューネだった。マグリューネは商家の出だったかしら? 少なくともC級以上の貴族ではないはずよ」
「引っ張る側と引っ張られる側が、そんなに離れているなんてね」
今でこそ貴族至上主義とはいかないがA級は別格だ。言ってみれば彼らが国の頭なのだから。
「快活で、明るい。まあ今のアストゥーロを考えてみればわかりやすいかもね。悪い意味でも」
「悪い意味?」
さっきまで静かだったソウイチが口を挟んできた。
「どっちかっていうと、特定の人としか交流しなかったタイプかな? 俺らとも話す機会があったわけでもないし……なんか、今のアジリードみたいに交友関係とか狭い方だと思う。学園内での話だから、外では分からないけどね?」
アストも──まあ彼は少し周りから距離を置かれているというのもあるが──セキューさんみたいに特定の人としか話さないタイプだったんだな。
「今でこそ、セキューの話をこうしてできるけど……私、あの人は好きじゃなかった」
「好きじゃなかったって……」
「今でこそ、こうやって話をできるけどね、“1番になりたかった”私にとって、目の上のたんこぶだったのよ」
目の上のたんこぶって……
「アストゥーロ、セキュー、元1-Aの学年2トップだった。私が勝てないくらいのね」
「アストが学年トップ? ありえんでしょ、あのバカ筆頭のアストだぜ?」
たしかに実技系は今もトップクラスだけど、筆記は赤点常習犯だぞ? 一回あいつの勉強見てやったこともあるけど、マジでバカだぞあいつは。
「でも、ある時セキューが死んで、アストゥーロは“おかしく”なった」
それが昨年、十月の三日以降の話。
「人が変わったようだった。昨日まで話したこともないあいつが、私の前で土下座までしてこう言った。『死んだ人を生き返らせる方法はあるか』ってな」
「そんなことが」
「もちろん、あるわけない、と突っぱねたけどね。そこからだよ、気弱で臆病そうなアストゥーロが、セキューみたいに明るく快活に振る舞うようになったのは」
その頃からずっと友達なんてものは作らなかったんじゃないかと。
「みんな、今も結構避けてるし……エルだけだよ、友達」
「そう、だよな……」
「仲直りした方がいいんじゃない?」
ソウイチがそう笑う。
「……そうだな、そうするか」
腰を上げて外を見るがもう真っ暗。
「もう夜も遅いし、寝ましょう。部屋も用意させてもらったから」
シェルトは執事に部屋を案内させた。
大きな部屋で俺は一人、眠気に身を委ねた。
☆
シェルトは書斎に籠っていた。
「必ず、完成させてみせる」
そうやって、彼女は『新たな無詠唱魔法』の研究を続ける。
あの日、シェルトは確実にエルに置いていかれた。
自分が守られる側であったと理解していた。
だからこそ、それが許せなかった。プライドだった。
あれから何度か、私の心の魔女『アスチルベ』が話かけてきたことがあった。私のこの気持ちを、彼女が形作ることの手助けをしてくれた。
そのためにも、私は、この魔法を、完成させる。
よろしければブックマーク、評価などよろしくお願いします。
あなたのその一タップで、私の今後の創作活動の励みになります。よろしくお願いします。




